第46話:【不当競争の疑い】現地ギルドの監査官が乗り込んできましたが、我が社の『クリーンな帳簿(と圧倒的武力)』の前に成す術はありません
「……おい、ガルザ。お前はいったい何をやっているんだ? 魔王としての誇りはどこへ行った!」
魔王城の受付エリア(元・玉座の間)に、怒号が響き渡った。 やって来たのは、この地域の冒険者ギルドを統括するギルド長であり、同時に現地のトップクラスの司祭でもある男、マルスだった。
彼の後ろには、重装備をしたギルドの精鋭兵が数十人。 マルスは、ボロ布一枚で帰ってきた勇者たちの報告を受け、「魔王が新手の精神汚染魔法を使い始めた」と判断し、直々に制査に乗り込んできたのだ。
しかし、彼を迎えたのは、ピシッとスーツ(アルドがDPで生成した幻影)を着こなし、完璧なビジネススマイルを浮かべる元・魔王ガルザだった。
「これはこれは、ギルド長様。お言葉ですが、私は今、非常に『働きがい』を感じております。誇りで飯は食えませんが、我が社のDP(福利厚生)は最高ですので」 「正気か、ガルザ……! 完全に洗脳されている!」
マルスが武器を構えようとした瞬間、受付の横の応接スペースから、優雅にコーヒーをすする音が聞こえた。
「おや、お客様。当城内での武器の抜刀は、利用規約第3条により『一律5万DPの罰金』となっておりますよ」
私がスライムの体で、ローテーブルの上からプルプルと声をかける。
「スライム……!? 貴様がこの異常な空間の元凶か! ギルドの許可なく、このような大規模な『娯楽施設』を運営するのは、国際法違反および不当競争の疑いがある! 即刻、営業を停止し、帳簿を開示しろ!」
なるほど。新次元の現地組織からの『立ち入り監査』ですか。 スタートアップ企業が急成長したときに必ず受ける、定番の洗礼ですね。
だが、私はかつて世界を統治していた元・神だ。コンプライアンス(法令遵守)に関しては、現地のギルドなど足元にも及ばない。
【緊急立ち入り監査への対応マニュアル】
1. 完璧な書類提出(担当:バレル):
* バレルの超並列演算により、過去2日間の「侵入者受け入れログ」「消費魔力変換効率」「環境負荷(毒沼のろ過率)」をすべて完璧なグラフにして提出。一切の脱税も違法労働(※ガルザは合意の上のインターン)もないことを証明。
2. 圧倒的な防衛コンプライアンス(担当:ゼータ):
* 監査官が少しでも暴力を振るおうとした瞬間、ゼータが「正当防衛の範囲内」で彼の武器だけを分子レベルで切断。物理的な交渉の余地を完全に摘み取る。
3. 業務提携の提案(担当:アルド):
* 「ギルドの天下り先」として、我が社の『第2ダンジョン管理責任者』のポストを用意。ギルド長を身内へと引き込む。
「……な、なんだこの完璧な帳簿は……。魔力の流れに、1マイルの不正もないだと……?」
バレルが提出したホログラムの数字を見て、マルスは冷や汗を流した。 さらに、彼の背後では、元・神(清掃員)が、ギルド精鋭兵たちの鎧の隙間のホコリを「チッ、汚いな」と呟きながら、超高速のモップ捌きで勝手に掃除している。その圧倒的な神気に、精鋭兵たちは恐怖で指一本動かせない。
「ギルド長様。我が社は、ただの魔王城ではありません。現地の若き冒険者たちに『挫折と成長』を安全に提供する、いわば【民間の戦闘訓練アミューズメント施設】です。現に、昨日のお客様は誰一人命を落としていませんよね?」
アルドが爽やかに、パンフレットをマルスの前に差し出す。
「むしろ、我が社が冒険者を適度に『毟る』ことで、彼らはギルドでより多くのクエストをこなすようになります。これは、ギルドにとっても利益の増大に繋がるはずですが……?」
「くっ……! し、しかし、ギルドの認可が……」
「ああ、それでしたら」 私はプルプルと笑いながら、マルスの懐に、輝く『特級ゴールドDP会員証』を滑り込ませた。
「ギルド長様を、我が社の『特別顧問』としてお迎えしたいと考えております。月々の顧問料(DP)に加え、当施設のVIPラウンジをいつでも無料でご利用いただけますよ」
マルスは会員証の圧倒的な魔力(と、そこから伝わる莫大な利益の予感)を前に、ごくりと唾を飲み込んだ。
元・魔王を従え、完璧な書類と、神殺しの戦力を持つスライム。この組織を敵に回すのは、ギルドの崩壊を意味する。ならば、乗るしかない。このビッグウェーブに。
「……ふむ。……確認したが、貴殿らの活動は、現地の治安維持および経済活性化に極めて『多大な貢献』をしていると認めざるを得ない。……監査は合格だ。今後とも、良きビジネスパートナーとしてよろしく頼む」
マルスは、さっきまでの怒号が嘘のように、満面の笑みで私と握手(スライムの体に触る)を交わした。
チャリン、チャリン、チャリン!!!
ギルド長が公認した瞬間、現地のシステムから「公認施設」としての莫大なボーナスDPが流れ込んできた。
「ありがとうございます。……さあ皆様、ギルドの公認も得られました! これで堂々と、この次元の全ての人間を『優良顧客』として囲い込むことができますよ!」
元・神のスライム率いるブラック起業は、現地のルールさえも資本に変え、未開の次元をものすごいスピードで「テラリウム化」していくのである。




