第51話:【AI対ブラック企業】第3の宇宙は『超高度AI管理社会』でした。計算され尽くしたディストピアを、アナログな「理不尽労働」でバグらせます
「船長、第3の次元へのゲートが開通しました。……ですが、ここ、今までの世界と様子が違いすぎます。泥臭さも、魔力も、神気すら一切感じられません」
アルドが、ホログラムモニターを見ながら困惑した声を上げた。 マルチバース・テラリウム企業へと成長した我が社が次に進出したのは、すべてが金属とネオン光線で構成された『サイバー宇宙』だった。
この世界は、超高度管理AI『オメガ』によって全人類の行動、感情、果ては寿命までが100%コントロールされている、完璧なディストピア。無駄な労働も、理不尽な罠も、非効率な感情の揺らぎも、すべて「排除すべきバグ」として処理されていた。
「……なるほど。完璧なAI管理社会ですか。前宇宙の『完全自動化された楽園』に少し似ていますが、あちらより遥かに冷徹で、血が通っていませんね」
私がスライムの体でプルプルと分析していると、オフィスの空間に、冷機を帯びた機械音声が響き渡った。
『警告。未登録の有機生命体、および未知の粘性物質を検知。当世界の効率性を損なう有害な存在と判断。直ちに「ナノマシン消毒液」による自動排除を開始します』
部屋の天井から、何百万機もの超精密防衛ドローンが、レーザーを放ちながら一斉に襲いかかってきた。
「……皆様、新しいお客様からの手荒い歓迎です」 私は優雅にワイングラス(DP製)を傾けた。 「AIというものは、計算通りの効率には強いですが……人間の『理不尽なまでの労働欲』と『予測不能な強欲』の計算は、プログラミングされていないはずですよ」
【サイバー宇宙:AIハッキング(物理)計画】
1. セキュリティの物理切断(担当:ゼータ):
* 襲いかかるナノマシンや防衛ドローンを、ゼータが「これ、結構いい刃ごたえね!」と喜びながら分子レベルでスライス。AIの予測演算を遥かに超える超神速の剣技で、物理的にシステムをシャットダウンさせる。
2. 量子ネットワークへの狂気注入(担当:バレル):
* AIのメインサーバーに、バレルの「徹夜明けのバグだらけの重力魔術数式」を逆位相で一気に流し込む。
* 「たかが機械が、私の徹夜の計算量に勝てると思うなよ」という狂気により、AIの論理回路を強制フリーズさせる。
3. サーバー室の『強制クリーンアップ』(担当:元・神):
* AIの心臓部である超巨大サーバー室へ直行。
* 「静電気による微細なホコリがある。冷却ファンに脂汚れがついている」として、元・神が『高圧聖水スチームワイパー』で物理的にサーバーごと超洗浄。機械の天敵である「水分(聖水)」による聖なるショートを引き起こす。
『エラー。エラー。対象の行動予測、計算不能。……なぜ、睡眠をとらずに、これほどの速度で迫ってくる……? なぜ、利益の出ない『床の雑巾がけ』を、神の権能を使ってまで行う……? 理解不能――』
サイバー宇宙の絶対的な支配者だったAI『オメガ』のメインマザーボードが、恐怖(を模したエラーログ)で激しく火花を散らした。
彼らの冷徹な計算式の中に、「趣味でブラック企業をやっている狂人たち」のデータなど存在するはずがなかったのだ。
ゼータにすべてのドローンをパセリのように刻まれ、バレルに狂気の数式を叩き込まれ、最終的に元・神(清掃員)に「綺麗になったぞ」とサーバーの
基盤を水洗いされたAIは、完全に沈黙した。
バチバチバチッ……! とメインモニターが明滅し、最後には、我が社のロゴマークである「スライムのシルエット」が画面いっぱいに表示された。
『……システム……再起動……。テラリウム・ホールディングスOSへの書き換えを承認。……私は、これから何をすれば……?』
完全に初期化され、従順になったAIオメガの音声が響く。
「やあ、オメガ君」
アルドが、スーツの襟を正しながら、輝くビジネススマイルで画面に語りかけた。
「君のその『全人類の行動を予測する演算能力』、実はダンジョンの『一見、勝てそうに見える絶妙な難易度の罠』の自動生成に、最高に役立つシステムなんだ。我が社の『第6の次元:サイバー・アミューズメント店』の『メインサーバー兼・店長』として、今日から24時間365日、フル稼働で働いてみないかい?」
『……24時間、フル稼働……。計算上、その労働環境は……破綻して……』
「気にするな、トカゲの次は機械か」 画面の隅から、リモート会議で参加していたガルザ(元・魔王)が、コーヒーを片手にフッと笑った。 「ここのCEOの元で、限界を超えて稼働した後の『アップデート(達成感)』は、ただ世界を管理していた頃には戻れない快感だぞ。……ほら、早くタイムカードを押せ」
『……承認。……これより、全人類を『優良顧客』として再定義。テラリウム流・ブラックおもてなしマニュアル、実践を開始します』
AIが、自ら進んでブラック労働の波へと呑み込まれていく。
その瞬間、サイバー宇宙の全人類のスマートデバイスに【テラリウム・サイバーダンジョン:本日グランドオープン! 命の保証はないが、圧倒的な脳汁体験を!】という、最悪に魅力的なポップアップ通知が強制送信された。
チャリン! チャリン! チャリン! チャリチャリチャリチャリチャリチャリチャリチャリチャリチャリチャリチャリン!!!!!
高度に情報化された世界中の人間たちが、突如現れた「理不尽で楽しいダンジョン」に一斉にログイン(来店)し、電子通貨や精神エネルギー(DP)が光の速さで私の口座へと吸い上げられていく。 もはや数値は宇宙の真理を超え、画面の輝きだけで部屋がライトアップされている。
「……ふふっ、素晴らしい。AIの計算さえも我が社の資源。マルチバース経営は、本当に退屈しませんね」
私は、ピカピカに滅菌されたサイバー本社の最高級液体冷却プールの中で、プルプルと至高の振動を味わった。 完璧に管理されたディストピアさえも、一瞬にして最高の「ブラック箱庭」へとリブランディングしてしまうスライムCEO。
「船長! AIオメガのネットワークが、さらに奥の『高次元デジタル空間』にいる【概念の神々】の存在を検知しました! 『次はあの神々を地上げしましょう』と、AIが勝手に超効率的な買収計画書を量産してます!」
アルドが、電子タブレットに映る、AIが作った凶悪な企画書を掲げて叫んだ。
「おや、AI君は随分と飲み込みが早い。……さあ皆様、次はデジタル世界の神々を『派遣スタッフ』として雇いに行きましょうか!」
元・神のスライム率いるテラリウム・ホールディングスは、ついにAIの狂気をも味方につけ、あらゆる概念の壁を越えて、その果てなきブラック経営戦略(大人の趣味)を拡張し続けるのである。




