第016話 ギルドと相談
疾風の盾のみなさんには悪いが、合流してから休憩にすることにした。
ロビーにいるらしいので、カエラさんに案内してもらいながら向かう。
ギルドマスターは別行動で、一旦ギルドマスター室へ戻っていった。
正面からしか入ったことがないから、ここからロビーまでの行き方が曖昧なのだ。
案内について行くだけなので無事にロビーに到着し、雑談している4人を見つけたので近づき声をかける。
「こんにちは、お待たせしてしまったようで申し訳ないです」
「おう、何か大変な話し合いだったようじゃな、おつかれさん」
「ははっ、まあ疲れましたが実りのある話し合いでしたよ」
「それはなによりじゃな」
他のメンバーからは少々憐れみを帯びた視線を向けられながら、ログさんと挨拶を交わす。
話を変える意味も込めてカエラさんに話を振る。
「カエラさん、この後はギルドマスターの部屋での話し合いですか?それとも別のどこかで?」
「中会議室をおさえてありますので、そちらで話し合いをする予定です」
資料室に行く途中にあった部屋の中に、大小様々な会議室があったことを思い出す。
その中にあったかもしれない。
「それでは、そこに移動しましょうか」
「ああ、いいぞ」
「ここにいても、することなかったにゃ!」
「部屋の鍵とかはどうすればいいのですかね?」
「私が所持していますのでご安心を」
できる秘書というのは、こうなることを先読みしているのだろうか。
賛同を得たので、再度カエラさんの案内で中会議室と呼ばれる部屋に移動する。
カエラさんが鍵を取り出し、扉を開けてくれたので中へと入る。
部屋の中央には漢字の口の形にテーブルが並び、そのテーブルを囲むようにソファーがある。
ソファーは3人並んで座ってもゆとりがある程大きなもので、豪華ではないが質は良さそうだ。
上座にあるソファーは個別で座れるものが並び、恐らくギルド関係者がそこに座るのだろう。
それぞれのソファーの後ろには椅子が5脚ずつ並び、この部屋だけでも30人ぐらいは会議に参加できる広さだった。
全員が中に入るとログさんが適当なソファーに座り質問してきた。
「さて、辺境伯様が訪ねていたということは、方針は決まったということじゃな?」
「ええ、大体は決まりました。ですが、その話し合いはもうちょっと待ってください」
「ん?まだ何かあるのか?」
「いえ、すこしトイレ休憩にさせてください」
俺のその言葉にログさんは「何言ってんだこいつ」という顔をした気がする。
「まあ、ずっと話し合いをしていたようじゃしの、少しの間休憩時間とするか」
「ありがとうございます。カエラさんはどうしますか?」
「そうですね、ご一緒した後にギルドマスターを呼びに行けば丁度いいぐらいでしょうか」
そういえば昨日はカエラさんは、トイレには行っていないことを思い出す。
噂のトイレを楽しみにしていたのかもしれない。
そう思いカエラさんにワンタイムキーを渡す。
「それじゃあ、申し訳ないですがあと少し休憩という事で」
そういって全員が行ける〈有料トイレ〉の入り口を開いた。
「これがそうですか……」
カエラさんは聞いてたからか、驚きは少ないようだ。
「それじゃあ、トイレに行く人は入ってください」
そう言ったら、全員が入っていった。
ギルドの会議室で、荷物もないから人がいなくなっても大丈夫か。
休憩を始めてから20分ぐらいが経過した。
トイレから戻り、それぞれが思い思いにソファーに座り、自動販売機で購入した飲み物を飲んでいる。
カエラさんは飲み物の他にも買ったものを持ち、上機嫌でギルドマスターを呼びに行くと言って出て行った。
そして、すぐにギルドマスターとエレナさんを連れたカエラさんが戻ってきた。
「おう、寛いでいるようだな、悪いがさっそく始めるぞ」
ギルドマスターのその言葉を聞き頭を切り替える。
俺から提案できるのは2パターンになったけど、どっちになるかな。
「まずは、疾風の盾への連絡事項からだな」
「僕達にですか?」
ギルドマスターは疾風の盾の方を向いて話し始めた。
疾風の盾の方はリーダーであるカイルさんが話を進めていくようだ。
「ああ、お前たちはヒュウガから『スマートキー』と言うのを与えられているな?」
突然言われたカイルさんは、確認するかのように俺の方に顔を向けた。
俺は「話して大丈夫」という意味を込めて頷いた。
「はい、その通りです」
「お前たちが与えられたそれについては自由にして貰っていい。ただし、他の者に気づかれて、変な奴に絡まれてもギルドとしては関与はしない。まあ、お前たちが泣きついてきたら多少は助けてやるが」
「それは飲み物も込みでですか?」
「ああそうだ、それも自由にしていいぞ」
カイルさんはメンバーの顔を確認して答えた。
「わかりました。あまり大っぴらにはしないように使わせて貰います」
「そうしてくれ。ただし飲み物を他人に売る時は、今後の話し合いで決める金額に合わせてくれると助かる」
「いえ、僕らは冒険者ですからね、転売で稼ごうとはしませんよ」
「そうか、変な商人に利用されないように気を付けろよ」
「もちろんです」
疾風の盾へ伝えたいことが終わったのか、今度はこちらを向いてきた。
「それじゃあ、本題だな。ヒュウガよ昨日の話はあのまま進めるのか?」
「ええっと、昨日提案した方法でもいいのですが、今日の事があったので別の方法がいいでしょう」
「別の方法?」
「はい、それを聞いて、どっちがいいかを選んでいただければ」
「ほう、それじゃあ、説明を聞かせて貰おうか」
そう言われたので、俺はもう一つのパターン、俺の関与を減らすやり方を提案する。
「まずは、昨日説明した方法は、受付を設けて俺とあと1人の最低2人でもやれる方法でした」
「そうだな」
「これは少人数で出来る反面、俺がいないと何もできなくなります。その為、もう一つの方法は、俺がいなくても出来る事はギルドに任せる方法です」
ギルド側の面々は興味深そうに話を聞いてくれている。
「まず〈研磨洗浄〉、これは俺以外使えません。なのでこれについては俺がやるしかありません」
「そうなるな」
「珍しいがない事もないスキル、と聞きましたので、ただの洗浄屋として直接俺がやり取りをします」
「そうだな、似たようなスキルは確かにある」
「ヒュウガさんの能力はただ洗われるわけではなく、余分な汚れを全て落としていますから、効果はかなり上位ですね」
「そうですね、汚れや余分な皮脂なども取り除けます。そういえばギルドマスターとエレナさんはまだ体験していませんよね、かけていいですか?」
「はい!」
「あ、ああ頼む」
エレナさんの即答に、ギルドマスターはたじろいでいた。
そしてリィンさんとセナさん、カエラさんも便乗してきた。
「それでは、全員にかけますね」
俺は男性陣も含めて全員に対して汚れが落ちるように〈研磨洗浄〉を使用した。
「さっぱりしたにゃ!」
「これは、かなり違いを実感しますね」
「おお、確かにスッキリするな」
「これが〈研磨洗浄〉です。値段は昨日言ったぐらいでいいですよね?」
「……駄目だな。思った以上に効果が良すぎる。せめて小銀貨1枚にしてくれ、そうしないと洗濯屋や蒸し風呂屋が困るかもしれない」
「そうですね。蒸し風呂は違った楽しみがあるかもしれませんが、洗濯はかなり差別化しないとだめですね」
少し考えたギルドマスターにはっきりと駄目だしされた。
でも言われたことに納得するので、他の能力を使いながらのんびり営業、というのもいいだろう。
「わかりました。その値段にします」
「悪いな」
「いえ、値段が上がったのなら、のんびりできそうですよ」
俺は笑って答えた。
「では次に〈有料トイレ〉です。これについてはまず、エレナさんとカエラさんにこのダミーキーを」
そう言ってダミーキーを召喚して二人に渡す。
「スマートキーをギルドマスターや幹部の人が持ち、スペアキーを受付担当者に渡します。そして受付担当者は説明に納得し、手数料を支払った者にワンタイムキーを渡します。これでトイレが利用できるようになります。説明でワンタイムキーは3分後に消滅とでも言っておけば、4枚までしか召喚できなくても、4人一組にして数分おきにワンタイムキーを送還・召喚する事で、どんどん施設には入れるでしょう。施設内にいればワンタイムキーがなくても大丈夫なので、駐車場で立ち止まらない限りは平気かと。そして部屋の中など、出入口を限定する事で、飲み物に購入制限をかけるなどの処置も可能になると思います」
「なるほどな、飲み物の管理は手ぶらでトイレに行かせればさらに良さそうか」
「はい、一人が受付、一人が飲料管理、一人が休憩時の補充要員として3人ぐらい必要ですかね。中には30分しかいられないので、終了時間を予定より30分以上前にして閉め切れば中に残ることは不可能です。そして終了後はスペアキーを回収すれば勝手に使われません」
「この方法ならヒュウガがいなくてもトイレに行くことと、飲み物を買う事は可能になるんだな。管理も楽だし、これはこっちの提案がよさそうだな」
「そうですね、場所や担当者の選定、その人件費や維持費からの手数料を検討しますね」
提案は受け入れられたようだ。
これで大人数に『ワンタイムキー』を与えるとしていた昨日の案より断然楽になった。
「最後は〈グルーミング〉ですね。これは担当者としてチケットを持つ人を数人用意します。一人はチケットを最大で3枚持てますので、担当者のチケットの全てか、一部かを使用して施術するのはどうでしょうか。手数料を受け取る際に40ポイントが必要な事も含めて説明をし、了承を得たら別室かその場で施術します。予約を取るかはギルド次第ですが、俺がいない場合に補充出来なくて混乱しないようにしてください」
「担当一人3枚しか持てないならそれほど負担でもないな、限定だから特別感もある」
「はい。そしてギルドマスターやエレナさんなども別でチケットを持つ事で、もし貴族などが騒ぎ立てた時の予備になります」
「ああ、貴族っていうのはなくなったら来たりするからな」
「まあ、チケットの使用枚数や担当人数などの采配はお任せします」
「そうだな、担当の奴らが自分に使わないかが問題か」
「そうですね、これはどうやっても回数は限定なので、そういう問題はお任せします」
「とりあえずはカエラにしっかりと管理して貰うしかないか」
「わかりました、おまかせください」
それぞれの責任者が自然と決定していた。
そして追加の提案をしておく。
「それで営業時間なのですが、トイレはギルドの営業中ならいつでも良さそうですが、俺の洗浄は冒険者の仕事帰りがいいと思うので午後4時~6時頃にやろうかなと。それでグルーミングを午後3時頃~4時にして頂ければ、2時の鐘を聞いた後にチケットを渡しに来て、その後に洗浄をする、という流れでできるのですがどうでしょう?」
「悪くないんじゃないか?」
「そうですね、グルーミングは限定ならば時間はかかりませんし、その時間帯ならこちらの建物には冒険者はほぼいないです」
「そうだな、値段を決めたあと、実験的にやってみて再度調整しよう」
「わかりました」
「じゃあ、取り合えずの方針はこれで決定だな」
「はい」
ギルド側の予定も決まったようだ。
終わりかと思ったが最後にギルドマスターがお願いしてきた。
「ああヒュウガ、とりあえず俺たちが『スマートキー』を使えるようにしてもらえるか」
「そうですね、もっていればトイレの話も進みやすいですね。それで乗り物は何にしますか?」
「マルクと同じとか言ってた方法でいい」
「今ならいろいろありますよ?」
「いや、ギルドの支出はできるだけ減らしたい」
「わかりました、同じようにします」
俺はシティサイクルを3台購入し、スマートキーIIはマルクさんと同じ指定にした。
そして鍵だけ召喚して、ギルドマスター、エレナさん、カエラさんにそれぞれ渡した。
おまけでリサイクルチケットとグルーミングチケットも3枚ずつつけておいた。
「これで大丈夫ですかね」
「ああ、実物があると話し合いもしやすい」
ギルドでの商売の話はこれで一旦終わりだろう。




