第28話:【経営コンサルタント】ゼータ様、ご提案があります。その『天才的な剣技』を、当ダンジョンの『清掃員』として活用しませんか?
「……ふう、ふう……っ。これ、終わりが見えない……っ!」
ゼータはホイールの上で、すでに数時間は走っているはずだ。
かつての天才剣士の誇りもどこへやら、今の彼女は「報酬の硬貨(DPに似せたメダル)」を求めて、無心に足を動かす一匹の労働者と化していた。
私はその姿をモニターで愛でながら、スライムの体を変形させて「スーツ姿」のようなフォルムを模した。
そして、ホイールの目の前のホログラムを操作し、彼女の視界に『業務改善提案書』を投影する。
『ゼータ様。現在、貴方のホイール走行による発電効率は、当ダンジョンの全消費電力の12%を占めております。……ですが、正直に申し上げます。この単純作業では、貴方のポテンシャルを活かしきれていない』
彼女は走る速度を緩めず、ぜいぜいと荒い息を吐きながら叫んだ。
「……はぁ!? だったら、何をしろっていうのよ……!」
『貴方のその剣技、実に素晴らしい。その洗練された動きを、当ダンジョンの『第2区画・ゴミ処理場』で発揮していただきたいのです。あそこは現在、魔獣たちの排泄物や、ダンジョン攻略の失敗者たちが残した瓦礫で溢れかえっております。貴方が剣でそれを粉砕し、資源として分別してくだされば……現在の報酬の、3倍を支払います』
私は、彼女に「労働条件」を提示した。
これは以前、私が5000人のプレイヤーを管理していた際に培った「ブラック企業的経営手腕」の真骨頂だ。
強者には、単なる罠よりも「やりがいのある過酷な労働」を与える方が、より長く、より美しく資源として消費できる。
「……3倍? ……わかったわよ。その『ゴミ』とやらに、私の剣を見せてやるわ!」
ゼータはホイールを停止させ、意気揚々と剣を構えた。
彼女は自分が「ダンジョンの清掃員(=死ぬまで掃除から逃げられない呪い)」にジョブチェンジさせられたことなど、夢にも思っていない。
『契約成立です。では、こちらへ』
彼女が剣を振るうたびに、瓦礫が細かく砕かれ、ダンジョンの壁材として再利用可能なサイズに加工されていく。
彼女は「攻略」をしているつもりで、実際には「ダンジョンの増築」を手伝っているのだ。
「……ふふっ。素晴らしい」
私は、その様子を観察しながら、スライムの体で深く頷いた。
ゼータの振り下ろす剣の軌道、その無駄のない回転、そして何より「この仕事は自分が選んだ」と思い込まされている彼女の満悦の表情。
神だった頃は、全宇宙を自分の駒として動かしていた。
だが、こうして「目の前のたった一人」の心を、私の望む形へと少しずつ塗り替えていく作業の方が、よほど「神の遊び」として質が高い。
『お疲れ様です、ゼータ様。今日のノルマ達成まで、あと残すところ……山積みになった第3区画の解体のみです』
「……クソッ! 分かってるわよ! 終わらせればいいんでしょ!」
ゼータの剣閃が、ダンジョンの壁を美しく削り取っていく。
彼女の労働により、私のダンジョンはさらに広く、深く、そして頑丈になっていく。
「さあ、働いてください。貴方のその天才的な剣は、私のテラリウムをより完璧にするための『最も鋭利なメンテナンスツール』なのですから」
チャリン、チャリン、チャリン!!!
ゼータが働くたびに響く、心地よいDPの音。
今日もまた、天才剣士という名の「最強の清掃員」によって、私のテラリウムはキラキラと輝きを取り戻したのである。




