第022話 案内とマスターキー
全員の視線が俺に集中する。
試飲なども考えてお酒などを買ってみたが、早朝なうえ、辺境伯様が忙しそうなので直接コンビニに連れて行けばいいか。
百聞は一見に如かずだ。
「えっと、色々考えていたこともあったのですが、辺境伯様がお忙しそうなので、まずは新しい施設に行きましょう」
「そうしてくれると助かるよ」
辺境伯様の同意を得られたようなので、俺は〈ワンタイムキー〉を召喚し、全員に渡してまわる。
念のため、マルクさんにも渡しておく。
そして〈コンビニエンスストア〉の入り口を開いた。
「それでは、中に入ってください」
ダルガさんが先頭で入り、それに辺境伯様や他のみんなも慣れたように続く。
獣人兄妹も2回目ではあるが、他の人達と同様に躊躇うことなく中に入っていった。
全員が入ったのを確認し、俺も移動する。
「あの建物がコンビニエンスストア、通称コンビニです。いろいろな商品を売っている施設になります」
「ほう、楽しみだ」
「説明は難しいので、とりあえず建物まで行きましょう」
全員で移動し、コンビニの扉前に到着する。
「他の施設と同じように、扉の横の魔法陣にプレートをあてれば利用方法もわかります。中に入るだけなら無料なのでジンくんもミアちゃんもプレートをあててね」
プレートを取り出し、扉を開ける。
先に中に入って待っていると、ダルガさんと辺境伯様が入ってきた。
「ほう、これはすごいな。これだけ多くの商品があるのか」
「はい、細かく見ると時間がかかるので、軽く案内していきますね」
「ああ、頼む」
他の人達も入ってきた事を確認し、まずは設備から説明していく。
「ここで使える設備を見て、その後に商品の説明とします。まずはこのポストです。触ればわかりますが、情報伝達に役立ちます」
辺境伯様や他の人達が触れると、全員が驚きの顔になる。
「これは……」
「こんなことができるのですか……」
「おいおい、これは他のギルドとの連携が楽になるな……」
辺境伯様とマルクさん、ギルドマスターが様々な利用方法を考え始めたのだろう、唸り始めている。
「おわかりだと思いますが、これは知っている相手のみが対象です。それでも相手に伝えたいことは一瞬で送られ、相手が手にするまではずっと目の前にあるとのことなので、気づかないということもないでしょう。ただ相互に手紙をやりとりするには相手もコンビニが利用出来ないとだめですけど」
「確実に相手に届くというのは重要だな」
「そして、これは次の設備をさらに便利にするものだと考えています」
「どういうことか気になるな」
「なので、次に移動しましょう」
そう言ってイートインスペースの奥にあるコンビニロッカーの場所に移動した。
全員に触ってもらい、説明を始める。
「こちらはコンビニロッカーです。おわかりのように8日間荷物が預けられます」
「ここに預けてから移動すれば、軽装で旅ができるな」
「ええ、貴重品や破損しやすいものを預け、安心して移動が可能です。他にもこの設備の利用方法は、コンビニに来られる人に、このロッカーに入る荷物であれば送れることです」
「どういうことですか?」
「この異空間では同じ入り口から入った人としか荷物の受け渡しはできません。会話は可能なので、そこに座りながら会議などはできます」
イートインスペースの席を指さしながら説明する。
まあ、重要会議などはこんなにオープンな状態ではできないけど。
「そんな制限があったのか」
「はい。なのでこのロッカーに荷物を入れ、受け渡し証を手紙に同封し、先ほどのポストで相手に受け渡し証を送ることで、相手がロッカーからこちらの荷物を取り出すことができるようになります。これにより離れた相手にロッカーの大きさの荷物であれば送れます」
「なるほど、緊急の荷物などでも直ぐに届くわけか」
「はい。トラブルなく安全に渡せるはずです」
辺境伯様やマルクさんはいろいろな活用方法を考えているようだ。
そしてギルドマスターもずっと考え込んでいる。
「まあ、いろいろと検討が必要な設備です。活用法は後で考えて頂いて、次の設備に行きましょう」
「あ、ああ」
俺は次に、普通のコンビニにはほとんど無い、曲がり角を曲がった先にあるATM・コピー機エリアに移動する。
まずは全員にATMに触れて貰う。
「こちらはATMです。通貨を預け、引き出すことができます」
「これはギルドなどでもしていることだな」
「そうでございますね」
「このATMはお金を預ければ、ここでの支払いをポイントではなく、通貨で出来るようになることが重要です。あとはギルドがない場所でもお金が引き出せることも」
「確かにそうだな」
ここは支払いの選択肢が増える以外は既にあるシステムのようで、インパクトは薄い。
なので後ろに控えているマルチコピー機に触れて貰った。
「こちらはコピー機能しかないですが、書類や本の複製が楽になりますね。複写や複製の能力を持つ人に配慮が必要となる設備です」
「写しを作る際の書き間違いがないのか」
「ええ、文字でも絵でもそのまま同じものが作られますね」
「商品を買う施設、と言われたのに、設備だけで考えることが多いな」
「そうですね、なので秘密にしようか悩みました。辺境伯様の政治に利用するならば限定しますよ」
「よく考えさせてもらう」
「そうして下さい、それでは次にいきましょう」
「まだまだあるのだな」
「ええ、次は、トイレです。これは普通に無料で使えるトイレです」
「それだけか」
「はい、それだけです。安心ですね」
「そうだな」
「あとは簡単に商品の説明をしていきますね」
「頼む」
俺は商品の説明をしていく。
――雑誌コーナーでは、並んでいるジャンルが悪かったのか、全員があまりピンと来ていない反応だった。
――ティッシュやトイレットペーパーなどの日用品は、貴重な紙を使い捨てることに驚愕していた。
――栄養ドリンクは辺境伯様もマルクさんもギルドマスターが色めき立った、どこの世界でも仕事人間の必需品のようだ
――下着類は素材の良さもさることながら、新品の衣類の安さに全員が食いついた。
――サニタリー商品の種類が増えたことに、セナさんとリィンさんは喜びをあらわにしていた。
――ペット関連は獣人族の人達が気になっていたようだが、美味しく食べられるのか、俺としても気になる。
――化粧品はセナさんが大いに興味を持ち、妻帯者達はどう扱うべきかとても悩んでいた。
――洗面セットは全員が興味を持つ、特にシャンプーなどはリィンさんが使いたがっていた。
――文房具はレターセットの確認、ペンやノートなど、マルクさん、辺境伯様、ギルドマスターがやはり興味深々だった。
――腕時計は辺境伯様やギルドマスター、マルクさんなど時間に追われる人たちが関心を示した。
――手荷物配達用のダンボールを説明したら、手紙と同じと知り再び頭を抱えられた。
――駄菓子は味がわからないが値段が安いので、子供たちの興味は引いたようだ。
――飴やガムは甘いフレーバーに女性陣、眠気覚ましなどのクール系に男性陣が反応した。
――チョコレート菓子は、濃厚でとろける甘さ、という説明だけでリィンさんがその場から動かなくなるところだった。
――袋菓子は日持ちと味のバリエーションに全員に興味を持ってもらうことができた。
――インスタントスープやカップラーメンは手軽に食べられることに冒険者が興味を持ち、マルクさんは製法に興味を示した。
――調味料はふつうの塩でも貴重らしく、他の香辛料はそれ以上に貴重ということで、辺境伯様の悩みが増えたようだ。
――ごはん関係は主食でないからか、全員がよくわからないという反応だった。
――缶詰は数年の保存期間でさまざまな食品が保存できることに驚かれた。
――アイスにはやはりリィンさんとミアちゃんが反応をしめし、気軽に冷凍されていることに辺境伯様やマルクさんは反応した。
――冷凍食品は温めるだけで調理が完了することや、季節を無視した野菜など、再現方法を考える商売人がいた。
――パンは主食ではあるが、その種類の多さと柔らかさに全員が驚いていた。
――おつまみにはログさんやカイルさんなど男性陣が品定めをしていたが、ビーフジャーキーは誤解しそうだった。
――酒類はその数やレパートリーの多さにログさんがそのエリアから動かなくなり、全ての確認を始めていた。
――冷蔵庫のドリンク類は自動販売機以上に種類が多いうえ、全てを冷やす巨大冷蔵庫にも驚いていたようだ。
――惣菜類は様々な種類の見知らぬおかずに困惑していたので、酒のつまみになるものが多いと教えておいた。
――弁当は麺類からご飯ものまで種類が豊富な上に、そのままだったり、温めるだけでこの容器を使って食べられることに関心を持っていた。
――最近売っている少量の新鮮野菜は普通に受け入れられていた、朝市と同じようなものだからだろう。
――レジ横商品はそのまま食べるだけ、というわかりやすさがよかったようだ。
――切手や贈答品などは辺境伯様がこのまま他の貴族に使えるかなどを確認していた。
――タバコはここには吸う人がいないが、辺境伯様は知人の愛煙家に向けて、マルクさんは商品として興味を持っていた。
――電子レンジやお湯、コーヒーマシンは、商品を買ったら使える、と軽く説明しただけで終わった。
「これぐらいですかね、あとはポットの下にゴミ箱があります」
「これぐらい、で片付けられない量だったが、疲れたよ」
辺境伯様が疲れをみせた、ほぼ0からこれだけ教えられたら仕方がないか。
「私も、考えることが多すぎて……」
マルクさんは味より製法の方に興味を持ちすぎではないだろうか。
「これは公開を悩むのもわかるな」
ギルドマスターが俺の考えに理解を示してくれている。
「まあ、商品については食べたり、使ったりしないとわからない部分も多いでしょうから、とりあえず買っていきますか?」
「そうじゃな、酒を買って行かねば」
「ああ、1人カゴ2つまでですよ」
「なんじゃと!」
「いや、カゴ2つ分ってかなりの量ですよ?それに大量に持っていても、他の人に気づかれるだけです」
「まあ、そうじゃが」
「また買いにくればいいじゃないですか。辺境伯様、ここにいる人達は自分たちの分は自由に購入していいですよね?」
「ああ、それは構わない」
その言葉に、辺境伯様に対する緊張も関係なく、全員が喜びの声を上げていた。
「私からの説明は以上なので、後は自由にしてください。詳細が必要な時は聞いてください」
俺がそういうと全員がカゴを持って、各自の興味のある場所へ移動した。
ジンくんとミアちゃんの分は疾風の盾が少しだしてあげるようだ。
結構時間がかかったが、ようやく全員が笑顔で両手に袋を持ってイートインスペースに集まった。
「全員買い物は終わったようなので、会議室に戻りますか」
「そうしよう」
全員が立ち上がり、外にでる。
会議室の機密保持は解除されることなく続いていた。
「ヒュウガ、コンビニに行くためのスマートキーが欲しい」
「あ、私も欲しいです」
「ギルドとしても1つは欲しいな、個人的にも欲しいが」
「儂も全ての酒を飲むために必要じゃ」
甘味の為、化粧品の為、愛する人のため、いろいろな理由で全員が必要としていた。
「コンビニに行くための鍵を入手するならば、乗り物のお勧めは一人乗りの2,200ポイントの電動バイクです。後は安さで1,300ポイントの3WAY電動バイクとか、3人乗りの5,000ポイントのトライク、一人乗りで5,700ポイントのウインドシールド付き3輪バイク、あとは9,990ポイントの4人乗り軽自動車、とかがよさそうですね」
そういって、それぞれの画面を全員に見えるように空間投影した。
「ほう」
「あ、ちなみにコンビニ以外に有料トイレも同じスマートキーで行けますので、有料トイレで使っている鍵が必要ない場合は、回収して他の人に権利を移動させますよ。スペアキーは同じものが召喚されるので、ギルドマスターの場合は両方持っていた方がいいですが」
「ああ、そうなるのか」
子供たち以外が悩み、相談を始めたので、俺は辺境伯様にだけ違う提案をしようと考え、『マスターキー・コンビニエンスストア③』を召喚した。
「辺境伯様には、こちらの貸与を選択肢に加えていただいても」
「何だい、知らない鍵のようだが」
「はい。一瞬だけお貸ししますので、検討して下さい」
そう言って俺は辺境伯様に貸与する意思を持ってマスターキーを渡した。
そして受け取った辺境伯様が、使い方を理解したタイミングを見て、送還させて貰った。
「いかがでしょうか」
「ああ、それはいくらで借りられる?」
「相場とか分からないので、スマートキーⅢを入手する最大値の3倍、3万ポイントでは?」
「へえ、随分安いね、借りるよ」
そう言って辺境伯様は、自らのプレートを出した。
そして俺もプレートを出し3万ポイントを受け取った。
マスターキーⅲ③を再度召喚し、辺境伯様に貸与する。
「では、こちらを。その施設は自由に設定して下さい」
「そうさせてもらうが、他はどうする気なのかな?」
「販売品は同じにします。補充に関しては、私用は無制限ですが、もう一つは設定の限界である1日に1回、半分量までにしておきます」
「なるほど、公開はしないのだな?」
「ええ、辺境伯様のほうを貴族用?自派閥用?、もう一つは、同じ場所を利用させられない人が現れたらご相談下さい」
「それは助かるね」
「ここにいる人達には私用を利用して貰いますけど」
「それでいい」
「スマートキーはどうします?」
「そうだな、ダルガに制限をかけた場所のを頼めるかい? 乗り物はお勧めを預かって貰うのでいいだろう」
「わかりました」
さらに2,200ポイントを受け取り、電動バイクを購入。スマートキーⅢをコンビニ②と有料トイレ③限定としてダルガさんに貸与した。
辺境伯様に納得してもらったので、待たせている人達の意思を確認する。
「他の皆さんはどうするか決まりましたか?」
「私は安いものを預かってください」
「ギルド、というか俺としても安いのでいい」
「儂も安いのを預かっといてくれ、その分酒を買うんじゃ」
「そうにゃ、安くして甘いものを買うにゃ」
「僕たちも安いのを一つお願いするよ」
カイルさんとセナさんはスペアを使うようだ。
「わかりました」
俺はそれぞれから1,300ポイントを受け取り、同じ3WAY電動バイクを購入。
スマートキーⅢをコンビニ①と有料トイレ②限定としてから渡した。
兄妹にはトイレが無料で使えるコンビニ①のリモコンキーを渡し、有料トイレの方を放棄させた。
「これでコンビニの方はいいですかね? ギルドやマルク商会での商品の取り扱い等は辺境伯様との間でお願いします」
大きくお辞儀をして丸投げする。
「そうするよ」
苦笑いの辺境伯様の言質は取った。
後は良いようにしてくれるだろう。
コンビニ問題が一応終わったので、次はデリバリーだが、これは移動コンビニみたいなものだからすぐに終わるだろう。
「さて、残りはデリバリーチケットですが、これも辺境伯様の許可次第でいいですかね」
「そうしてくれ」
「わかりました、ここにいる人には配っても?」
「構わないよ」
許可を得たのでデリバリーチケットを召喚し、辺境伯様含めて3枚ずつになるように渡した。
必要無ければ使わなければいいのだ。
受け取った人達も、理由を理解したようだ。
「では、これで以上です」
「本当かい?」
「えっ?ええ、何かありますか?」
「いや、それならいい」
トランクルームについては牽制だけで詮索はしてこないようだ。
コンビニロッカーがあるから多少は楽になるし、しばらくは要らないだろう。
まあトランクルームを貸して、定期収入も欲しいけどね。
マスターキーⅲ③
ⅲはポータルのLv.3という意味
ⅰならば有料トイレ
ⅱならばトランクルーム
ⅲならばコンビニエンスストア
③はギフトレベルの数だけ存在する同施設のどれか
コンビニエンスストアならば
①はヒュウガの私用
②は補充が1日1回の未定用
③は辺境伯が決める貴族用
マスターキーⅲ①やⅲ②も存在する
スマートキーⅢ
Ⅲはランク3を表す。
ポータルのLv.1~Lv.3までの施設に入れる
基本、後ろの丸数字を省略している
Ⅰは100ポイント以下
Ⅱは101ポイント以上、1,000ポイント以下
Ⅲは1,001ポイント以上、10,000ポイント以下
スマートキーⅢ②×①
この表記の場合、移動先が限定されていることを表す
丸数字は左からLv.1、Lv.2、……
有料トイレは②冒険者用(予定)
トランクルームはどれも禁止
コンビニは①プライベート用
一番左が〇ならば有料トイレ全て移動可能、となる




