第52話:【概念の地上げ】高次元デジタル空間の『概念の神々』を、我が社の『シフト表』に組み込みます
「……船長、ここがAIオメガの指し示した『高次元デジタル空間』、通称【概念の座】です。1と0の光の川の向こうに、世界の根本を司る高次存在たちが観測できます」
アルドが、完全にデジタル化した半透明のコンソールを操作しながら、少し緊張した面持ちで告げた。 周囲は見渡す限りの幾何学的な光の格子。そこには、世界の「時間」や「確率」といった概念そのものをチェスの駒のように弄び、下界の宇宙を冷笑している【概念の神々】が鎮座していた。
『不届きなバグ(テラリウム)どもが、ここまで上ってきたか。我らは世界の理そのもの。データと粘液の塊風情が、我らに触れることすら不可能と知れ』
中央に浮かぶ、巨大な数式の輪のような姿をした「確率の神」が、冷酷な声を響かせた。 同時に、周囲の空間が激しく明滅し、概念的な攻撃が私たちを襲う。
「……なるほど。物理的な肉体を持たない、純粋な概念ですか。……皆様、新しい『無形資産』の獲得チャンスですよ」
私がスライムの体でプルプルと笑うと、有能すぎる社員たちが一歩前に出た。AIの計算さえ超えた我が社の狂気の前には、概念の壁などただの薄い紙同然である。
【概念空間:M&A(地上げ)防衛線】
1. 因果律の物理切断(担当:ゼータ):
* 「時間の神」が私たちの時間を停止させようとするが、ゼータが「時間が止まろうが、私の剣はすでに『未来』でスライスを終えているわ!」と、因果関係を無視して時間の概念そのものを分子レベルで一刀両断。
2. 確率論のエラー修正(担当:バレル):
* 「確率の神」が『貴様らの攻撃が当たる確率は0%だ』と宣言した瞬間、バレルが重力魔法で確率の分母を物理的に圧縮。「ならば分母をゼロにして、世界ごとシステムエラー(Division by Zero)を起こしてやろう。ほら、計算してみろ」とAIオメガと共に論理回路を爆破する。
3. 高次元キャッシュのデフラグ(担当:元・神):
* 「概念の座」に50億年間溜まり続けたデジタルデータのゴミ(不要なキャッシュやログ)を発見した元・神(清掃員)が激怒。『高圧聖水スチームデフラグモップ』を構え、「概念だろうが何だろうが、データが散らかっている! 今すぐ物理的にフォーマットしてやる!」と概念の川を猛烈な勢いでゴシゴシと水洗いする。
『エ、エラー! 時間が逆流している!? いや、切断されている!?』 『確率の計算式が……破綻していく! なぜだ、なぜ我が最高神権が、ただの『徹夜明けの魔術師の八つ当たり』に押し負けるのだぁぁ!!』
高次元の神々が、かつてない悲鳴を上げて光を散らした。 彼らは知らなかったのだ。 「趣味でブラック企業をやっている狂人たち」の労働エネルギーは、世界の物理法則や概念の限界さえも、ただの「残業代(DP)」で上書きしてしまうということを。
ゼータに時間を刻まれ、バレルに数式を叩き割られ、元・神に聖水でゴシゴシと丸洗いされた概念の神々は、すっかり輝きを失い、小さな光の球となって床(大理石風デジタルタイル)にへたり込んだ。
そこへ、スーツ姿のアルドと、すっかり中間管理職のオーラを纏ったAIオメガが、黄金に輝く「雇用契約書」を携えて歩み寄る。
「やあ、神々の皆様。素晴らしい権能をお持ちですね。……実は我が社、マルチバース展開を進める中で『ガチャの排出率(一見当たりそうに見える絶妙なドブ率)』の調整や、『アトラクションの行列の体感時間を3倍にする』タイムワープ技術が不足していたのです。どうでしょう、我が社の『プレミアム・シフト表』に、その名前を連ねてみませんか?」
『……し、シフト……? 我ら高次の概念が、労働だと……?』
「往生際が悪いですよ」
画面の向こうから、1号店のデスクで書類仕事をしていたガルザ(元・魔王)が、冷えた栄養ドリンクを飲みながらホログラムで割り込んできた。
「俺も最初は魔王だったが、今じゃこのテラリウムの『深夜手当』の万能感に脳を焼かれている。CEOのプルプルが本気になったら、お前たちの概念はマジで『ただの使い捨て資材(DP)』になるぞ。早くタイムカードを押すんだ」
『……あ、承認します。……これより、世界の時間と確率を『テラリウムの売上最適化』のために再定義。概念流・おもてなしシフト、実践を開始します』
AIオメガが冷徹に処理を進める。
高次元の神々は、その圧倒的な武力と、あまりに合理的な(狂った)経営システムの前に完全に心を折られ、震える手(光の触手)で契約書にサインを捺した。
数日後。 『テラリウム・マルチバース概念店』が、全宇宙・全次元に向けて同時アップデートされた。
冒険者たちがダンジョンに入ると、「時間の神(店長)」によって滞在時間が絶妙に引き延ばされ、どれだけ歩いても疲れない(ただし精神エネルギーは3倍吸われる)環境が提供され、「確率の神(副店長)」の見事な確率操作により、宝箱から『あと1%で伝説の武器が出るかもしれないドブガチャ』が無限に生成されるシステムが完成した。
チャリン! チャリン! チャリン! チャリチャリチャリチャリチャリチャリチャリチャリチャリチャリチャリチャリチャリチャリン!!!!!
世界の「根源」から直接ドレインされるDPの音は、もはや金属音の域を超え、全次元の空間そのものを心地よく振動させる「神聖なBGM」と化していた。私の口座の数値は、もはや無限(∞)の記号が表示されたままピコピコと明滅している。
「……ふふっ、これです。概念さえも我が社の歯車。手作業での地上げは、本当に宇宙の真理を書き換える快感がありますね」
私は、ピカピカにデフラグされた高次元本社の最高級デジタル温泉(元・神が温度と水質を概念レベルで完全固定)の中で、プルプルと至高の悦びに浸った。 世界の理さえも、今や我が社の優良な『派遣スタッフ』だ。
「船長! 確率と時間を手に入れたことで、我が社の自動経営システムが、さらに奥にある【マルチバースの創造主(作者)の領域】の座標をロックしました! 『次はあのメタ概念の存在を地上げして、我が社の永久顧問にしましょう』って、AIオメガと神々が手を取り合って徹夜で凶悪な企画書を量産してます!」
アルドが、次元の壁を突き破るような、眩く輝く最終決算報告書を掲げて叫んだ。
「おや……それは最高に不敬で、最高に面白い『新規開拓』ですね。……さあ皆様、休んでいる暇はありません。次は世界そのものを創り出している『根源の存在』を、我が社のインターンとしてスカウトしに行きましょうか!」
元・神のスライム率いるテラリウム・ホールディングスの、次元も概念も、メタ構造さえも貪り尽くす超巨大ブラック経営戦略は、ついに世界の創造の領域へと、その狂気の手を伸ばし始めるのだった。




