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秘策は炸裂するのか?

 決闘は最後、魔法剣を使った華奈が圧勝で終わりを迎え、国王ミラードは意気消沈しているかと思いきや――。


【国王執務室・ミラードの執務室】


「ツヴェルク帝国にオーダーしたアレは順調に開発しているのか」


 ミラードが言うアレとは、ツヴェルク帝国に発注した決戦兵器――エレキテルと魔石を組み合わせたエネルギーを動力源とする新型ゴーレムだ。


 気になるシルエットはお世辞にもかっこ良いとは言えない。しいて言うなら鉄人28号が一番近いかも知れない。


 だが、寸胴な格好とは裏腹に単体の攻撃力だけでレベル600を優に超え、魔法耐性や防御力にいたっては、かの『剣聖』の比ではないという桁外れの怪物。但しモーターの開発に手間取り、スピードが出ないのが唯一の欠点だ。


 「はい、ミラード陛下恙なく、予定通りと先ほど連絡が来ました。それと飛空艇を先に引き渡すそうです」


「ククク、これが台頭すればレベルの低い騎士などに用は無くなる。剣の時代が終わりを迎えるのだ」


 クライドが惨敗を喫してもなお、ミラードが余裕の笑みを崩さなかったのは、すでに「剣の時代は終わった」と確信していたからに他ならない。

 しかし、膨大な魔力を貪り食うその新型ゴーレムは、維持するだけでも莫大な国家予算を消費する文字通りの金食い虫だった。


「魔族さえ滅ぼせば、すべては帳消しになる。近隣の国から資金を捻出させるのだ」


 ミラードは魔人族に打ち勝つ為に、戦々恐々とする近隣諸国に対し、さらなる魔力のもとになる魔石の献上を強硬に要求していくつもりだ。



 ※※※※※



【ウィシュランド魔法皇国・王の執務室】


 ウィシュランド魔法皇国は魔法に特化したエルフ主体の多民族国家だ。

 それを纏め上げる国王デゥエンディは野菜塗れの朝食を喰いながら密偵からの報告を聞くと、ニヤリと口角を上げていた。


「あの剣聖クライドを下すとは、ミラードはとんでもない勇者《華奈》を召喚したようだな。それに魔人族と休戦協定を維持する為に恋人を差し出すとは嘆かわしい」


 昨日行われた決闘の情報は瞬く間にウィシュランド魔法皇国に寄せられ、内容を知ったデゥエンディは、難しい顔をしつつ何か思案していた。


「ふむ、一度勇者華奈と手合わせをして実力を試さないといけませんね」


 最近フィルモアでは数十年も停滞していた召喚勇者が突如、とんでもないレベルに上がり、魔法王国としては戦力として頼られ無くなれば、戦費の取り分が減り、ハイエルフにしては珍しく守銭奴のデゥエンディは顔を歪める。


 デゥエンディはすぐさまペンを執り、ミラード宛ての書簡をしたためる。


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 フィルモア王国が誉れ高き国王ミラード陛下へ。

 此度、魔王を滅ぼし得る比類なき勇者を召喚なされたとのこと、心より慶賀の至りに存じます。

 しかしながら、突如としてもたらされた強大なる力は、諸国の戦力均衡バランスを揺るがしかねぬもの。

 つきましては、我がウィシュランド魔法皇国を代表し、このデゥエンディ自ら、その新たな勇者華奈殿との謁見を所望している次第にございます。近々、良き返報を期待しておりますぞ」

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 ※※※※※



【魔王城・城下町】


「歴史に関しては齟齬が無いな。後は種族の違いを掌握すればお終いだな」


 魔人族に対し、人質として送られた匠は、初日にレオンと謁見して以来彼からは何も連絡すらなく、フィルモアにいた頃と同じように図書館へ日参し、世界の勉強に励む平穏な日々を送っていた。

 秀才の彼は数日でほぼ魔人族の歴史や種族の違いなど、知識をほぼカンストさせている。


(んー、このままでは堕落しそうだな。何か俺に出来ることは無いかな……)


 あまりの待遇の良さに一抹の不安を覚えた匠は、自分にできることはないかと城下町へと繰り出しつつ、一つだけある不満を解消しようと市場に出向き、並ぶ食材を見て回る。

 鮮度に関しては魔法技術が発展しているお陰で何ら問題は無い。ただ一つ確実だったのは、この世界の魚の生食は危険極まりないという事だ。加熱しなければ毒素が抜けず、魔法での処理も出来ない。


 ――刺身が食べたい。


 異世界に来て募るその切実な願いも、この点に関しては諦めるしか無かった。本題はこれではない――。


「……ここの飯はマズいからなぁ。いっそ自分で作るか……」


「男子が料理するなんて……! もしかして、私にお預けプレイをするおつもりですか、匠様ぁぁぁ!」


「…………」


 マズ飯を改善したい匠の傍らに立つのは、起きた瞬間から付き纏っているサキュバス侍女のシェラだ。

 新たに目覚めてしまった『屈辱攻め』という変態性を覚醒させないよう、匠は「おはよう」「図書館にいく」「市場をみてまわる」など、短い言葉だけで徹底的にあしらっていた。しかし、ふと口を突いて出た呟きに、彼女はガッツリと食いついてきてしまった。


 やってしまった、と匠は頭を抱える――。

 だがそんなお構いなしに、完全にメロメロになったシェラは、妖美な表情でうっとりと妄想を膨らませ始めていた。


「はぁはぁ、ああんタクミ様……。どこへでも、このシェラがお供いたしますわ。タクミ様の歩かれた足跡すら愛おしい……」

「うるさい、一歩後ろを歩け。あと息を荒くするな、ウザい」


 忠犬どころかストーカーじみた距離感に苛立ち、匠がキッツい言葉で断罪する。並の人間なら凹むところだが、シェラは違った。というか餌を撒いてしまっていた――。


「はぅ!ああいいぃぃ『ウザい』……いただきました! その蔑むような冷たい目、身体がゾクゾクいたします……!」

「なんなんだお前はいったい……」

「もう、ご奉仕がお仕事なんですよぉぉ、逆にご奉仕して貰って嬉しいです♥」

 

 屈辱攻めは匠が新たに開いた新境地だ。厳しい言葉の刃を語れば語るほどシェラは喜ぶ。とんでもない性癖の扉を開けてしまい頭を抱える匠。

 しかし、闇落ち仕掛けた自分を救ってくれた彼女への感謝は忘れてはならないだろう。


「……はぁビッチだけど。まあ、その優しい性格は嫌いじゃないし、お前のそういう健気なところは、割と気に入っているよ」

「えっ!!」


 冷徹な侮蔑(屈辱責め)からの、不意打ちの称賛(褒め殺し)。

 その完璧すぎる緩急のついた攻撃(?)に、シェラの脳内麻薬が過剰に分泌される。もうそうなれば、絶頂を迎えるのは当然の成り行き――。


「あ、圧倒的ご褒美……! タクミ様、あ、頭が、とろけちゃ、う……っ!あ゛!?」

「おい、しっかりしろシェラ!? 街中で気絶するな!」


 感極まったシェラは、文字通り白目を剥いてその場にバタリと倒れ込み、ビクンビクンと痙攣し始めてしまった。



 ※※※※※



【魔王城下町・高級下着店】


「もうもう、こんな過激な下着を穿くなんて――いやぁぁぁん!」


 同じ頃、城下町の高級下着店ではメアリーが羞恥心で顔を真っ赤に染めていた。

 匠に引き合わされる事前準備として、監視役のアビルゲイによる強制的な買い物をさせられていたのだ。いま彼女が手に取っているのは、ガーターベルト付きの超スケベなスケスケレースの過激な下着だった。


「匠様にご奉仕するのですよ、先ずは形から入らないといけません。貴女が生き残る道はそれしか無いのですよ、メアリー嬢!」


「な、なんで私が、匠様の前でこんな破廉恥なものを……っ! ああんもう、こんな所で操を散らしたくなぁぁぁい!」


 北の果てから人間領に戻る為に魔王城に来てはみたものの、逃亡は阻止され、挙句の果てに「匠の情人になれ」という魔王からの過酷な命令。それはメアリーにとって、まさに青天の霹靂の想いだった。

 九死に一生を得る為に命令を受け入れ、チャンスを狙うという考えも一瞬頭を過ったが、華奈の想いを知るメアリーは、それを思うと頭の中がぐちゃぐちゃになり始めていた。


「さあ、会計は済みました。次は薬屋で媚薬の購入ですよ。もちろんウヒィィ! メアリー嬢が燃え上がる為ですけどネェェ!」


「いやー! ハイになる薬とか本当にいらないですからね?犯罪ですよぉ、 駄目絶対よぉぉぉ!」


 メアリーの想いなど切って捨てるアビルゲイは、揺れ動く心が御馳走になり、甘美な褒美に目を細める。否応なしに準備が進んでいくこの状況から逃れたいメアリーは、急ぎ足で店外へと出る。だがそこには――。


「匠さまぁぁぁ、優しすぎてまた逝きそうですぅぅぅ!」


「え゛っ――匠さまぁぁぁ!破廉恥を通り越して、公然わいせつ罪ですよぉぉぉ!」


 そこには、アへ顔でぶっ倒れ介抱されつつ、再度絶頂を迎えようとする痙攣する変態と、赤面しつつ周囲から冷たい視線を浴びる匠の姿があった。それを見たメアリーは絶叫を上げ取り乱すが直後、速攻でジト目に変化した。


「おや、匠様。ちょうど良いところに。こちら、本日より貴方様にあてがわれる情人のメアリー嬢です」


「は? 情人!? メアリーが何でここに??」


 アビルゲイが平然とした顔で匠とメアリーの間に割り込んだ。


 ――匠の情人になれ。


 それは、メアリーが「情人のフリ」をしてやり過ごすために、匠本人にだけは絶対に知られたくなかった魔王の命令だった。

 しかし、人の揺れ動く心を甘美な御馳走とするアビルゲイに、そんな隠蔽を期待する方が無理な相談だ。


 そしてハトが豆鉄砲を食ったような顔をしている匠が、その事実を認識するより早く――。


「……なんですって? タクミ様の情人は私だけよぉ!! この図々しい泥棒猫は――殺す!!」


 情人という不穏な単語によって強制覚醒したシェラが、凄まじい殺気を放ちながらバッと立ち上がり、その目は完全に戦闘モードに変化している。


「なんでよ、私がまだ何もしていないのに、《《2》》《《度》》も、泥棒猫呼ばわりされなきゃいけないのよぉぉぉ!!」


 バチバチと火花を散らすシェラとメアリーの視線。

 一気に爆発した最悪の修羅場を前に、匠は「俺の平穏な生活はどこへ行ったんだ……」と、遠い目で天を仰ぐしかなかった。

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