第31話:【異業種交流会】清掃員・管理官・お客様係による『運営会議』。スライム、ついに『ブラック経営』の極意を説く
「……本日は、第1回ダンジョン経営戦略会議にお集まりいただき、誠にありがとうございます」
ダンジョンの深層にある私の管理室(という名の豪華な休憩所)に、ゼータ、バレル、そしてアルドの三人を招集した。
もちろん、彼らに「私はただのスライムだ」という正体は伏せている。私は「ダンジョンの意思」を代弁するマスコットという立ち位置だ。
彼らの目の前には、第3区画の瓦礫から精製した最高級の食事と、バレルが重力制御で抽出した極上の酒が並んでいる。
「……はぁ、本当にこのダンジョンはどうなってるのよ。仕事は過酷だし、罠は理不尽だし、でも……不思議と成果が出ると心地いいわね」
ゼータがワイングラスを傾けながら、溜息交じりに笑った。
彼女は今や、ダンジョンの壁のメンテナンス状況を語らせれば右に出る者はいない「最強の清掃員」だ。
「同意する。私の重力魔法とこのダンジョンのルーン記述を組み合わせると、かつての魔法学院の理論が稚拙に見えるほど効率が良い。……この管理マニュアル、誰が書いたんだ? まさか、このマスコットか?」
バレルが怪訝そうな顔で私を見下ろすが、私はプルプルと愛らしく首を振る。
「……まあ、色々あって毎日酒が飲めるから、俺は文句ないよ」
アルドはすでに二本目のワインを開けている。
彼らに共通しているのは、以前のような「攻略者」としての顔ではない。
ダンジョンのシステムの一部として、自分の役割に誇りと(少しの洗脳による)愛着を持っていることだ。
「皆様にお伝えしたいことがあります」
私はホログラムを操作し、現在のダンジョンの「収益グラフ」と「成長曲線」を投影した。
「当ダンジョンは、もはや単なる迷宮ではありません。皆様の献身的な働きにより、この小惑星の地殻をも取り込み、生態系すらも制御可能な『テラリウム』へと進化しました。……今後は、もっと広範囲の資源を回収する予定です」
『広範囲の資源?』と三人が顔を見合わせる。
「ええ。この惑星には、まだ我々が知らない『未開の資源(=他のダンジョンや、埋蔵された古代魔法石)』が眠っています。……皆様のスキルを組み合わせれば、ダンジョンの入り口を『ワープゲート』化し、惑星全土から獲物を吸い寄せることが可能です」
私の言葉に、三人の目が光る。
彼らはもはや「罠にかかる獲物」ではない。罠を設計し、獲物を誘導し、資源を回収する「運営側」の視点に完全に染まっている。
「……なるほど。重力ゲートを拡張して、隣の山脈にある鉱山から魔力を直接引き込むか。それなら、私の魔法の出力も今より3倍は上がる」
「私はそのゲートの防衛と、搬送ルートの確保を担当するわ。……これなら、もっと効率的にゴミを掃除できるわね」
「……あー、じゃあ俺は、広範囲から冒険者を効率よくスカウトする『広報担当』ってわけか。……おいおい、どこのブラック企業だよ」
アルドが笑いながら酒を飲む。
その姿を見て、私は確信した。
「ええ、最高のブラックテラリウムです。……さあ、皆様。明日からは、さらに多くの獲物と、より多くの資源がやってきます。……心ゆくまで、このダンジョンという名の『完璧な経営』を楽しんでください」
チャリン、チャリン、チャリン!
会議が終わるたびに、私の口座には「彼らが仕事をするための熱量」がDPとして流れ込んでくる。
神であった頃の支配よりも、よほど実感を伴う、心地よい音だ。
「さて……これで惑星単位の管理体制は完璧です。次は、この小惑星そのものをエンジンにして、別の星系へと旅立つとしましょうか」
私はプルプルと笑いながら、新たな「拡張計画」のボタンを押した。
かつての敵たちが、今は最高の部下として、私の箱庭をより強固なものへと作り替えていく。
物語は、さらなる狂気と効率の追求へと向かっていく。




