ほ・こ・た・て【一本と三枚目】
冒険者ギルド直営の宿&酒場【ひな鳥】
どの村や街にもこのお店はあり違いは看板娘以外の店員と店の名前に建っている村や街の名前が追加されているぐらいである。
内装や調度品、家具の配置までまったく同じというこだわりぶりなのだ。
店の中は冒険者で埋め尽くされ会話と笑い声で溢れていた。
カウンターからさほど遠くないテーブルにクロ達の姿があった。
いつもの服に着替え美味しそうにお肉を頬張るシルファとそれを微笑ましく見ているケイン。
二人とは対照的に売り上げの入ったコイン袋を真顔で眺めつつエールを飲みながらクロは考え事をしていた。
おかしい。
この村の規模にしては冒険者の数が多すぎる…。
何かあるのか?
そんな事を考えながらカラになったジョッキを高く上げて軽く振りお代わりを注文すると、小柄で子供と見間違えそうな看板娘がテッテッテッと小走りにエールを運んでくる。
テーブルにそっとお代わりを置きカラのジョッキを受け取りながら見た目通りの可愛らしい声で話しかけてきた。
「お代わりお待たせしました。みなさんも冒険者ですか?」
フワフワとした可愛らしい笑顔で接客をする姿はかすみ草のようだ。
「まあ、そうだな。」
クロはそう言いつつテーブルに置かれたおかわりを手に取る。
「それでは盗賊退治に来られたんですね。」
「盗賊退治?」
不思議そうな顔をしているクロに看板娘も不思議そうな顔で返す。
「最近この辺りに盗賊団が出るので懸賞金を掛けて冒険者を募集してるんですけど…。ご存じじゃないんですか?」
看板娘は不思議そうな顔をしたまま小首をかしげる。
「初耳だ。」
看板娘はオーバリアクション気味に驚くとカウンター横のボードを指差した。
「あそこのボードに依頼の明細は貼ってあるので興味があったら見てくださいね。それでは失礼します。」
深々と頭を下げると看板娘は小走りにカウンターに戻っていった。
「お二人はやらないんですか盗賊退治?」
ケインがデザートのカットフルーツを食べながら訪ねる。
「マスターはやらないわよ。大体旅費を稼ぐだけなら露店だけで充分だもの。」
シルファは素っ気なく答えながら手際よく肉をカットして美味しそうに食べ続ける。
クロも飲んでいたジョッキをテーブルに置きケインの方を見た。
「それにこれだけの数の冒険者がいれば盗賊なんてあっという間に片付けてくれるさ。俺達はさっさと稼いで旅に出なきゃいけないんだろ?」
そう言いながらヤレヤレといった風のポーズをとった瞬間、入り口の扉が勢いよく開いた。
「夜襲だ!」
村の入り口近くにあった見張り小屋は炎に包まれ赤々と燃え、地面に倒れてピクリとも動かない冒険者たちを照らしだしていた。
「もう終わりか!!」
少し薄汚れた盗賊達の先頭に立つ大きな斧を担いだ頭と思われる大男が声を張り上げる。
「大人しく武器を渡してもらおうか。」
子分達が怯えた冒険者達の武器を集めに回り始める。
盗賊団の強さに戦意を消失した冒険者達は次々と武器を手放し縛られていった。。
「ちょっと通してくれ。」
村人達をかき分けて槍を持ったクロがゆっくりと盗賊達の前に姿を現す。
目立つところまで前に出ると槍を地面に立て迷惑極まりないという不機嫌顔で文句を言い始めた。
「あんた達のせいで酒場は大騒ぎだ。酒ぐらいのんびり飲ませてくれないか?」
大男はあご髭をいじりながらニヤリと笑った。
「そりゃ迷惑をかけたな。こいつらがさっさと出す物を出さねえからよ。それとも俺達を倒してのんびり酒を飲みなおすか?」
大男はガッハッハと豪快に笑ってみせる。
子分達も一緒になってクロを指差しながらゲラゲラと笑った。
クロは小さくため息を吐くと後ろを振り返りながらシルファを呼ぶ。
シルファが村人達に謝りながら人混みをかき分け前に出ると立ち尽くすクロに近づいていった。
盗賊達は舐め回すような視線をシルファに投げかけ指笛を鳴らす。
「どうしたのマスター?まさか盗賊退治をするから手伝えとか?」
盗賊達をチラ見しながらシルファはコソコソと耳打ちする。
「俺がやるわけないだろ。」
そう言うとシルファの背中を押して盗賊達の前に押し出した。
「ええっ!」
クロは踵を返すと後ろ手に手を振りながら一声かける。
「あとは任せた。」
押されてよろけたシルファはあっという間に盗賊達に取り囲まれ逃げる隙はどこにもない。
「え、えっと…。お引き取り願えませんでしょうか…。」
シルファは困った顔で交渉を開始するが、盗賊達はニヤニヤと笑うばかり。
「考えてやってもいいぜ。」
大男もそう言いながらニヤニヤと笑う。
シルファは大男をチラ見しながら考えを巡らす。
たぶん妄想の中で私あんな事やこんな事をされてるんだろうなぁ~と考えながら軽く顔をひきつらせる。
その時、背後から1人の盗賊が忍び寄り後ろから抱きつこうとするが彼女に上手くかわされ派手に転ぶ。
仲間達から指を指されゲラゲラと笑われたのに腹を立て急いで立ち上がるともう一度襲いかかる。
もうすぐで捕まえられると思った瞬間、目の前から彼女は消えてまた派手に転ぶ。
華麗なフットワークでかわし続ける彼女を見てケインは呟いた。
「凄い…。」
その横でクロは眉間にシワを寄せながらため息をつく
「あいつはいつまで遊んでるんだ。」
そうこうしているうちに襲いかかる人数が増えていき、ついに片手を握られてしまった。
「やっと捕まえたぜ。」
手を振りほどくことなく固まっている彼女を見て盗賊かニヤリと笑う。
「な…さ…や…。」
「声が出ないぐらい怖いのか?優しくしt…」
言い終わる前にシルファの拳が鼻っ柱にめり込み一瞬で崩れ落ちる。
「なに勝手に触ってやがる!このヤロウ!!」
今までとは声色がガラリと変わり盗賊に罵声を浴びせかけるシルファ。
突然の出来事に呆気に取られている別の盗賊の顔に強烈なハイキックが炸裂する。
「あたしに触れていいのはイケメンだけなんだよ!」
その一言を皮切りに次々と盗賊達が倒されていく。
それを見ていたケインが表情を強張らせたまま油の切れかけたロボットような動きでクロを見る。
「ナンデスカアレ。」
動きどころか喋りまでロボ化してしまったケインをチラ見しつつクロは返事を返す。
「シルファだ…と、こういう意味じゃないな。あれがいつもの姿だよ。」
ケインが視線を戻すとボディーブローで縮こまった盗賊の頭を掴み顔面に強烈なニーキックを決めていた。
「食事だって肉の塊にフォーク突き立て食い千切って食べるんだぜ。」
ケインの頭の中でデフォルメされたシルファが豪快に肉の塊を食べる姿がよぎる。
「だからイケメン対応が気に入らんと言っただろう?」
「ナットクデス。」
そんな話をしている間に最後の手下が倒れ盗賊団は頭のみになってしまう。
「この化物女〜!」
背中を見せているシルファに横薙ぎの大斧が襲いかかるが距離を離され大斧の一撃は虚しく空を切る。
空振りでバランスを崩し半回転した頭を背後からシルファが腰に手を回すように抱きつく。
「捕まえたw」
恐怖のあまり情けない声を出した頭の手から大斧がスッポ抜けて飛んで行く。
それと同時に頭の身体は宙を舞い、綺麗な放物線を描き豪快に地面に叩きつけられた。
そして試合終了とばかりに冒険者達が手放した武器の山が派手な音を立てて崩れさり戦いは幕引きとなった。




