第9話:目立ちたがり屋の剣士が来ました。無料の『超高輝度・LED電球』としてのご活躍、誠に感謝いたします
「皆様、ごきげんよう。本日は『照明設備』がいかに高コストで、経営の重荷になるかについてお話しさせてください」
私はプルプルと体を揺らしながら、画面越しに深くため息をついた。
管理モニターに映し出されているのは、『第11区画:鏡花水月の光庭』である。
……とは言っても、画面は文字通り「真っ暗」だった。
「ここは本来、美しいクリスタルの花々が咲き誇る幻想的な温室なのですが……ご覧の通り、現在は暗闇に包まれています。というのも、天井に設置していた照明器具(疑似太陽)の寿命が切れてしまったのです」
『画面真っ暗で草』
『放送事故かな?』
『主、早く電球変えろよw』
「電球と簡単に言いますがね、この広大な庭園の植物たちに『光合成』をさせるレベルの強力な魔法照明となると、システムから購入するのに数百万DPは下らないのです。そんなお金、あるわけないじゃありませんか」
『また赤字か』
『自転車操業がデフォの男』
「ああ、どこかに無料で、圧倒的な光量を発し続けてくれる、都合の良い『超高輝度LED電球』でも落ちていないものか……」
私がスライムの体をぺしゃんこにしてぼやいた、まさにその時だった。
ダンジョンの侵入者アラートが、ファンファーレのようなやたらと派手な音色を響かせた。
モニターを切り替えると、第11区画の入り口に一つの人影が現れた。
真っ暗闇の中でも分かるほど、金糸の刺繍が施されたド派手な純白の鎧。
エセルガルド・オンラインにおいて、「最も派手で、最も目立ちたがり屋」と評されるトッププレイヤー、【閃光の剣士】レイである。
『レイきたあああ!』
『エセオン一の目立ちたがり屋!』
『暗闇の中でも顔が良い!!』
『レイならこの暗くて陰湿なダンジョンを、明るく照らしてくれるはず!』
レイの配信枠は、彼のアイドルのようなルックスと派手なプレイスタイルを愛するファンたちで盛り上がっていた。
しかし、当のレイは不快そうに舌打ちをした。
『……おいおい、なんだこの真っ暗な部屋は。これじゃあ俺の美しい顔も、磨き上げられた鎧も、配信に映らないじゃないか!』
彼は剣を抜き、カメラ(リスナー)に向かって大げさなポーズを決めた。
『お前ら、俺は「影」に隠れるようなコソコソした戦い方は嫌いだ。俺はいつだって光の中央に立つ! 光がないなら、俺自身が太陽になってやるよ!』
彼にシステムからの『オーディエンス・バフ(光属性スキルの光量・効果範囲の極大アップ)』が付与される。
『見せてやるぜ! 部屋ごと闇を吹き飛ばす俺の輝きを! 《アブソリュート・シャイニング・ノヴァ(絶対なる超新星の輝き)》!!』
レイがスキルを発動した瞬間。
彼の体そのものが、文字通り「小型の太陽」のように、目を開けていられないほどの圧倒的な閃光を放ち始めた。
バフによって極大化されたその光量は、広大な第11区画を一瞬にして「真昼」のように明るく照らし出す。
『うおおおおお! 眩しい!!』
『画面が白飛びしてるww』
『さすがレイ! 物理的に世界を明るくしたぞ!!』
レイの配信枠が「圧倒的な光」に沸き立つ中。
私の配信枠もまた、狂喜乱舞に包まれていた。
「す、素晴らしい……っ!! なんという完璧な照明設備(LED電球)でしょう!!」
私はモニターの前で、喜びのあまり体をトランポリンのように跳ねさせた。
「皆様、ご覧ください! レイ様の放つ光が、庭園の隅々まで完璧に行き渡っています! 光量、色温度、演色性、すべてが植物の光合成に最適な数値です! しかも、ご自身の魔力で勝手に自家発電してくれる、超エコな優れもの……!!」
『主が大歓喜してるww』
『業者頼んだらクソ高い照明を、無給でやってくれる剣士』
『レイ、お前は太陽じゃない。ただの「電球」だ』
光に照らされ、真っ暗だった第11区画の全貌が明らかになった。
そこは、壁一面、床一面に「鏡のように磨き上げられたクリスタルの蓮」が咲き誇る、息を呑むほど美しい空間だった。
レイの光を浴びて、クリスタルの花々が一斉に蕾を開いていく。
『ふはははは! 見ろよこの光景を! 俺の輝きに当てられて、ダンジョンの花すらも俺を祝福して開花したぜ!』
レイは部屋の中央に立ち、自身が世界の中心になったかのように両手を広げて高笑いをした。
だが。
「……ふふっ」
私は、その完璧な「電球」の働きに、スライムの体を震わせて笑った。
「皆様。この庭園に咲く『鏡面蓮』という植物は、非常にエネルギー効率を重視した構造になっておりまして」
私が解説を始めたのと同時に、画面の中のレイが異変に気づいた。
『……ん? なんか、急に熱くなってこないか……?』
「この庭園全体が、実は計算し尽くされた『巨大な球状のパラボラアンテナ』のようになっているのです。鏡面蓮たちは、受け取った光のうち、光合成に必要な分だけを吸収し……残りの『余剰な光』を、エネルギーの損失を防ぐために【光源(部屋の中央)に向かって完璧に反射して送り返す】という習性を持っています」
『あっ』
『パラボラアンテナ……』
『それってつまり』
「はい。現在、レイ様がバフを乗せて放っている何万ルーメンもの超強烈な光は、部屋中の数万本のクリスタルから完璧に反射され、一点の狂いもなく『部屋の中央にいるレイ様ご自身』へと集中しております」
レイの配信画面が、異常な熱によって歪み始めた。
光は反射を繰り返すたびに収束し、虫眼鏡で太陽光を集めるかのように、恐るべき【熱エネルギー(ソーラーレーザー)】へと変貌していたのだ。
『あ、あっつぅぅぅぅぅぅ!? なんだこれ!? 光が、四方八方から俺に集まって……ぎゃああああああああっ!?!?』
レイは自身の放った光に焼かれ、純白の鎧ごとドロドロに溶解し始めた。
彼が光を強めれば強めるほど、反射して返ってくる熱線も強力になるという、完璧な自滅システム。
『自分で自分を焼いてるww』
『照明器具として酷使された挙句、ショートして焦げた電球』
『目立ちたがり屋の末路が「光の収束によるセルフ火葬」なの芸術点高すぎる』
『レイの配信画面、完全にホワイトアウト(白飛び)してて何も見えねえw』
『お前ら、助け――アギィィィィィィィッ!!!』
ピカァァァァァァァンッ!!!!
最後は、カメラのフラッシュを直視したような強烈な閃光が弾け、レイの断末魔は光の中に消えた。
彼が完全に蒸発したことで光源が失われ、庭園は再び静かな暗闇へと戻った。
だが、暗闇の中にあっても、光合成を限界まで終えたクリスタルの蓮たちは、満足そうに淡い魔力の光を帯びていた。
「ふぅ……。レイ様、完璧な『植物への光照射』、誠にありがとうございました」
私は画面越しに、深く深くお辞儀をした。
もちろん、彼が蒸発した跡に残された大量のレアアイテムや剣は、床下に仕込まれた『自動搬送コンベア』へと吸い込まれ、カラカラと私の口座へ変換されていく。
「おかげさまで、当ダンジョンの植物たちは無事に光合成を終え、素晴らしい魔力果実を実らせてくれることでしょう。いやはや、一流の目立ちたがり屋は、照明設備としても超一流ですね」
チャリン、チャリン、チャリン!!!
莫大なDPと、光合成を終えた美しい植物たち。
私はプルプルと心地よい弾力を味わいながら、宣言した。
「さて、皆様。照明問題も無事に解決し、資金も潤沢です。……次は、第12区画の『BGM(音響設備)』にでも着手しましょうか。引き続き、当ダンジョンのエコな運営をよろしくお願いいたしますね」
今日もまた、エセルガルドの平和と、私の完璧なテラリウムは保たれたのである。




