第33話 ラーメン店『北の方』
ぱんぱん
居住域となっている執務室に、簡易的な神棚を作ってもらい、そこに毎日お水などをお供えしているが、今日はちょっと違う。
どんぶり(小)を三つ、ようやく自分の納得する味になったので、それをお供えしたのだ。
以前に教会内での出来事があり、いつかはお供えをしたいと思っていたのだが、自分の生活基盤を整えることに一生懸命で、なかなか料理する事さえもせずに生きていた。
周囲に支えられあれよあれよという間に、一国の主的にお店を持っている今なら、自分がしたい、作りたい、そしてお客様の『うまい!!』が聞きたいという、その気持ちを素直に出すことができるように思える。
「パリピュア様、そして姉妹の御二人とも、遅くなってしまいましたがこれが、俺の作ったこの世界の喜多方ラーメンです。ご賞味あれ……」
手を合わせて願い、スッと目線を上げると、そこにお供えしておいたどんぶりが三つ消えていた。
『ありがとうございます!! 嬉しいですぅ!!』
『あ、コラ一人で食うな!!』
『ダメよぉケンカしちゃ』
いつもの様に俺の脳内に声が聞こえてきたが、パリピュア様だけではなく、聞きなれない女性の声も混じっている。
――姉妹の声かな?
仲がいいんだなと、心が少しほっこりとした。
♢♢♢♢♢
さて、本日は待ちに待った『北の方』開店初日である。
前もって、周囲のお店や民家には開店を知らせるお知らせとともに、人の混雑も予想しているのでご迷惑がかかるかもしれないとあいさつに回っていた。
この世界では、挨拶周りという習慣がないためか、頭を下げてくれる人、いぶかしむ人など、少しばかり緊張をする場面もあったが、おおむね皆さんがいい方向にとらえて頂いたようで、最後にはお店に顔を出してくれるとまで約束してくれる人も出た。
あとは開店までお世話になった冒険者ギルドや、商業ギルド、ラウルさんやバルさん、制服の仕立て屋さんなどにも顔を出し、開店をアピール&お礼行脚を敢行。最後に御領主様の所へも行こうと思ったが、さすがに一般人の俺なんかがいきなり行っても会えないよな? と思い思案していると、オリバーさんが現れて領主館へ強制連行。そのままノイアーさんたち家族にも報告した。
話の中で『食べに行く』と言われたけど、さすがに御領主一家が来るはずもないと思って油断していたのは仕方ないと思う。
「……なぜここにいらっしゃるのですか?」
「食べに来るといっただろう!!」
「ごめんなさいねテッタさん。この人が初日に絶対に行くときかなくて。でも実は私も楽しみなんですよ」
「楽しみです!!」
暖簾代わりのカーテンを上げようと表に出ると、寒空の中、白い息を吐きながら一番前に並んでいるご領主ご一家がいらっしゃった。
「待ったでしょう?」
「そうでもない」
「ご家族様だけでいいんですか?」
「かまわん」
お店は日の出の前から仕込みを始めていたので、すでに温かいが、店の外はかなり寒い。
通常は10時開店予定だが、開店初日の今日だけ9時とお知らせしていた。その結果、ご領主様家族だけじゃなく、お店の前には並んでいる人も結構な数がいた。
そしてその列の後方、俺たちに見えないようにして護衛の騎士たちの姿もうかがえる。
「で、では!! お待たせしました!! 本日今から、ラーメン店『北の方』開店です!!」
俺が横へとよけると、すぐにノイアーさんを先頭にご領主様ご一家が店内に足を運ぶ。
「「「「「いらっしゃいませ!!」」」」」
同時に店員みんなから掛け声が飛んだ。
「おぉ……」
「すごいわ……」
「かっこいい!!」
それぞれが何かを、感じた様子で、ナルミが席へ案内する。
「テ、テーブルがよろしいですか? カウンターもありますし、お座敷もありますが」
「座敷というのは?」
「はい。このお店独自の食事方法で、こうして靴を脱いで上がり、その場に座ってお食事をしていただく場所になります」
「なるほど……珍しいな」
最初はご領主一家だという事で緊張していたナルミも、練習していた通りにうまく案内する。
その後ろではフユが新たなお客様を呼び込み、席の要望を聞いていた。
――うん。何とか大丈夫そうだな。
そう判断した俺は二人に視線で合図を送り、厨房へと入っていく。
それから、怒涛の初日が始まったのだった。
「うまい!!」
「しゃきしゃき!!」
「シュウマイと一緒だとすごくおいしい!!」
記念すべき開店一品目はご領主一家へと行き届き、皆様が絶賛の声を上げてくれた。
それを厨房から聞きながら、どんどん入る注文の品を捌いていく。
途中で用意していたトッピングがきれ、急いでリークとルークに切ってもらい、リザはフル回転で盛り付けを行う。
俺が狙った通りに、外の屋台でシュウマイを買ってきた人も多く、側で旨そうに食べるものを見て追加注文してくれるお客さんも多かった。
当初は箸の扱いに戸惑いも見えたが、ラウルさんたちが顔を見せうまく箸を使いこなしているのを周囲の人も見て、次第にフォークではなく箸を使って食べる人が増えた。
そうなると洗いものなども多くなるのだが、シュウマイの警備に回す予定だった二人のうちの一人を洗い場専門として店に入れ、何とか回せるように。
それが、この日のために用意したスープが無くなるまで続いた。ある程度は人の波を考えて、午前中と午後にスープを作り置きしたのだが、それでも間に合わず、当初の閉店予定だった午後の7時よりも前、午後3時に完売と相成った。
「ふぁぁぁぁー!!」
「つかれたぁ……」
「だいぶ……動きましたね」
誰もいなくなった店内。すでに入り口には閉店の札がかかっていて、シュウマイを打っている屋台だけがまだ稼働している音を立てている。
店内の座敷で思いっきり足を延ばしながら、おれたち店内組は疲労を感じてめいめいに休憩を取っていた。
あまりの疲れに三兄弟はすでに船をこいでいる。
「かなり人が入ったな」
「予想以上でした」
「それでも入りきれずに帰っていくお客様がいらっしゃって、なんだか申し訳なくなりましたね」
「確かになぁ……」
スープがなくなってしまい、この日の終了を告げると、残念そうな顔をして去っていくお客さん達。話題の新しい料理が食べれなかったからと、改めてシュウマイの方に並んで買っていく姿を見て、この先どうしようかなと思う。
「反省点も多いな……」
「ですねぇ」
「ミスも多かったですし……」
注文を間違える、出す相手を間違える、お釣りを間違えるなど、細かいミスも多くあったのは事実だ。しかしこれが実践だから仕方ないことでもある。
店員教育の時は、人数がそこまで多くは無かったので、店内に多くの人がいる中での運営をした経験がないから、ある程度の予想はしていた。
「反省は次に活かせばいい」
「はい!!」
「そうですね……」
今日は物珍しさが先行していて、とりあえずは『食べる』ことが優先だったから、そこまでの混乱はなかったが、この先、それだけが目的で来るとは限らない。
外に並んでくれた人たちにも、何か考えないといけない。
もしかしたら警備に回していた人員を一人、そちらに回すことも検討する。
「さて……」
「?」
「どうしたのですか?」
疲れた体を少し伸ばし、立ち上がると、ナルミやフユ、みんなの視線が俺に集中する。
「腹減ったろ? 飯にしようか」
昼休憩を取りながら、回せる余裕がなかった今日は、みんなお昼も食べずに頑張っていた。
それが気が抜けたと同時に、急に体が空腹を訴えるようになる。
「簡単なものにするか」
「お手伝いします」
俺の後ろをフユが付いてきて、俺の手伝いをしてくれる。
スープがないからラーメンは作れない。少し考えてからメニューを決める。まずは麺を人数分茹で、その間に焼き豚を細かく切り、ネギも切る。
熱したフライパンの上にラード、ネギ、焼き豚を入れ少し炒める。そこに茹で上がる少し前の状態で麺を上げ入れて、かえしを少しだけ入れ混ぜながら焼いていく。
好みでジャペッパをかけてもいいし、ラー油をかけてもいいほどの味に調えて、皿の上に乗せて完成。
「できたぞ」
「はい!!」
皿に盛られたものをフユが持っていく。待っていたみんながそれぞれのさらに取り分けた。
「主、これは?」
「ん? あぁ、まかない料理だが、簡易版塩焼きそばかな?」
「塩焼きそば……」
マイヤが興味津々に聞いてきて、フユは感心した声を出す。
「さ、まずは食べようぜ」
「いただきます!!」
「「「「「「いただきます!!」」」」」」
俺が食べる前に言っていた言葉と仕草が、いつの間にか浸透していて、今では言わない方が珍しい状態になっている。
――ようやく始まったな……。
まだまだコレが完成形では決してない。本当にこの世界で使える材料で作った『簡易版』のラーメンでしかない。
これから先、もっといろいろと試して、この世界で喜多方ラーメンらしさを出していこう。それが、今の俺ができることだから。
『応援してますよ!! できたものはお供えしてくださいね!!』
俺の脳内に、聞きなれた鈴の音のような声が聞こえてきた。
お読みいただいた皆様に感謝を!!
やっと開店しましたねぇ。
まだまだラーメンを作っていきますよ!!
ようやくこの作品の『タイトル回収』回までたどり着きました!!
そうなんです!! この33話で正式にお店が開店したという事で、ラーメン店北の方『始めました』が回収されたことになります。
ちょっと長かったですかね? w
次回
第1章 最終話
第34話 次へ
お楽しみに!!




