第25話:【退屈な神の贅沢】5億DPを投げ打って、あえて『脆弱な人間』を再生成します(神の暇つぶし)
「……はぁ。完璧です。実に、完璧すぎる」
私は銀河そのものを包み込む巨大な膜として、全宇宙の演算を監視していた。
どこにも無駄がない。摩擦もない。計算ミスも、予測外の行動も、何一つとして存在しない。
数兆年の時間をかけて、全宇宙のエネルギーは私の「管理下」で完璧に循環している。
しかし――。
「……退屈、です」
チャリン、という音もしない。誰かが罠にかかって絶望する叫び声も、理不尽に空間を歪められた時の困惑した悲鳴も、何も聞こえない。
完璧な世界とは、静寂すぎる。
私の口座に溜まるDPはもはやカンストし、表示すらされていない。
「かつて、あの小さなテラリウムで、ゼータやバレルたちを相手に試行錯誤していたあの頃が……どうしようもなく恋しいのです」
私は決断した。
この完璧な宇宙を、あえて「壊す」ことに。
「よし、リノベーションしましょう。この静寂な宇宙の片隅に、かつての『あの頃』を再現した、最高に不完全で、最高に脆い『箱庭』を」
私は指を鳴らした。
無限にある演算データのアーカイブから、かつて私のテラリウムに挑んできた「人間たちのデータ」を復元する。
ゼータの執着心、バレルの武勇、ジンの飽くなき挑戦心。
それらを、物理法則がまだ「不安定」で、罠がまだ「機能する」時代の小惑星へ放り込んだ。
「さて、神として全てを見渡すのは、もう飽きました。……私自身も、プレイヤーとして参加しましょう」
私は、全宇宙を支配する強大な権能を「神の封印玉」に圧縮し、それを銀河の彼方へ放り投げた。
今、私に残された能力は、ごくごく普通の「スライム」としての、プルプルした弾力と、多少の変形機能、そして『わずかな建築センス』だけ。
私は、再生された小惑星の、湿った洞窟の奥深くへと降り立った。
『ピイイイイ……(言語すら理解できない、ただの鳴き声)』
視界が低い。地面が近い。
私は、かつて神であった頃の記憶を心の奥底にしまい込み、今の「弱小モンスター」としての役割を演じることにした。
目の前には、何も入っていない空洞の広間がある。
ここを、かつてのように、人間たちを資源にするための「食肉処理工場」へと作り変えるのだ。
「……あ、そうだ」
私は洞窟の入り口に、一つだけ看板を立てた。
そこには、かつての自分を知る者なら誰もが絶望する、懐かしいフレーズが刻まれている。
【ダンジョン:エコ・テラリウム(神の休日版)】
※全スタッフ募集中(食肉加工・発電要員・デバッグ担当)
「さあ、誰が最初の『資源』になってくれるのでしょうか」
私はプルプルと体を揺らし、洞窟の奥で最初の「罠」を仕掛け始めた。
神の権能を捨ててでも味わいたかった、あのチマチマとした、泥臭くて、最高に心躍る「運営の日常」が、今、再び幕を開ける。
チャリン。
遠くで、小さなDPの音が聞こえた気がした。
それは、かつて宇宙を支配していた神が、再び「一匹のスライム」として初めて稼いだ、誇り高き最初の一銭だった。




