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異様な謁見と虐め。

色々動きます。

【フィルモア王城・客間】


華奈かなが前代未聞の凄まじい測定結果を叩き出した、その日の夜。


昼間に起きた魔族襲撃の影響もあり、私たちは部屋を出ることを厳格に禁じられ、そのまま城内の客間に泊まることが決まった。


「――レベル1.0」


同じく前代未聞の、しかしあまりにも残酷な数値を突きつけられた俺――たくみは、出された食事もほとんど無言のまま済ませていた。


華奈は俺の痛切な気持ちを痛いほど察してくれたのだろう。

下手に慰めるよりも、今は一人にした方がよいと判断して、ただ静かに隣で見守り続けてくれていた。


「タクちゃん一緒に寝たいな……♡」

「華奈様! お二人は別々の寝室にするよう、上からお達しが出ております!」


この王国のベッドは無駄にデカく、三人で寝てもまだ余裕があるほどだ。

必然的に華奈は一緒に寝て少しでも俺を癒そうと考えたらしいが、部屋付きの侍女は当然のように一歩も譲らない構えだった。


口を尖らせた華奈は、悔しそうに渋々違う寝室へと入っていった。


――朝食を済ませ、翌日。


重苦しい空気のまま朝食を済ませると、そのタイミングを計ったかのようにウィラード騎士団長が客間を訪れた。


「匠様、華奈様。……折入って、ご相談があります」


その神妙な面持ちを見た瞬間、俺は直感した。

王への謁見に向かうのは、華奈一人だけになるな、と。


そして悪い予感ほど、よく当たるものだ。


ウィラードの口から告げられたのは、予想通りの進言だった。

レベル底辺の俺を連れていけば、周囲の貴族たちから不当な批判に晒される。それを防ぐためにも、今回は華奈一人だけで謁見に向かわれた方が賢明である、という内容だった。


「何でよ!? 私と匠は一心同体なのよ! それを引き離すなんて――」

「華奈、少し冷静になって考えてくれ」


「嫌よ、だって……!」


激昂する華奈の言葉を、俺の静かな声が遮る。


「今の意見は至極真っ当だ。俺があの謁見の場に出れば、周囲から罵倒され、責められる。お前だって、そんな姿を見たくもないだろ?」

「う、ぅく……っ……」


あまりにも冷静な俺の言葉は、ぐうの音も出ないほど正論だった。

それが余計に悔しいのか、華奈の目から大粒の涙が溢れ出す。


ただただ黙って涙を流す彼女の姿を見るのは、俺にとっても胸が締め付けられるほど辛かった。だが、ここで意地を張って謁見に同行すれば、華奈をもっと辛い目に遭わせてしまう。


俺はそっと華奈の肩に手を置き、言い聞かせるように言葉を紡いだ。


「とりあえず……今は、お前が王の信任を得る方が先だよ。な?」


「うん……分かった。……貴方の方が、ずっとずっと私なんかより強いって知ってるから。……待っててね」


もっと優しい慰めの言葉をかけたいのが、その潤んだ瞳から丸わかりだった。

だが、それが逆に今の俺を傷つけてしまうかもしれないと知っているからこそ、華奈は言葉短めに残し、俺の手に自分の手を重ねた。


無言の温もりを伝えてきたところで、ウィラードから「華奈様、そろそろお時間です。参りましょう」と声がかかる。


「それじゃ、行ってくるね……!」


後ろ髪を惹かれる思いで、部屋を後にする華奈。

残される俺の気持ちを考えて、今にも胸が張り裂けそうになっているのが伝わってきた。


静かに事の顛末を伺っていたウィラードは、ドレスルームへと向かう彼女の背中を追いかけつつ、とある違和感について深く思案していた。


(低いはずの彼のスキルレベルが、なぜ見れないんだ? ……何かやっぱり変だ……)



※※※※※



【フィルモア王城・騎士団詰め所付近】


近衛騎士団の詰め所に近い場所。

そこには、練習をサボっている数名の剣士がたむろしていた。


「あーあ、練習なんてかったりーよ」

「早く昼にならないかな~」


愚痴を言い合っている連中は、近衛騎士団『普通科』の面々だ。

その殆どが貴族のお坊っちゃまで、権力を傘に練習を抜け出している、いわば不良のような連中だった。


そんなならず者気取りの彼らの背後に――黒い法衣に身を包んだ怪しい男が近づいていく。


「もうすぐ、一人の黒髪の男がここを通ります。その者を存分に痛めつけなさい」

「理由など不要です。あなた方は日頃から、そのようなことを楽しんでいるのでしょう?」


黒い法衣の袖から覗く漆黒の杖。

その先端から、紫色の魔力が淡く揺らめいた。


次の瞬間、剣士たちの瞳から徐々に光が失われていく。


命令された剣士たちは、まるで操られた人形のように無言のまま、図書館に繋がる屋根付きの廊下を目指して歩き始めた。


「勇者は力よりも、心を砕けばいい」


黒い法衣の男は、昏い愉悦をにじませて呟く。


「異世界より流れ着いた穢れた魂は、この世界には不要です。浄化されるべき存在なのです」


男は静かに踵を返し、その場を後にした。



※※※※※



【フィルモア王城・謁見室】


「謁見って、こんなに大勢の前で行うの? なんか違うような……」


ウィラードにエスコートされて向かった謁見室。

重苦しい扉が開いた先に飛び込んできたのは、決して広くない部屋に溢れんばかりの人だかりだった。


もうこれは謁見というより、祝賀会と言った方が正解だろう。


「初めまして、ミラード陛下。八雲華奈と申します」

「フィルモアの為に異世界から参られた八雲華奈よ、全王民に代わり謝辞を送る。そなたには期待しているぞ」


違和感を振り切り、にわか仕込みのカーテシーを披露する華奈。

満面の笑みを浮かべたミラード王は、わざわざ玉座から降りて面と向き合い、歓待するほどのもてなしぶりを見せた。


市井の貴族令嬢であれば間違いなく卒倒するレベルの破格の待遇。

だが、華奈の心の中には冷たい風が吹き抜けていた。


(トコトン利用する気満々ね。メアリーの言っていた通りだわ……)


昨晩、メアリーと同じ部屋で夜を明かした際、彼女はこう忠告してくれたのだ。

『王家や貴族は、利用価値があると認識したら骨の髄までしゃぶり尽くし、用済みになれば手の平を返します。もし匠様の話が出なかったら、注意してください』と。


その予想は、最悪の形で的中した。

存在すら認めないかの如く、匠という名前は一切出てこなかったのだ。


拍手喝采の中、謁見は無事に終わりを迎えた。

しかし、ホッとする間もなく、華奈は即座に王族や貴族たちに取り囲まれてしまう。


「お初にお目にかかります……」


ここからが、本当の地獄だった。

群がる有象無象の貴族たち、胡散臭い笑顔を浮かべる王家の人々の紹介、果てはそのまま強制的に出席させられた豪華絢爛な昼食会――。


「いったん、部屋に戻りたいのですが」

「晩餐会の為のお色直し、出席者に対する個別対応案の復習、スピーチ原稿の熟読を先をお願いします」

「……」


匠という名は絶対に出さないが、要するに二人を隔離して引き離そうと画策しているのが丸分かりだった。

昼食会では「お連れの方のお姿が見えませんわね」などと、貴婦人たちから容赦ない嫌がらせの言葉が降りかかっていた。


だが、王の信任を得るという匠との約束を果たすため、華奈は会いたい気持ちをグッと堪える。

晩餐会に向け、鏡台に映る自分に「あともう少し」と言い聞かせながら、孤独な戦いを続けていた。



※※※※※



【フィルモア王城・客間】


華奈が謁見の間に出向いた直後、入れ替わるようにメアリーが戻ってきた。

彼女は今回の功績を認められたようで、報奨金を手に満面の笑みを浮かべている。


「それでは匠様、私は転移魔法で一旦メルド村に帰ります!」


何故魔法で帰れるのかというと、ネスレ達元盗賊団の活躍によって、最前線に近い新しく出来た村が臨時の駐屯基地として認められたからだ。それにより、特例で転移魔法陣を置くことを許されたらしい。


それを使い、彼女は第二の故郷になる村に帰る。ということだ。


「魔法で一足飛びで帰れるなんてすごいね。気を付けてね、メアリー」


転移門がある広場でメアリーを見送り、1人寂しく客間へと戻ってきた。

しかし、1人でいると昨日の冷酷な数値を思い出してしまう。さらに、監視という名の重苦しい客間の空気に耐えかね、気分を紛らわせるために部屋を出ることにした。


「この国のことを調べたいので、図書館に行きたいのだが」

「……畏まりました。城内であれば自由に見て回って構いません、と陛下より申し付けられております」


部屋付きの侍女も警備兵も同行することはない。

利用価値が無く、放置しても構わないとお達しが出ているのか、地図を渡されると当然のように知らん顔をされた。



※※※※※



【フィルモア王城・騎士団詰め所付近】


城の最奥にある『図書室』は禁書庫と呼ばれ、国王の許可が無ければ立ち入ることすらできない。

そのため、俺が目指したのは近衛騎士団の詰め所近くにある、一般兵や従者なら誰でも利用できる割と大き目な『図書館』だった。


手渡された簡素な地図を頼りに、屋根のある野外の廊下を、俺は一人で歩いていた。


「――おい、そこの。……『takumi』とか言ったか?」

「んっ?」


聞き慣れない、ひどく傲慢な声に名前を呼ばれ、俺はその方向を一瞥した。


そこには、近衛騎士団『普通科』の薄茶色の軍服を纏った、数名の若い騎士たちがたむろしていた。

彼らに呼ばれる筋合いなどない。だが相手は曲がりなりにもこの国の騎士だ。俺は不審に思いつつも、その場に足を止めた。


「……あぁ、やっぱりコイツか。噂になってるポンコツ勇者ってのは」

「おいコラ、やっぱりお前が、世界最弱、前代未聞のポンコツ勇者候補だってな! こんなところで一体何やってんだ?」

「ひ、ははっ! ゴミが王城の廊下を一人で平然と歩いてること自体、王家に対する不敬だぞ。なぁ、おいゴミ。聞いてんのか?」


騎士たちは下卑た笑みを浮かべながら、俺を囲むように距離を詰めてくる。


彼ら『普通科』の人間は、異世界から来た勇者の名前とステータスこそ共有されていたが、華奈の顔も、そして俺の顔も、実際には見たことがなかった。


だからこそ――この無防備な少年が、あの規格外の化け物(華奈)にとって「触れれば国が滅びる逆鱗げきりん」だとは、露ほども知らなかったのだ。


「……俺はただ、図書室に行きたいだけだ。そこを通してくれないか」


俺は努めて冷静に、波風を立てないよう返答した。

しかし、その態度すらもエリートを自称するクズ騎士たちのプライドを刺激したらしい。


「あ? 『通してくれないか』だぁ? 粗大ゴミの分際で、騎士である俺たちに対等な口を利いてんじゃねえよッ!!」


騎士たちは互いに顔を見合わせ、不気味に笑った。


次の瞬間だった。


ドゴッ!!


何の前触れもなく放たれた蹴りが、俺の腹部へ深々とめり込む。


レベル1.0の肉体に、鍛え上げられた騎士の暴力。

息の根が止まるほどの衝撃と共に、俺の身体は冷たい石畳の上へと激しく転がっていった――。

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