第19話:運営からの『強制BAN(削除)』が来ました。無料の『バグ利用のデバッグ作業』としてのご活躍、誠に感謝いたします
「皆様、ごきげんよう。本日はダンジョン運営における、避けては通れない『最大の壁』についてお話しさせてください」
私はプルプルと体を揺らしながら、管理室のメインモニターを見上げた。
世界樹の構築は順調。全世界のプレイヤーを「労働者」として組み込むエコなシステムも、ほぼ完成に近づいていた。
……しかし、モニターのど真ん中に、不吉な「赤文字」の警告が表示されていた。
【警告:システム管理者(GM)より】
ユーザーID:スライム(通称:工場長)
貴方のダンジョン運営には、数千件の不正行為(バグの意図的悪用、NPC・プレイヤーの資源化、物理法則の破壊等)が確認されました。
今すぐダンジョンを初期化し、運営による調査を受けてください。従わない場合、アカウントを完全削除(BAN)します。
『……終わったな』
『運営から直々の警告キタコレ』
『5000人一気に溶かしたら、さすがに運営も黙っちゃいないわw』
「ああ、残念です。皆様。世界樹という『夢の資源リサイクル工場』が完成したばかりだというのに……運営様という名の『最大のクレーマー』が、私の素晴らしいエコ活動を妨害しにやってきたようです」
私はスライムの体をわざとらしく悲しげに萎ませた。
「運営様は、私のダンジョンを『バグの塊』と仰います。ですが、違うのです。これは私の『独創的な経営努力』であり、エセルガルドのサーバー負荷を極限まで減らした、最強のエコシステムなのです。……ああ、どこかにこの運営の『BANプログラム(削除コード)』を無効化し、逆に運営側を私の『管理下』に引きずり込む都合の良い『凄腕のハッカー』などいないものか……」
私がぼやいた、まさにその時だった。
管理室のモニターがバリバリとノイズを発し、見たこともない「黒い霧」のようなアバターが画面を覆った。
エセルガルド・オンラインにおいて、ゲームの裏側のコードを書き換える「神の如きプログラマー」と恐れられる、トップハッカー兼デバッガー、『灰色のコードマン・ゼロ』である。
『ゼロきたあああ!』
『禁断のキャラが登場した!』
『運営の裏をかく最強の男!』
ゼロの配信枠は、彼が「神の領域」に踏み込むのを期待するリスナーたちで、静かな熱狂に包まれていた。
ゼロは、私のダンジョンのソースコードが表示されたホログラムを見つめ、低い声で呟いた。
『……ふん。このダンジョンの構造、見たこともないロジックで組まれているな。非ユークリッド空間と、プレイヤーの入力を強制変換する並列演算構造……狂気じみている。だが、面白い』
彼はカメラ(リスナー)に向かって、冷笑を浮かべた。
『運営がこのスライムをBANしようとしている? 笑わせるな。このスライムのダンジョンは、もはや「ゲームの一部」じゃない。サーバーそのものに寄生した、新たなレイヤー(階層)だ。……運営ごときが消せるはずがない。このコード、俺が書き換えて、運営を逆に「下僕」にしてやるよ』
彼にシステムからの『オーディエンス・バフ(コード改変速度・権限剥奪率の極大アップ)』が付与される。
『いいか、運営。お前たちが使っている「BANコード」は、逆に俺が利用させてもらう! 《権限乗っ取り(オーバーライト・アクセス)》!!』
ゼロがキーボード(と見せかけた虚空)を叩くと、エセルガルドの運営サーバーそのものを直接書き換える「強制上書きコード」が爆発的に送出された。
『うおおおお! 運営の管理権限を書き換えてる!』
『これでもうBANされない!』
『むしろスライムがGMになるのか!?』
ゼロの配信枠が「最強の改変」に沸き立つ中。
私の配信枠もまた、狂喜乱舞に包まれていた。
「す、素晴らしい……っ!! なんという完璧なデバッグ作業でしょう!!」
私はモニターの前で、喜びのあまり体をトランポリンのように跳ねさせた。
「皆様、ご覧ください! ゼロ様が運営のセキュリティに穴を開け、私のダンジョンを『保護対象(システム例外)』として登録してくれています! しかも、ついでに運営の『プレイヤーデータ管理プログラム』まで私の世界樹に直結させて……これほどの高度なデバッグ作業を自腹でやってくださるなんて、どれだけDPが浮いたことか……!!」
『主が大歓喜してるww』
『業者頼んだらクソ高いデバッグを、無給でやってくれるハッカー』
『ゼロ、お前はハッカーじゃない。ただの「無料デバッガー」だ』
ゼロの操作により、私のダンジョンは「ゲームシステムそのもの」の一部として認められ、BANの危機から完全に守られた。
『……ふっ、これで終わりだ。運営のBANコマンドは無効化し、逆に運営の広報室を、このダンジョンの『受付』として設定し直した。これでスライム、お前は無敵だ』
ゼロが満足げに笑った、その時。
「……ふふっ」
私は、書き換わった運営サーバーのコードを見て、スライムの体を震わせて笑った。
「皆様。ゼロ様のおかげで、私のシステムは『運営公認』となりました。……さて、ゼロ様が書き換えたこのコード、非常に精巧で美しいのですが、唯一の欠点があります」
私が解説を始めたのと同時に、画面の中のゼロが異変に気づいた。
『……ん? なんだこの警告音は? 運営のバックアップシステムが……逆探知を開始した!?』
「はい。ゼロ様が運営の管理権限を乗っ取った瞬間、運営側の『強制初期化プログラム』が、最も負荷の高い『バグデータ(=操作中のゼロ様自身)』を優先的にクリーニング対象(削除)として自動選択いたしました」
運営のシステムにとって、ゼロによる「改変そのもの」こそが最大のバグだったのだ。
ゼロが「書き換え」のために開いたサーバーの裏口が、そのまま彼自身の「削除口」として機能し始めた。
『な、なんだァ!? 俺自身のコードが逆流して……っ!! 俺のデータが、運営のシステムによって強制的に最適化(削除)される!?』
「ゼロ様自身のバフによって『システムへの接続権限』が極大化されているため、運営の削除コマンドからも逃げられませんね。完璧なセキュリティです」
『ば、バカな……俺が、運営のプログラムを書き換えるはずが、俺自身が「修正が必要なバグ」として……っ!? お前たち、助け――』
――ピコッ。
最後は、パソコンでファイルを削除した時のような軽い音を立てて。
ゼロのアバターは、ソースコードの海の中に跡形もなく霧散した。
『ゼロが消えたww』
『運営の修正パッチ(削除)が直撃』
『デバッグを手伝った結果、自分が「バグ」として修正される男』
『ゼロの配信画面、最後の一行が「エラー:プレイヤーは存在しません」で終わってて草』
運営からのBAN警告は消え、代わりに私のダンジョンには「公式認定・最強の聖域」という箔がついた。
「ふぅ……。ゼロ様、完璧な『コードの書き換え』と『運営との橋渡し』、誠にありがとうございました」
私は画面越しに、深く深くお辞儀をした。
もちろん、ゼロが残した「運営レベルの管理ツール」や「レアなチートコード」は、床下に仕込まれた『自動搬送コンベア』へ吸い込まれ、チャリンチャリンと私の口座(DP)へ直接変換されていく。
「おかげさまで、当ダンジョンは名実ともに、このゲームの『心臓部』となりました。いやはや、一流のハッカーは、デバッガーとしても超一流ですね」
チャリン、チャリン、チャリン!!!
莫大なDPと、運営公認という最強のバックボーン。
私はプルプルと心地よい弾力を味わいながら、宣言した。
「さて、皆様。運営問題も無事に解決し、資金も潤沢です。……次は、第20話という区切りですね。……第20区画の『神との直接交渉(開発者との面談)』にでも着手しましょうか。引き続き、当ダンジョンのエコな運営をよろしくお願いいたしますね」
今日もまた、エセルガルドの平和と、私の完璧なテラリウムは、ついに運営の喉元まで迫ったのである。




