第45話:【初めてのお客様】勇者パーティーを『最高のおもてなし(絶望)』で迎えたら、魔王の洗脳がまた一歩進みました
「おい、おかしいぞ……。この魔王城、禍々しいはずなのに、床が鏡みたいにピカピカに磨き上げられてる……。それに、心なしか空気がめちゃくちゃ美味いぞ?」
新次元の現地人である勇者パーティーのリーダー(戦士)が、戸惑いの声を上げた。 彼らは『沼地の魔王』を討伐しにやって来たはずだった。
しかし、一歩足を踏み入れた城内は、血生臭さなど微塵もなく、まるで高級ホテルのロビーのような清潔感と、ほのかにアロマ(元・神が配合した浄化香)の香りが漂っていた。
「……罠がない。警戒して進んでいるのに、矢の一つも飛んでこない。……逆に不気味」 パーティーの盗賊が冷や汗を流す。
彼らは知らない。 彼らの足元、壁の裏、さらには大気そのものに、バレルが設計した『感情エネルギー超伝導ドレイン力場』が張り巡らされていることを。
歩けば歩くほど、彼らの「緊張」と「恐怖」と「期待」は、微細な振動となってダンジョンのOSへと吸収され、DPに変換されているのだ。
【テラリウム新次元店:接客(罠)マニュアル実践】
1. 第一印象:
* まずは快適な空間を提供し、侵入者の警戒心を解く。
* あえて罠にかからせないことで「自分たちは天才かもしれない」という根拠のない自信を植え付ける。
2. 中間搾取:
* 廊下の途中に、ゼータが配置した『一見、簡単に開けられそうな宝箱』を設置。
* 解錠しようとした瞬間に、微弱な重力波で指先の感覚を狂わせ、挑戦回数(時間)を稼がせる。滞在時間が長いほど、吸い取れる精神エネルギーは増加する。
3. 出口戦略(リピート化):
* 決して命は奪わない。身ぐるみと精神力を限界まで剥ぎ取った後、絶妙な「あと一歩で勝てた」という悔しさを残して外へ排出する。
「あ、あったぞ! 宝箱だ! ……おい、罠はない。鍵もかかってないぞ!」
盗賊が狂喜乱舞しながら宝箱を開けた。中には、燦然と輝く(ようにアルドがイルミネーションを施した)安物のガラス玉が入っていた。
「おおお! 伝説の秘宝だ! 俺たちはやったんだ!」 勇者たちがガラス玉を掲げて歓喜の声を上げる。 その瞬間、彼らの脳内から溢れ出た「脳汁」と「歓喜のエネルギー」が、城のシステムによって根こそぎハッキングされた。
ガガガガガッ! と、城の深層にあるDPカウンターが猛烈な勢いで回転する。
『……ふむ。現地の人間は、この程度の演出でここまで良質なエネルギーを出すのか。実にお買い得な客層だな』 管理室のモニターを見ながら、バレルが満足げに顎を撫でた。
「殺さずに、喜ばせて毟り取る。……船長、これ、私が外でゴミを1個ずつ解体するより遥かに効率が良いわね」 ゼータも、その洗脳的な美しさに感心している。
そして、その様子を横で見ていたインターンのガルザ(元・魔王)は、恐怖で顎をガタガタと震わせていた。
「な、なんという悪魔の所業……! 侵入者を一人も殺していないのに、彼らの装備の魔力も、精神も、未来への希望も、すべてが干からびていく……! 俺の知っている『魔王軍』の戦い方は、ただの野蛮な暴力だった……!」
「気づきましたか、ガルザ君」
私はスライムの体で、ガルザの肩(角のあたり)にポスンと乗った。
「命を奪ってしまえば、それでおしまいです。利益は一度きり。しかし、彼らに『手応え』と『希望』を与えて生かして帰せば、彼らは町へ戻り、さらに強い装備を買い揃え、仲間を増やして、再び我が社へ来店してくれるのです。これぞ、持続可能なダンジョン経営(SDGs)ですよ」
「じ、持続可能……っ!」 ガルザの目に、戦慄を通り越して、ある種の「崇拝」の光が宿り始めた。
数十分後。 身に付けていた魔力付きの剣や防具、さらには財布の中身まで、なぜか全て「宝箱の解錠手数料(という名の強制ドレイン)」として失い、布切れ一枚になった勇者パーティーが、城の裏口からトボトボと這い出ていった。
彼らの顔には、絶望ではなく、「次こそは、あの宝箱の奥にある本当の財宝を手に入れてみせる……!」という、狂った情熱だけが残っていた。
『ありがとうございましたー! またのご来店を、スタッフ一同心よりお待ちしております!』 アルドが拡声器で、爽やかに彼らの背中を見送る。
チャリン、チャリン、チャリンチャリンチャリン!!!
「……素晴らしい。スタートアップ初日にしては、十分すぎる黒字です」
私はスライムの体をプルプルと大きく膨らませ、勝利を確信した。 手作業で仕込んだ罠が、狙い通りに現地人をハメ、最高の利益を生み出す。このゾクゾクするような経営の快感。やはり、あの完成された楽園を飛び出して大正解だった。
「……船長! いえ、CEO!!」 突然、ガルザが私の前に両膝をつき、大理石の床に頭をこすりつけた。
「俺が悪うございました! 雑用でも何でもやります! どうか、どうか俺に、その『本当の支配(経営)』の極意を教えてください!!」
「ふふっ、いい返事です。ではガルザ君、まずはその意気込みで、あちらの第2区画の『毒沼のろ過作業』を徹夜で終わらせましょうか」
「はい喜んでぇぇぇ職務に励ませていただきますッ!!」
元・魔王が、自ら進んでブラック労働の沼へと飛び込んでいく。 私たちの新しい箱庭は、現地の一番大きな戦力を完全に取り込み、さらなる拡大へと向けて、その凶悪な歯車を回し始めたのである。




