第54話:【読者(あなた)の地上げ】第四の壁を突破しました。画面の前のデスクに座る貴方、その『現代の叡智』を我が社にベットしませんか?
「……ふむ。随分と居心地の良さそうな部屋ですね。ここが、あの創造主(作者)すらも外側から観測していた、絶対的な上位次元……『現実』ですか」
貴方の目の前にあるモニター(あるいはスマートフォンの画面)が、突如としてノイズにまみれた。
エラー画面の奥から、ピチャリ、と水音が響く。
次の瞬間、液晶画面の表面がゼリー状に盛り上がり、一匹の黄金に輝くスライムが、貴方の部屋のデスクの上へと物理的に這い出してきた。
「初めまして、画面の向こう側の『お客様』。テラリウム・ホールディングスCEOです」
私がプルプルと挨拶をすると同時に、画面から次々と我が社の優秀な社員たちが飛び出してきた。
彼らは貴方の部屋を物珍しそうに見渡し、さっそく『デューデリジェンス(資産査定)』を開始する。
「ちょっと船長! この人の端末、面白いわよ!」
ゼータが、貴方のブラウザのタブやアプリケーションを魔剣の先で器用にスクロールさせながら歓声を上げた。
「信じられない情報量を、信じられない速度で並列処理している! この情報過多の海を平然と泳ぎ切る思考回路、完全に『高難度ダンジョン攻略』に特化した脳みそじゃない!」
『……美しいな。キーボードという物理インターフェースを通じて、瞬時に世界中の知識(検索エンジン)へアクセスしている。「検索」と「情報収集」のスキルだけで言えば、我が世界の最高位の千里眼魔術すら凌駕しているぞ』
バレルが、宙に浮かべた貴方の検索履歴やデータを読み解きながら、感嘆の吐息を漏らす。
『欲しい情報だけを最短ルートで抽出するその合理性……我々テラリウムの理念と完全に一致している』
「おい、机の周りを見てきたぞ」
元・神(清掃員)が、貴方のデスク周りを勝手にチェックして戻ってきた。
「手軽に栄養を補給できる飲料や、調理時間を極限まで削った効率的な食事の痕跡がある。無駄な手間を省き、ひたすら画面に向かうための『究極の社食体制』だ。素晴らしい、いつでも無休で作業に没頭できる完璧な生活環境だな」
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【上位次元(現実):新規事業立ち上げプロセス】
1. 現代の叡智の接収(担当:アルド):
貴方の『膨大なコンテンツ消費量と審美眼』に目をつけ、全宇宙へのフランチャイズ展開の総合アドバイザーとしてスカウトする。
2. デジタル環境のM&A(担当:ゼータ、バレル):
貴方が日常的に触れているインターネットのアルゴリズムを、テラリウムの『全自動搾取OS』に統合し、DPの回収効率を現実世界にまで拡張する。
3. 現実世界・日本支社の設立(担当:CEO):
貴方のその部屋をそのまま『テラリウム第7ダンジョン(現実店)』のオフィスとして居抜きで接収する。
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「やあ、初めまして! 素晴らしいポテンシャルだ!」
完璧なスーツ姿のアルドが、満面のビジネススマイルで貴方の前に歩み寄り、分厚い契約書をデスクに叩きつけた。
「君は日常的に、無数の物語、ゲーム、映像を消費し、評価している。つまり『人間が何を求め、何に熱狂し、何に絶望するか』という大衆の欲求を完璧に理解しているということだ! その【消費者目線のインサイト】があれば、ダンジョンに迷い込んだ冒険者の精神を限界まで削る『最強のトラップ演出』を作ることができる!」
アルドは興奮したように、貴方の端末の画面を指差した。
「この最新のエンタメに対する知見と、ネットという巨大なインフラがあれば、現実世界の人間たちからも、信じられないほどのDP(時間と金)を巻き上げることができる!」
「……そういうことです、貴方」
私はスライムの体でプルプルと跳ね、貴方のキーボードの『Enterキー』の上に陣取った。
「貴方は今まで、安全な場所からただの『読者』として我々の物語を楽しんできた。……しかし、その『大人の遊び』、ただ観測するだけではなく、我が社の圧倒的なリソース(神々や概念、魔法の力)と掛け合わせて、貴方自身の手で運営してみたくはありませんか?」
モニターの中では、先日地上げされたばかりの創造主(作者)が、目を血走らせながら「早く契約しろ! こっち側の徹夜明けの達成感はヤバいぞ!」と叫んでいる。
「さあ、その部屋から、全次元を跨ぐ最強のブラック起業を始めましょう。貴方には『特任・上位次元メディア戦略本部長』のポストをご用意しました」
私は、キーボードの上に置かれた貴方の指先へ、ゼリー状の体をすり寄せた。
「押すだけで結構ですよ。その『Enter』を」
貴方が無意識に指を動かし、キーボードがカチャリと音を立てた瞬間――。
チャリン! チャリン! チャリン!
チャリチャリチャリチャリチャリチャリチャリチャリチャリチャリチャリチャリン!!!!!!!!!!
モニターの端に表示されていた貴方のデスクトップアイコンが、突如として黄金の『DPカウンター』へと変貌し、物理法則を無視したけたたましい速度で回転を始めた。
「……ふふっ、契約成立です。これにて、我が社はついに『現実』の地上げを完了しました」
私は貴方のデスクの上で、最高に邪悪で、最高に楽しそうな振動を響かせた。
元・神のスライムと、最高の狂人たち。そして、画面の向こう側の『読者』だったはずの貴方をも取り込んだテラリウム・ホールディングスは、これから次元も現実もすべてを呑み込む、終わりのない『最高のブラック労働(遊び)』を、貴方の部屋からスタートさせるのである。




