第023話 護衛依頼
辺境伯様は本当に忙しいようで、軽いやり取りの後、すぐに館へと戻っていった。
ギルドマスターも一緒に退出していったが「戻って来るから待ってろ」と言われたので、大人しく待機中である。
マルクさんも用事は終わったので帰ったが、時間に余裕があったらこの後にでもお店に来て欲しいと頼まれた。
王都に行く前にスマートキーの設定を変えたり、新しく購入したいようだ。
そして残された他のメンバーはおのおの好きなことをしている。
ログさんは冷えているうちに購入したビールとサワーを飲み切ろうとしているのか、すごい勢いで煽っている。
そしてドワーフにとってはアルコール度数が低いのか「酒精は殆どないが、変な雑味がなくのど越しがええ、水代わりに丁度いいじゃろ」とか言いいながら缶を消滅させている。
リィンさんはアイスを複数購入したために忙しそうだ。
隣で一緒にミアちゃんが、買ったアイスを食べている姿はかわいらしい。
セナさんは真剣な表情で購入した化粧品の説明を読んでいる。
その隣には、笑顔で言われた通りにセナさんの購入品の整理を請け負うカイルさんがいる。
あの二人の未来の縮図か……。
ジンくんだけはおとなしく座って周りの様子をみている。
そういえば、ジンくんは今日の依頼とか大丈夫なのだろうか?
「ねえジンくん、今日の依頼とかは大丈夫なのか?」
「兄ちゃんを呼びに行ったので結構貰えたからな!ミアも病み上がりだから丁度いいぐらいだぞ」
「そうか、それならいいんだ。なんか巻き込んだみたいでごめんね」
「問題ないぞ。それよりポイントを貯めておけっていうのはこれのことだったんだな」
「ああ、そうだね」
俺は朝ごはん用に買ったおにぎりを取り出す。
「ジンくんは朝ごはん食べたかい?もしよければおにぎり食べるか?」
「この黒と白のか? うまいのか?」
「俺にはおいしいな」
「それなら食べるぞ」
定番のシャケおにぎりを渡す。
やり方はわかるからか、ジンくんは迷いなくフィルムを剥がすことができた。
そして一口齧ると笑顔を見せた。
「なんだかわからないけどうまいな!」
「それは良かった。パンよりは腹持ちがいいと思うから、気に入ったら偶に食べてみてよ。鍵は使ったらまた渡すからさ」
ジンくんの笑顔を見ながら、俺も昆布のおにぎりを味わう。
こういう何もなく、のんびりとする時間はいいものだ。
そんな時間も終わりを告げ、ギルドマスターが戻ってきたようで扉が開いた。
そして部屋の中を見て呆れていた。
「おいおい、随分と好きにやってるな、特にログ」
「ああ、これはなかなか美味いぞ。他のも楽しみじゃ」
「感想は聞いてねえよ!まったく……」
ギルドマスターはこれ以上言っても無理と諦めたのか 、さっきまで座っていた場所に座り、改めて話を切り出した。
「少し言っておくことがあるので残って貰った。まずは疾風の盾」
「僕達ですか」
「ああ、お前たちは今は何も依頼を受けていないよな?」
「ええ、護衛依頼が終わって領都に戻ってきたばかりですから」
ギルドマスターは情報通りだったことに満足したのか、軽く頷いてから話を続けた。
「それならお前たちに辺境伯様からの依頼だ」
「辺境伯様から!?」
辺境伯様からの指名依頼か、上位冒険者はやはり違うな。
「ああ、そこのヒュウガの護衛を頼む。王都に向かう日まででもいいし、そのまま王都までついて行ってもいいそうだ」
「俺の護衛ですか!?」
「そういうことですか、ちょっと相談しますね」
「ああ、これが依頼書だ」
そういってギルドマスターは1枚の依頼書をカイルさんに渡した。
指名依頼と聞いたからか、ログさんもシラフと思える程にしっかりとした態度で相談の輪に溶け込んでいた。
いや、実際ビール数本ぐらいでは酔わないのかもしれないな……。
「次にジンとミアの兄妹だが」
兄妹に視線を向けるギルドマスター。
その視線にジンくんとミアちゃんは少しビビっているようだ。
「お前たちはヒュウガに渡されたものは好きにしていいぞ。ただし、さっき行ったコンビニの商品を人前で使う時はできるだけ誤魔化せ。食べ物とかはさっきの場所で食べるといい」
「あ、ああ、わかったよ」
「わかりました!」
「あと、お前たちは今は貧民街に住んでいるな? ミアの看病をするため、という理由で」
「ああ……そうだよ」
「ミアの病気が落ち着いた今ならギルドの宿舎に戻るか?今回は雑魚寝部屋でなく、広くはないが職員用の個室を貸してやる」
「……いくらだ?」
「無料でいい。口止め料と、今後お前たちにしか頼めないことが出てくるかもしれないから、お前たちの居場所を把握する為でもある」
「ミア、どうする?」
「借りよう!無料で個室だよ!」
「そうだね、おねがいします」
「よし、今日から使えるように伝えておくからな」
「わかった」
どうやらあの場所から移動するようだ。
ギルドの宿舎ならあそこよりはましか?
静かな場所だったから、酒場がある場所はうるさそうだけど。
「それと、辺境伯様が10日後にミアも王都に同行して欲しいそうだ。ジンも心配なら同行する許可は出ている」
「えっ、なんでだ」
「ミアの病気がほぼ治療できないことはさっきの話し合いで聞いたな?」
ジンくんは真剣な目でギルドマスターを見つめながら大きく頷く。
「ミアの病気は数年に1人発症すると言われている……」
ギルドマスターの話をまとめると、こうだ。
この病気は、スキルやギフトを得た際に魔力の質が変化することで発症すると言われている。
ミアちゃんの場合は10歳になった時がそのタイミングだったのだろう。
1年前ぐらいから微熱が続き、徐々に高熱を出すことが増えていった。
当時のジンくん達はギルドの雑魚寝部屋を使っていたが、ミアちゃんの看病をするために男女別の宿舎を出ることにした。
謎の熱を出して寝込んでいるミアちゃんを同室の人達が避けていた、というのも理由のひとつである。
とはいえ、お金に余裕はなく、病人が一緒ということで、彼らには貧民街に住み着くことしか選択肢がなかった。
その後、その症状や宿舎を出て行った経緯の話が冒険者を中心に噂となり、ミアの病名が一部の人間に特定された。
そして半年前、王都にいる方が同じ病気であることが判明、治療法を本格的に探すことになった。
辺境伯様にも連絡は届き、治療の糸口を探すことを頼まれたため、ミアちゃんの監視もするようになった。
ミアちゃんが病気に打ち勝った際、それまでの食生活や行動から治療法を見つけるためだ。
そんな最中に俺が現れ、治療に近いことをやってしまった。
だからこそ俺を早朝から呼び出し、予定を抑えて治療の依頼をしてきた。
ミアちゃんの容姿や病状などの詳細は定期的に送られている。
なので元気になったミアちゃんも王都に連れて行くことで、相手側に真実の話であることを伝えやすくする、というわけだ。
「王都に行くだけで『病気の方の場所へミアが行くことはない』とのことだ。なのでお前たちは王都観光に行くつもりで構わない」
王都に近づけば相手が勝手に確認してくるということか。
「そうなのか……。ミア、どうする?」
「貴族様の依頼は断れないよ。それに王都に行ってみたかったし、行こうじゃないか!」
「そうだな、ぼくも同行するよ」
「わかった。辺境伯様には伝えておく」
ジンくんとミアちゃんも一緒か。
知っている人が増えるのは気が楽になるな。
「ギルドマスターいいですか?」
「なんだ」
「疾風の盾はこの依頼を受けます。期間は王都に到着するまでの方で」
「そうか、わかった。後で受付で手続きをしておいてくれ」
「わかりました。そういうわけでヒュウガ、よろしくね」
「あ、はい。おねがいします」
俺はカイルさんに向けて軽く一礼をした。
知らないうちに護衛が決定していた。
まあ知らない人たちじゃないし、臨時でパーティーに加わった気分でいればいいかな。
「辺境伯様からの依頼は以上だ。あとはヒュウガ、10日後に王都に行くことになったよな。その前のどこか1日でいいからグルーミングチケットを大量に使わせてくれないか?」
「え、ええ構いませんけど」
「今朝、ほどんどのやつらがチケットを使ってきて、ギルドに問い合わせが増えている。このままお前がいなくなると鎮静化が難しくてな、頼むぞ」
「わかりました、いつでもいいですよ」
「ああ、俺からは以上だ」
ギルドマスターの話が終わったようなので、ひとつ提案をしておく。
辺境伯様にマスターキーを公開したのでいいだろ。
「ギルドマスター、俺からもひとついいですか?」
「なんだ?」
俺は『マスターキー・有料トイレ②』を召喚した。
「こちらを取り合えず受け取ってください」
「知らないタイプの鍵か」
不思議そうにしながらも、受け取ってくれた。
「ご理解いただいたと思いますが、それがあれば自動販売機の売り物を全部「水」にすることも可能になります。キッズエリアは常温の水と白湯にするなども。何も売らないことは出来ないですが。他にはギルドが依頼したパーティーにリモコンキーを渡すことなども。使いますか?」
「おいおい、これを断る理由はないだろう?いくらだ?」
「辺境伯様と同じように計算すれば300ポイントです」
「安すぎないか?」
「同じ条件にしたらそうなるのですよ」
「わかった。お前がそれでいいのならば、それで借りよう」
「ありがとうございます」
俺はギルドマスターから300ポイントを受取った。
「数か月後の予定だったのが直ぐに王都に行くことになってしまったので、お詫びを兼ねてですよ、うまく利用してください。まあ戻ってくるまでに何もしていなければ渡し損ですがね」
「ああ、助かる」
「これで俺からも以上です。これで朝の用件は終わりですか?」
「そうだな、あとは自由にしてくれ。チケットの事は今度連絡する。ああ、午後から仕立屋が来るんだったか、会議室を押さえてあるから、午後になったら使ってくれ」
「わかりました」
「それじゃあ、朝からごくろうさんだった、解散していいぞ」
そういってギルドマスターは退室していった。
「えっと、俺はマルクさんのところに行きますけど、みなさんはどうしますか?」
「ああ、護衛と言ってもヒュウガの案内と変なのが寄ってこないようにするだけだから、今日は僕とセナでついていくよ」
「儂は宿に戻って酒の確認じゃ」
まだ朝なのに、今日はずっと飲むつもりなのか……。
「甘い物を楽しむにゃ」
「それじゃあ、カイルさんとセナさんお願いします。ジンくんとミアちゃんもよければ来ない?」
「ん?そうだな」
「まあいいよ」
「ありがとう、それじゃあ行くか」
俺たちはログさんとリィンさんを置いて会議室を退出し、マルク商会へと向かうのだった。




