第35話:【管理者と開発者】かつての『神殺しの武器』が、今や当ダンジョンの『万能調理器具』にジョブチェンジしました
「……船長、要塞から回収したこの『デバッグ・コード』という名の機械、どうするの? 剣のメンテナンスには使えそうもないし、ただの燃えないゴミよ」
ゼータが、要塞の心臓部から引っこ抜いてきた巨大な基板を放り投げた。
それは、かつて私(神としてのスライム)をシステムから消去するために開発された、いわば「神殺しの槍」のデジタル版だ。本来なら、これに触れたデータは一瞬で無へと帰すはずの代物だった。
だが、今の私は「物理的なスライム」だ。 コードなど知ったことではない。
『……ふむ。これは高度な並列演算ユニットだな。これがあれば、今の重力エンジンを3倍の出力に引き上げられるかもしれない』
バレルが興味深そうに基板を覗き込む。 彼の専門家としての目が、その危険な兵器を「ただの高級部品」として解釈し始めている。
「……皆様、いいアイデアがあります。この『神殺し』のシステム、せっかくですから、もっと生活に密着した形で再利用しましょう」
私は管理ホログラムを操作し、その基板をダンジョンのキッチンへと繋ぐよう指示を出した。
「これを『究極の温度制御ユニット』に改造するのです。……分子レベルで熱を操れるなら、どんな食材でも『完璧な焼き加減』で調理できるはずです」
【プロジェクト:神殺しのキッチン・アップデート】
1. 兵器の再定義:
・兵器に搭載された「対象を消滅させる(分解する)」機能を、「食材の繊維だけを理想的に解体する」機能へと無理やり書き換える。
2. 完璧な食卓の実現:
・どんな硬い宇宙生物の肉でも、あるいは、かつて資源として回収した放置された合成食品でも、このユニットを通せば『星三つ』の料理に変貌する。
3. 開発者への皮肉:
・我々を消去しようとした技術で、最高の晩餐を作り、それをモニター越しに敵の残党へ配信する。
「……なるほど。この分解機能を使えば、肉の筋だけを精密に断ち切れるわね。……ふふ、実に合理的だわ」
ゼータがその「兵器」をまな板の横に置き、手際よくモンスターの肉を捌いていく。 バレルが重力制御で肉汁を閉じ込める魔法をかけ、アルドが適したスパイスを選定する。
数分後、管理室には、かつての「神殺し」からは想像もつかない、芳醇な香りが漂った。
「……皆様、お疲れ様でした。今日は『要塞陥落記念』のフルコースです」
私たちは、かつて私を消そうとした者たちの兵器で焼いた肉を、優雅に味わった。 一口食べるたびに、肉の旨味が私のスライムの核に染み渡る。
「……美味しい。これこそ、神の力で完璧に管理されていた世界では味わえなかった『生きている実感』です」
チャリン。
遠くの要塞残骸から、機能停止した自動防衛ドローンが、最後のDPを吐き出して沈黙した。
「……さて。食事の後は、この要塞の残骸をすべて解体しましょう。あの大富豪も、自分の兵器が『最高のステーキメーカー』になったとは夢にも思わないでしょうね」
私はプルプルと笑いながら、ワイン(もちろん、アルドが持ち込んだ特級品だ)を飲み干した。 神を殺すための道具で、神が優雅に食事をする。
これほど痛快な経営状況は、他にはないだろう。 私のテラリウムは、今日もまた、敵の攻撃をすべて『生活の豊かさ』へと変換し続けている。




