第47話 クマ
「きゅん?」
「え? な、なんだお前」
「わきゅ?」
「ん? 腹減ってるのか?」
「きゃん!!」
俺の隣に座っている動物は、俺が話かけると返事をするようにしつつ、尻尾がちぎれんばかりにぶんぶんと振っていた。
「おいおい、あんまり尻尾を振るなよ。ゴミがはいっちゃうだろ?」
「きゅ~ん……」
「あははは。お前凄いな!!」
俺に叱られたのを感じたのか、さっきまで勢い良く降られていた尻尾はぱたりと止まり、目の前のかき混ぜているものを心配そうに見つめ始めた。
「テッタさん!!」
「テッタ殿!!」
「主!!」
俺が何かと話をしているのに気が付いたフユと、マイヤそしてアンドレが俺の方へと声を掛けつつ急いで近づいてくる。
「な!!」
「そいつはファイティングウルフか!?」
「テッタさん!!」
アンドレが驚き、マイヤが得物を抜こうと身構える。フユは俺をかばうために俺の側へと近づいてくる。
「ん? え? どうした?」
「ど、どうしたって……」
マイヤが腰のものに手にかけつつ、俺の横で楽しそうにしている動物を見つめている。
「大丈夫だぞ。コイツおとなしいみたいだし、それになんとなく俺の言ってることが分かるみたいだから」
「きゃん!!」
「ほらな?」
俺が三人を見ながら笑うと、隣の動物もそれに返事を返すようにして吠える。
「さて、そろそろよさそうだし、メシにしようか。マイヤすまないが皆に飯だと伝えてきてくれるか? フユは俺と一緒にコレをよそってくれ」
「は、はぁ……わかりました」
「はい!!」
腰から手を放し、ため息をつきつつ皆の方へと向かっていくマイヤ。アンドレはそれでもこの動物を警戒しているのか、俺の側を離れようとはしない。
フユが準備してきたどんぶりに、できたばかりの熱々スイトン汁をよそっていく。人数分がよそい終わったので、予備で持ってきていたどんぶりにまたスイトンをよそい、俺の側から離れないでいる動物の顔の側へと置いてやる。
「熱いから気を付けろよ?」
「きゃん!!」
「では、俺達も食べようか。いただきます!!」
「「「「「いただきます」」」」」
「きゃんきゃん」
いつもの様に食事前のあいさつをすると、動物が少しだけ首を傾げてすぐに同じようにほえてから、ガフがふと食べだした。
残念ながら、ナルミは現在食事中の見張りを兼任しているので一緒にはいないけど、しっかりとスイトンは渡してあるので食べてくれていると思う。
♢♢♢♢♢
「しかし……」
「ん?」
食事の後、見張り役を交代したナルミが、俺の横に寝そべっているものを見ながら声を上げる。
「あ、いえその……あなた普通のウルフ種じゃないですよね?」
「わぅ?」
「うぅ~ん……」
「どうした?」
俺の隣に寝そべっている奴に声をかけると、興味なさそうに返事を返すが、その返事に戸惑うナルミ。
「いえその、もしかしてですけどテッタさんってテイマーなどのスキルとか持ってるんですか?」
「テイマーって?」
「テイマーっていうのはですね、野生の動物とか魔物とか、モンスターなんかと仲良くなって、従えられるっていうスキルですね」
「いや、俺にはそんなものないぞ」
「とすると、ここまで懐いているといいうのがどうも……」
「まぁ、コイツがなんであれ、俺たちはこれから旅をしていくんだし、コイツだって自分の群れとかあるだろうから、すぐに離れていくと思うよ」
「そうですかねぇ……?」
じっと動物の方を見て「うんうん」と声を上げて悩んでいるナルミ。
「さて、明日も朝から移動するんだし、早めに休むことにするよ」
「あ、はい。ごちそうさまでした」
「いやいや。じゃぁね」
声をかけて馬車の方へと向かい、馬車の横へと建てられた簡易的な屋根付きのテントの下へと入る。
すると俺の後をてこてこと付いてきたので、いっしょに中へと入り毛布をかぶって休むことにした。
まだ肌寒い季節なので、いっしょに寝てくれるこの動物がかなり温かくて助かったのは言うまでもない。
次の日に起きると、ベッドで寝たわけではないので少し固まってしまった体をほぐしつつ、起きている人たちの手伝いをしようと歩き出す。
また俺の側をてこてこと付いてくるので、そのまま一緒にテントをしまったり、朝食を作る手伝いをしたりと一緒に行動を共にした。
しばらくは忙しい時間が続いたので、構ってやることができずにいたのだけど、いつの間にかあの動物は姿を消していた。
――まぁ、迷ったのか何かで、たまたま偶然俺たちの所へ来たんだろうし、自分の住処にでも行ったんだろうな。
少しばかり寂しい気もするけど、相手は野生種なのだから自分の生活圏というものがあるのはわかる。なので、ここでお別れという事で納得し旅の準備を進めた。
「よし!! 今の時点で体調の悪い人とかいないかい?」
「大丈夫です!!」
声をかけるとマイヤが元気に返事を返し、他のメンバーも顔を伺うとすぐにこくりと頷く。
「じゃぁ出発しようか!!」
「「「「「はい!!」」」」」
ごとごとと音を立てて動き出す馬車。
次の目的地に向けて動き出す馬車の中で、食材の保存状態などを確認しつつ、天気などを気にしながらまたのんびりとした旅が再開された。
♢♢♢♢♢
陽が真上に来る少し前、食事のために停まった草原にて、マイヤが何かを発見する。
「主」
「ん? どうしたマイヤ」
「えっとその……どうもわれらを付けてきているようなのですけど」
「誰が? もしかして盗賊とか!?」
「あ、いえ、それがですね、アレです」
「ん?」
マイヤがアレと言いながら指さす方向を見ると、若草の生え始めた低い緑の層から、少しだけふさふさっとしたものが揺れているのを見つけた。
「え? あれってもしかして……」
「そうですね、昨日のアイツだと思うんですけど」
「でも、あの場所からすでに結構来てるよね? まだあいつらの縄張りなのかな?」
「それが、あの後にみんなに聞いたんですけど、あの辺一帯にファイティングウルフなどのウルフ種の縄張りがあるとは聞いたことが無いんですよね」
「というと、迷子?」
「……かもしれませんね」
俺とマイヤが悩んでいる間にも、その揺れるものはそこから近づいてくる気配も遠ざかる気配もない。
「テッタさん!!」
「おう!!」
そうこうしている間に、本日の昼食の用意ができたとフユに呼ばれたので、声のした方へと俺が歩き始める。
「あ、動きましたね」
「え?」
「あぁ、たぶん主の動きに合わせてるみたいですね」
「ん~じゃぁ、呼んだら来たりして?」
「……可能性はありますね」
「試してみるか」
スッと立ち止まって歩いてきた後方へと振り向いた。
「おい!! 飯食うか!?」
「きゃん!!」
声をかけると返事が返ってくる。そしてひょっこりと顔を上げて俺たちの方を見つめてきた。
「一緒に飯を食うか? ならこっちにおいで!!」
「きゃん」
俺の方へと歩いて向かってきているようで、少しずつその姿が見えてくる。
「あれ?」
「…………」
遠くにいるはずなのに、あのふさふさとしたものが見えたときに気が付くべきだったのだけど、近くに来るまでそのことに気が付いてなかった。
俺の側にそいつが来た時に、やっとその姿が昨日までのその姿ではない事に気が付く。
「でっか……くなった?」
「……なりすぎじゃないですかね?」
目の前まで来たそいつが俺の前でちょこんとお座りをしたのだけど、おすわりをしているのに俺の顔よりも上にそいつの顔がある。
「お前、昨日のあの子だよな?」
「きゃん!!」
「声はかわいいままかよ!! まぁいいや。一緒に飯食うか?」
「きゃん!!」
元気に返事を返す相手を見て、思わずにやけてしまう。
「よろしいのでしょうか?」
「ん? いいんじゃない? 俺たちの事を食べたりしないよな?」
「きゃん!? きゃんきゃん!!」
思いっきり首を振るので、俺とマイヤが顔を見合わせる。
「やっぱりコイツ……、俺たちの言ってることわかってるよな?」
「そうですね。どう考えても理解しているとしか思えないですね」
とりあえずその事は棚に上げるとして、まずは昼食を一緒に食べるために、フユたちの待っている方へと一緒に歩き出した。
まぁ、案の定というか、その姿を見た他のメンバーはビックリと同時に警戒をしたけど、俺とマイヤが何とか説得し、そいつも一緒に昼食を食べることになった。
「おまえ……もしかしてついてくるつもりか?」
「きゃん!!」
「うぅ~ん……」
食後のお茶を飲んでいる時に、俺の横へとふせた相手に声をかけると、元気に返事が返ってきて、さらに勢いよく首を縦に振ってるので、今後どうしようか悩む。
「ウルフか……。うん犬だな」
「え?」
ちょうど俺の方へと歩いてきたフユが俺の独り言を拾い、返事を返す。この動物が魔物なのかモンスターなのかはわからない。
でも見た目はウルフという事。ウルフという事は地球では犬の先祖で同種族だ。
「あ、いや。こいつが一緒に行きたいっていうからさ」
「あぁ、そういう事ですか。でしたらお名前を付けて差し上げないとですね」
「ん?」
「テッタさんがお飼いになられるのでしたら、テッタさんが名付けるべきかと」
フユが言っていることも一理ある。しかし名前を付けるという事は俺がしっかりと面倒を見ると宣言するようなものだ。
「そうか? あれ? フユはコイツが一緒に行くことに賛成してくれるのか?」
「賛成するも何も……。こうしてテッタさんに凄く懐いているのを見てしまいますと、このままお別れすることもできないじゃないですか。それともテッタさんは仲良くなったこの子をおいていけますか?」
「……無理だな」
「ですよね。そういう人だってもうわかってますから」
くすくすと笑うフユ。俺の隣でくつろぐ相手に声をかける。
「良いのか?」
「わふ?」
「俺が名前を付けても」
「きゃん!!」
「わかった。ん~じゃぁ……。毛色がグレーというかそれよりも白いし、デカいし熊みたいだし、お前……シロクマみたいだな……あ、そうだ。じゃぁ『クマ』とかどうだ?」
「きゃん? わふぅ……。きゃんきゃん!!」
「お!? いいのか? じゃぁ、今からお前は俺たちの番犬という事で!!」
「きゃん!!」
べろんべろんと俺の課を舐め回すクマ。名前を気に入ってくれたみたいだ。俺のネーミングセンスはともかくとして。
「犬なのにクマですか……」
「あははは」
俺の隣に寝そべるクマをなでているとフユがボソリとこぼす。
「まぁいいんじゃない? クマも別に嫌がってないみたいだし。気に入ってるみたいだよ」
「きゃん!!」
「まぁ、クマがそのままで良いというのでしたら私は別にいいのですけど、それにしても……」
じっとクマを見つめるフユ。
「えっと、テッタさん」
「ん?」
「番犬……ですか?」
「あぁ、北の方もあるしな。番犬だろ?」
「クマって、犬……なんですかね?」
「犬だろ?」
俺に頭などをなでられて尻尾をぶんぶんと振る姿。もう犬にしか俺には見えないけど、フユはそんな俺たちを見てちょっと不思議な表情をしていた。
お読み頂いた皆さまに感謝を!!
もう『犬』でいいと思うw
次回
第48話 忘れてた!!
お楽しみに!!




