第015話 サポート
終わったと思ったが、まだ話し合いは続くようだ。
だが、ここから先はだいぶ気が楽になった。
隠すかどうか、そういう事で悩む必要がなくなったからだ。
気持ちのゆとりを感じていると、辺境伯様との話の区切りを待っていたのか、ギルドマスターからも質問がきた。
「なあ、ヒュウガ、答えられるならでいいんだが……権能の7個って具体的には何なんだ?」
「権能ですか?【フリート】【マイレージ】【オプション】【ポータル】【メンテナンス】【サービス】【サポート】の7個ですね」
「それらは、どういう権能なんだ?」
俺はそれぞれの権能と能力について説明をした。
まだ誰にも説明したことがない【サポート】【マイレージ】に関してもだ。
ただし〈トランクルーム〉と【フリート】の還元能力、この2つだけは説明から省いた。
だが4つの権能は能力が2つずつなのに【ポータル】は1つしか説明していない。
察しの良いここにいる人達だ、確実に隠したことはバレているだろう。
それでも誰も何も言ってこないのは素直にありがいことだ。
説明を聞いたギルドマスターは少し考えた後、話を続けた。
「ところで〈機密保持サポート〉というのは、今は使ってないよな?今のこの状況でこそ使うべき能力だよな?」
「あ、そうですね。必要なポイントが多いので考えから外していました」
「そ、そうか……」
ギルドマスターに呆れられた気がする。
辺境伯様も声には出さないが同じ気持ちのようだ。
「まあいい、どのみちこの部屋でのやりとりが外に漏れる事はないからな。それよりも、スマートキーやチケットというのは、俺や職員にも貰うことは可能か?」
「はい、構いませんよ。何かしらの乗り物を購入して頂ければお渡しします」
「乗り物というのは、どんなものがあるんだ?」
「先ほど説明したように俺が預かってスマートキーだけを渡すならマルクさん達と同じで、選ぶのなら車いすや電動モビリティなど、今は選択肢はかなり増えていますね」
「そうか、お前が領都に近づくまで乗っていたのもそうだよな?」
「あ、そうです。よく知ってますね?」
「変わったものに乗った奴が街に向かってきている、という報告が街道を歩いていた冒険者から幾つかあがっていたし、まあ昨日ログからも聞いたしな」
その言葉に辺境伯様も頷いていた。
辺境伯様もキックボードの情報は既に掴んでいたようだ。
やっぱり貴族の情報網って凄いのだろうな。
「構造自体は単純ですからね、何か聞かれても誤魔化せると思って乗っていました」
「ただ話があがってきただけだ。別に騒動になったわけでもないから、特に気にしなくていいぞ」
「そうですか。それで何か買いますか?今挙げたものとは別の物でも大丈夫ですよ。キックボードはカードキーになりますけど」
「いや、今すぐでなくていい。確認だけしておきたかったんだ。他の奴と相談して考えをまとめたら改めてお願いする」
「わかりました、その時は気軽に声をかけてください」
そんなやり取りの後、辺境伯様からも質問が飛んできた。
「さて、俺はそろそろ戻らないといけないな。だがその前にチケットと〈損害補償サポート〉を頼んでいいか?」
「はい、わかりました」
俺はまずリサイクルチケットと、グルーミングチケットを3枚ずつ、辺境伯様とダルガさんに召喚して渡した。
「3枚ずつどうぞ。続いて〈損害補償サポ―ト〉を使いますね」
そう言って、初めての〈損害補償サポート〉を使う。
それと同時に、邪魔にならない位置の床に綺麗な光を放つ幾何学模様の魔法陣が展開された。
「えっ……」
今までと違う派手な演出に、驚きで声が出てしまった。
魔法陣からは何かが書かれた紙とペンを持った、スーツ姿の男性タイプの人型オートマタが現れた。
「へぇ、これもまた変わってるね」
辺境伯様は召喚されたオートマタよりも服装や持っているものに興味が惹かれるようだ。
オートマタは手に持っていた紙を辺境伯様に差し出した。
「これを読めということかな?」
その問いに頷くオートマタ。
ただ機械的に動いているだけではなく、最低限の受け答えはできる、話す事はできないが。
辺境伯様はオートマタから紙を受取った。
「読む必要は無かったね。この契約書に触れた瞬間に必要な事は全て理解出来た。――お試しで1年分お願いするよ」
どうやら説明とは【ポータル】と同じように、対象に触れることで一瞬で頭に入るようだ。
それにしてもお試しが1年分とは、さすが辺境伯様というところか。
辺境伯様の言葉を聞いたオートマタはスッとペンを差し出した。
そして言葉の通り、どこに何を書けばいいか分かっているのだろう、辺境伯様は悩むことなく必要な事を記入している。
「あとは、この右下にある魔法陣にプレートをあてれば契約完了だね」
言った通りに魔法陣にプレートがふれると、契約書は光に包まれて辺境伯様の体の中に吸い込まれていった。
そして、契約完了と共にオートマタの足元に再び魔法陣があらわれ、彼はお辞儀をし、輝く魔法陣と共に消えていった。
ファンタジーっぽい、結構凝った演出だった。
「これはいいね。他の者にもお願いしたいから、俺の方もまた今度頼んでいいかな?」
「はい、もちろんです」
俺の返答に笑顔になる、満足してくれたようだ。
「それじゃあ、ダルガ行こうか」
「はっ」
「あ、すみません、辺境伯様、確認したいことがあるのですが。そのローラーシューズの〈固有識別〉はそのままで大丈夫ですか?」
退出しようとしたところを慌てて呼び止める。
このままだとお二人しかローラーシューズを触る事ができない。
戻ってから使用人の人が触れなくても大丈夫なのか気になって質問したのだ。
「ああ、大丈夫だ。このままの方が説明もしやすいだろう」
辺境伯様はその辺もきちんと理解した上で何も言ってこなかったのだろう。
どうやら俺の心配は杞憂に終わったようだ。
「それでは再召喚させていただいてもいいですか?」
「なにか変わるのか?」
「えっと、新しい能力の効果で靴底が普通の使い方をしている限りすり減らなくなります」
「それならば頼む」
俺は許可を得たので二人のローラーシューズを再召喚し、それをダルガさんが拾い上げる。
電動車いすも持って大変だろうけど、こういうのは余計なことはしない方がいいのだろうか。
それよりあれを言っておかないと。
「あともう一つ、商業関係で今度お話しがしたいのですが……。勿論ギルドマスターも交えて貰って」
「重要かい?」
「ええ結構重要だと思っています。もしよければその時にマルク商会のマルクさんも同席して欲しいですが」
「そうか、それじゃあ都合をつけてガルドに連絡をするよ」
「畏まりました」
その返事を聞いて俺はデリバリーチケットを3枚召喚した。
「それでは、こちらのチケットもお持ちください」
「これは……そうだね、出来るだけ早く都合をつける」
「ご連絡お待ちしております」
「ああ、あとこれをダルガにも渡してくれるかい」
俺はダルガさんにもデリバリーチケットを召喚して渡した。
「っ……」
「お引き留めしてしまい、失礼いたしました」
「構わないさ、それじゃあガルド、またよろしく頼むよ」
「畏まりました」
ギルドマスターと共に、辺境伯様を見送るため応接室を出る。
執務室を抜け、廊下に出るとカエラさんが待機していた。
カエラさんは一礼すると、すぐさま先導するかのように、ロビーへ続く階段と違う方向の廊下を進んで行った。
辺境伯様もギルドマスターも何も言わずにカエラさんについて行く。
どうやら下手に冒険者と鉢合わせしない為の、貴族用の別ルートがあるようだ。
何も言われないので俺もついて行ったが、よかったのだろうか?
下まで降りると、どうやら専用の馬車置き場のようだった。
そこには辺境伯家のお忍び用なのか、見た目普通の馬車があり、辺境伯様とダルガさんはそれに乗り込んだ。
そして、そのまま挨拶をすることなく、馬車は裏門から去っていった。
馬車が門を出るまでお辞儀をしていた俺たちは頭を上げる。
その時、大分薄まってはいたが、今まで張りつめていた緊張感が和らいだようだ。
「ふう、慣れてはいるがやっぱり緊張するな」
「マスターもヒュウガさんもお疲れさまでした」
カエラさんから労いの言葉を頂いた。
「あ、ありがとうございます」
「お二人が辺境伯様と話し合っている間に『疾風の盾』のみなさんがきていると受付から報告がありましたよ」
「来てくれていたんですね、待たせてしまって申し訳ないです」
「そうか、それじゃあ次は例の件についての話し合いか」
「そうですね」
「……だが、少し休憩させてくれ、いろいろと考えさせられて、さすがに疲れた」
「俺も同じです」
俺たちのそんな言葉にカエラさんは呆れつつも、理解はしてくれているようだった。
【サポート】〈損害補償〉:300ポイント/30日
※1年は360日、1ヵ月は30日、1日は24時間




