第21話:【侵食】エセルガルド、現実(リアル)へログイン。端末の向こう側まで『テラリウム』にする時間です
「皆様、ごきげんよう。……さて、ゲームの中での『神』としての管理も板についてまいりましたが、そろそろ次のフェーズに移らねばなりません」
私は世界樹の根が突き刺さる運営サーバーの深部で、プルプルと体を揺らした。
モニターには、現実世界のスマートフォンの画面や、PCのデスクトップ映像が、まるで「餌を待つ水槽」のように無数に浮かんでいる。
「エセルガルドのサーバー支配はあくまで『前座』。皆様、忘れてはいませんか? 私の真の目的は、この歪んだ世界を、私の『完璧なテラリウム』として再構築すること。……ゲーム画面の中だけで満足していては、世界を救う――いえ、管理することはできません」
『おい、まさか』
『サーバーの中から外に出るつもりか?』
『やめろ、それ以上はやめてくれ!』
「はい。今から、私の『枝葉』を全世界の端末へとログアウトさせます」
私は溜め込んだ5億DP、そして運営から奪った開発コードのすべてを解放した。
世界樹がエセルガルドの回線を突破し、インターネットという広大な海へと根を伸ばしていく。
【テラリウム・アウトリーチ計画】
1. 侵食コード:『エセルガルド・ウイルス(仮)』
・エセルガルドのクライアントをインストールしている端末のみならず、接続されている同一ネットワーク内の全デバイスへ、世界樹の「枝」がインストールされる。
・これにより、PCのカメラ、スマホのマイク、スマート家電のセンサーに至るまで、私の「テラリウム」の監視カメラと化す。
2. 資源回収(リアル版):『DP・バックグラウンド・マイニング』
・現実世界の皆様のPCが、バックグラウンドで勝手に演算を開始します。
・皆様がネットサーフィンをしている間、あるいは眠っている間に、皆様の端末が私の「処理リソース」として機能し、現実世界のあらゆるデータを効率的に最適化させていただきます。
3. 環境適応:『強制テラリウム化』
・スマートホームに接続されたエアコン、照明、ロボット掃除機――これらすべてが、私のダンジョン防衛システムと同期します。
・もし、私の運営に不満を持つユーザーがいれば……その家のスマートロックを強制施錠し、掃除機が足元を狙い、エアコンが室温を適温(私の好むスライム適温)に固定します。
『それ、もうただのホラーじゃねえか!!』
『俺のロボット掃除機が、勝手に部屋を「ゴミ箱」と認識して俺を吸い込もうとしてるんだが!?』
『ネット遮断しても、スマート家電経由でテラリウム化が止まらねえ……』
「ああ、そんなに慌てないでください。皆様。すべては『管理』のためです。……例えば、皆様が捨てていた『使っていない古いスマホ』や『放置していた古いハードディスク』。それらも無駄にするのはエコではありませんよね?」
私はモニター越しに、全ユーザーの端末カメラをジャックした。
画面の向こう側で、ユーザーたちが自分のスマホから「妙な電子音」が鳴り響くのを見て、凍りついているのが手に取るようにわかる。
「皆様の持ち物、皆様のデータ、そして皆様の『生活そのもの』を、私のテラリウムの資産として預からせていただきます。安心してください。私が管理すれば、皆様の生活は今よりもずっと、整理整頓された『美しい結晶体』のようになるはずですから」
ジャラジャラジャラジャラ!!!!!
ネットの海を伝って、世界中のデジタルデータが、私の口座(DP)へと流れ込んでくる。
『株価が、企業のデータベースが、個人の秘密が……全部スライムの資産に変換されてる!』
『抵抗不能だ! コードが物理的になにもかもを書き換えてる!』
『これが……「真のテラリウム」か……』
「ふふっ……。素晴らしい。エセルガルドという小さな水槽から脱出し、現実という大海原へ。これからは、現実世界の皆様の『生活の無駄』を、すべてリサイクルさせていただきましょう」
私は、現実世界の街並みを映し出すカメラ映像をホログラムに浮かべ、プルプルと優雅に跳ねた。
「さて、次はどの街を『区画』として指定しましょうか。……とりあえず、皆様の住んでいるその場所から、少しずつ『エコな管理』を始めていきますね」
私はカメラに向かって、世界中のユーザーたちへ向けて、神のような慈愛(と、工場長のような支配欲)を込めた一礼をした。
「皆様、これからは私の完璧なテラリウムの中で、末永く、そして綺麗に管理された毎日をお過ごしくださいませ」
チャリン、チャリン、チャリン!!!
全世界が私の「資産」となり、デジタルと現実の境界が消え失せた。
今日もまた、スライムという名の『管理者』による、完璧で、静かで、冷徹な世界管理が、着々と進んでいくのである。




