第42話 前払い
※いつもよりちょっと長いです(;^ω^)
オコメについて気になるとはいえーー。
毎日の営業は待ってはくれないのだ。毎日朝早くから起きて仕込みをこなし、その日のスープの量を決めているわけだけど、実はただ毎日同じ量のスープを作っているわけじゃない。
寒くなりそうなときは、多くスープを作るし、少し暖かめになると思ったら少しばかりだが減らしている。
冬場なので、温かいスープのラーメン系が良く出るというのは変わらないけど、あまり寒く感じない日というのも意外にあるので、そういう日は焼きそばなども出ることが増える。
そうなると温かいラーメン用のスープが残ってしまうという事もあるので、上手く調整しているのだ。
材料費もばかにならないので、仕込みの時点で無駄を省く工夫もしている。
こういう時に頼りになるのが、ナルミや、新たな従業員となったアライさんの二人。どういうわけかわからないけどこの2人は次の日の天気や、その日の天気をある程度予想することができるのだ。
聞いたところによるとだが、獣人というのは特徴的にというか、そういう『勘』というモノが備わっているらしく、髪の毛や尻尾などの毛におおわれている部分の水分などによって、その勘というものを補っているみたいだ。
ナルミは冒険者だったという事で、そういう能力がかなり役にたっていたと、ひとしきり自慢されたのだけど、実際にいくら冒険者とはいえ、大雨の中を歩いたり、雪の中を走ったりするとなると、体力などの消耗が激しくなるのと、集中力の保ち幅が全然変わるらしい。
そのあたりは自分でも経験してみない事にはわからないので、後々俺も雪の中を走るという事を経験したけど、自分が思っている以上に大変だった。
元の世界では雪国として知られている地方に住んでいて、雪が多く降るしつもりもするが、その中を走ったりするなんてことはあまりしない。
というか、雪の中をタダ歩くだけでも、経験していないとかなり体力を消耗するから、むやみに自分から体力を消耗するようなことはしないのだ。
しかし、冒険者とは、その雪の中を重い装備をしたまま歩いたり走ったり、はたまたモンスターなどに襲われたら戦うなんてこともしなくちゃいけない。
そう考えただけでも、自分にはできないなと思い至ったわけだ。
「何かありましたか?」
「ん? あ、いや……」
そんなことを考えながら、次の日の仕込みをしていた夕方の営業終わり。隣で洗い物を片付けていたフユに声をかけられた。
「俺が冒険者だったらなぁって事をな……」
「あぁなるほど。この天気ですからね。なかなか冒険者の方以外の皆さんは、外で活動するという事も控える時期ですからね」
「やっぱりそうなんだな」
「はい。でも緊急事態の時はちゃんと皆さんお仕事に向かわれますけどね」
どんぶりをきゅきゅっと音を立てながら拭くフユ。
「まぁでも、俺なんかが冒険に出ても足手まといになるだけだろうしな。そんなことになるのなら、腹をすかせた奴らに腹いっぱいうまいものを食ってもらう方に回った方がいい」
「まぁ、人にはそれぞれ向き不向きがあると思いますので……」
「お? うまくかわしたな?」
「えへ? 何のことでしょうか?」
とぼけるフユに無言の圧をかけ、それにこらえきれず互いに笑いあった。
――しかし、そうも言ってられないかもしれないんだよなぁ……。
俺の心の中では、別な考えも浮かんではいたのだ。
♢♢♢♢♢
「エサかぁ……」
「ん? あぁ、またソレですか」
自分の机の上に出した小さな袋。煤けていたり、ところどころほつれていたりするその袋の中には、少量の粒が入っている。
営業が終わり、仕込みも終わって、みんなで夕飯を食べた後、俺は一人書斎に着て、その袋の中の物を取り出していた。そこにお茶を入れて運んできたフユが声をかけてきたという所。
「フユはコレの事を知ってるか?」
「そうですね。私の住んでいた地方では、アライさんが仰っていたように、家畜の餌としての流通が主な使用用途でしたね」
「ふむ。ではこれを栽培しているという事か?」
「いえ、餌用に栽培しているという事はなくて、自生しているものがほとんどだったはずです。実も入って入るのですけど、味が無いという事で、あまり使い道が無いとされていた植物ですね。ですが、自生する量が多く、実も多く取れるので人が食べるというよりも家畜の餌として取っているというのが現状でした」
「そうなのか? もったいない……」
「え? もったいない?」
「ん? あぁ、だってこんなにおいしく食べられるものを人は食べてないんだろ? もったいない以外にどういえばいいんだ?」
「おいしく食べられる? オコメをですか!?」
「え? そ、そうだが……ちょっとどうしたフユ」
俺が発した言葉というよりも、話を聞いたフユが少し考えだした。
「テッタさんは御存じないかもしれませんが……。このオコメが一つの原因だったと聞いています」
「なんの?」
「その……。この国が獣人族の人達の国を治めることになった要因がです」
「はぁ?」
このオコメという植物は、獣人の皆さんが住んでいた元の国では多く自生していたらしい。多くあるからと言って、それを栽培して増やすという考えが無かった当時の獣人族のお偉いさん達は、有る程度まとまった量が取れて栽培も広めやすい麦を国に広めることに決め、アイーヅ王国へと栽培方法などを聞くことで、知識というものを輸入することになったわけだが、栽培が成功するにしたがって、アイーヅ王国の功績が大きくなっていき、それが一つの引き金になっているという。
「で、それまで自生していたお米を餌にという事か?」
「はい。もともとあまり食べる用途で採っていたわけではなかったので、そのまま家畜の餌としてのオコメという概念がそのまま残った形ですね」
「もったいないというかなんというか……」
「でもおいしくなるんですよね?」
「なるにはなるが、量が無い事にはどうにもできないぞ?」
「……ザイツさんはどのように?」
このオコメが見つかり、アライさんに家畜の餌として説明してもらった後だが、俺はこれをもってザイツさんの元を訪れていた。
「家畜の餌として、流通自体は普通にしているみたいだけど、基本的に人が食べるようには売ってはいないみたいでな。量が欲しいというなら取り寄せできないことはないとは言われた」
「ではお取り寄せするのですか?」
「どうしようか迷っている……」
これが俺が思っているコメであるならば、食卓が豊かになるだけではなく、もしかしたらアレが作れるようになるかもしれない。かといって、それのためだけに輸入したり取り寄せたりするというのは、先に『必ずできる』という保証が無い限りは、かなり踏み出す勇気が必要になる。
個人で仕入れられる量には限界があるだろうし、今それをどうにかできるような体制ができていない。
「今は、無理だろうな……」
そうして、このオコメに関して悩む日々が続いていく。
♢♢♢♢♢
「で、どうなりましたか?」
「え? あぁ、オコメの件ですか?」
忙しくなってくるお昼になる少し前に、お昼ご飯を食べにやってくることが多いザイツさん。
珍しく、ご領主様ご一家とラウルさん、そしてバルさんというメンバーで北の方へと訪れていた。
「ん? オコメ?」
「えぇ。少し前に払い下げされたお屋敷の倉庫から見つけたものですよ」
「あぁ、報告にあったな」
「…………」
ザイツさんの問いかけに返事をした俺。それに反応したノイアーさんが顔を上げて話に食いついた。
ラウルさんとバルさんはズルズルとラーメンをすすっているので、聞いているのかどうかわからない。
「で、オコメがどうしたんだい?」
「いえね、テッタさんがお取り寄せできるのかとお聞きになられてきたので、その後どうするのかという事をお聞きしようかと」
「ほう? オコメをテッタさんがねぇ。何に使うんだい? あぁ、自分で家畜をそだてるとかかな?」
顔は笑っているけど、目が笑ってないノイアーさん。
「いえいえ。食べるんですよ」
「……は? 食べる? 誰が?」
「え? 俺が? いや、俺たちが……かな?」
ノイアーさんとザイツさんが顔を見合わせる。この話にはラウルさんもバルさんも興味が有ったらしい。顔を上げて俺の方を2人も見つめる。
「……とはいえですね、どうにかできるかは現物を見ない事にはわからないんですけどね」
「なるほど……あれを食べる……か。面白いな」
「あ、その顔は……」
にやりと笑うノイアーさんを見て、何かを悟ったザイツさん。
「食べるときには私も誘ってくれるかい?」
「え? あ、いやでも、家畜の餌ですよ?」
「だから面白いんじゃないか!! それにテッタさんが作るんだろ? ならさらに面白くなりそうだからね」
「やっぱりそうなりますか。はぁ~」
うきうきなノイアーさんとは対照的に、ザイツさんはため息をついた。
「さて、腹も膨れたことだし、そろそろ仕事に戻るとするか」
「はい。そうですね」
四人が席を立ち、ぞろぞろと店から出ていこうとすると、オリバーさんが現れて、ノイアーさんに視線を向けてお会計の方へと歩いていく。
そうしてオリバーさんがノイアーさんの元へと戻ると、「また」と手を上げて去ろうとするノイアーさん。しかし俺の横にいつの間にかいたフユが声をかける。
「あ、あの!!」
「ん?」
「お、お声がけ申し訳ありません!!」
ぺこりと頭を下げるフユ。
「どうした?」
こうしてフユが自分よりも身分が上の人に自分から声をかけることは、この店の店員さんだから珍しい事ではないが、少し慌てている様子がうかがえたので、俺も声をかける。
「うむ。聞こう」
「あ、ありがとうございます!!」
再び頭を下げて、スッと頭を戻した時、フユは一緒に両手も添えていた。
「そ、そのですね、さ、先ほどオリバー様からお支払いをしていただいたのですけど……」
「ん? 足りなかったのかい?」
ノイアーさんがオリバーさんの方へ視線を向けると、オリバーさんが首をかしげる。
「い、いえ!! た、足りないのではなく、お、多いのです!! ですので、お釣りをお渡ししたいのですが、オリバー様が受け取ってくださらなくて」
「あぁ、なるほどな」
合点がいったという感じに深くうなずくノイアーさん。
「それはね、それで間違ってないのだよ」
「で、でも……」
フユが困った顔をして俺の方を向く。
「えっとノイアーさん、どういうことですか? お釣りなのですから受け取ってもらわないといけないです」
「それはね、みんなが聞いているからちょっと言いづらいのだが……」
店内を見回してから、ごほんと咳払いをすると、奥様の方に視線を向け、子供たちにも向け、最後にオリバーさんに視線を向けてこくりと頷く。
「それはだね、私も何かしないといけないと思ったのだよ」
「え?」
スッとノイアーさんがお店の手伝いをしているアライさんへと視線を向けてにこりと微笑む。
「今後も彼女たちのような家族や困っている人が来たら、その助けにしてほしいと思ってね。その人たちが食べるモノの前払いって事さ」
「あ……そういう事ですか……」
ウインクするノイアーさんの考えている事を悟ったおれは、静かに頭を下げた。
「うん。じゃぁまたねテッタさん。それはよろしくね。あとはオコメの件だね。楽しみにしてるよ」
今度こそまたねと言いながらお店から出ていく。
――なんというか、さすがだなぁ~。
きっとノイアーさんはそれがどのように使えとか多くは語らない。でもきっと、その暖かさは皆に伝わっていると思う。
こうしてこの日を境にして、『北の方』では、余裕がある人が『次の人の分』を多く払っていくという、優しい『前払い』が出来上がったのだった。
お読み頂いた皆さまに感謝を!!
書いてたら切る所が無く、中途半端になるので続けて書いたら長くなっちゃいました(;^ω^)
次回
第43話 便利だな魔法!!
お楽しみに!!




