第44話 決心
我が店『北の方』があるこの地域は、周囲を山々に囲まれている、いわゆる盆地にあり、夏は周囲の山に雲の流れが止められるという事もあって、地面からの照り返しなども影響してかなり暑い。
冬はというと、山によって雪雲の流れがそこまで入ってくることが無いとはいえ、積雪は腰辺りにまで達するほど積もる。
だから冬は外に出て何かをしようとすると、まずは雪かき、雪下ろしをしてから取り掛からないと何もできないというのが実情である。
そのせいもあってか、冬場に野外で仕事をするという人は少なく、どちらかというと、屋内でできることをして過ごしている人たちが大半を占める。
手に職を持った人たちの手伝いをするとか、周囲の人の雪片し、雪下ろしの手伝いをするなどといった具合に、できることをしながら助け合って過ごしてきた。
違うのは冒険者という職種になっている人たちで、この人達に限って言えば、あまりにも大雪、猛吹雪でない限りは外に出て探検する・冒険するというのが仕事であり、魔獣やモンスターが町にやってくることは少ないとはいえ、無いことはないのでそれを駆逐したり、駆除したりすることで、冬の間の町の防衛に手を貸してくれている。
そしてこの冬に降る雪も、多く降ると厄介なものではあるけど、春には雪解け水で土地を潤すもとにもなるのだから、厄介者扱いしているわけにもいかない。
なぜこのような話をしているかというと――。
「おう邪魔するぜ」
「あ、ラウルさんとバルさん。いらっしゃいませ!!」
店のドアが開かれて、数人の人が入ってきたことを確認し、厨房の仕事を再開した所で、ナルミが入ってきたであろう人達に声をかけているのを聞いた。
「テッタはいるかい?」
「はい!! 少々お待ちくださいね。呼んでまいりますので」
と、厨房の方へと歩き出そうとしたところで、厨房から姿を現した俺と、ナルミの視線が交わる。
「いらっしゃい。俺に話ですかね?」
「おう!! その前に飯だ。いつもの4つくれ」
「わかりました」
礼をしてくるりと背を向け、水の入った木製のカップを持ってきたナルミに、今受けた注文を伝えてしっかりとメモに残す。
「塩豚4つ入りました!!」
「「「はい!!」」」
厨房へと入ったおれが声をかけると、中から元気に返事が返ってきて、すぐに行動に移す。すでに慣れてきた三兄弟が心強く感じてきたこの頃は、俺が何か指示を出すという事も少なくなっては来ているが、まだまだ集中力という面では物足りなさも感じている。
ただし、戦力と考えるとかなりの物になっていると思う。
順々に出来上がり、声をかければすぐに持っていくというこのルーティンが浸透して、お店も良い感じにまとまりができてきたし、アライさんもいつもやる気をたぎらせて勉強をしていて、今ではお好み焼きに関してはもう完全に任せてもいいと思えるくらいに手際も良くなっている。
すでにアライさん達がこの北の方で修行を始めてからひと月が経つので、そろそろ頃合いかなとは思っていた。
そこにラウルさんとバルさんが共に店を訪れたという事で、たぶん俺が頼んでいたものが出来上がったか、もしくは出来上がりに近くなったかの報告に来てくれたのだろう。
「テッタ」
「はい?」
塩豚ラーメンを食べ終わり、カップの水を飲みながら、ラウルさんが俺に声をかける。
「もう何時でも入れるぞ」
「え? もうですか?」
「何を驚く。わしらがやっておるのだからあたりまえだろ? そこいらのモンと一緒にするな」
「あははは。まぁそれはわかってますよ」
ラウルさんの言っている事とは、以前フユに「えい!!」としてもらった物件の件である。
あの後ザイツさん達に確認してもらい、簡易図面を引いたものをラウルさんの元へと提出して、そのまま改装と改築を頼んでおいたのだ。もう入れるという事はそれらが完成したという事。
「えっとではバルさんも?」
「もちろんじゃ。ラウルばかりに良い所を取られるのは気に入らんがな。まぁ頼まれたものはしっかりと作っておいた。あとで確認してみるといい」
「ありがとうございます!!」
バルさんに頼んでいたのは、新たな家を改装した後の店舗兼住居で使うものたち一式である。鉄板やヘラなど量はそんなに多くは無いけど、そういう仕事ならバルさんに任せておけば間違いが無いのは、北の方で使っているものを考えれば間違いじゃない。
「何か不具合があったら直ぐに知らせろ。すぐに直してやる」
「はい。では後程確認しておきます」
食べ終わったラウルさん達が席を立ち、会計で食事代を払った後に、当たり前のように次の人へのお金を箱に入れてから、手を振りながら店を後にする。
――さて、そうなると考えなきゃいけないことが増えるんだよな。
今は北の方で働いている人たちも多くはなったけど、店が増えるという事はそれだけ人手がいるという事。アライさんを新たな店の料理長とすることは決まっているけど、それ以外の事、特に従業員に関してはまだ決めかねていた。
「お店が終わったら、少し出かけてくる」
「はい。ザイツ様の所ですかね?」
「それもあるし、その後は冒険者ギルドにも顔を出してくるよ」
「あぁ、という事は……」
後片付けを始めたナルミとフユに今後の予定を話しておくと、ナルミとフユもこくりと頷いた。
♢♢♢♢♢
「――と、いうわけで人が足りません」
「来て早々その話ですか」
商業ギルドのギルド長室内。お互いに対面で座ってはいるけど、俺の横にはいつもの様にフユがいて、俺の後ろにはマイヤがいる。
「あははは。すみません。この冬の間にできる限りのことをしておこうかと思いましてね」
「ん? なぜそこまで急がれるのです?」
「まずはアライさんの働く場所と、そういう方々の一次引き受け場所的なものがあるといいかなと思ってまして、冬場には多くの人が外にはなかなか出られませんけど、そういう期間が長ければ長いほど、困る人たちも出てくると思うと、少しでも早い方がいいのかなと思いましてね」
「……テッタさんはどこでそのようなお考えを?」
「え?」
なんとか自分の考えを簡単にまとめて話したのだけど、それを聞いたザイツさんが眉間にしわを寄せながら真面目な顔をして俺に問い返すので、何かしてしまったのかとフユの方を見る。
フユははぁッと大きなため息をついて、何も答えてはくれなかった。
「どこでも何も……。それくらいは考えられることですよね?」
「いえいえ。そういうお考えはですね、ノイアー様のような地方を治めるお貴族様方が考えるモノなんですよ。それをテッタさんはいとも簡単に口にしてしまうし、それどころかすでに行動に出ようとしていらっしゃる。とても普通の人とは言えませんよ? 本当に平民なんですか? 誰かの隠し子とかじゃないですよね? まさかノイアー様の……」
「いえいえいえ!! ぜ、ぜんぜんそんなことはないですよ!! これっぽっちも!! いや、本当にただの平民ですよ。ラーメン屋を営んでいるという商人というだけです」
「本当ですかねぇ……」
じと~っという視線をザイツさんから受けるので、少し視線をずらしてフユの方を見ると、フユもまたジト~っとした視線を俺に向けていた。
「まぁ、冗談はさておき」
「冗談なのかい!!」
「半々ですね」
「半分は本気なのかよ!!」
突っ込みを入れると、ザイツさんも目元を柔らかなものにしてクスリと笑い、それにつられて俺も笑う。
「さて、人手の事ですよね? テッタさんの考えでは、北の方に来られる『次の人』を雇いたいというわけですね?」
「まぁ、そういう事にはなるんですけど、でもそうなると防犯の事などもやっぱり考えないといけないですよね?」
「そうですね。でもそのへんは以前もしていらっしゃったように、冒険者の方に依頼するという事も出来ますからね」
店の中で起きそうな防犯に関しては、確かに冒険者に頼むというのが簡単な話ではある。そういう荒事に長けているものも中に入るので、何度か屋台をしていた時に頼んだこともあるし、そういう関係で顔見知りになった人も結構いるから頼みやすい。
「まぁ、あとはやっぱり奴隷……ですかね」
「あぁ、ほらやっぱりそういう話になりますよねぇ……」
そうでなくても今は俺の周りに6人の奴隷契約の人達がいるのだ。毎月マイヤを始めとした契約者には給料を払っているので、そこから返済をしているはず。なのであまり長くはいることはないと思うが、フユに関しては借金奴隷というわけではなく、俺との契約なので、終身雇用と同じ状態といってもいい。
いつでも解除することは可能なので、フユに言ってはいるけど、首を縦に振ることなく、逆に「お邪魔ですか?」なんて、ウルウルとした瞳を向けられると、どうしても邪魔じゃないと返事をしてしまう俺がいる。
まぁ、そういうこともあり、今は奴隷を――という考えは持っていない。
でも、契約で縛られる点で言えば、奴隷という選択肢もなくはないといったところ。
「お急ぎでないのなら、次の人が来るのを待つという手もあると思いますけど」
「あ、いえ、その少し考えていることがありまして」
「考えとは?」
「雪が溶けたら旅に出ようかと思ってます」
「「「え!?」」」
三人が同時に驚きの声を上げる。それに苦笑いしつつさらに言葉をつづけた。
「だから、暖かくなる前には任せられるようにしたいんですよ」
そう。ここ数日ずっと考えていた。タッケーが自生する場所まで、少し旅をしてみるのも悪くはないなと。この世界に来てから、あまり遠出というものをしたことが無い。というか町から出ることもほとんどなかったので、この町の外、いやこの世界を見て周るのも悪くないよなって。
『旅ですか!? いいですね!! あぁ~温泉で疲れ取りたいなぁ~』
久しぶりに脳内に響く声。
その声を聴きながらくすりと笑いつつ、決心を固めた。
雪が解けて暖かくなったら。旅に出てみよう。
――そう考えていたのだから。
お読み頂いた皆さまに感謝を!!
町を出る!!
ちょっとの間だけどね。
次回
第45話 出発
お楽しみに!!




