第36話:【銀河のカリスマ】元勇者が発信する『ダンジョン潜入体験記』がバズりすぎて、毎日、殺到する冒険者の対応で嬉しい悲鳴です
「船長! また新しいゲートに、銀河中の冒険者が押し寄せてきています!」
アルドが悲鳴のような歓喜の声を上げた。
彼が以前、軽い気持ちで始めた『ダンジョン潜入体験記(という名の、罠への誘い)』のSNS配信が、銀河系全域で爆発的な人気を博していたのだ。
かつての勇者が「ここがオススメ!」「この罠、回避すると報酬が倍増するんだ!」と爽やかな笑顔で紹介する映像は、冒険者たちの冒険心――そして、手っ取り早く強くなりたいという欲望――をこれ以上なく刺激していた。
『うおおおお! 俺も伝説の勇者が勧めるダンジョンで、一攫千金を掴むぞ!』
『あのダンジョン、噂によると「ゼータの剣技」が盗めるらしいぞ!』
私のダンジョンは、もはや知る人ぞ知る隠れ家ではなく、銀河の冒険者が一度は訪れたい「聖地」になっていた。
【ダンジョン運営・現状の課題】
・過剰供給:
・あまりの冒険者の数に、第1〜第10区画の罠が処理しきれず、常に「行列」ができている。
・品質の維持:
・冒険者が多すぎて、逆に「資源」が溢れ、ダンジョンの空間管理が圧迫されている。
・新たな顧客層:
・単なる冒険者だけでなく、企業のスカウトや、ダンジョンの経営を学びたいという「研修希望者」まで現れ始めた。
「船長、もう限界よ。私の解体ロボットも、さすがに1分間に100万人の冒険者を捌くのは無理があるわ」
ゼータが、オイルで汚れた剣を置き、呆れた顔で私を見た。
ダンジョンの入り口は、もはや巨大なスタジアムのような熱気に包まれている。
『……ふむ。いっそのこと、この状況を「チケット制」にしてはどうか? 順番待ちをするだけでDPを徴収し、さらに、罠の難易度を「ランク別」に分けるのだ』
バレルが冷徹な戦略を提案する。
「……いいですね。アルド様、今すぐ配信のスタイルを変えてください。これからは『優先入場権付きのプレミアム・チケット』をDPで販売します」
「……うわあ、船長。お前、ついに本当の『転売屋』みたいになったな」
アルドは笑いながら、即座に配信内容を更新した。
『やあ、みんな! 次のダンジョンは、プレミアム会員限定で「ゼータ様による特別剣技指導(=罠による教育)」が受けられるよ! 今すぐログインしてDPをチャージだ!』
その瞬間、ダンジョンの入り口を埋め尽くしていた冒険者たちが、我先にとDPを振り込み始めた。
チャリン。チャリン。チャリンチャリンチャリンチャリン……。
口座の数値が、もはや数式では表せないほどの勢いで跳ね上がる。
この「行列そのものが利益を生む」という構造。神だった頃には、全宇宙を完璧に統治していたが、これほどの直接的な利益の奔流を浴びたことはなかった。
「……実に美しい。彼らは自分の意志で、私のダンジョンで罠にかかりたがり、そのための行列に並ぶ権利を買い、喜んで資源(=経験値やお金)を落としていく」
私は天井から、その「完璧な餌場」の光景を眺めながら、スライムの体をプルプルと震わせた。
神として宇宙を支配していた時は、すべてが私の計画通りに動くのが当たり前だった。
だが、こうして「市場の需要」を読み、罠をエンターテインメントに昇華し、冒険者たちを熱狂させる経営者としての遊びは、神の座など比ではない。
「皆様、第2フェーズへ移行します。これからは、全銀河のダンジョンを統合し、私のダンジョンを『宇宙で唯一の、最強の公認ダンジョン』としてブランド化しましょう」
今日もまた、スライムという名の管理者は、元・勇者の巧みな煽り文句と、天才たちの協力によって、銀河の富を根こそぎ吸い上げているのである。




