ほ・こ・た・て【一本と二枚目】
スパンコール花柄刺繍が施された明るい緑色のドレスワンピースに黄色の大きなスクウェアバレッタという出で立ちにドレスアップしたシルファが露店の前で呼び込みをする。
「いらっしゃいませ~♪」
まるでミモザの花のような明るい笑顔と見た目に加えよく通る声に道を歩く男達はみな足を止める。
「良かったら見ていってくださ〜い。」
ケインも呼び込みの手伝いをする。
服は旅着のままだがイケメンなのと見た目通りの良い声で道を歩く女性達もみな足を止める。
クロは道に背を向け手際良く何かを組み立てていた。
露店用に広げられた敷物の上には穂先に螺旋状に捻れた動物の角を模した装飾が施され、口金辺りに黒いファーと紅い布が付いた2m程の大きな槍が一本とスモールシールドサイズの木製の落とし蓋が一枚置いてあるだけである。
クロが組み立て終わった看板を見物客に見えるように設置すると周りがどよめく。
【盾の魔法強化屋】
「おいおい露店で魔法強化だと?」
「どうせ偽物でしょ。」
「強化魔法を使える術者すら数少ないのに?」
周りがざわつく中クロが声を張り上げる。
「只今より実演をいたします。皆さま槍を振り回しても当たらない辺りまで下がっていただけますか。」
お客達は絶対に安全だろうという距離まで下がり怪訝そうな顔で様子を伺っている。
「魔法でどれくらい強化されるのか判らないとお買い求め頂けないのでこの落とし蓋で実演いたします。」
クロは落とし蓋を拾い上げシルファに向かってポイッと投げた。
シルファは落とし蓋を華麗に受け取るとお客に裏表を見せて軽く叩き、タネも仕掛けもない普通の落とし蓋だとアピールする。
その後ろで槍を拾い上げたクロが曲芸のように槍を振り回し始めビュンビュンと風を切る音を立てる。
アピールが終わったシルファは微笑みながらケインに向かって落とし蓋を差し出す。
訳も分からず差し出された蓋の端を掴んだ瞬間、クロが槍の最下端の石突きと呼ばれる部分で中央を貫き真っ二つにした。
シルファは半分になった落とし蓋を軽く振りながら見物客にアピールする。
「見ての通り普通の落とし蓋なので突けば壊れま~す。」
クロはシルファがアピールしている後ろで槍を使ってケインが地面に落とした方の落とし蓋を跳ね上げて片手でキャッチする。
小さく呪文を唱えると青い光が落とし蓋を優しく包み込む。
見物客の方を向いてるシルファの名前を呼ぶと落とし蓋を山なりに投げた。
シルファは振り返りながら手に持っていた落とし蓋を投げお互いの落とし蓋を交換する。
シルファは見物客の中で一番身体が大きく筋肉隆々とした禿げオヤジにそっと近付き落とし蓋を差し出す。
「実演に付き合えって事か?あんたが一晩付き合ってくれるなら考えてもいいぜ!」
禿げオヤジはそう言うと豪快に笑った。
「彼の突きをこの落とし蓋で受け止めて立っていられたらいいわよ。」
落とし蓋を押し付けるように渡すとウインクしながらセクシーにキスを投げる。
その仕草でだらしなく鼻の下を伸ばした禿げオヤジは頭を振り顔を元に戻す。
落とし蓋を片手にクロの前へ出ていき少し腰を落とし両手でしっかりと落とし蓋を構えた。
「兄ちゃん。ケガしないようにちゃんと真ん中に当ててくれよ。今夜の予定が台無しになっちまうからな。」
禿げオヤジがニヤリと笑う。
「それじゃあしっかり狙いますか。」
そう言うと槍を構え狙いを定める。
二人の中央に立ったシルファが両者をチラリチラリと見た後ゆっくりと手を上げて一気に振り下ろす。
物凄い速さで突き出された槍は落とし蓋の中心を的確に捉えた。
落とし蓋は青い光を放ち槍を受け止めるが、禿げオヤジは突きの勢いに耐えきれず軽く吹き飛ばされ尻もちをついた。
吹き飛ばされた反動で空高く舞い上がった落とし蓋が禿げオヤジの頭に命中しオチが付いたところでシルファが落とし蓋を拾い無傷なのをアピールした。
クロは槍を地面に立て見物客達に声を張る。
「本物かどうかは分かって頂けたかと思います。今から効果明細と料金の看板を組み立てますのでしばらくお待ちください。」
持っていた槍を露店に置くと腰に下げた魔法袋から部品を取り出し手際良く看板を組み立てていく。
「実演に付き合ったんだ。俺が1番でいいよな?」
大急ぎで宿から持ってきた盾を露店に置く禿げオヤジ。
「待ってるあいだ暇だしあんたの槍を見せてくれ。」
そう言いながら勝手に槍に手を伸ばし持ち上げようとするがピクリとも動かない。
怪訝そうな顔をして全力で持ち上げようとするが、やはりびくともしない。
「大人しく待っててもらえませんかね?」
語気に軽く怒りを乗せつつ額に怒りマークを浮かべ満面の笑顔を見せるクロに禿げオヤジは縮こまって大人しく露店に座ったのだった。




