第39話 思い付き
「……」
「……」
「……」
誰も何も話さず、親子三人が咀嚼する音だけが静かに店の中に聞こえている。
「うぅ、うっ……」
「お母さん……」
急に下を向いたアライさんを心配するラス。何かしたのかと俺をにらむカル。
「ど、どうしました? な、何か食べられない物とか入ってましたか!?」
慌てて駆け寄る俺を警戒するカル。
「か、カル、大丈夫よ。すみませんちょっと……」
「何です?」
「あまりにもおいしいものですから……」
「え?」
「こんなおいしいものは初めて食べたものですから。それに子供たちにも食べさせることができて嬉しいのと同時に悲しくなっちゃって……」
「……ゆっくり食べてくださいね」
「はい」
何度も頷くアライさん。
俺とその場にいたみんなで、三人が食べ終わるのを静かに優しく見守っていた。
「ごちそうさまでした。本当においしかったです」
「お粗末さまでした」
「あの……」
「はい?」
おそるおそるという感じに、俺に視線を向けるアライさん。
「本当によろしんでしょうか?」
「何がですか?」
「私たちは見てもらった通り、何もお返しができないんですけど……」
「あぁそんなことですか……。ソレは気にしなくていいですよ。ただの賄ですからね」
「でも……」
じっと俺を見つめるアライさん。母にしがみつくようにして俺の方を見る子供二人。
「まずは、どうしてそのような状況になったのか話をしてくれませんか?」
「えっと……そ、そうですね。わかりました……」
それからアライさんが俺の店に来るまでにあったことを話してくれた。
正直に言うと、結構胸糞悪い話だ。
獣人の方々の国が今現在俺たちのいる国に吸収され、今の形になったという事は知ってはいたが、なぜそうなったのかはあまり知らない。
アライさんは小さいころにその吸収併合を経験したそうで、それから人族による管理という名の虐待にも近い扱いが始まったそうだ。
本来の吸収併合・合併の目的は、獣人族の国の肥沃さと、人族の先進的技術を互いに持ち寄り、前進する事だった。
しかし、人族はいつの間にか『自分たちが教えている身』という、目上から見てしまうようになり、獣人族の人たちは力こそ人族より勝るものの、人族の狡猾な管理世界についていけなくなったことで、次第に肩身の狭い状況へと追い込まれていく。
アライさん親子も、最初こそ生まれた町で細々と生き抜いてきたけど、だんだんと人族の締め付けが厳しくなり、それに反発する人達による反抗が勃発。
自分たちのためというか、これから生きていくことになる子供たちのために立ち上がったのだが、先進的な技術と武器により早々に鎮圧された。
その反抗していたものたちの中に、アライさんの旦那さん――クマノさんというらしいが――も参加していたのだが、戦いの中深い傷を負ってしまい、看護の甲斐もなくそのままお亡くなりに。
男手を失ったアライさん親子は、親戚や仲間を頼ってさ迷い歩いているうちに、路銀も尽き、もういつ死んでも良いとさえ思うようになったものの、いい匂いに釣られるようにして歩いてきた先が、俺の店の裏手であり、そこを三兄弟に発見されたという事みたい。
「なるほど……」
話を聞いた俺が、その場にいたみんなへと視線を向けると、同じような経験をしてきたのか、俯いている者や泣いている者の姿が目に入った。
「おいしい食事を最後に食べることができて良かったです。本当にありがとうございました」
「え? どこに行くおつもりで?」
椅子から立ち上がり、ぺこりと頭を下げたアライさんが、子供二人を連れて外へと行こうと歩き出す。
「いえ、このままこちらにいるわけには……」
「ちょっと待ってください」
その三人の背中に声をかける。
「アライさんって料理はできますか?」
「え?」
「ちょっと考えていることがあるんですけど、少しばかり人手が足りないんですよね。なのでもしアライさんさえよければなのですが、俺の店を手伝っていただけませんか?」
「えっと……」
話を振られたアライさんは子供たちに視線を向ける。子供たちも不安があるのかお母さんの課を見つめている。
「もちろん、子供たちも一緒にですよ。このお店の二階に一緒に住んでもらって構わないので」
「え? 住み込みですか?」
「あ、もしかして嫌です? なら少し考えて……」
「い、いえいえいえ!! そうではなくて、ここに住んでも――ここで働かせていただけるんですか?」
こくりと頷く俺を見ると、その場にペタンと座り込んでしまう。その両側から包み込むようにして抱き着く子供たち。
「テッタさんどうなさるおつもりですか?」
「もともと考えていたことがあるんだ」
この後どうするのか心配になったのか、フユが声をかけてきた。
泣いてしまっているアライさんが落ち着くまでみんなで待ち、その後に風呂を沸かすように指示を出し、三人に入ってもらっている間に、できる限りの事をする。
休んでいた所を悪いけど、奥にいたメンバーに声をかけ、ラウルさんの所へ呼んできてもらうように走ってもらうと、何故か戻ってきた中にザイツさんもいらっしゃって、ラウルさんと一緒に駆けつけてくれた。
「おうどうしたテッタ」
「あ、ラウルさん……とザイツさん?」
「こんばんは」
店に入るなり俺に声をかけるラウルさんとザイツさん。
「今度は何をしたんんだ?」
「何ですかその俺が何かしたという前提の聞き方は」
「テッタだからなぁ……」
ガハハと笑うラウルさんの隣で、ザイツさんもこくこくと頷く。
――そんなに何かをしてるってわけじゃないんだけどなぁ……。
二人の反応に納得できず、頭をかしげていると、さらに二人顔を見合わせて笑い声をあげた。
「さて、本当にどうした?」
「ザイツさんがいてくれるのはちょうど良かったかもしれませんね」
「ほう?」
「私にも何か関係がおありですか?」
先ほどまでのいきさつを2人に軽くはなし、これから俺がしようとしていることを相談する。
「なるほどな……」
「ふむ。面白いお考えですね」
「どうでしょうか?」
話を聞いた二人が考え込む。
「わしの方はできるだろうし、バルのやつに話をすればすぐに手を付けてくれるだろう。しかし問題は――」
「そういう類の事は私の担当ですね。しかしそうなると屋台で――というわけにはいかないでしょうね。しかもそれは哲太さんの資金からだけで運営していくことになりますから、このお店の件も踏まえると……」
「ですよねぇ……」
三人で顔を見合わせてうんうん言いながら悩む。
しばらく三人であれでもないこれでもないと考えていると、店の前に人影がある事に気が付いた。
すぐにマイヤたちが警戒に入り、入り口の前に立つと、声をかけた。
「どなたですか? もうお店は閉まってますが」
「あぁ、それは知っているさ。そろそろ私が必要なんじゃないかと思ってね」
「え?」
そんな会話が聞こえてきたが、その声には聞き覚えがあった。
「まさか……。マイヤ。開けてくれないか」
こくりと頷き、マイヤが入り口のドアを開ける。
「やぁ。お揃いだね」
「やっぱり」
ドアの前には手を上げてにこりと微笑むノイアーさんと、その後ろで静かにたたずむオリバーさんの姿があった。
♢♢♢♢♢
「相変わらず、お耳が早いことで」
「ん? 情報は大事だよ?」
俺たちと並んで顔を合わせるように座ると、ザイツさんがため息をついてノイアーさんに声をかけた。
「それで、どうしたいんだいテッタさん」
「うぅ~ん」
未だまとまっていない考えを話してもいいモノかどうか迷っていると、ラウルさんは好きにしろと目で合図をしてくる。
「実はですね、こういう事を考えているのですが」
頷いた俺は、三人でしていた話をノイアーさんに説明を開始した。
「なるほどね。それでその『お好み焼き』とは? 実物は無いのかい?」
「……出来ないことはないですが……」
「ならば実際に見て、食べてから考えようじゃないか」
「ただ食べたいだけじゃないですよね?」
「な!? そ、そんなことはないぞ?」
ジトっとした視線を三人から受けるノイアーさんは、少したじろいだ。
「材料などもどのようなものが必要なのか考えねばならんだろ?」
「え?」
「何を驚く。そのための試食だろう?」
「まさか……」
ノイアーさんの言葉に驚く俺と、何かを察したザイツさん。
「まぁ、実物を見てからになるが、その話に私も乗せてもらおう」
こうして俺の『思い付き』に、この町の最高権力者までが加わることになった。
お読みいただいた皆様に感謝を!!
結構ひどいみたいですが、どうするテッタ!!
次回
第40話 何とかなりそうです
お楽しみに!!




