第45話 出発
それからの俺は今までよりもさらに精力的に動き出した。
雪が解けるころに出かけるんじゃなく、雪が解け始めて大地に新たな芽吹きが生まれてくるくらいには、その現地に居たいと思ったからだ。
何よりもそこでこの目で見たいというのもそうなのだけど、その頃に芽が出てくるというのは俺の生前の記憶の中の事。
この世界では同じような成長曲線を描くとは限らないので、何かあってもいいように少し早めに到着する様にしたい。
かといって、長くそこに滞在することもできないので、できればその現物を見て、購入する・味をみる・そして調理してみるという試験的なことまでを現地でして、そこから順次定期的な購入先として確保をしなければならないのだから、結構忙しい日々になる。
そのための準備を始めるのに、結構な時間がかかると思っているから。
今はすでに2の月の半ばなので、春が訪れるのももうすぐだろう。
という事で、準備を始める前にまずは計画から立て始めたのだが、俺の行程予定的に7日間を向かう事に費やし、その地に3日ほど滞在して、また7日ほどかけて戻ってくるという感じだったのだが、冒険者として活動していたマイヤたちにダメ出しを受けた。
今回俺が行くという事は、正直に言うとかなりきつい行程になるかもしれないと、コンコンと説明をされる。
何しろ俺はこの町からあまり出たことが無い。出たことがあるというのも、この町に初めて来た時と、冒険者となったばかりの頃に、薬草などを摘みに近くまで出たという事くらいしかない。
その際にかかる時間は遅くなっても半日くらいな物。しかし、これが離れた場所へと赴くという事になると、馬車を使うにしてもそこまで遠くまで行くことできないだろうという判断だ。
それは俺の経験が無いことで疲労の度合いがかなり高いと予想されるから。
慣れない装備をして、慣れない馬車の旅。食事ももちろん自炊だし、寝る場所だって寝やすいベッドで寝るという事もなく、きっと雑魚寝に近い。
さらにこれば『何ごとも無い』場合だ。旅に出るという事は、俺が襲われたことがあるようなあのイノシシ野郎のような奴らに狙われるという事だし、いつ襲われるかはわからない。
さらに怖いのはそういうモンスターとかよりも野盗類。つまりは人だ。
モンスターなどならば、あいつらは俺たちの事を敵かもしくは食事としか認識はしないだろうから、襲って来るかもしくはそのまま退散するかくらいな物。もちろん襲ってくればそのまま戦闘になる。
しかし、相手が人の場合、狡猾な奴らもいるので、相手が退散したからと言って油断できないし、逆にこちらにすり寄るようなそぶりをしている奴の方が怪しい動きをするなんてこともある。
朝起きたら身ぐるみ剝がされて転がっているなんてこともあるというのだから、マイヤたち冒険者の先輩方のいう事はしっかりと聞いて、準備を怠ってはいけないのだ。
そういうわけで、準備をしている段階でもかなり疲れる。
「師匠!!」
「おう!!」
店の裏口を開けて俺を呼ぶリークの声にこたえて、それまで準備をしていた手を止め、厨房の中へと戻っていく。
「ここはどうすればいいでしょうか?」
「おう。ここはだな、この筋をまずは切り離して、この脂身部分を少しそぎ落とすんだ」
「なるほど」
オーク肉の塊を前にして、スライサーへと掛ける前の準備をしっかりと教えていく。三兄弟の中で最近では刃物の扱いにも慣れてきたリークにだけ、切り方などのレクチャーをしているが、ルークとリザもまたその様子をしっかりと見て学んでいる。切った後の部位などを三人で回して見るなど、勉強をする気持ちがしっかりと反映されている事が、俺の今の一番の嬉しい所だ。
こうして、少しずつでも成長をしていく姿を見ることができるのは、親代わりをしている俺的にをすごく嬉しい。まぁ、今の俺は女神様曰く18歳くらいの頃の俺をモデルにしているという話だったから、外見的にはこの三兄弟とあまり変わりはないようにも見えているだろうけど。
「ちがうちがう!! このラーメンは向こうのテーブルだよ!!」
「え!? あ、はい!! すみません!!」
「うん。しっかり見てね」
注文票を見ながらぺこりと頭を下げているのが新たに従業員の訓練を受けているミト。
俺が新たな店の方で働いてくれる店員さんと警備の人を探している時に、冒険者ギルドのマクガ―さんと話す機会があって、その時に若くして未婚のまま亡くなった冒険者の奥さんがいるという話を聞き、行く当てもないという事なので、俺の店にスカウトした。
元々はこのミトも冒険者をしていたのだけど、体調が悪くなって休業をしていて、その時に旦那さんになる人が依頼により亡くなってしまった。
その後にお腹の中に新たな命が宿っていることに気が付き、どうにかできないかとギルドの方でも話題に上がっていたのだ。
他の職場では体に気を付けながら働くなんてなかなかできないだろうし、住む家の事もあるので就職先を探していたのだけど、ウチなら新たな店舗で住み込みで働いてもらうことができるし、決まった日数ごとに休日が設けられているので、ずっと働き詰めになることもない。
何より同じ家の中には、他の従業員も宿舎代わりに住み込んでいるので、1人になるという事も無いから、そのへんも安全に安心して暮らせるだろう。
そういう事で、マクガ―さんにお願いをされるまでもなく、俺の方からスカウトをしたというわけ。
そのほかにも、アライさん達の様に放浪してきた末にこの町に来た人という事で、北の方でラーメンを食べている時にスカウトしたのが、今はアライさんと共にじゃぶじゃぶと洗い物を懸命に片付けている最中のキャロル。
このキャロルは細身に見える容姿だけど、かなりの力持ち。それもそのはずで、アライさん達の耳と同じように丸い耳を持っているけど、尻尾も丸い。そうこのキャロルは熊人族の女性なのだ。
これで、アライさんと一緒に働いてもらうためのスタートアップ人員は確保できた。警備の方もマクガ―さんと連携して北の方と、新たな店舗の方の人員も確保することが決まっている。
なぜ2店舗で警備を雇うのかというと、今回俺が旅に出るとみんなに相談した際に、マイヤたち冒険者パーティ組が俺と一緒に旅先へついていくことになったから。
当初はマイヤたちに残ってもらって、他の冒険者に依頼をしようかと思ったのだけど、現在の主である俺が旅先に出るのに、契約奴隷である自分たちが残っているわけにはいかないからと、俺と一緒に行くことを譲らなかったため、冒険者としてマイヤたちのパーティへ依頼する形をとって実績としてもらうことにし、同行をお願いすることにした。
もちろんそのための依頼料などもしっかりとマイヤたちに収入として払う事になっている。
店の警備の方は、マイヤたちの後輩であるパーティが依頼を受けてくれるというし、その知り合いにも頼むというので快く頼んだのだけど、そのパーティにマイヤたちがかなりプレッシャーを与えていたのを俺は実は知っている。
まぁ、どこにでも縦社会ってあるからね。あまり気にはしないでおいた。
こうして準備は着々と進んでいき、俺が居ないときに使う『かえし』を10日分作り置きし始める。
先に作った分から使用し始めて、しっかり10日分使い果たす感じの量を用意する。麺の湯切りの方法など細かい所も三兄弟とアライさんに教えておく。
今回の旅では予定だと、行きで8日、向こうについて2日、帰りの行程でまた8日と見ているので、俺たちが返ってくるまでかえしは無くなっているしまう計算になっているので、なくなった後は店を休業とし、新たなお店の方の準備に当ててもらう事にする。
店で使う道具類はすでに注文しているので、その前に店の中の動線や、火の回りなどの確認。そして注文の受け答えの仕方などをしっかりと身に着けてもらい、俺たちが帰ってきたときに開店できるようにしておくこと。
そういう感じで考えていると残留組に言うと、新たにもらった使命というわけじゃないけど、三兄弟はぐっと気合を入れて、アライさん達はそわそわと顔を見合わせていた。
とはいえ、俺も初めての旅になるので、俺自身も少しだけ緊張している。
なんとなくだけど、俺の『旅』ってこれだけじゃ終わらないような気もしているけど。
♢♢♢♢♢
「さて……」
「準備はできました……」
まだ少し雪が残るツバサの町。
吐く息はまだ白く、寒さも身に染みる日の出の少し前。俺をはじめとして、今回の旅に出るメンバーと共に、フユが北の方の前に並んでいた。
「じゃぁ、いって来るよ」
「お気をつけて!!」
「行ってらっしゃい!!」
「無事に帰ってきてくださいね!!」
アライさん、そしてミトとキャロルがぺこりと頭を下げる。
「俺が居ない間……頼んだぞ」
「が、がんばります!!」
「任せてください!!」
「しっかりやるよぉ~!!」
リークとルークは少しばかり緊張しているようだけど、リザは相変わらず頼りになりそうだ。
三兄弟の頭をそれぞれになで、俺は馬車へと乗り込んでいく。
「行くぞ!!」
「「「「「はい!!」」」」」
最期に乗り込んだ俺が声をかけると、馬車は静かに走り出した。
お読み頂いた皆さまに感謝を!!
何かを忘れてるぞテッタ!!
それは次話以降にてw
次回
第46話 旅初日
お楽しみに!!




