第49話:【国家総出の爆買い】中央帝国の『10万大軍』が攻めてきましたが、我が社にとっては『ただの大型団体ツアー客』でした
「全軍、突撃ぃぃぃ! 帝国の経済を脅かす、あの邪悪なスライム企業『テラリウム』を歴史から消し去るのだ!」
新次元の大国『中央帝国』の皇帝が、黄金の鎧に身を包み、大軍を率いて我が本店の沼地へと進軍してきた。その数、実におよそ10万。地平線を埋め尽くすほどの鉄の波、かつてない国家規模の危機である。
……普通の世界なら。
「船長! 来ました、来ましたよ! 10万人分の『新規顧客』です! いやぁ、一気にこれだけの市場が向こうから歩いてきてくれるなんて、営業冥利に尽きますね!」
アルドが、ホクホクの笑顔でモニターを眺めながら電卓を叩いている。
「素晴らしいですね。10万人の同時来店は、我が社のインフラの『負荷テスト(ストレス・テスト)』に最適です。……皆様、大口の団体様ですからね。粗相のないよう、最高にブラックな『おもてなし』で迎え撃ちましょう」
私がスライムの体でプルプルと指示を出すと、有能な社員たちが一斉に不敵な笑みを浮かべた。戦火を交える必要などない。私たちはただ、彼らを『完璧なお客様』として消費させるだけだ。
【中央帝国軍:大型団体ツアー受け入れ計画】
1. メガ・クラスター罠の展開(担当:バレル):
* 10万人が一度に入れるよう、城の門番エリアの空間を重力魔法で100倍に拡張。
* 行列がスムーズに進むよう、自動で足元が動く「強制歩行床(動く歩道トラップ)」を設置し、導線を一本化する。
2. 武器・防具の『レンタル強制化』(担当:ゼータ):
* 「安全基準を満たしていない危険物の持ち込みは禁止」として、ゼータが突撃してくる兵士たちの武器を分子レベルで一瞬にして『安全な木刀』へと解体・スライス。
* 代わりに、我が社特製の「使い捨て装備(1回使うと壊れてDPを消費する)」を現地で強制レンタル(有料)させる。
3. 戦場リアルタイム清掃(担当:元・神):
* 10万人が行軍することで発生する泥やホコリ、兵士たちの汗を、元・神が「高圧洗浄聖水モップ」で裏から超高速清掃。常にピカピカの戦場を維持し、不快感による顧客離れを防ぐ。
「死ね、化け物どもめーー!」
先鋒の騎馬隊が、殺気立ってリノベーション済みの魔王城(本店)へと突入した。 しかし、彼らが門をくぐった瞬間、世界がぐにゃりと歪んだ。気がつけば、そこは果てしなく続く、大理石でできた「超巨大なフードコート風の待合室」だった。
「な、なんだここは!? 沼地はどこへ行った!?」
『はい、いらっしゃいませー! 中央帝国団体ツアーの皆様ですね! 1列に並んで、こちらの「自動入場ゲート」へDP(または金貨)を投入してください!』
案内役として現れたのは、元・魔王のガルザ(先輩インターン)だ。彼は完璧な笑顔で、巨大な拡声器を構えている。
「ふ、ふざけるな! 俺たちは戦争をしに――」
一人の将軍が剣を抜こうとした瞬間、一閃。 ゼータがすれ違いざまに彼の最高級の魔剣を「ネギの小口切り」のように細切れにした。
「はい、危険物の持ち込みは没収よ。そこのレンタルショップで『初心者用のブロンズソード(有料)』を借りてね」
ゼータの圧倒的な剣圧に、将軍は腰を抜かしてガタガタと震え出した。
さらに、兵士たちが恐怖で冷や汗を流すと、その汗が床に落ちる前に、元・神(清掃員)が背後から超高速で床を拭き取る。
「おい、そこ。緊張して冷や汗を撒き散らすな。我が社のフロアのワックスが剥がれるだろう。ほら、この『テラリウム特製アロマおしぼり(1枚100DP)』でさっさと拭け」
神のオーラを放つ清掃員に睨まれ、兵士たちは泣きながらおしぼりを買い、自分の汗を拭き始めた。
数時間後。 中央帝国の皇帝は、あまりの光景に絶望していた。
戦う前に、10万の大軍は完全に「システム」に組み込まれていた。 広大な空間拡張罠の中で迷子になった兵士たちは、アルドが配置した『喉が異常に乾く魔法の自販機』で高額なジュースを買い、ゼータに武器を没収された騎士たちは泣く泣く高額なレンタル料を支払い、ガルザの「魔王と記念撮影コーナー(有料)」に大行列を作っている。
「我が帝国の軍資金が……兵士たちの小遣いが……すべて、あのスライムの口座に吸い込まれていく……! 奴らは刃を交えることなく、我が国を『経済的』に滅ぼす気だ……!」
皇帝は財布も国庫も空っぽになり、その場に膝をついた。 そこへ、私がスライムの体でプルプルと滑り寄り、彼の黄金の王冠の上にポスンと乗った。
「皇帝陛下。我が社は平和主義のクリーンな企業です。……どうでしょう、このまま我がテラリウム・ホールディングスが、貴国の中央帝国を『B2B(企業間取引)の包括的業務提携』という形で、丸ごとM&A(買収)させていただいてもよろしいですか?」
「ば、買収……だと……?」
「ええ。帝国の全領土を我が社の『第5ダンジョン:帝国キャッスル店』としてリブランディングするのです。貴方には『名誉エリアマネージャー』のポストをご用意しますよ」
皇帝は、目の前で楽しそうに爆買い(搾取)されている兵士たちの姿と、提示された莫大な契約書(という名の奴隷契約)を前に、もはや拒否する気力すら残っていなかった。
チャリン! チャリン! チャリン! チャリチャリチャリチャリチャリチャリチャリチャリン!!!!!
新次元のトップである大帝国が降伏(買収同意)した瞬間、宇宙の法則が書き換わるほどの、天文学的なDPのチャイムが鳴り響いた。 私の口座の数値が、再び文字化けを起こすほどの勢いで跳ね上がっていく。
「……ふふっ、素晴らしい。国家を丸ごとフランチャイズ化する。手作業での経営拡大は、本当に脳が震えるほどの快感ですね」
私はスライムの体を黄金色に輝かせながら、満足げにプルプルと震えた。 たった一人のスライムから始まったスタートアップ企業は、ついにこの未開の次元の『最大の国家』さえも呑み込み、完全なる世界の支配者(兼・最高経営責任者)へと上り詰めたのである。
「船長! 帝国の買収が完了したことで、隣の『暗黒大陸』の魔神たちが『次は俺たちの番か……!』って、ビビって合併調印式の予約を入れてきました!」
アルドが、満面のビジネススマイルで次の巨大案件を運んでくる。
「おや、あちらからM&Aを志願してくるとは。……さあ皆様、明日は暗黒大陸の地上げですよ! 残業代(DP)はたっぷり出しますからね!」
元・神のスライム率いるテラリウム・ホールディングスの、次元をも跨ぐ超巨大ブラック経営戦略は、もう誰にも止められないのである。




