第29話:【新戦力スカウト】迷い込んだ魔術師バレルに『重力制御の補助計算』を依頼したら、立派な『テラリウムの管理官』が誕生しました
「……ふむ。ゼータ様が第3区画の瓦礫を綺麗に掃除してくださったおかげで、ダンジョンが一段と広くなりました。……そろそろ、新たな『リソース』が必要ですね」
私は洞窟の入り口にある「侵入者感知センサー」を眺めた。
清掃員ゼータが剣で瓦礫を砕く音は、この小惑星の地殻を伝って、遠くの冒険者たちにも聞こえているはずだ。案の定、貪欲な冒険者たちが、お宝を求めてゾロゾロと吸い寄せられてくる。
その中に、一際高い魔力反応を放つ男がいた。
かつて私のテラリウムで、複雑な魔法陣を展開して計算を狂わせた天才魔術師、バレルだ。
「……バレル様。貴方のその『魔力演算』、私のダンジョンの『環境制御エンジン』にぜひお貸しください」
私はゼータの時とは少しやり方を変えることにした。
剣士には「過酷な労働」を与えればいいが、魔術師には「知的好奇心を刺激する謎」を与えるのが一番だ。
【ダンジョン運営・改善計画:第2フェーズ】
1. 罠の設計図をあえて落とす:
・バレルの進むルート上に、私が作成した「未完成の魔法陣のメモ」をわざとらしく配置する。
・それは「重力反転」を制御するための数式であり、私のダンジョンをより立体的に拡張するための重要な鍵だ。
2. 『壁』をあえて解けない難易度に:
・彼が興味を持つよう、魔法的に解除困難な結界を第4区画に設置。
・その解除コードこそが、バレルが一生かけても解きたいと思っていた「高度な魔力演算の補助」になっている。
3. 『共同作業』という名の支配:
・結界を解くために必要となる「計算能力」が足りないことを指摘し、彼を『ダンジョンのメインサーバー(の片隅)』へ招待する。
「……っ!? なんだこの魔法陣の構造は……っ! 非ユークリッド幾何学を応用した魔力循環? こんなの、魔法学院の図書館にも載っていなかったぞ!」
バレルは罠を避けるどころか、壁に刻まれた「ダンジョン補強用のルーン文字」に夢中になっていた。
彼の瞳が、知識への渇望でギラギラと燃え上がる。
『バレル様。もしよろしければ、その複雑な魔力循環の調整、貴方の知識で手伝っていただけませんか? 報酬として、このダンジョンの「深層の演算ログ」を全て閲覧できるようになります』
「……取引だ。貴様が誰かは知らんが、このダンジョンの謎を解明できるなら、協力してやろう!」
チョロい。実にチョロい。
バレルは喜々として、自分の魔力をダンジョンの配線に繋いだ。
瞬間、彼の膨大な演算能力が、私の世界樹の「補助脳」として直結される。
『ありがとうございます、バレル様。貴方のその魔力、実に効率的です』
「くくく、面白い! このダンジョン自体が、ひとつの巨大な魔法陣だったとはな! 最高の研究対象だ……!」
私は天井で、スライムの体をプルプルと震わせて笑った。
ゼータは「最強の清掃員」となり、バレルは「最強の環境制御官」となった。
「二人とも、自分の意志で、自分のためだと思って、私のダンジョンのために必死に働いている……」
神だった頃の支配は、暴力と強制によるものだった。
だが、今の支配は、彼らの「やりがい」と「探究心」を餌にした、実にエコで、実にスマートな搾取だ。
「さあ、バレル様。この第4区画の重力制御を完璧にしてください。貴方のその手で、私をより快適な『箱庭』にしていくのです」
チャリン、チャリン、チャリン!!
バレルが魔力を注ぐたびに、ダンジョンの環境が最適化され、DPが私の口座に積み重なる。
二人の天才が、自分の役割に誇りを持って働いている。
……ああ、これぞ、経営者としての一つの完成形かもしれない。
「次は、誰をスカウトしましょうか? ……あ、そうだ。あそこの隅で怯えている、あの『元・勇者』も、そろそろ『お客様係(兼・撒き餌)』として活用できそうですね」
私は優雅に、スライムの体で次なる罠をデザインし始めた。
私のテラリウムは、今日もまた、最強の仲間(=最高の労働力)を得て、着々と拡張されているのである。




