第026話 新しい能力とミアの涙
他と同じタイプの駐車場の先、建物とその左側にゲートが見える。
オートキャンプ場なので、おそらくあそこから車で中に入るのだろう。
「まずは建物に行きましょう」
俺の提案に反対する人はいなかったので、管理棟と思われる建物に向かう。
入り口横のカードリーダーにいつものようにプレートをあてれば、このキャンプ場の利用方法の情報が流れて来た。
ここは管理棟、受付と売店とトイレ、そして温泉施設の入り口がある。
サイトは少人数、ファミリー、団体向けがあり、利用者には独立した別空間が用意される。
利用料はサイト基本使用料と利用人数で決まる。
さらに10人用のコテージを任意の数だけ追加でき、それらはサイトと同じ空間に配置される。
利用時間は15時から翌日の15時までの24時間、時間内であれば何度でも再入場は可能である。
全てのサイトには炊事場とバーベキュー用コンロ、外部電源にコインシャワーとコインランドリー、トイレやごみ箱も併設されているようだ。
移動中でも安心して休めることが目的の施設のようで、コンビニなどに比べればシンプルなものだった。
管理棟の中は正面にカウンターとその上に受付用の端末、左の壁にサイトへと移動する為の扉、右の壁には温泉へ続く通路がある。
カウンターの横には売店があり、コンビニ程ではないがインスタント食品やお酒、お菓子やアイスなどが並ぶ。
他にもキャンプ場らしく、様々な種類のバーベキューセットや、薪、少量ながらキャンプグッズなども売っていた。
ジュースやコーヒーなどは、入り口近くにある自動販売機で購入が可能で、ちょっとしたテーブルなどもある。
サイトを利用しなくても、温泉施設と売店は有料で利用することが可能だ。
温泉施設では中にある、タオルセットやボディソープなどのアメニティは全て使い放題となっている。
通常は一度の利用時間は3時間までだが、サイト利用者は翌日15時までは何度でも利用できる。
この温泉の問題は、泉質が「アルカリ性炭酸水素塩泉」であり、肌がつるつるになる美肌の湯だということだ。
アメニティや温泉の湯は持ち出し禁止であるが、この効能が世間に知られるだけで、また騒ぎになりそうだ。
管理棟にあるテーブル席に腰掛け、見てきたことを話し合う。
サイトや温泉には入ってないが、得ている情報だけで十分推測可能だ。
「辺境伯様、どうしましょうか?」
「野営時に有用な施設ではあるが、どうしても温泉の印象が強いな」
「ギルドマスターに押し付けます?」
「それもいいが、美肌の湯などという効能が広まれば、貴族のご婦人方が黙っておるまい」
「そうですね……、王都で広めることができれば、冒険者も貴族の方々も納得できますかね?」
「まあ、そうだな」
「それならば、辺境伯様が信頼できる方に王都を任せて、辺境伯様かギルドマスターに領都で広めてもらうというのはどうでしょう?」
「俺に丸投げか?……だが、分担して広めるというのは悪くないかもしれんな」
「私は会議とかは出ませんが、鍵を渡す時だけ呼んでもらえれば出向きますよ」
「おいおい、随分と正直だな」
「でも、コンビニよりは広めやすいですよ? 商品は少ないですし、温泉以外は特殊な設備はないですから。私が野営する時にも広まっていれば気軽に使えますから、ちゃんと協力はしますよ」
「そうだな、コンビニが広まる前にいくつかの商品に慣れて貰う、という意味でもいいかもしれんな」
「お酒も瓶のものはなく、ビールやハイボールなどの缶入りばかりでした。これならばウィスキーや日本酒などは交渉材料に使えますしね。まあ、醸造関係の人への影響は心配ですが、ここの商品の値段は変更可能ですから、高めにしておけば、それで棲み分けができるかなと」
「ああ、それならば影響は少なくなるだろう」
「インスタント食品や調味料は数量限定にして持ち込みを推奨し、ガス缶やホワイトガソリンなどは販売禁止ですね」
「なるほどな、そこまで具体的な話をするということは、こちらに任せることはもう決定というわけか?」
「面倒事はお任せします」
俺は大げさにお辞儀をした。
「ふっ、では検討させてもらおう」
「おねがいします」
俺はマスターキーⅳ③を召喚した。
「こちら今回の旅の間、無料でお貸ししておきます。戻っても必要な場合は、その時に再度交渉としましょう」
「ああ、借りておこう」
これで旅の間にいろいろと検証してくれるだろう。
「ところで、他の能力はどうなのだ?」
「そうですね、確認しないと分かりませんが、例の病気が治せると思います」
「なんだとっ!なぜそれを最初に言わない!?」
「いや、急ぎではないという話でしたし、ミアで確認しないとわかりませんから」
「それならば、今すぐに確認をしよう!」
「わかりました」
オートキャンプ場を出て、ミアの元に向かう。
俺たちが真剣な表情で一直線に自分の方に向かって来ているからか、ミアが驚き戸惑っている。
「な、なんですか?」
ちょっと警戒しているミアに、出来るだけ優しく語り掛ける。
「驚かせてごめんね。ちょっと診察させて欲しくて、いいかな?」
「ええ、それは大丈夫だけど……」
「それなら、ちょっと失礼するよ、手を出してくれるかい」
俺はミアの手をとり〈診断記録〉を使う。
診断結果としては、いまのところ影響はないが、ほんの少し回路にくっついた魔力があるようだ。
そして、さらに分かったことは、新しい能力で完治と言っていい状態にできる、ということだった。
「確認しました。俺の能力を超える力で解除されたらわかりませんが、永久的に魔力が詰まることがないように出来ます」
「それは治療が可能ということだな」
「ええ、そうだと思います。ミア、治療していいか?」
「も、もちろんだよ」
少し震えるミアの手をとり〈診断記録〉を使って魔力回路を把握し、新しくこびり付いていた魔力を〈研磨洗浄〉で剥がしとる。
その後、回路全体に〈潤滑防錆〉をかける。
これで二度と魔力回路が詰まる事はないだろう。
再度〈診断記録〉をかけると、異常と判断されるものはなかった。
「これで完治です」
ミアは俺の言葉を聞いた瞬間、その場にうずくまった。
今まで明るく元気な姿を見せていても、心の中には消えない不安を抱いていたのだろう。
その張りつめた緊張の糸が切れたのか、激しく泣き崩れてしまった。
「ほ、ほんとうか?」
「ああ、俺の能力が解除されない限りは、もう大丈夫だ」
再度俺からの言葉を聞いたジンは、泣き崩れているミアの隣にかがみこんだ。
そしてミア背中を包み込むように優しく抱き寄せ、堪えきれずに一緒に涙を流した。
「よかった……。ミア、よかったな……」
俺たちはそっと、二人から少し離れた場所に移動した。
あの二人のことは疾風の盾が見守っているので大丈夫だろう。
「ミアと同じ症状であれば、俺の能力が有効である限り完治となることは確認出来ました」
「ああ、そのようだ」
辺境伯様もミアの様子を見つつ、しばらくは静かにその場に佇んでいた。
ミアの様子が落ち着いた頃、再び話し合いとなった。
今回はセナさんとリィンさんとクロイスさん、子供たちも参加している。
「治療が可能になったことは吉報だったな。それで、後は教えてくれるのか?」
「ええ、では次は商談仲介サポートですね」
俺は〈商談仲介サポート〉を使用した。
召喚されたアンドロイドは商人っぽい格好をしている。
そして持っていた契約書を渡して歩いていた……。
この商談仲介サポートは商品の鑑定がメインである。
商品の使い方や、真贋、相場情報、入手経路や呪いなどがかけられているか、などを鑑定してくれる。
高額なアンティークやダンジョンのアーティファクトなど、見知らぬ貴重品を取引する際に必要なサポートである。
今の俺には縁は無いが、貴族であれば必要になることは多いと思われる。
「俺には縁がなさそうなサポートですが、辺境伯様なら必要なこともあるかもしれませんね。その時にはご用命ください」
「そうだな。必要な時にはお願いする」
「はい」
俺は返事をし、頷きながら、次に説明するカスタムチケットを召喚する。
「次はサービス関係ですね、こちらのチケットをどうぞ」
全員に4枚ずつチケットを譲渡する。
「お分かりいただけたと思いますが、いろいろなものを改造や変更してくれます」
「これもまた便利だな」
「ええ、高額ではありますが、様々な事ができるようになりますね」
カスタムで改造や変更が可能なことは多種多様である。
俺がフリートで購入した乗り物であれば、ポイントを支払うことで、様々な改造や変更ができる。
色を変更したり、車体に紋章を描いたり、ルーフキャリアーを取り付けたり、後部座席部分をフルフラットに変更したりと。
支払うポイントは改造や変更に対する難易度で決定される。
俺か紐づいたスマートキー所持者のみ、乗り物のカスタムが依頼できる。
俺の能力に関係するものも、ポイントを支払うことで改造や変更ができる。
登録方法の変更や、ポータル施設にある設備の改造・変更など。
購入した乗り物を除く、能力に関係するものの改造依頼は、俺にしかできない。
他にも普通に存在する馬車の改造や魔道具の改造、部屋の改装や水洗トイレの設置なども可能である。
これらにも難易度に応じたポイントが必要であるが、さらに材料も必要となる。
「あとは乗り物に〈剛柔不壊〉というオプションが追加されました」
「それが最後か?」
「はい、その効果を簡単に言えば、乗り物が壊れなくなりました」
「壊れない?」
「はい。ちょっと待ってください」
俺は1ポイントで購入可能なヒップソリを2つ購入した。
これはプラスチックで出来ている簡易的なソリである。
購入したヒップソリを早速召喚する。
「これはヒップソリという乗り物ですが、今回はこれが何かとかは特に気にする必要はありません」
片方のオプションを全て解除し、もう片方を〈剛柔不壊〉だけを残して解除する。
「こちらには〈剛柔不壊〉のみが付与されています。そしてもう一つのこっちは全てのオプションを解除しています。ログさん、最初に全部解除されているものを、その後に付与が残っている方を壊してみて下さい」
そう言って、全解除済みのヒップソリを渡す。
ログさんはそれを受け取り、軽く曲げると簡単に折れて壊れた。
「ほとんど力を入れとらんのに簡単に壊れたぞ」
「ええ、それではもう一つもお願いします」
ログさんがもう一つを壊そうとしても、少しも折れ曲がることはなかった。
次に叩きつけても、全ての衝撃を吸収し、当たった場所でピタリと止まった。
何度か破壊をこころみるが、ヒップソリにはかすり傷一つついていない。
「これは無理じゃ、本当に壊れんのう」
「はい、それでは今持っている方の〈剛柔不壊〉を解除しますね。そのまま壊してみて下さい」
そういわれたログさんによって、ヒップソリは簡単に粉々になった。
「確かに、能力によって壊せなかったようじゃな」
「はい。まずはその時の状況によって最適な柔軟さに変化します。強い衝撃に対しては、完全に吸収する柔らかさが最適と判断され、衝撃を与えた方、与えられた方、双方の衝撃が消え去りました。そして、必要に応じて構造を維持する硬さを持ちます。ですから折れ曲がる必要がない時、曲がってはいけない時には絶対に曲がりません。さらに、乗り物を構成する部品や内部機構、付属品の動作環境などは決して壊れない、という能力です」
「なるほどのう、つまりは?」
……俺は履いている靴を脱ぎ、再召喚して履き直す。
「えっと、例えばこの靴は能力が加わったことで、どんなに歩いても擦り減らず、最適に衝撃を吸収するために圧倒的に疲れにくくなります。布製なのに破れたり切れたりすることがなく、内部は常に浄化されるので蒸れずに快適。盗まれる心配もなければ、悪意ある干渉を全て拒絶します。自分で釘を踏んでも貫通どころか傷も付かずに、踏んだことも気づかないぐらい衝撃は吸収されます」
「欠点はないということか?」
「いいえ、外側は汚れますし、登録していない人との握手は違和感が残ります。靴だとそれぐらいですかね?」
さらに軽自動車を再召喚して近くに置く。
「この車なら、登録者以外は乗れません。外が毒霧に満たされていても、中に毒が入った瞬間に浄化されるので安全です。どこを走行してもタイヤは擦り減らず、穴が開くこともない。乗せられる重量は規定の数倍でも可能で、そして燃料もなくなりませんし、不具合によって途中で止まることもないでしょう」
「良いことずくめじゃな」
「そうですね、この4つの能力があれば、軽自動車のような中に乗り込むタイプに乗っている間は安心して旅ができますね」
「俺が買った軽自動車も同じということか?」
「はい、あちらの自動車は能力取得後なので、既に同じ状態になっています」
「なるほどな」
辺境伯様が能力に納得したところで、ログさんが話しかけてきた。
「なあヒュウガよ、儂にもその靴を頼む」
「僕達も頼むよ」
「うちも欲しいにゃ」
「恐れながら、私にもお願いできますでしょうか」
「わかりました。色は同じにしますがいいですか? あとでご自分の好きな色や、見た目などにカスタムして下さい」
全員から賛同を得たので足のサイズを確認し、ローラーシューズのブラックを7つ購入する。
そして辺境伯様とダルガさんに渡してなかった分を含めて9つのカードキーをカスタムする。
カスタム内容は、カードキーを透過した人を紐づけされている乗り物の登録者とする、というものだ。
変更費用は1つ10ポイントと安かったので助かった。
「代金は120ポイントです。辺境伯様とダルガさんの分はここに再召喚しますか? そうしないと付与ができないので」
「もちろん、お願いするよ」
辺境伯様とダルガさんが所持しているローラーシューズを送還する。
代金となるポイントを5人から受け取り、全員のローラーシューズをローラーを外した状態で、それぞれの前に召喚する。
「え、ぼくにも?」
「あたしにもいいのか?」
「ああ、ここで仲間外れにはしないよ」
二人が走り回れば、すぐにポイントは回収できるから、先行投資の意味合いもある。
そして、全員それぞれにカードキーを渡し、登録方法の説明をした。
ジンとミアに前に渡していたカードキーは回収させて貰った。
「必要に応じて登録者は増やせますが、登録解除は私にしかできないので注意して下さい」
「ああ、わかった」
「能力の説明としては以上ですかね、もし騎士や従者の方の分も必要でしたら後で教えてください」
「そうだな、その時は頼む」
「はい」
新しい靴に履き替えた疾風の盾のメンバーや子供たちを見ながら、俺は全員に〈研磨洗浄〉をかけた。
特に足元を意識して……。




