第4話:ペットを溺愛する凄腕テイマーが来ました。極上の『自家発電バッテリー』のお届け、誠にありがとうございます
「皆様、ごきげんよう。本日は、新設した『第6区画』の稼働テストを行いたいと思います」
私はプルプルと体を揺らし、管理モニターに広がる美しい箱庭の映像を映し出した。
そこは、豊かな森、清らかな泉、そして心地よい日溜まりが点在する、ダンジョンとは思えないほど穏やかな空間だった。
「ここは『第6区画:魔獣の安らぎ庭園』です。この空間は、中にいるモンスターが『リラックスして心地よい睡眠をとる』ことで、微量なDPを継続的に生み出す……いわば、パッシブ型の発電施設ですね」
『主、ついに平和な施設を作ったのか?』
『いや、絶対裏があるだろ』
『で、誰を住まわせるの?』
「そこが問題なのです。この施設、より強力で、よりストレスのない『上質なモンスター』を住まわせないと利益が出ません。しかし、システムからSランクのモンスターを購入するなど、今の私の財政では到底不可能です」
私がプルプルと肩(?)を落としていた、その時だった。
ダンジョンの侵入者アラートが鳴り響く。
モニターを切り替えると、そこに映っていたのは、エセルガルド・オンラインで名を馳せるトップテイマー(召喚士)、『絆のシド』だった。
彼の傍らには、使い捨ての低級モンスターなどいない。
炎を纏う巨大なSランク魔獣【紅蓮の獅子】と、美しい毛並みを誇る【霊峰の白狼】の2体だけが、彼にすり寄るように付き従っていた。
『おおおお! シドキター!』
『相変わらずペットの毛並みが最高だな!』
『レオンやザイオンみたいな個人技じゃない。完璧な連携を見せてくれ!』
シドの配信枠は、彼とペットたちの「絆」を称賛する数万のリスナーで熱狂していた。
『さぁて! 行くぞお前ら! 魔法使いも最速の男も全滅した悪魔のダンジョンだが……俺たち「家族」の絆があれば、どんな罠も越えられる!』
シドが優しく撫でると、2体の魔獣は嬉しそうに喉を鳴らす。
その姿を見た私は、思わずスライムの体を縦に長く伸ばした。
「……素晴らしい。実に素晴らしい毛並みと魔力バランスです。彼がどれほど愛情と時間とお金をかけて、あの魔獣たちをストレスフリーに育て上げたのかが一目でわかります」
私は感動のあまり、震える手でキーボードを叩いた。
「シド様、いざ突撃!」という号令と共に、彼らはダンジョンを進む。
シドは決してペットを危険に晒さない。
炎の獅子が毒ガスのトラップを熱で無効化し、白狼が氷のブレスで落とし穴の床を瞬時に凍らせて足場を作る。そしてシド自身が後方から完璧な回復と強化バフをかけ続ける。
『見ろよこの連携!』
『一切の無駄がない!』
『シドのペット愛が為せる業だぜ!』
リスナーたちが沸き立つ中、彼らはついに、私が手塩にかけて作った第6区画『魔獣の安らぎ庭園』へと足を踏み入れた。
『……なんだここは? 罠の気配が一切しないぞ』
警戒するシド。
だが、彼の足元で、炎の獅子と白狼がピクリと耳を動かした。
「皆様。この第6区画は、侵入した魔獣の『潜在的な欲求』をスキャンし、環境を最適化するシステムを組んでおります。……さて、長旅と戦闘で疲れたエリート魔獣たちが、今一番求めているものは何でしょう?」
私の言葉と同時に、庭園の環境がシドのペットたちに合わせてシームレスに変化した。
炎の獅子の足元には、最適な温度でポコポコと湧き出る『極上のマグマ温泉』が。
白狼の目の前には、噛み心地が最高で、冷気が永遠に循環する『万年氷の巨大クッション』が、それぞれ出現したのだ。
さらに、空間全体に『魔獣の疲労を強制的に癒す、特濃のまたたびアロマ(睡眠導入効果付き)』が散布される。
「クゥーン……」
『え? おい、お前らどうした!?』
シドが声を上げるのも聞かず、炎の獅子はマグマ温泉にダイブして「ふごぉ……」とだらしない声を上げ、白狼は氷のクッションに顔を埋めて尻尾をパタパタと振っている。
彼らは完全に戦闘意志を喪失し、至福の表情で眠りについてしまった。
『ペットが寝たww』
『そりゃあんな快適そうなベッド出されたら寝るわな』
『主、これ罠じゃなくてただの「超高級モンスター・スパ」じゃねえか!』
「ご名答です。シド様が手塩にかけて育てたあの魔獣たちなら、このスパの『VIP待遇』の虜になるのは計算通りでした」
チャリン、チャリン、チャリン!!!
管理モニターの【パッシブ発電ゲージ】が、異常な速度で回り始めた。
Sランクの魔獣が、完璧なリラックス状態で眠りについているのだ。そこから生み出されるDPは、まさに「無尽蔵の超高出力バッテリー」に等しい。
「素晴らしい……! やはり愛情たっぷりに育てられた個体は、生み出すDPの質が違います!」
画面の中では、一人取り残されたシドがパニックになっていた。
『おい! 起きろお前ら! 帰るぞ! ここは罠だ! 頼むから起きてくれえええっ!』
シドは必死にペットたちをモンスターボール(のような収納アイテム)に戻そうとするが、彼らは「絶対にここから動きたくない」とばかりに抵抗し、温泉とクッションにへばりついている。
さらに、シドが大きな声を出して彼らを揺さぶった瞬間――庭園のシステムが『警告』を発した。
【ピーッ。お客様の安眠を妨害する『ノイズ(騒音)』を検知。これより、清掃モードに移行します】
『……は?』
次の瞬間、庭園の端から現れた「清掃用・巨大ゴーレム」の腕が、シドの首根っこを容赦なく摘み上げた。
『ぎゃあああああ!? やめろ! 俺の家族を置いていけない! お前ら、目を覚ませぇぇぇぇ!』
悲痛な叫びを上げるシドは、そのままポイッと部屋の外へ放り投げられ、待ち構えていた『自動搬送コンベア』に真っ逆さまに落下した。
あとはいつも通り、カラカラと処理槽へ運ばれていくだけだ。
『ペットを奪われた(自ら寝ただけ)』
『シド、お前はただの「高級ペットの配達員」だったんだよ……』
『こんなNTRある???』
『主、えげつなさのベクトルが変わってて草』
私は、スヤスヤと眠る炎の獅子と白狼を見つめながら、プルプルと感動に打ち震えていた。
「シド様……。貴方のペットへの深い愛情、確かに受け取りました。彼らのその後の人生(睡眠)は、私が責任を持ってサポートさせていただきます」
口座に溢れかえる莫大なDPと、これから永続的に入り続ける不労所得。
私は画面越しに深くお辞儀をした。
「最高の『自家発電バッテリー』のお届け、誠にありがとうございました。さて、皆様。次はこの潤沢な資金を使って、第7区画に着手しましょうか」
今日もまた一つ、エセルガルドの平和と、私のテラリウムの資産が守られたのである。




