第5話 始まりの町
※主人公はまだ言葉を覚えたてで片言です。それを表すためひらがな文章に庵っておりますので、読みづらいかもしれませんが、表現上ですのでご理解ください。
何も言わずに吐き出してしまったものを拭き掃除してくれているおねぇさんの横で、俺はその何とも言えない後味に苦しみながら悶えていた。
『それで?』
『先ほどはすみませんでした』
『でしたぁ』
ナツとハルは男性に頭を下げていた。
『……まぁいい。あいつも前はまともだったんだがな。パーティの仲間が死んでからというもの、どうもやる気が無くて困る』
『……私もハルがと思うと、少し思うところはあるんですけど……』
『ぼうりょくはんたぁ~い』
部屋の中のソファに対面で座り、3人で話を始める。俺はというと、掃除をしてくれたおねぇさんに頭を下げ、2人の後ろへと回ってその様子を眺めていた。
何を話しているのかわからない以上、俺が何かできることは無い。 二人に任せて、成り行きに任せるしかない。
『討伐部位に関しては確認したから、あとで報酬を貰ってくれ。しかし……この世の中で言葉が通じないなんてことがあるとはな……』
『ギルマスも初めてですか?』
『そうだな。この世界はどの国に行ってもわかるように、世界標準語が定められている。それは一般的に暮らす者たちの話で、エルフや精霊などといったいあっぱん的ではない者たちは、その者たちにしかわからない言葉を使って会話をしているという事は知られているが……』
『そうですね』
ナツと男性が俺の方を見るが、俺はハルの尻尾が俺の前で揺れていてそれを見ているので精一杯。俺に視線を向けているなんて気づいてない。
『どうしたもんかな……名前はわかるのか?』
『身振り手振りでですが、カイ・テッタ……様と名乗ってますね』
『様? あぁ~家名付きか。うぅ~んしかしこの世界でテッタなんて家名の貴族は覚えがないんだがなぁ……』
『もう一度確認しましょうか?』
『ふむ』
『テッタ様』
名前を呼ばれたように聞こえてきたので、フリフリと俺の前で揺れる尻尾から視線をナツの方へと向けると、男性は大きなため息をついた。
『どこかの御曹司……隠し子の可能性もあるか。仕方ない。少しギルドで面倒を見るか』
『よろしくお願いします』
頭を下げるナツとハル。なんだかよく分からないけど、俺も一応頭を下げておく。
そうしてその後も3人で話し合いが進み、2人は俺を残して部屋を出ていった。出ていき際にハルが俺に手を振ってくれていたので、俺も振り返す。
その後、立っていた俺を手招きするので、歩いていき、そのまま腰を下ろせと手振りで伝えられたので素直に腰を下ろす。
『テッタ様でいいのか?』
「えっと……俺は甲斐哲太です。間違いないですよ?」
『そうか。まずは身分証を作らないといけないから、いろいろと手続してもらうが良いか?』
「ん? 何か書くのか? 良いけど俺は字が分かんないぞ?」
『うんまぁ。それは何とかする』
そんな身振り手振り、イラストなどを交えて男性とコミュニケーションを取ったあと、男性がテーブルの上のベルを手にもって数回鳴らす。
数秒で先ほどの御姉さんが部屋の中へと入ってきて、いろいろな紙(A4紙位の大きさ)を数枚俺の前に置き、何か水晶のようなものを男性に渡した。
『これは能力値などを見る水晶だ……なんて言ってもわからんか。仕方ない。実際にやって見せるしかないか。すまないが手を乗せてくれるか?』
『はい』
何か話した後に、お姉さんが水晶の上に手を乗せると、水晶が輝きだした。
「おおぉ!! すげぇ!!」
『……こんなことでも驚くのか』
「え? 今度は俺が乗せるの? わかった」
お姉さんが手を離した後で、俺に乗せろと差し出してくるので、こくりと頷いて手を乗せる。
『お? うぅ~ん? なんだこの文字は……』
『読めない場所もありますね……』
『しかしスキルがあるようだが見たことも聞いたことがないものだな』
『はい。目利き……ですか……』
何か二人でこそこそと話しているけど、俺にはさっぱりわからないので、とりあえず微笑んでおいた。
『そうだな……』。とりあえず話を聞いてみる感じでは悪い奴じゃなさそうだ。これでギルドカードを作ってやってくれ』
『お名前はどうしましょうか?』
『あぁそうだな……』
男性が俺の方を向いて一番上の場所を指さしながら、「カイ? テッタ?』と聞いてくる。
「うん? 名前? 名前はだから甲斐哲太だってば。え? それでいいのかって? なに? だめなの?」
『良いのか? う~ん 良いというのなら仕方ない。普通、家名持ちは隠すものなんだがな。このまま登録しておいてくれ』
「お? いいの? 良かったぁ。名前がダメとか言われても困っちまうもんなぁ。33年ずっとこの名前で生きてきたわけだし」
お姉さんが男性が書いた紙を持ち、ぺこりと頭を下げて部屋から出ていく。
『さてそうなると今度は……』
「今度は何? え? 家? ベッド? あぁ!! 寝る場所か!! そうだなぁ……そういえば俺って一文無しなんだよなぁ……パリピ様その辺どうにかしてくれると……。まぁそんなこと言っても仕方ないか。無いものは無い!!」
『ん? 金がないのか? そうか。ならここに泊まってるといい。汚くて狭いが寝るところがあるというのは安全でもあるし、ここならそうそう襲ってくる奴もいないだろうしな』
「泊っていいのか? おぉラッキー!! 言ってみるもんだな!! しかし、何もできないんだよなぁ。まずは会話ができないと不便でしょうがねぇ」
俺と男性二人は身振り手振りで会話をしていく。普通の人が見たら少しばかり笑われてしまうような時間がしばらく続いた。
『できました』
『おうありがとうな』
「オウアリガトウナ!!」
『『!?』』
先ほどのお姉さんがノックの後に頭を下げて部屋に入ってきて、男性に板のようなものを手渡す。
男性の真似していってみると、2人とも驚いた。
「お? 合ってるのか?」
すかさず両手を合わせて二人に頭を下げた。
それから、俺の異世界での新生活が始まった。
日中はカウンター内でお姉さんに言葉を教えてもらいつつ、簡単にできる作業を手伝い、お姉さんから紹介してもらった仕事をこなす日々。
――これってもしかして冒険者ってやつか?
いつぞやのお客さんが言っていた『異世界あるある』の中で、冒険者になって成り上がるというのを聞いたことがあった。本当は凄い力があるけどそれを隠して冒険者になり、バッタバッタと敵を倒して貴族になるっていうもの。
俺も初日にここに連れてこられた際に渡されたあの板のようなもの。あれがギルドカードというものだと言葉を覚えながら学習していく。
――ん~。女神さまの言っていた事って、こういう事じゃないよなぁ?
朝から手伝いと働きに出て、戻ってきては建物に併設されている食堂で飯を食べる。飯って言っても、めちゃくちゃ固くて匂いも少しするようなパンと、ちょっと塩気がするスープ。そして初日に遭遇したイノシシ野郎の肉のような、かみちぎるのがやっとの固い肉。
もうちょっと何とかならんもんかね? と思いつつ、自分はどうすることもできなさそうなので静かにそれらを消費していった。
「オハヨウござイマス?」
「なんで疑問形なのよ? しかも途中何言ってるかわかんなし」
時々朝などで会うナツとハルに挨拶すると、2人から苦笑いを返されるが、なんとなく会話できていることが嬉しくなる。
「メシくう?」
「朝ご飯食べていくわよ?」
「ワカッた。イマもらってクル」
「え? じゃぁこの後ハルも来ると思うから2人分お願い」
「ワカッた」
この日は俺も併設されている食堂で給仕のお手伝いをしていたので、ナツやハルに食事を持っていく。
「ねぇテッタ様?」
「ナに?」
「あの時みたいにやらないの?」
「ん?」
ハルが到着して2人そろって食事を始めると、添えられていた肉をかじりながらナツが俺に聞いてきた。
「アノとき?」
「ほら、肉をバシバシ叩いてたでしょ?」
「あぁ~……」
難しい単語のところは、ナツも身振り手振りで伝えてくれる。本当に優しい子だ。
「やらないの?」
ナツとハルが俺の方をじっと見て何かを訴えかけてくる。
「……タノンでミル」
「本当に!? もしかしたらあのお肉が……」
「テッタ様お願いしますぅ!! あの時のあの柔らかい……」
二人が俺の前に手を合わせる。
――なるほど……。あの時の肉の処理か……。
この日の夕方にギルドマスターへと相談し、調理場へも入らせてもらえるように頼んでみた。ギルドの食堂は決まったメニューがあって、誰が担当しても同じものが出てくるようになっているという事なので、俺でもできるだろうと頷いてくれた。
そうして俺は次の日から食堂の調理場へと立つことになるのだった。
お読みいただいた皆様に感謝を!!
やっぱりテンポがぁ……。
まぁいいか。これが頼庵流という事で(;^ω^)
次回
第6話 進むべき道
お楽しみに!!




