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レベル1.0の勇者とリミットブレイクの剣士。

匠と華奈の力の差が・・。

 大広間の大乱闘で負傷した俺――匠は、すぐさま王宮の治療院へと担ぎ込まれることになった。


 一方で、無傷だった華奈はというと……。


「王宮ではその煽情せんじょう的な洋装は謹んでいただきたい」

「なっ……!? はっ、ちょっと何言ってるのよ!」


 忍び込むために着ていた、ピッタピタのレギンスに短パン姿だ。

 おまけに上着はさきほどの乱闘で脱ぎ捨ててしまったため、これまたピッタピタのTシャツ一枚。スポーツブラと相まってボディラインが完全に丸見えのその格好は、この中世風の時代背景を考えるなら――ハレンチ罪で完全にアウトだったらしい。


「さぁさぁ、華奈様行きますわよ!」

「ちょっと、ちょっと、たくちゃん助けてぇ――!」


 華奈はメアリーに半ば引きずられるようにして、あの忌々しい「装束の間」(ドレスルーム)へと連行されていってしまった……。


【フィルモア城・客間】


「確かに、絵に描いたような中世の世界観だな」


 すっかり治療を終えた俺は、華奈の着替えが終わるまで、一人先に客間へ通されていた。

 あたりを見渡しても、当然ながら電気製品の類は一切見当たらない。古めかしい『大きなのっぽの古時計〜♪』のような機械式の柱時計が静かに時を刻んでおり、異世界に来たのだという実感がじわじわと肌を通して伝わってくる。


「メアリー様、華奈様、お戻りになります」


 そうこうしていると、侍女の声とともに扉が開いた。

 もちろん現れたのは――。


「もう! これ絶望的に動きにくいんだけどー!」

「おお……これは、新鮮にして至高の眼福……」


 不満を垂らしながら現れた華奈の姿に――俺は思わず見惚れて言葉を失った。

 そこにいたのは、フリルがふんだんにあしらわれた、お姫様のようなピンク色のドレスを纏った華奈だ。いつも道着かモノクロのスポーティーな格好ばかり見ているせいか、持ち前の美貌と相まって、その破壊力はあまりにも凄まじすぎた。


「凄くお似合いですよ、華奈様!」


 隣のメアリーも、真新しい同系統のドレスを着ていた。

 ……まあ、彼女の主張の激しい双丘はドレスの上からでも相変わらずで、男として別の意味で感心してしまうのだが――。


「匠殿、華奈殿。先ほどは我が部下が大変失礼した」


 続いて部屋に入ってきたのは、ウィラード団長だった。二人の護衛を兼ねて、わざわざ謝罪に赴いてくれたらしい。

 そしてウィラード団長がジロリと後ろに鋭い目線を送る。


「――ッ!」


 さっき大広間で俺たちに襲いかかってきた騎士たちが、物凄く面目なさそうに、絵に描いたように憔悴しきった顔をしてゾロゾロと入ってきた。

 ウィラード団長からガッツリ雷を落とされたのだろう。


「「「「申し訳ありませんでした、メアリー様! 並びに、勇者候補者様がた!!」」」」


 一糸乱れぬ動きで深く頭を下げる様は、さすが国中から集められた精鋭部隊。

 そもそも、あの一団の中にメアリーを知る者が一人でもいれば、あのような事態にはなっていなかったのだろう。

 第一騎士団は三百人にも及ぶ大部隊だ。たまたま居合わせていなかったらしい。

 ――まあ、不可抗力というやつだ。


「お気になさらず。主を守るとは、そういうことです。皆さんの躊躇のない動き、実に頼もしかったですよ」


 メアリーが凛とした声で許しを与える――。

  その底知れない気高さに、さしものウィラードも気圧されていた。あとでどんな無理難題を要求されるのかと気が気ではなく、メアリーの機嫌を損ねまいとしている。その様子だけで、この場の力関係は十分に伝わってきた。


 すると、今度は俺の隣にいた華奈が一歩前に出て、騎士たちの謝罪を抜群の笑顔で受け止めた。


「あそこまで踏み込んで、あの剣筋は皆さん中々の物でした。すごく鍛錬なされてますね」

「(か、かっこいい……! 本物の、本物の姫騎士様だ……!)」


 面を上げた騎士たちの表情が一変した。

 自分たちの猛攻を細身の剣一本で完璧にいなした『最強の美少女』が、今はフリフリのドレスを着て、自分たちの努力を称える眩い笑顔を向けているのだ。

 脳筋の彼らにとって、これ以上の祝福はない。


「ひ、姫騎士様……いや、剣士華奈様! 是非、我らとお手合わせ願えませんか!」

「ゴラァ! 馬鹿ども! だから脳筋と言われるのだ、慎め!」


 一喝するウィラード団長。

 一度目は悲劇、二度目は喜劇を地で行くコイツらは、どこか憎めない。

 華奈にハートを射抜かれた騎士たちの目は、完全に『♡』になっていた。

 もっとも、彼らが恋したのは華奈の心ではなく、その圧倒的な「剣技」の方だろう。


「匠殿、華奈殿。少々城内がバタついているため、王への謁見は明日行うこととなった。そのため、先にステータス確認をと考えておる」


 ウィラードは「魔族の襲撃」という物騒な事実こそ口にしなかったが、大乱闘の前に「魔族が、魔族がー!」と喚き散らしていた文官を見聞きしていたので、俺もそこは大人として深く追及しないことにした。


 こうして俺たちは、ステータス測定のために『王立魔法部隊』へと向かうことになったのだが――。


【王立魔法部隊・測定室】


 案内されたのは、地下にある重厚な石造りの部屋で、調度品の代わりに、色々よくわからない魔道具であろう器具が所狭しと並んでいる。

 俺たちが部屋に足を踏み入れると、そこにいたローブ姿の魔導士たちの視線が一斉に突き刺さった。召喚されてからそれなりに時間が経っていたこともあり、どうやら大広間での大乱闘の件はすでに彼らの耳にも入っているらしい。


 学校帰りに華奈と合流したときの、出力最大のあの殺気に満ちた眼差しとは違う。今は「どれほどの怪物が現れたのか」という純粋な期待と好奇心だと嫌でも分かり、俺的には凄く嫌な気分に落とされてしまう。


「それでは匠様、こちらへ。この水鏡に手をかざしてください。水面に貴方のステータスが表示されます」


 ステータス測定に使うのは、よくある水晶玉ではなく、薄く水が張られた大きな銀盆ぎんぼんだった。手をかざすだけという測定方法自体は、アニメでよく見るものと大差ない。


「はぁ……。一応言っとくけど、俺には期待しない方がいいよ?」

「いえいえ、ご謙遜を! あの近衛騎士団とやり合った御方々なのですから、凄まじい数値を叩き出すに違いありません!」


 ものすごくキラキラした期待の目を向けられる。だが俺の脳裏に浮かんだのは、大広間で殺されかけ、防戦一方だった苦い記憶だった。測定前から、すっかり意気消沈してしまう。


 何はともあれ、先に進むにはこの測定からは逃げられない。逃げ出したい気持ちを抑え、嫌々ながらも銀盆の上にそっと手をかざす。


 水面が淡い光を放ち、やがてくっきりとした文字が浮かび上がった。


 その結果は、やっぱり――。


『1.0』


「「「「――――え?」」」」


 測定室の空気が、文字通りカチンと凍りついた。


「で、出たぁぁ――! 最低記録更新きたぁぁ――!?」

「えっ!? マジで!?」


 魔導士たちの悲鳴のような叫び声が響き渡る。

 浮かび上がった『レベル1.0』という数値は、この世界の常識ではあり得ないほどの低さらしく、部屋にいた全員が完璧にドン引きしていた。


 聞けば、この世界ではビール腹の何の取り柄もないオッチャンですら最低レベル10は確実にあるらしい。これまでの歴史上の最低記録が「レベル5の老人」だったというから、俺の数値はもはや適正試験を受けることすら躊躇ためらわれるレベルの異常事態だった。


「えっ……嘘、なんで!? タクちゃんの方が、私より何倍も強いのに……!」


 一番ショックを受けていたのは華奈だった。


 困惑する彼女に向かって、俺は力なく苦笑いを返すしかない。


「いや、華奈……。実はここに来てからさ、以前の動きが全くできないんだ。一回死んだせいか、どこかおかしくなっちゃったみたいで……」

「そんなの絶対に変だよ! タクちゃん、気を落とさないで。貴方は私なんかより、何倍も何十倍も優れた剣士なんだから……!」


 真っ直ぐな目で、必死に俺を慰めてくれる華奈。


 だけど――。さっきの大乱闘の時点で薄々分かっていた現実をこうして突きつけられ、おまけに同い年の彼女に本気で同情されるのは、男として、剣士として、素直に受け止めるにはあまりにも惨めで、悔しすぎる。


 何より俺の脳裏を最悪の結末がよぎる。

 ――俺は、華奈の足を引っ張るだけの『お荷物』になった。なってしまったのだ。


(俺を守るために、俺のために全てを投げ打って、この見知らぬ異世界にまで飛び込んでくれた華奈に、俺は一体何をしてあげられるんだ……)


『世界最弱、前代未聞のポンコツ勇者候補』


 そんな不名誉極まりない烙印を押された俺は、意気消沈どころか、胸を焼くような劣等感と申し訳なさで押し潰されそうになっていた。いっそ今すぐこの場から立ち去り、何でもいいから職でも探した方がマシなんじゃないかと、本気で考えてしまう。


 だが、そんな日陰者に突き落とされた俺の頭上へ、まるで残酷な仕打ちのような『光』が降り注いだ。


 華奈が手をかざした銀盆の水面が、測定室全体を真っ白に染め上げるほどの凄まじい光を放ち、そこにあり得ない出鱈目な数字を刻み込んだのだ。


『698』


「「「「――――――」」」」


 もはや悲鳴すら上がらない。


 あまりの異常事態に、魔導士たちを含む部屋の全員が、文字通り呼吸を忘れて硬直した。


 さっきのウィラード団長が「レベル650間近」で国内最高峰の怪物と称されていたのだ。それを遥かに凌駕する、正真正銘のバグ女剣士。


 ――『リミットブレイク(限界突破)』。


 数時間前にこの異世界へやって来た華奈が、人類最強――いや、魔王にすら肉薄する姫騎士として君臨することが決まった瞬間だった。

この話から物語が加速します。

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