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今までのあらすじ8 51話~55話。

【第51話 華奈を陥れようとする悪意】


 決闘当日の朝、八雲華奈は部屋に用意された朝食に不穏な気配を察知する。急ぎ呼び出した毒見役の侍女は、料理を口にする前に「遅延性の痺れ薬が仕込まれている。逆らえば首にすると脅された」とあっさり白状。クライドのどこまでも卑劣な妨害工作に冷え切った怒りを燃やしながら、華奈は決闘の舞台である城前広場へと向かう。


 広場は悪意に満ちた貴族や王直轄の魔法部隊に囲まれており、完全に仕組まれた茶番劇の様相を呈していた。さらに提示されたルールは「身体強化魔法の禁止」に加え、「騎士団標準の剣(または盾)を使用する」というもの。愛用のアダマンタイト製の剣を縛られ、自身の最大の武器であるスピードを殺しに来た作戦だと華奈は見抜く。


 不利な武器での戦いを強いられる中、華奈は以前パパ・ヤーガに見せてもらった、騎士団標準品でありながら魔法の力を通せる「魔法剣」の存在を思い出す。会場でヤーガを探そうとするも、ローブ姿の観客が多く見つけられない。

 そこへ、ウィラード団長の息子であるラインハルトが駆け寄ってくる。彼は「必ず勝って私との婚約を結び、匠様を待つための時間稼ぎをしてほしい」と告げる。実は彼にも他に心から想う人(※魔王城で大暴露したメアリー)がおり、この不本意な縁談を破棄するため、互いの利害の一致から協力を申し出てくれたのだ。

「匠を待つ」という強い大義名分を得た華奈は気力を漲らせ、時間切れで試合開始の位置につく直前、ラインハルトに「パパ・ヤーガを探して魔法剣を持ってくるよう伝えて!」と起死回生の伝言を託す。


 手渡された「標準品の剣」は、事前に感知されないよう術式が直接刻み込まれた呪いの小細工が施されており、不自然に重くバランスも最悪だった。

 試合が始まると、華奈は強引に剣をねじ伏せて鋭い突きを放つが、クライドはそれを見切って大剣で激しいカウンターを繰り出してくる。リミットブレイクした実力のおかげで致命傷は避けるものの、細工された剣の重さと、度重なる打撃の衝撃キックバックにより、華奈の筋肉には確実に疲労が蓄積していく。華奈は口頭でクライドを激しく挑発し、精神的な膠着状態を作りながら、魔法剣が届くまでの時間を必死に稼ぐ。


 一方、伝言を頼まれたラインハルトは、持ち前の鋭い勘でパパ・ヤーガがVIP席にいると見抜き、ピンポイントで接触に成功。要点を絞った的確な伝言を受けたパパ・ヤーガは、華奈の苦戦の理由を即座に察知し、老体に鞭打って「魔法剣」を回収すべく必死の急ぎ足で研究所へと向かうのだった。



 ※※※※※



【第52話 華奈の逆襲が始まる時】


 通称「魔物研」こと王立魔法物理学研究所へ駆け込んだパパ・ヤーガ。誰もいない倉庫で必死に箱をひっくり返し、ついに目当ての「魔法剣」を発見する。しかし、棚から降ろす際に木箱のあまりの重さに耐えかねて強制前屈の姿勢にへし折られ、この大事な局面でまさかのぎっくり腰を発症。脂汗を流しながら床に倒れ込んでしまう。


 一方、城前広場の舞台では、呪いの剣による小細工で神速を封じられた八雲華奈が《剣聖》クライドにジリジリと追い詰められていた。満身創痍の華奈に対し、クライドはさらに仕込みの魔法士へ目配せし、卑劣な『土魔法』で足元を隆起させて体勢を崩させる。そこへ容赦ない大剣の横殴りが叩き込まれ、華奈は舞台の端まで吹き飛ばされてしまう。

 トドメを刺されかけるも、匠への強い想いで踏みとどまった華奈は、固有スキル『完全防御』を展開。時間制限付きながらもクライドの追撃をすべて完璧に弾き返し、辛うじて戦況を振り出しに戻す。勝ちを確信したクライドは、今回の婚姻の正当性を周囲の貴族へ大声で講釈し始めるが、華奈はその隙に距離を取り、内心でパパ・ヤーガの到着を必死に祈っていた。


 そこへ、ぎっくり腰の激痛に耐えながら魔法の絨毯で宙を浮くパパ・ヤーガと、ラインハルトが到着。ラインハルトの手から砲弾のように放たれた「魔法剣(グリップのみの管)」を華奈は正確にキャッチする。

 クライドが嘲笑する中、華奈が魔力を通すと超高音の駆動音と共に鮮烈な焔色の刃が伸長。驚くクライドに対し、華奈はこれが「標準品」であると言い放ち、その熱で左手の実剣を真っ赤に焼き切る。すると、実剣に密かに刻まれていた『加重付与』の呪いの術式が破壊されて乾いた音が響き渡り、パパ・ヤーガの「その術式は加重付与じゃぞ!」という大声の告発によって、クライドの卑劣な不正が衆目の前に完全暴露された。


 枷から解放され、本来の力を取り戻した華奈の逆襲が始まる。目視不可能な爆発的な踏み込み(神速)から放たれた一撃は、クライドの大剣を真っ赤に焼き凝らせる。焦ったクライドが再び裏から魔法で妨害工作を企てるも、絨毯の上のヤーガが情けない格好ながらも威厳ある口上で『アンチマジック』を発動し、完全に封殺した。

 華奈は「跪いて許しを請うか、斬られて荼毘に付されるか」と冷徹に二者択一を迫る。窮地に陥ったクライドを助けようと、国王ミラードが声を上げたその瞬間――華奈は青白い神聖魔法の帯を纏い、出雲神速剣・三の形『散切さんぎり』を一閃。

 クライドの大剣を何枚もの鉄片へと変え、そのままの勢いで彼の腕の付け根をザク切りに切り落とす。さらに命こそ奪わないものの、辛うじて繋がっているだけの絶妙な手加減でその肢体をズタズタに切り刻んだ。

 本物の《剣聖》が見せた圧倒的な神速の剣技の前に、口を挟みかけた国王ミラードを含め、異議を唱える者は誰もいなかった。クライドの身体は操り人形の糸が切れたように力なく崩れ落ち、決闘は華奈の完全勝利で幕を閉じる。



 ※※※※※



【第53話 秘策は炸裂するのか?】


 華奈が魔法剣でクライドに圧勝し、決闘は幕を閉じた。敗北した国王ミラードだったが、その余裕は崩れていなかった。彼はツヴェルク帝国に、エレキテルと魔石を動力源とする新型ゴーレム(見た目は鉄人28号風)を発注していたのだ。スピードこそ出ないものの、レベル600超えの攻撃力と圧倒的な防御力を誇るこの怪物があれば、もはや騎士など不要。ミラードは魔族を滅ぼして国財を回復すべく、近隣諸国へさらなる魔石の貢納を強硬要求する算段を立てる。


 フィルモア王国の隣国であり、エルフ主体の多民族国家「ウィシュランド魔法皇国」。国王デゥエンディは、召喚勇者である華奈が急成長してクライドを下したという報を受け、パワーバランスの崩壊を危惧する。同時に、戦力が不要になれば自分たちの戦費の取り分が減ると顔を歪める(実は守銭奴な)デゥエンディは、華奈の実力を試すべく、ミラードへ「勇者との謁見を所望する」との書簡をすぐさま認めるのだった。


 魔王城での待遇の良さに「堕落しそう」と危機感を抱いた匠は、知識をカンストさせた後、城下町の市場へ。魚の生食ができない世界の「マズ飯」を改善すべく自炊を考えていると、ストーカー気味につきまとうサキュバスの侍女シェラが食いついてくる。

 匠が厳しい言葉であしらうと、シェラは「屈辱攻め」として逆に大歓喜。とんでもない性癖の扉を開けてしまい頭を抱える匠だったが、悪夢から救ってくれた感謝を込めて不意に「健気なところは気に入っている」と褒め殺す。その完璧なアメとムチの緩急に脳内麻薬がドバドバ出たシェラは、街中で白目を剥いて痙攣し、気絶してしまう。


 同じ頃、城下町の下着店では、メアリーがアビルゲイの監視のもと、匠への「情人奉仕用」として過激なスケスケ下着や媚薬を強制的に買わされ、羞恥のどん底にいた。華奈の想いを知るがゆえに、匠にだけは「情人化命令」を知られたくなかったメアリー。しかし、店を出た先には、気絶したシェラを介抱して周囲の冷たい視線を浴びる匠の姿があった。

 すかさずアビルゲイが割り込み、「本日より貴方の情人となるメアリー嬢です」と匠にバラしてしまう。驚愕する匠だったが、それ以上に「情人」という言葉に反応して強制覚醒したシェラが、凄まじい殺気を放ちながら「この泥棒猫は殺す!」と臨戦態勢に。メアリーも「何もしていないのに2度も泥棒猫呼ばわりされる筋合いはない」とブチ切れ、バチバチの修羅場が勃発。一瞬で平穏を奪われた匠は、遠い目で天を仰ぐしかなかった。



 ※※※※※



【第54話 媚薬と眼福】


 その日の夜、出雲匠の寝室に、アビルゲイの小細工によって媚薬を盛られたメアリーが、過激なスケスケ下着姿のまま乱暴に放り込まれる。前後不覚に欲情し、熱い吐息を漏らしながらすがりついてくるメアリーに対し、治癒魔法の使えない匠は困惑。一線を超えるわけにはいかないと理性を保ち、彼女の動きを封じるためにベッドのシーツでぐるぐる巻きにする。

 それでも収まらない過敏な彼女を大人しく眠らせるため、匠は意を決してメアリーの耳たぶを優しく甘噛み。最も敏感な場所を刺激されたメアリーは、あまりの気恥ずかしさと刺激で白目を剥いて気絶し、最悪の事態はギリギリで回避された。連日のハプニングに疲れ果てた匠も、そのまま彼女の隣で深い眠りに落ちる。


 翌朝、目が覚めたメアリーは、自分が裸同然の姿で匠の隣に寝ている状況から「美味しく食べられてしまった」と絶望し、大号泣しながら匠を「鬼畜!破廉恥!」とののしる。身に覚えのない匠が困惑していると、そこへ「初夜の証」を確認しに目を血走らせたサキュバスのシェラが勢いよく突入。

 凄まじい手際でシーツを引っぺがしてベッドの上を凝視したシェラだったが、決定的な証拠(血痕など)がないのを見るや否や、「なーんだ、未遂ですのね」と一瞬で興味を失い、嵐のように去っていった。


 シェラのセリフから、自分が何もされていない(ただの勘違いだった)と気づいたメアリー。しかし、恥ずかしさのあまり真っ赤になり、勢いで匠の頬に強烈な平手打ちを食らわせてしまう。「何もしなくても私の裸体を見た責任を取れ」「夜は暗かったし見てない」という理不尽な水掛け論を経て、部屋は膠着状態に陥る。

 匠がため息交じりに「そもそもなぜ魔王城にいるんだ」と話題を切り替えると、メアリーはハッとなり、空から湖への落下、魔王城への連行、アビルゲイに脅されて「情人」の準備をさせられていた情けない経緯をポツリポツリと告白する。


「メルド村に帰りたい」と心の中の不安や悲しみをすべて吐き出し、涙を流すメアリー。本来の落ち着きを取り戻しながらも冷たい現実に泣きじゃくる彼女の姿を見て、匠はそっと優しくメアリーを抱きしめるのだった。



 ※※※※※



【第55話 旅立ちの日】


魔王城の生活に慣れてきた頃、出雲匠は侍女シェラの案内で魔王レオンに呼び出される。居場所を秘匿するための目隠しを受け入れ、転移魔法の先にある広大なレオンの「私室」へと足を踏み入れた匠。二人きりの空間で、レオンから「人間と魔人族、どちらが誠実で平和主義だと思う?」と問われ、匠は自身の経験から「魔人族の方が平和的で、人間の国王ミラードの方が血に塗れている」と答える。

その答えに満足したレオンは、衝撃の事実を告げる。「お前の能力には『鍵』が掛けられている」と。これまでの身体が追いつかない違和感の正体を悟った匠は、もし力を取り戻したら「自分を裏切り見捨てた華奈とミラードにすべての真意を問い質し、相応の処罰を下す(復讐する)」とドス黒い怒りを露わにする。レオンは、あえて華奈の真意(歪んだ愛)は伏せたまま、今の匠には世界を見て回る努力が必要だと判断する。


レオンは匠に、メアリーを連れて2人で旅に出て自分を磨いてこいと命じる。城を出られればメアリーを人間領へ帰せる好機と捉えた匠は、旅の命令を承諾。しかし、「今の君じゃ女の子ひとり守れない」と見抜くレオンから、能力の制限を10分間だけ一時的に開放できる『蘇りの指輪』を授けられる。2回目以降の発動は自身の生命(魂)を削るという危険な呪いの道具だったが、見くびった奴らの鼻を明かせるなら構わないと、匠の心には狂気に満ちた復讐心と高揚感が静かに燃え上がる。


旅立ちの直前、メアリーの表情はひどく沈んでいた。理由を尋ねると、アビルゲイから「もしフィルモア(人間領)に戻れば、その瞬間にヒキガエル(イボカエル)になる呪い」を掛けられたと泣き崩れる。さらにメアリーは裏でレオンからの書簡も渡されており、そこには「華奈の秘密を知るお前は、逃げずに旅に同行して匠の心の支えになれ。もし逃げたら(故郷の)メルド村は無くなる。完遂すれば村を攻撃する前にお触れを出す」という、確実な妥協案(脅迫)が記されていた。こうしてメアリーは、逃げずに匠を支えて旅を続けるしかなくなってしまう。


出発の間際、玉座の間で十分な路銀を受け取った匠は、レオンから「携えているその剣を見せろ」と言われる。それはフィルモアを離れる際、ウィラード団長から貰い受けた家紋入りの大切な二振りの剣だった。

刃を眺めたレオンは不敵に笑い、「お前は人望が厚いのだな」と呟くと、これから向かうドワーフの国『ツヴェルク』にいるヨハネという男にこの二振りの剣を見せてみろ、面白いことが起きる、と楽しそうな悪巧みの目を輝かせる。

そして最後に、「エルフの王、デゥエンディには――決してそのメアリーの姿を見せるなよ?」という謎めいた不穏な警告を言い残す。数々の謎と警告を胸に、匠とメアリーの二人は魔王城の重厚な門をくぐり、未知なる世界へと旅立つのだった。

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