メアリーの呪い。
色々動きますよ〜
ツヴェルク帝国を後にしたメアリーと匠は一路、ウィシュランド魔法皇国を目指していた。その理由は、メアリーに掛けられたフィルモア領に入るとヒキガエルに変わるという呪いを解くためだ。
【ウィシュランド魔法皇国】
転移魔法陣で皇国の転移広場に二人の影が現れる。直ぐに城を訪れたが――。
「デゥエンディ陛下は旅の疲れで休養中だ。取次は当分の間なしだ」
対応した執事は即答だった。本人に確認する前の門前払いなのはありありと分かる。
実際、デゥエンディはツヴェルクの件での火消しに追われ、疲労困憊なのは事実なのだが、そんな事情を知らないメアリーはというと――。
「ツヴェルク帝国での不祥事を秘密裏に処理しましたけどー、今ここで公表します!!」
「あっ、まさか本人様でございますか!少々お待ちください(汗)」
強かなメアリーは執事を脅し……いや、交渉して、晴れて謁見が許された。
【ウィシュランド王宮・謁見の間】
「フィルモアに入るとヒキガエルに、か……。それは呪いではなく、神の力による変身の力だな。俺の魔法だけでは解除できん」
デゥエンディはあっさりと首を振った。特定の場所へ入るだけで別の生物へ変えられる魔法など存在しない。
それを可能にするのは、魔法の上位互換である「神の力」だけなのだという。
「えー、高貴な魔法士でも出来ないこともあるんですねぇぇ」
「そもそも魔法は神の力を分け与えてもらっているに過ぎん。術者はよほど信仰心が強いのだろうな」
「えぇ〜!? じゃあ、あの気持ち悪いピエロのおっちゃんに頼むしかないんですか!? それ無理ゲーですよ!」
その呪いのような枷を外す方法が、完全に閉ざされ諦め顔をする。だがデゥエンディは解決策に心当たりがあるらしく、ニタニタと嫌味な笑みを浮かべ――。
「神の力に対抗するには、触媒としての素材が必要になるなぁ。その素材さえ集めてくれば、何とかなるかもしれんなぁ~」
さすが魔法技術を極めたデゥエンディ、当初は無理だと言ったくせに、一応対処法だけは知っているらしい。
歪んだ性格に匠はジト目を浮かべる。
(こいつ強かと言うより、狡賢いな)
(このおっちゃん素直に教えそうにないくさい)
問題解決できると思ったらしくメアリーは目を輝かせる。がしかし、腹の中では、ちゃっかり対応策を練っていた。対するデゥエンディは――。
(情報料として、この小娘に口止め出来るなら安いな)
思うように事が運び、デゥエンディは値踏みするような笑みを浮かべた。
密かに互いの腹づもりが揃い。そして――。
「デゥエンディ様は、もちろんその素材を分けてくれるのですよね!」
表情から下心を読み取ったメアリーが先手を打つ。材料の一つくらいふんだくらないと、強かな彼女が納得するはずもない。
「チッ」
だが、よほどレアな素材らしく、デゥエンディは苦虫を噛み潰したような顔に直ぐなった。強かなメアリーはその程度で許すもんかの勢いで、腰に手を置きドヤ顔で詰め寄り始める。そして――。
「情報だけならなんとでも言えますからねぇぇ……それって超お高いか、入手困難なんでしょ!」
「ああもう!そうだよ、レア過ぎて持ってないわ!」
観念したデゥエンディは、呪いを解くために必要な三つの素材を吐き出した。
絶海の孤島・メドゥファル島の地に生息する『ファルム・ワイバーンの爪』。大陸西側の荒地に生息する凶悪な『グレートサラマンダーの核』。
「ファルム・ワイバーンって聞いた事ないよ、なにそれ」
「原住民がサーペントの眷属として祀るワイバーンとしか知らん」
人との接触を嫌っている為、ワイバーンの種類までは特定できていない。なので、デゥエンディでも知らないようだ。とにかく現地に赴き取って来るのが一番早いという事だけは確かだ。
「なんかめちゃトラブル臭しかしないわ……それだけでいいの?」
「ああ、これが一番大変かもな」
勿体ぶるように最後は一番入手が困難な素材の名前を口にする――。
それは『神域に住む大蛇の鱗』――。
「へーちなみに、大蛇はどこにいるんですか?」
「フィルモアのどこかにある“神域”に棲んでいるとだけ伝わっている」
「――そんなの無理じゃないですかぁぁぁっ!!」
サラリと告げられた絶望的な事実に、メアリーはその場にへたり込んで泣き出してしまった。
よりによって今一番近寄りたくないフィルモア領にその湖があるのだ。
「そもそも全てレアアイテムなんだから仕方ないだろ。四の五の言わずに頑張って集めてこい」
「めっちゃハードル高過ぎ!けど呪いが解けたら、例の件は完全に口外しませんね!」
「ほんと強かな娘だな。ああもう、その条件でいい!」
何はともあれ、素材を集めなければ話にならない。
ちゃっかり取引を成立させたメアリーは、とりあえず最も難易度の高そうな『神域の大蛇の鱗』は後回しにすることを決めた。
「それでは、お暇させていただきますわね」
別れの挨拶とともに、メアリーは優雅にカーテシーを披露する。
その瞬間、デゥエンディの視線が彼女の胸元へと落ち、一瞬だけ何か宝物を見つけたような顔をした。
「スケベ! いま谷間見てたでしょ!」
「……お前のはもうこりごりだ。さっさと行きやがれ」
デゥエンディは肩をすくめると、わずかに視線を逸らした。
(――さて、どうなることやら)
だがその言葉は、口には出されなかった。
メアリーは何も気にせず、そのまま背を向ける。
まずは、確実に入手できそうなファルム・ワイバーンの爪の捕獲を目指し、早々にウィシュランドを後にするのだった。
※※※※※
【フィルモア城・謁見室】
勇者・華奈という人類最強の力を手にしたことで、長年国のために押し殺してきた欲望は、ついに堰を切った。
苦悩に満ちていた王の面影は消え失せ、その顔に浮かぶのは、世界さえ手中に収められると信じる者の歪んだ笑みだけだった。
「ゴッドフリー司教、この前の資金は有効に使わせてもらったよ」
取引を終えたゴッドフリー司教が、再びフィルモア城を訪れる。
欲に塗れた者同士が密談を交わせば、碌でもない企みが生まれるのは世の常だ。
今回もまた、金という餌を手土産に、新たな取引を持ちかけに来たのである。
「それは何よりでございます。ルシフェリア聖教は、これからも陛下の覇業のため、惜しみなく支援いたします」
黒い法衣に身を包んだゴッドフリーは、恭しく頭を垂れた。
金を惜しまずミラードの歓心を買い、少しずつ王国中枢へ食い込む。それが彼の狙いだ。
ゴーレム建造のための莫大な資金を提供した功績もあり、ミラードはすでに教団を全面的に信用していた。
「して、本日は何用だ? 申してみよ」
ゴッドフリーは許しを得ると、一歩前へ進み、静かに口を開く。
「陛下は、魔王レオンを討ち果たし、この世界唯一の王となられるおつもりでしょうか」
「無論だ」
その即答に、ゴッドフリーは胸中で静かに笑みを浮かべた。
王の野望は、もはや誰にも止められない。そして、その強欲こそが教団にとって最も利用しやすい弱点でもあった。
「ルシフェリア聖教は、陛下の覇業のため、とある提案をお持ちしました。」
「どのような手立てで俺を喜ばせてくれるのか。遠慮なく申してみよ」
「その覇業を盤石とするため、伝説の破壊女神――マハーカーリンを現世へお招きしたく存じます。」
ミラードは目を細めた。
「……あの伝説の破壊神マハーカーリンだと?」
「ええ。数万の兵にも匹敵する災厄にございます」
司教は穏やかな笑みを崩さなかった。
だが、その言葉は半分だけ真実だった。
マハーカーリンは確かに、国を滅ぼすほどの破壊をもたらす存在である。
しかし、その本当の役目は世界征服のためではない。
莫大な殺戮によって魂を集め、封印された大悪魔ルシファー復活の礎となること――それこそが、ルシフェリア聖教の真の目的だった。
「よかろう。となれば地下の魔法陣を使いたいのだな」
「その通りでございます。召喚に先立ち、そのさらに奥深くにある洞窟を利用したく存じます」
もちろん、その真意をミラードが知る由もない。
ルシフェリア聖教が望むのは、魔王を討ったその先――大悪魔ルシファーを神として復活させ、人間すべてを支配する世界だった。
利用しているつもりのミラードこそ、司教の掌の上で踊らされていたのである。
※※※※※
【港町バース・冒険者ギルド】
「メドゥファル島には、お金を積まれても誰も行きたがらないですよ」
とりあえず冒険者ギルドで依頼を掛けようとするが、速攻で受付嬢に無理と言われる。
「とりま理由教えて」
「あのですね、あの島には……」
困惑の表情を浮かべながら受付嬢のお姉さんは教えてくれる。
「まず、この時期は嵐です!」
「次に原住民です!」
先ず嵐が多い季節であること。朝夕は暴風が巻き起こると言われ。
関わると碌なことにならい原住民がいて、これが最大の問題点だと教えてくれた。
「別に蹴散らせばいいじゃない」
「あのですね、彼らの機嫌取りのために色々あるのですよ」
引き下がらないメアリーを諦めさせようと説明をしてくれた。
上陸したあと何をするにも族長の許可が必要で、食べ物や実用品を持って行かないと話にならず。そもそもサーペントの教徒では無いと排除されると言う。
「うんうん、アングィス様の加護持ちですから大丈夫!」
「はあぁ、でしたら格安の船を売っているお店を紹介します(呆)」
「いいねいいね、それで行こう!」
匠に相談することもなく、商魂たくましいメアリーは即決した。
「おい!操船は誰がやるんだ」
「簡単らしいから匠様!お願い!その代わり推進力は私に任せなさーい」
燃料はメアリーの魔力。コンパスさえあれば二日ほどで到着できるらしい。行く気満々のメアリーに押し切られ、二人はギルドを後にした。
※※※※※
目指すのは未開の孤島・メドゥファル島。何が待ち受けるか分からない以上、軽装では心許ない。匠は防具店で革製の腕当て、ショルダーガード、胸当てを新調した。
「これなら大丈夫そうだ。それじゃ、出発しようか」
軽く腕を回し、新しい装備の感触を確かめた。
「はい! グングンスピードを出して、一気に行きましょう!」
二人は中古船へ乗り込み、メアリーは惜しみなく魔力を船へ流し込んだ――。
【大海原】
追い風とメアリーの膨大な魔力を受けた船は、海面を滑るように疾走する。本来二日かかる航路だったが、日暮れには島影が見えるほど進んでいた。
だが、夕暮れとともに天候は牙を向いた――。
。
ゴォォォォッ――!!
突如吹き荒れた暴風が海面をえぐり、巨大な波が小舟を呑み込む。
「きゃあああっ!!」
バキィィン!!
船体は一瞬で真っ二つに裂け、匠とメアリーは荒れ狂う海へ投げ出された。互いの手は離れ、そのまま別々の波へとさらわれていった――。
よろしければブクマ評価お願いします!!




