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戻った日常。

戦いの後……。

【数日後・フィルモア城】


 城壁の修復が行われ、バキ・ラカンには日常が戻りつつあった。

 しかし――。


「早くウィラードを出せ!」


 城の正門では仕立てのいい服を着た男達の怒号が鳴り響いていた。

 そいつらは、爵位を停止された貴族達。復権を望み押し寄せていたのだ。



 ※※※※※※



【元ミラードの執務室】


 国王代理を務めていたウィラードは、二人の剣聖とパパ・ヤーガの推挙を受け、正式にフィルモア国王へ即位した。

 そして今は、華奈と匠を伴い、元ミラードの執務室に入る……。


「ウィラード様、そこは私が立つ場所ですわよ(笑)」


「……」


 長年の癖で、ウィラードは帯剣していないにもかかわらず、壁際へ立ってしまう。


「……違うな」


 苦笑しながらテーブル席へ向かうものの、以前と同じ位置へ腰を下ろしかける。


「そこも違いますわ」


 ごほん――。


 匠と華奈が思わず笑いをこぼし、ウィラードは照れくさそうに咳払いをして座り直す。


「ありがとう匠殿、お手隙をお掛けします」


 ウィラードは、匠へ一度だけ視線を送った。


 匠は静かに頷く。


 王として最初に行うのは、忠臣ちゅうしん奸臣かんしんを見極めることだった。

 

「おい、アビルゲイ。姿を表せ」

「御心のままに」


 執務室の空間が音もなく裂け、漆黒の翼を持つアビルゲイが姿を現した。


「このアビーがですね、醜悪な心を――」

「イィヒヒヒ、お役に立てれば光榮なんですぅぅぅ」


 先王ミラードが残した歪んだ貴族社会を正すため、アビルゲイの能力で忠誠の真偽を見極めるのだ――。

 やる気に満ちたピエロ悪魔は匠の話をぶった切り、大ぶりな所作でウィラードに挨拶をする。


 ※※※※※


 そして、正門前にいる連中は、爵位順にこの部屋に招かれた。

 一番最初は、メアリーの実家であるスペンス辺境伯だ。


「私に忠誠を誓えるか、嘘偽り無き答えを望む」


「もちろんでございます。ウィラード新陛下」


 貴族らしく、澄ました笑顔で当たり前の様に答える。

 ウィラードの影に潜むアビルゲイが、ゆっくりと笑みを深めた。


「それでは問う。魔人との橋渡しとして外務担当になってくれるか」


 財務系と違って、外務は金には直結しない。だが、国の為には必要な要職だ。

 頼まれたスペンス辺境伯は、もみ手をし始めた。


「我らスペンス家は、喜んで魔人族との橋渡しを務めましょう!」


 これが本心なら喜ばしい事なのだが――。


「イィヒヒヒ……辺境伯、嘘はいけませんよォォォォ」


 ウィラードの背後にアビルゲイが姿を現す。


「ヒッ! 悪魔!?」


 辺境伯の顔から血の気が引いた――。


「彼は嘘を見抜く。その狼狽が、何よりの証拠だ」


「……な、何を根拠に、そんな能力あるものか!」


 否定するスペンス辺境伯に対し、ウィラードは冷ややかな視線を向ける。


「ククク……実に醜悪な心。誠に美味でございますなぁぁ」


 アビルゲイが笑いながら一歩踏み出す。


「それでは――本音を語っていただきましょう」


「や、やめろ……!」


 醜い心の内を自らの口で語らせるため、引きつる辺境伯を楽しむように、アビルゲイは自白魔法を発動させる。


 ――コンフェシオ


「さぁぁぁ、貴方の考えを述べてくださいぃぃぃ」


「……魔族など信用できない。外務など損な役職はごめんだ。財務か建設を任され、税と利権を握る方がよい」


 辺境伯は信じられない表情を浮かべながら、スラスラと腹の中を曝け出す。

 そして最後にガックリと肩を落とした――。


「メアリーの件といい、貴公にはこの国の未来を任せられん。即刻、爵位を返上せよ」


「そんな……! 我が家を見捨てるのですか!?」


 辺境伯はようやく悟った。この新たな王は、本気なのだ。

 もはや以前のように権力を盾に、言葉で丸め込める相手ではない。


「これまでの功績を鑑みて、再考を――」

「ウィラード陛下。発言をお許し下さい」


 父の話を断ち切るように背後から、一人の青年が進み出る。


「発言を許す」


 メアリーの兄でありスペンス家の家督を継ぐ長男のエドワードだ。

 胸を張り父親とは違う覚悟を持った目をしていた。


「私はスペンス家の長男エドワードと申します。僭越ながら申し上げます。父の言葉は、スペンス家すべての意思ではありません」


「ほう、詳しく聞かせて貰おうか」


 エドワードは一歩前へ進み、父ではなくウィラードを真っ直ぐ見据えた――。


「父の経営方針では、富は一部の者へ偏ります。富める者はさらに富み、貧しい者は富を得る機会すら失う。そのような国では、いずれ誰も幸せにはなれません」


 一呼吸置き、静かに続ける――。


「それに、妹メアリーの一件で私は思い知りました。差別心を抱えたままでは、魔人族と真の信頼関係を築くことは不可能です」


「私は魔人族との交易路が開かれれば、新たな産業が生まれ、人も物も集まると考えております」


 アビルゲイはニタリと口元を歪めた――。


「ウヒヒヒヒ……こちらは本物ですなぁぁ」


「さてスペンス辺境伯、家督を譲り隠居すれば、取り潰しを再考するのだが」


「エドワードに全てを譲り、私は隠居いたします――」


 これがより良き王国を作る第一歩になった。


 一部、取り潰しにはなったものの、大半の領主は家督を譲ることになる。


 そして意外なことが起きた――。


「クローソー、久しぶりだな」


「ウィラード様もお変わりなく」


 剣聖クローソーは師であったウィラードに、何ら疑う事なく忠誠を誓う。

 そして――。


「貴族ではなく、お前のような者だからこそ南の伯爵領を任せたい」


「この国を守る剣は、王ではなく民へ捧げる。それが師から教わった教えです。何ら問題ありません」


 そして、南部の取り潰しになった伯爵領を頼むと、快諾してくれたのだった。

 このクローソーの決断が、のちに魔族との和解に大きく貢献することになる。



 ※※※※※



【魔王城・玉座の間】


 フィルモア王国の改革が動き始めた頃――。


 貴族たちの処分を見届けた匠は華奈を同伴して、再び魔王城へと足を踏み入れていた。

 二人はさっそく、魔王レオンとの謁見の場へと通されることになるが――。


「匠様!その女性は!誰!ですか!(オコ)」


 案内役のシェラは、部屋へ入るなり振り向きざまに華奈へ、敵意をむき出しにした。


「華奈。こっちで世話になったシェラだ」

「匠がお世話になりました。シェラさん」

「えっ!? 匠様を呼び捨てですか!?」

「未来の夫ですので当たり前ですよ――」


 華奈は終始穏やかな笑みを浮かべたままだった。

 それなのにシェラは、言いようのない威圧感を覚え、思わず口をつぐむ。


「……そ、そうなのですね。アハハ……」


 客人を前に騒ぎを起こすわけにはいかない。

 侍女としての理性が、どうにか彼女を踏みとどまらせていた。


「あはは、痴話喧嘩になるかと思ったぞ!モテるな匠」


 今日のレオンは、凄く上機嫌に見える。

 矢張り、ルシファー消滅がそうさせているのだろう――。


「只今戻りましたレオン様」


 以前と違う魔王の雰囲気に違和感を感じた匠は、苦笑いしながら頭を下げた。


「よくぞ戻った。華奈の強さには感服したぞ。もう一度、お前の真の実力を見せてみよ」


 重厚な玉座の前に立つ華奈を見つめ、レオンは不敵に笑った。

 指を鳴らすと、漆黒の空間から巨大なスケルトン・リーパが突如現れた。

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