第46話 旅初日
馬車がごとごとと音を立て、雪が解け始めざらつく雪と土の上を進んでいく事数十分。
馬車の後方に載っている俺とアノンは、これから進んでいく道を確認しあっていた。その俺たちの前で早くも次の休憩地点で出すお茶の手配を始める一人の女の子の姿が目に入る。
「あれ?」
「どうしました?」
「そういえば……フユって一緒に行くんだっけ?」
「まぁ、いいではないですか」
にこりと微笑んだフユだけど、どこか『それ以上は言わないでね』という無言の圧力を感じてしまうような、そんな綺麗な微笑みで俺の正面に腰を下ろした。
「いやいやいや!! いいではないか――じゃないよ!! お店の方はどうしたの!?」
「それはですね……」
俺と店の前で確認をしていた時には確かにしっかりと店の前にいたはずのフユ。しかしいつの間にか俺たちと一緒に馬車に乗っていて、何食わぬ顔で俺たちの旅に同行していることに気が付いて驚愕する。
そんな俺の気持ちを感じ取ってか、スッと顔を背けながらぽつりぽつりと馬車に乗っている事情を話し始めた。
「私は残るつもりだったのです」
「うん。予定ではそうなってたよね?」
「はい。なので私も置いていかれ組と一緒にテッタさんをお店の前でお見送りしていたのですが」
「ちょっと“置いていかれ組”っていう表現はやめてくれないかな? なんとなく俺がすんごく悪いことしてるみたいに聞こえちゃうよ」
「あ、すみません……。でもその、テッタさんが旅に出るというお話を最初にされた後に、お店に残る人たちの中ではそういう風に感じちゃってる人もいて……」
「あちゃぁ……そうか。それは俺も説明不足だったかもしれないな」
当初の予定では、北の方のお店の事もあるので、マイヤたちが一緒に行くことになるまでは、俺だけが旅に行くといっていたけど、マイヤたちに説得された後に、お店を任せる人と俺に同行する人に分けたのだけど、その時にどうしてその分け方になったのかまでは話をしていない。
ミトとキャロルに関しては、まだ北の方の営業形態にしても、飲食店で働くという事にしても経験が無いという事もあるし、ミトに関しては妊婦さんということ、キャロルに関してはお店になれるのと同時に、ツバサの町まで来てまだ休養もそこまで獲っていないだろうという判断で、体力的な事で残留組にした。
三兄弟に関しては、孤児院から働きに来る子供たちの世話もあるし、アライさん達と共にお店のやりくりを任せるという意味合いが強くて、一緒には連れてこれないという事情もある。
フユに関しても、ナルミが俺についてくる以上はフロア担当となる店員さんがいなくなってしまうので、フロア係としての指導する立場として残ってもらうように話をしていた。
「私は残ろうとしていたんですけど、馬車を見ていたら、キャロルさんに幌の中へと先に押し入れられまして、そしてリーク達からテッタさんの事を頼むといわれてしまい、アライさんからも大丈夫と仰っていただいたので、こうして皆さんには申し訳ないのですが、同行することにしたんです」
「なるほど? でもそうするとフロア係の人が一人しかいなくなるけど大丈夫なのか?」
「事前に人員の事でマクガ―さんにご相談させていただいてまして、助っ人が来てくださることになっております」
「ん? ちょっと待て。そうするとフユが一緒に行くことも想定していた――と?」
「まぁ、その辺はいいではないですか」
先ほどまで申し訳ないという表情で俺を見ていたフユだったが、俺のツッコミにはスンと表情から色を消して返事を返してきた。
――あぁ、これはあかんやつだな。
俺も生前の経験があるからこそわかる。余り突っ込んで聞くといいことが無いやつだ。
特に女性にしちゃうと途端に機嫌が悪くなって空気が重くなるやつ。
「ま、まぁ準備ができているならいいとは思うけどな」
「はい。何とか間に合いました」
にこりと笑うフユだが、表情がまだ冷たい気がして背中に少し冷えたものが流れる。
「テッタさん」
「ん?」
場の空気を感じたのか、アノンが俺に話を振ってくれる。
「しばらくは村々などを回りながら行くので、その場で買えるものなどを中心にしつつ、町で休めるときは町で、泊まれるところが無い場所では野営になりますけど、大丈夫ですか?」
「あぁ、問題ないよ。とはいえ、俺は本格的に依頼を受けて外で野宿なんてしたことが無いから、みんなには面倒掛けることになると思うけど」
「その辺はだいじょうぶですよ。我ら『栄光の翼』は割と野営しながら旅するのに離れてますからね」
「ん? 栄光の翼って?」
「あぁ、あれ? 聞いてませんか?」
「なにを?」
「われらのパーティ名ですよ。ツバサの町冒険者ギルド所属の栄光の翼」
「いま、初めて聞いた気がするなぁ」
顎に手を当てつつ記憶をたどるけど、そう言えば誰かに言われた記憶が無い。このメンバーが北の方で働くようになった時も、契約奴隷として従業員として一緒に働く仲間という感覚でしかなかったので、それほど気にしてもなかった。
このメンバーに出会った場所である、サガさんの所でもしかしたらそういう話になっていたかもしれないけど、あまり俺には関係ないと思って聞き流してしまった可能性はある。
「でもまぁ、頼りにしてるよ」
「はい!! テッタさんの事は必ず守りますのでご安心を!!」
そんな話をしつつ、ゴトゴトと音を立てながら馬車は進んでいく。
♢♢♢♢♢
馬車の旅というのをしたことが無かったので、どの程度の速さで進めるのかという事を全く理解はしてなかったが、時速にするとそれほど速くはない。だいたい体感でも4~6キロくらいなもので、進める距離的にもそこまで遠くに行けない。
何しろ灯が無いのだから暗い道は進めないし、馬車は当たり前だが馬がひいているので休ませてあげてご飯を食べさせてあげないといけない。
距離的に20~30キロも進めたらいい方だと、休憩時間にマイヤたちに説明を受けた。
今回の行程では一日多く見積もって8日が行きの日程としているが、何ごとも無くスムーズに進んで7日でつく場所という事なので、距離的には150キロ程度の場所へ行くという事になる。
「さて、日が暮れる前には野営する準備をしようと思いますので、見晴らしの良い少し行った場所に野営地ができるところがあるので、本日はそこまでとしましょう」
「そうだね。そういう判断は任せるよ」
「はい。ではまずはナルミに先行してもらい、偵察をしてきてもらいます」
馬車の扱いも覚えたいと思い、休憩時間後から後退してもらいつつ、御者のまねごとをさせてもらっていると、隣に乗っていたアンドレが声をかけてきた。
その言葉を伝える前に、俺たちの前をスピード上げて走っていく影が見える。
「え? あれがナルミ?」
「そうですよ。ナルミは偵察などをさせたらツバサの町、いやこの国でも割と上位に入るくらいの人物なんですよ」
「へぇ~」
北の方では割とおっとりして見えたナルミだけど、少しだけ見えた横顔は、お店の中で見ていたナルミとは違う、とても凛々しいものだった。
しばらくしてナルミが戻ってきて、案内されつつ野営できそうな場所へと馬車を向かわせる。
野営地につくとすぐに、栄光の翼メンバーがてきぱきと動き、寝る場所の確保と薪など炊事をする準備、そして準備をするまでの安全の確保などといったことをこなしていく。
俺はというと、邪魔にならないようにしつつ、本日の食事の用意を始めるのだった。
「えっとそれは?」
「ん? あぁこれか? これはな、オコメの粉だ」
「え!? オコメの!?」
俺の手伝いをしていたフユが、袋から出した白い粉の正体を聞いて驚く。
「フユたちが知っているオコメっていうのは、乾燥をしっかりさせていない状態で保存されていることが一般的みたいでな。しっかりと乾燥をさせて、外にある殻の部分を剥いていくと、白い粒が残る」
「はい。そこまでは知っていますけど……。でもそれをどう使っても、形が崩れてしまったり溶けてしまってドロドロになったりするので、食用には向かないと聞いてますけど……」
「という事は、たぶんただ煮ているだけという事だと思う。まぁ今回は煮るという事はするにはするんだが……」
俺がオコメの粉をとりだし、用意していたボールの中へと入れて、そこにフユたちに準備をしてもらった水を少しずつ加えて煉りこんでいく。
すると、思った以上に粘りが出てきて、すこしずつ塊ができてきた。
「うん。思った通りだ」
「おぉ!!」
「感心してるのは良いけど……。すまないけど少しお湯を沸かしてくれ」
「はい!!」
少し待っていると簡易的な薪のかまどのようなものが出来上がっていて、そこで湯が煮えている。そこへ先ほどまで煉っていたものをちぎりつつ少しだけ潰しながら湯の中へと入れていく。
煮あがったものを湯から上げてしっかりと湯を切り、別の皿へと出しておく。その中から一つを口に入れた。
「うん。いいね」
「テッタさんこれは?」
「あぁ、本来は先ほどの塊のを丸めたものを白玉というんだけど、今回は食事用に少しつぶして『すいとん』にしようと思ってな」
「シラタマとスイトンですか……」
「まぁ、食べてみてからだけどな」
旅用にと持ってきた材料を煮込んで出汁をとり、その中へとスイトンを入れてぐつぐっと煮込む。
しばらくそれをかき混ぜなら待っていると、俺のすぐ横に温かなものを感じた。
「ん?」
「きゅん?」
「え!?」
誰か座ったのかなと横を見ると、俺のすぐ隣に薄汚れた小さな犬のような動物が座り、鼻をひくひくとさせつつ、俺の顔を見ていた。
お読み頂いた皆さまに感謝を!!
何じゃお前さんは!?
次回
第47話 クマ
お楽しみに!!




