第025話 王都への道中とレベル4
約束の日から10日が経ち、ついに王都に向けて出発する日がやってきた。
この10日間は予定通りに物事が進み、特に問題が起きることは無かった……。
数日前、俺はジンとミアから呼び捨てにするように言われた。
二人とも「くん」や「ちゃん」を付けられるのは子供扱いされているようで嫌だ、とのことだった。
ギルドでは有料トイレの運用が開始され、ペットボトルの水を持つ人の姿が日常に溶け込み始めていた。
ギルドマスターは、販売品を「水」だけにした代わりに、購入制限は設けない方針を取ったようだ。
だが、乳幼児向け用品やサニタリー用品は、エレナさんたちの意向があったのか、そのまま販売されている。
一般の人を対象にしたグルーミングも開始された。
開始から数日は人数を限定していた影響で混乱がおきたが、その分、噂が広まった頃に実施した「時間内であれば人数制限なしの日」には多くの女性が詰めかけていた。
その日はチケットを譲渡しながら、片隅で洗浄屋をして、かなり稼がせて貰った。
それ以外の日の洗浄屋は、一日の売り上げが小銀貨20枚前後で安定し、最初に思ったのんびり営業となっていた。
仕立屋に頼んだ服は辺境伯様に届けられ、チェックがされるらしく、俺は完成品は見ていない。
ただ途中で仮縫いがあったが、その時に合わせた服は、俺のイメージではコスプレにしか思えなかった。
そんな10日間の出来事を思い返しながら、俺は南門の門前広場で辺境伯様一行が到着するのを待っている。
やがて大通り周辺が騒がしくなり始めた。
どうやら辺境伯様一行が近づいてきたようだ。
俺たちはこの前購入した軽自動車から降りて、辺境伯様を出迎える準備を整えた。
そう、俺は王都に移動するにあたって軽自動車を購入したのだ。
バイクとどっちにするか悩んでいたが、自然の風を受けるより、クーラーの風を受ける方が自分には合っていると思い、自動車を選択した。
コンビニの駐車場で慣らし運転や、疾風の盾のメンバーが運転練習をしていたが、世間へのお披露目はこれが初めてになる。
辺境伯様と一緒に行動すれば変な輩に絡まれないかなと思い、ここで初披露としたのだ。
辺境伯様が乗っていると思われる馬車が近づいてきた。
以前、ギルドにお忍びでやってきた時の馬車とはかなり違い、大きくて立派な四頭立ての箱馬車には、辺境伯家の紋章が描かれている。
その馬車がちょうど俺たちの近くで停車した。
俺たちは警戒をされない距離をとった位置で片膝をつき、辺境伯様が降りてくるのを待った。
馬車の扉が開く音が聞こえ、辺境伯様のものと思われる足音が静まり返った広場に響き渡る。
その足音は俺の前で止まり、辺境伯様の声が広場に響いた。
「皆、直るがいい」
その言葉を合図に、人々が立ち上がる音が広場を包み込んだ。
周囲の人々がざわめくなか、辺境伯様が俺に声をかけてきた。
「ヒュウガ、朝からご苦労だな」
「おはようございます、辺境伯様」
「……知らないものがあるが、あれはお前の乗り物ということでいいのだな?」
「はい、今回王都へと同行するにあたって購入しました」
「そうか、後で乗せてもらえるか?」
「ええ、もちろんです」
「ならばいい。ミアも今回は頼むぞ」
「はっ、はい!」
辺境伯様は満足そうに大きく頷き、次は疾風の盾の方へ視線を向けた。
「疾風の盾も、王都までの道中、あやつの護衛を頼むぞ」
「はっ、お任せください!」
カイルさんが代表して答える。
「うむ、では疾風の盾の面々は、あの後ろの馬車を使うがいい。ジンとミアはヒュウガと一緒か?」
「ええ、私と一緒にあの乗り物に乗ってついて行きます」
「わかった。では俺は他の者たちへの挨拶を済ませてくる。俺の用事が終わるまでに準備をしておくように、その後すぐに出発だ」
「はい。では失礼します」
俺は深く一礼し、自動車のところに戻って運転席に乗り込んだ。
ジンとミアも後部座席に乗り、いつでも出発できる準備は整った。
「さて、ついに出発だね。二人とも王都へ行くのは初めてだったよね?」
「ああ、そうだぞ」
「うん、たのしみ!」
「護衛の人も大勢いるし、のんびりとした旅にはなりそうだけど、途中で辺境伯様が乗ってきそうだから、その時は話し相手になってあげてね」
「ええっ!それは無理だよ」
「その時はカイルさん達と同じ馬車に乗っちゃだめなのかな……」
「はははっ、まあなるようになるさ」
そんな他愛のない会話をしているうちに、辺境伯様の挨拶周りも終わったようで、馬車に乗り込む姿が見えた。
そして辺境伯様一行の馬車がゆっくりと動き出したので、俺は馬たちを出来るだけ刺激しないように、距離をあけて最後尾をついて行く。
のろのろ運転をしていると、たまに思いっきりアクセルを踏みたくなるが、もちろん我慢する。
領都の周辺であることに加え、大所帯の移動であるからか、魔物の襲撃などのトラブルが起こることもなく、無事に最初の休憩地点に辿り着いた。
馬たちから離れた場所に車をとめ、俺は辺境伯様のところへ向かう。
俺のことは伝えられているのだろう、騎士の人に止められることなく、辺境伯様の馬車へとたどり着いた。
馬車の前に控えている従者の人に、辺境伯様に用事がある事を伝えて貰うようにお願いする。
すると、中からすぐに辺境伯様が姿を現した。
「ヒュウガ、どうした?」
「馬車と護衛の方の鎧に養生をかけるかどうかを確認しに来ました」
「養生? ああ、ガルドから聞いたな。そうだな、頼む。ダルガ」
「はっ」
あれ、辺境伯様には養生は説明はしていなかったか?
説明している気分だったけど、ガルドさんから情報を得ていたらしく、説明が省けてよかった。
俺が安堵している間に、辺境伯様と同乗していたダルガさんが姿を見せ、騎士たちの元へと向かって行った。
「騎士を全員集めよ。その間に、クロイス」
「はい」
「お前はヒュウガと共に全ての馬車をまわってこい」
「畏まりました」
クロイスと呼ばれた男性も姿を現し、俺の前に移動してきた。
「はじめまして、ヒュウガ様。私、ヴィルヘルム辺境伯家に仕えております、執事のクロイスと申します。以後、お見知りおきを」
「ご丁寧にありがとうございます。ヒュウガです、よろしくお願いします」
「それでは、馬車を順番にまわるという事でしたので、ログナー様の馬車からでよろしいですか?」
「はい、もちろんです」
俺はそう答えたのち、馬車に不具合がでないように、内外全体に耐衝撃、耐斬撃、防汚の養生をかけた。
その後、同行している他の馬車全てにも同じ養生をし、ダルガさんのところへと向かった。
そこには騎士が揃っており、一糸乱れぬ隊列で直立していた。
「ダルガさん、遅くなってすみません」
「問題ないですよ」
「えっと、みなさんへの説明は?」
「ある程度はしてあります」
「そうですか。それでは、騎士の皆さまはじめまして、ヒュウガと申します。これから皆さんの鎧部分に、衝撃と斬撃と汚れを防ぐ結界のようなものを付与します」
挨拶もそこそこに、全員の装備している鎧や靴に薄っすらと灰色の3重の結界を付与する。
「薄っすらと灰色になっている部分が結界に覆われている部分です。動きの邪魔になって外したい場合は教えてください」
騎士の人達は一通り動いて確認していたが、不具合を申し出てくる人はいなかった。
「大丈夫そうですね。それでは何かの拍子で結界が外れた場合には、付与をかけ直しますので遠慮なく仰って下さい」
俺は騎士の人達にお辞儀をし、辺境伯様の馬車へと戻った。
「辺境伯様、終わりました」
「ご苦労」
「それでは、私は自分の車に戻りますので、失礼しますね」
「待て、俺も次の休憩場所までお前の自動車とやらに乗せてもらう」
「え? 本気だったのですか……。えっと、クロイスさんやダルガさんは?」
「私もお願いします」
「俺には狭そうだからな、それにあの車は安全なんだろ? ならば今回は遠慮しておく」
「わかりました。それでは出発する頃にお越しください」
「ああ、よろしく頼む」
一礼し、軽自動車のところへ戻る。
「二人とも、次の休憩場所まで辺境伯様と執事さんが乗るそうだ。それでこの車4人乗りなんだけど、どっちか疾風の盾のところへ行ってくれないか?」
「ぼくがいくよ」
「あたしがいく!」
「……わかった、二人とも行っておいで」
二人は返事もなく、さっさと疾風の盾が乗っている馬車へと移動していった。
それだけ同乗するのが嫌、というか怖かったのかな?
休憩も終わり、再び一行は街道を進む。
約束通りに、俺の自動車には助手席に辺境伯様、後部座席に執事のクロイスさんが乗っている。
さすがに辺境伯様が乗っている車が列の最後尾は問題がある、という事で列の中央に配置された。
馬たちは戦場でも逃げないように調教されており、見知らぬ自動車程度では動じないとのことだった。
「これは揺れが少ないな」
「そうでございますね。少々狭いですが、中々に快適でございます」
「ヒュウガ、これの操縦は簡単なのか?」
「そうですね……、ハンドルを握れば操作の仕方などは理解できます。あとは動かす感覚をつかむだけなので簡単なほうかと」
「ふむ、9,990ポイントと言っていたのがこれか?」
「はい、そうです」
「クロイス、どう思う?」
「有用でしょう。馬車より安い上に、維持費もほぼかからないようですし」
「そうだな、ヒュウガ、俺にも1台購入してくれ」
「あ、はい。次の休憩の時でいいですか?」
「ああ」
「色はこれと同じ鉄のような銀色か、空のような青色か、白があったはずですが、どうしましょうか」
「白で頼む」
「はい」
その後は自動車の運転方法を説明したり、同行者がトイレとコンビニを知っているかの確認をしたりと、雑談や情報のすり合わせなどをしているうちに、次の休憩地点へと到着した。
自動車をとめ、外にでて体をほぐす。
ここでの休憩は少し長めなのでコンビニにでも行こうと思うが、先に用件を済ませておく。
「辺境伯様、休憩前に軽自動車を購入しておきますか?」
「ああ、頼む。クロイスから受け取ってくれ」
「わかりました。事前に説明しているように9,990ポイントになります」
クロイスさんから9,990ポイントを受け取る。
購入画面を開き、白の軽自動車を確認し決定する。
そして同時に、あのアナウンスが流れ、能力の説明が頭に入ってきた。
《ギフト『乗物召喚』のレベルが3から4に上昇しました》
《【フリート】の購入制限が100,000ポイントになりました》
《【マイレージ】のポイントの獲得値が 4 Pt/km になりました》
《【オプション】に〈剛柔不壊〉が追加されました》
《【メンテナンス】に〈潤滑防錆〉が追加されました》
《【ポータル】に〈オートキャンプ場〉が追加されました》
《【サービス】に〈カスタム〉が追加されました》
《【サポート】に〈商談仲介サポート〉が追加されました》
突然アナウンスがあれば、誰でもびっくりするはずだ。
なので、俺が一瞬硬直するのは仕方がないこと。
そして、その一瞬を見逃す辺境伯様ではない。
「ヒュウガ、どうかしたかな?」
含みのある笑顔を浮かべ、そんなことをたずねてくる辺境伯様。
なんか前にも似た状況になったよな……。
当然嘘を言っても見破られるので正直に答えるしかない。
「はい、新しい能力が増えました」
「それはおめでとう」
「ありがとうございます……スマートキーですが、コンビニはどちらにしますか?」
「ああ、ダルガと同じ場所にしておいてくれ」
「はい。この鍵は誰に渡しますか?」
「クロイスに頼む」
「わかりました。クロイスさんどうぞ」
俺はスマートキーⅢ③×②をクロイスさんに貸与した。
「軽自動車は召喚しておきますか?」
「ああ、そうだな、クロイス、操縦できるか?」
「理解はしましたが、練習はさせて欲しいです」
「疾風の盾のメンバーは操縦できると言っていたな?」
「はい、全員が何度か動かしていますよ」
「ならば彼らに練習に付き合って貰え。お前が練習している間に、ヒュウガから聞きたいこともあるしな」
「そうなるのですね……」
「当然だな」
「それならば、カイルさんかログさんにも聞いてもらいますね」
「それでいい」
俺は軽自動車を召喚し、辺境伯様、ダルガさん、クロイスさん、疾風の盾のメンバーを登録しておいた。
練習が終わったら登録を解除しないとな。
「では、クロイスさんとダルガさんは登録しておきました。あと疾風の盾のメンバーも、こちらは後で解除します」
「うむ、それでは行こうか」
「はい」
俺は辺境伯様と共に、カイルさんとログさん、そしてダルガさんのところへ向かい、事情を説明する。
クロイスさんの練習にはリィンさんが、子供たちはセナさんが相手をしてくれるとの事で、5人で移動することになった。
俺はワンタイムキーを召喚し、4人に渡した。
そして〈オートキャンプ場〉の入り口を開いた。
乗物召喚 Lv.4
【フリート】100,000 ポイント以下
【マイレージ】4 ポイント/キロメートル
【オプション】〈固有識別〉〈内部浄化〉〈無限供給〉〈剛柔不壊〉
【メンテナンス】〈診断記録〉〈研磨洗浄〉〈移送養生〉〈潤滑防錆〉
【ポータル】〈有料トイレ〉〈トランクルーム〉〈コンビニ〉〈キャンプ場〉
【サービス】〈リサイクル〉〈グルーミング〉〈デリバリー〉〈カスタム〉
【サポート】〈損害補償〉〈機密保持〉〈接客対応〉〈商談仲介〉




