ほ・こ・た・て【一本と一枚目】
空は穏やかに晴れ渡り道端には綺麗な花が咲きほこり蝶がひらひらと舞う。
そんな平和な風景とは裏腹にお腹を鳴らしながら長い棒に掴まりヨロヨロと歩く男女。
「マスタ~お腹がすきました…。」
目元に涙を浮かべ情けない声を出す女。
「俺だって腹ペコだ。」
槍に掴まりヨロヨロと歩きながら情けない声で返事を返す男。
「マスターが食料配分を失敗しなけければこんな事にならなかったのに~。」
腰まである長い茶髪を高めの位置で大きなお団子状にまとめ、銀色で棒状の笄と呼ばれる簪の一種で×の形に髪を固定した美人がブツブツと文句を言う。
「飢え死にしそうな奴に食料分けたのをまだ根に持ってるのか。」
あちこちから大きな跳ねっ毛が飛び出した黒髪の青年が嫌そうな顔をする。
「普通は自分達の食料を確保した上で余りを渡しません?」
そう言うと彼女は立ち止まり棒に体を預け肩で息をする。
棒は手を離しても倒れないのではないかと思えるほど胸の谷間深くに埋もれた。
「むこうだって今ごろ同じ状態になってるよ!」
彼女に向かって大声を出したせいで軽い目眩を起こし槍に捉まったままズルズルとその場にしゃがみこむ。
「マスター私もうダメかも…。」
歩いて行く先に目を凝らし、軽く目をこすってから再度見直す。
「幻覚が見える…イケメンが見えるよ…。」
うふふふふと心が壊れたように笑いながらその場に崩れ落ちていく。
「はぁ?何のジョークだ。」
そう言った直後に青年が走り寄ってきた。
「大丈夫ですか、救世主様!」
「はぁ?」
あからさまな不審者対応している後ろで、美女が両目をハートにしてきれいに倒れた。
それからしばらくして3人の姿は村の酒場の中にあった。
「誠に申し訳ありませんでした。」
テーブルに頭を付け平謝りをするイケメン。
「もう顔を上げてください。怒ってませんから♪名前すら分からなかったんですし仕方ないですよ♪」
ニコニコと応対する彼女とは裏腹に不機嫌そうにエールをチビチビ飲む青年。
「空腹で倒れるすんでのところを助けていただいてありがとうございます。自己紹介がまだでしたね。私の名前はシルファ。こちらがマスターのクロイツ=ハーゲン…えっと何だっけ…。」
自分のマスターの名前が思い出せないのを笑顔で誤魔化しながら肘で青年つつく。
「クロでいい…宜しく。」
素っ気ない返事を返しナッツを1つ口に放り込むと、ポリポリといい音を響かせながらジト目でイケメンとシルファを見続ける。
クロの視線にイケメンは動揺を隠せないでいた。
思いっ切り不審者扱いされている…。
なんとかしなければ!
内心焦りながらイケメンは事情を説明し始めた。
第1話 終わりの始まり
テーブルの向こうの椅子に腰掛けているクダチア村長老はゆったりとした口調で静かに喋り始めた。
「災いが起きようとしている。」
あまりの唐突な話しに一瞬驚いたが、青年は無言で小さく頷く。
「古の昔、この村ができた時から伝わるとされている予言の指輪が光を放ち始めた。」
長老は懐から小さな袋を取り出し中から指輪を取り出した。小さなルビーが埋め込まれた指輪が脈を打つように光り輝く。
「指輪は輝き厄災を告げる。輝いた指輪をはめて道を示せと唱えよ。さすれば救世主の元へ誘われるであろう。古くからの言い伝えじゃ。」
そう言って長老は指輪を青年に差し出す。
「お待ちください。長老が救世主様とお会いになった方が宜しいのではありませんか?」
長老はやれやれといった表情を浮かべ指輪を青年の手の中に押し込む。
「もう試したわ。その上でお前を呼んだのだ。お前も試してみよ。」
青年は指輪の大きさにあう指を探し始める。
程なくして左手の中指に指輪が綺麗にはまった。
ゆっくりと椅子から立ち上がり左手を握りしめ拳を前に突きだしながら言い放った。
「道を示せ!」
しかし何も起きない。
不思議に思い指輪を確認するとルビーから細い光が出ており自分の胸を赤く照らした。
「その指輪は救世主様の居場所を指し示すだけで、移動は自力なのじゃよ。」
そう言うと長老は大きくため息をつく。
「辛く長い旅になるかもしれんが、もちろん行ってくれるな。ケインよ。」
ケインは二つ返事でこの話を受けたのだった。
「ねぇマスター。困ってるみたいだし助けてあげようよ。」
話が終わる少し前に届けられたお代わりの肉料理を上品に食べていたシルファがケインに助け船を出す。
「助けないとは言ってない。」
シルファを睨み付けながらボソリと呟いた直後、テーブルにエールの入ったジョッキを乱暴に置きながら声を荒げた。
「お前のそのイケメン対応が気に入らんのだ~!」
両手をワキワキさせながら鬱憤を爆発させる。
「いや~ん。マスターがいじめる~。」
シルファは椅子から立ち上がりケインの腕にに抱きつき彼の腕を胸の谷間に埋もれさせる。
突然の出来事に顔を真っ赤にしてワタワタするケインと、頭に大量の怒りマークを出しますます怒るクロ。
「困ってるだろうが、は・な・れ・ろ~。」
必死にシルファを引き剥がそうとするがどうやっても離しそうにない。
「私は構いませんので。」
ケインの言葉で引き剥がすのを諦めたクロは仏頂面で席に戻ると、乱暴に腰掛けなおしシルファを睨み付けたが彼女は勝ったと言わんばかりの満面の笑みでクロを見たあと嬉しそうにケインの腕に顔を擦り付けている。
クロは背もたれに体を預けると天井を見上げ大きなため息をつきそのままの姿勢でケインに喋りかけた。
「で?そのわけの分からん厄災とやらを俺に何とかしろと?」
喋りながら背もたれに体重をかけ少しだけ椅子の脚を浮かせるとゆらゆらと揺らして遊ぶ。
「すみません。事情は知っているものとばかり思っていました。」
ケインは申し訳なさそうに縮こまる。
「知ってたらこんな反応はしない。」
そう言いつつ姿勢を元に戻しエールを飲み干すと空のジョッキを高く上げて軽く振りお代わりを注文する。
そしておもむろにフォークを握りしめるとシルファの肉に突き立て口に放り込む。
「私のお肉が!!」
涙目のシルファを無視してモグモグと噛み続ける。
そして運ばれてきたジョッキを受け取るとエールで肉を胃袋へ流し込んでいく。
プハーとため息をつきジョッキを置いたところで2人にむかって話し始める。
「とりあえず明日から商売をする。しばらくすれば旅費は稼げるはずだ。」
そう言うとクロは残りのエールをきれいに飲み干したのだった。




