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魔王レオンと匠。

【魔王城・玉座の間】


 カタカタカタ――


 召喚された巨大なスケルトン・リーパーは、錆びた鉄剣を持ち、骨を鳴らしながら膝まずく――。


「行けスケルトン・リーパーよ、華奈と勝負しろ――」


 レオンの命を受けた巨大なスケルトン・リーパーは、迷うことなく華奈へ襲いかかった――。


「もう、魔王様、私は見世物では無いのですよ(笑)」


 だが、華奈は剣に手をかけることすらしない。

 それどころか振り下ろされる鉄剣をヒラリと交わし、口角を上げ、軽口を叩く――。


 シュッ――。


 一瞬で姿を消した華奈は、スケルトン・リーパーの背後へ回り込む。


「ごめんなさい」


 コッ――。


 手刀が首筋へ軽く触れた瞬間、


 ガキン――


 骨格全体へ衝撃が伝わり、


 カラーン……。


 頭蓋だけが静かに床へ転がった――。


「おいおい、これは神の領域ではないか……」


 レオンは思わず頭を抱えた――。


「ですよねー」


 華奈は自覚していたのか、照れくさそうにポリポリと頭を掻く――。


「これが華奈の本来のレベルなんだ。ちなみに数値はいくつ?」


「えっと……985。ルシファー戦の後、急に上がっちゃったの」


 一度命を落としたあの日。

 華奈に眠っていた神格の力は、完全に目覚めていた――。


「……まじか。俺も油断してられないな(笑)」


 匠も慌てて自分のレベルを確認する――。


 1001


(……あれだけ戦って1かよ)


 匠は既に神レベルなので、当然レベルアップはそれ相応の努力が必要だ。


「それにしても……神のやることは雑だな……。これが華奈本来の力なのか……」


「そうだ。これが本来の力なのだよ、あのバカ――サーペントが、力の制限をかけ忘れやがった」


 レオンは深くため息をついた――。


 もはや目の前の二人は、自分が力でどうこうできる存在ではない。


 この世界で二人に敵う者など、もう誰もいなかった。


「まぁ良い。フィルモアから剣聖が居なくなった。これで均衡は保たれるか……」


 レオンが最後に気にかけたのは最強の二人ではなく、国家同士の均衡だった――。


「それは私と匠を、信用してくれると言うことでしょうかレオン様」


「フフ、何事もバランスが大事だからな」


 ウィラードが王となり、クローソーは伯爵として領地を治める道を選んだ。

 表向きには、フィルモアは剣聖という最大戦力を失ったことになる。


 レオンはその均衡まで見越した上で、二人を自由にしたのだった。


「匠、それに華奈、二人の力は強大だ。軽々しく使わないことを祈っているよ」


「うふふ、タクちゃんに纏わりつく方が居ましたら――許しませんけどね(笑)」


「!!!!!」


 華奈の笑顔が、ふとシェラへ向いた――。


「も、勿論でございますです……! わ、私は絶対に匠様へ近付きません!!」


 華奈の穏やかな笑顔とは裏腹に、その背筋は凍りついていた。


(絶対に……この二人には逆らわないようにしよう……)


 そして冷や汗混じりのハプニングが収まる。

 レオンは表情を崩して匠に向き直った。


「匠。もはや魔人族領に縛られる必要もない。お前たちは、お前たちの好きな人生を歩め」


「ありがとうレオン様。貴方のおかげで道を踏み外さずに済みました」


 初めて会った時とは違い、匠は片膝を突き頭を下げる――。

 彼の懐の深さが、自分を見失わずにここまで導いてくれたことへの感謝の表れだった。


「フッ、大人になり始めたな匠。その意気を忘れるなよ」


 あの日――。


 人質ではなく、一人の旅人として送り出してくれた意味を、匠はようやく理解していた。


 静かにレオンを見つめる。


「これからも精進してまいります――」


 人質としてではなく、一人の人間として導いてくれた男。

 その背中は最後まで、自分の遥か先を歩いていた。


「そうか……その可愛らしい華奈を幸せに導けよ」


「はい」


 匠は晴れて自由の身になり、魔人族領でのしがらみが消える。


 隣で恥ずかしそうに俯く、華奈の手を取り玉座の間を後にした――。



 ※※※※※※



【魔王城・転移魔法陣】


 魔王城を出た匠は城下町に向かい、華奈を案内して回った。

 魔族に対し忌避感が無い華奈は、若い女性魔族に自ら声をかけ、疑問点を聞き回っていた――。


「さて、フィルモア経由でバースに向かおうか」

「うん、あの国は過ごしやすくて好きなの」


 そして二人は、歩き回っている間にフィルモアでなく、新しい居住地を港町バースに決めた。

 魔人族領、フィルモアのどちらかを選ぶと、戦火の火種になりかねないのが一番の理由だった。


「……もう匠様とは会えなくなるのですか……」


「頻繁には来れないな」


「本当に……ですか」


「ああ」


 寂しそうに語るシェラ——。


 だが、匠は敢えて短く言葉を切り、あの醜態を華奈の前で晒さないように、細心の注意を払う。


「タクちゃん。さっきから気になってたんだけど、シェラさんに対しての言い方が冷たくない?」

「いや……これ、色々あってわざとなんだよ」

「あっ、ご主人様の、その遠ざける冷たさ……」


 そして、会話の中から自分を冷遇する言葉を見つけ、うっとりクネクネし始めてしまった――。


「おい、シェラ、華奈の前で変態性を発動するな!」

「そうですわね……会えなくなると思うと……つい……」


 とりあえず、言葉が強くなかったことで、変態性はなりを潜め、一安心。

 ちょっとだけ、垣間見た華奈は――。


「まぁ、この子に救われたって、なんとなく分かるなー」


「……ありがとう、シェラ。あの時は……本当に助かったよ」


「ひゃっ……」


 匠はそっとシェラを抱き寄せた。

 即座に変態性が発動するかと思いきや――。


「うひぃ……最後くらいは変態を忘れます。どうか、お元気でございます――」


 別れを済ませた匠と華奈は手を繋ぎ、光の粒子に包まれて魔人族領を後にした。

 シェラは、その姿が見えなくなる最後の瞬間まで、深々と頭を下げ続けていた――。

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