第32話 看板
そろそろ初雪の便りが届いてもおかしくはない気候になってきた、俺が現在暮らしているクラーメン領。
冬期間前の準備として、薪や食料保存などをしていくのだが、我がお店『北の方』はというと、あと2日ほどで改装も完成するという所までこぎつけていた。
当初は客役として依頼していた冒険者たちにも、最近はあしらう事を覚えたナルミとフユ。
接客も、対応も、品出しも、注文聞きも、会計まで一通りこなせるようになったので、店内の事に関しては安心していられるようになった。
シュウマイ班の子供たちだが、さすがに冬期間の間ずっと中央広場で店を出すという事が躊躇われたので、週一程度は広場で、それ以外は北の方の前で店を開くことにしてもらった。
そうすることで、子供たちの安全面や、いざとなったらお店の中に保護できるという状態も作れるし、警備の人も増えることでできる範囲が広がる。
何より、近くで子供たちの様子を見ることができるというのがメリットだ。デメリットとしては、我が店の前まで来てもらわないといけない点だが、このお店の立地的にも、この町に着て出していた当初の場所よりも人通りもあるので、あまり心配はしていない。
で、そんな中で俺がしている事というとーー。
「テッタさん」
「ん?」
「これは?」
「あぁ、新しいメニューの試しだな」
厨房の中、テーブルの上に並べた品々。
一つは以前に作った塩ラーメンだが、それ以外にも2種類を用意した。
「皆にいきわたるかはちょっとわからないが、とりあえずみんなで試食してみてくれないか?」
小さく小分けされていくラーメン。それぞれが手に持っているのは箸である。あれから我が店では箸を使う事に決め、店員みんなが箸の使い方を学び、現在ではみんなが箸を上手に使えるようになっている。
箸が使えるようになると、フォークよりも使い勝手がいいと評判になった。
店の中も、客席テーブルとカウンター席にはそれぞれに箸立てを設置し、ラウルさんに頼んで作ってもらった箸が入っている。
当初は割り箸を作ってもらう事を考えていたのだが、コストを考えて洗いまわしで使うように変更した。もちろん最初は使いづらいだろうからフォークも別で作ってもらっている。
「ん!! このシャキシャキ感いいですね!!」
「上にかかってるのはラー油ですね? うまい!!」
「お肉が多くて得した気分になりますぅ~」
「なるほど、一つの味でこれだけのものが……」
アンドレが細長く切ったネギを持ち上げ、マイアがラー油のかかったネギを頬張り、リザが幸せそうな顔を見せ、フユはバリエーションに驚いている。
「どうだ?」
一通り、みんながそれぞれの種類を食べ終わったのを見計らい、皆を見回しながら声をかけると、みんな幸せそうな顔をするので、いけそうだなと確信した。
「それでだ」
「何ですか?」
フユが俺の声に反応して返事を返す。
「店の前でシュウマイを売るわけだが、それは冬期間だけにする。慣れてくれば変わるかもしれないけど、当分は変更しない。で、シュウマイだが、外で食べるというのも忍びないから、店の中で食べてもらうのもありとすることにするよ」
「持ち込みを許可すると?」
「あぁ。でもな、ただ許可するわけじゃないぞ?」
「そうなんですか?」
「もちろんだ。狙いは相乗効果だ。自分の隣や周りで温かそうなものを食べているのを見れば、一緒にラーメンを食べたくなるひともきっといる。だから相乗効果を狙う」
フユだけでなく、そのほかのメンバーも皆がこくりと、頷いた。
「おう邪魔するぜ」
「あ、いらっしゃいませ」
みんなが食後の休憩を取っていると、店の前に出していた暖簾代わりのカーテンをひらりとまくって、ラウルさんが店の中へと入ってきた。
どかどかと入ってくると、俺の顔を見てにこりとと笑い、近くの椅子を引いて座る。
「今日はどうしました?」
「あぁ……。なんだか旨そうな匂いがするな……」
「え? あぁ今、試食をしていた所なので」
「食わせろ」
「……時間かかりますよ?」
「待ってる」
それだけ言うと、腕組をして目を閉じるラウルさん。
と、ここで俺はある事をひらめいた。
「わかりました。おいみんな!! お客さんだぞ!!」
「え? あ!! はい!!」
「いらっしゃいませぇ!!」
俺の声にいち早く反応したのは、接客担当のナルミとフユ。俺と厨房担当の三人は急ぎながらもゆっくりと中へと入り、準備を始める。
「ご注文はお決まりですか?」
「注文だと?」
「はい。こちらに……」
「どれどれ……。ほう? 種類があるのか?」
「はい」
フユが注文を取りに向かう。メニューはあらかじめ板に書いておいたのだが、メニューが増えた先ほど、みんなに手伝ってもらい追加して書いてもらった。
「この塩ラーメン? というのが料理か?」
「そうです」
「ふむ……。ちょっと待ってろ」
そういうと、いったん外へと出ていき、外で何やら話した後に、数人の人を連れて戻ってきて、ラウルさんと同じテーブルに座らせる。
「い、いらっしゃいませ!!」
「おうすまねぇ。人数を増やしちまうが、全部食べてみたいんでな」
「い、いえ。では全種類注文という事でよろしいですか?」
「おう。この塩ラーメンっていうのは2つ頼むぜ」
ぺこりと頭を下げたフユ。そしてカウンター席と会計の傍で立ち止まる。
「塩ラーメン2つ、ネギ塩ラーメン1つ、塩焼き豚ひとつです!!」
「はいよ!!」
「「「はい!!」」」
注文を聞いて、俺たち厨房組が動き出す。
麺をそば茹で窯にセットしてある『てぼ』にいれ、茹で始めるリーク。その間に材料を盛る準備をするリザ。そして商業ギルドに頼んでおいた焼き物がようやくお目見えする。
どんぶりである。
どんぶりをお湯に入れ、温めるルーク。時間の都合で、あまり作ることができなかったと説明を受けたけど、十分に数はそろっているし、大中小とサイズも作ってもらったので、俺的には文句はない。
急ぎだから、シンプルに一色で統一したその器しかないが、後々には自分でデザインしたものを作っていくつもりだ。
そして数分後、麺の茹で加減を見極め、てぼをお湯から一つずつ出して、しっかりと湯切りをする。
俺が湯切りしている間に、リークがどんぶりにかえしとスープを入れ混ぜ合わせる。湯切りした麺をどんぶりに入れて形を整え、その上にリザがトッピングを乗せていく。
「はい!! 塩ラーメン2つ上がり!! 次は塩豚だ!!」
「はい!!」
ナルミがそれを受け取り、一つずつトレーに乗せて運んでいく。
「はい!! ネギ塩上がったよ!!」
「はい!!」
次はフユがトレーに乗せて運んで行った。
そうしてテーブルに座っている3人の前にラーメンが運ばれた。ラウルさんの姿がないなと思っていたら、厨房の様子をカウンター越しに見ていて、自分が作った道具などの使い方をじっくりと見ていた。
「できたか」
「えぇ。おためしください」
「よし!! 食うぞ!!」
席に座ったラウルさん。それを見てフユがテーブルへと進んでいき、箸の使い方をレクチャーしていく。
「む? このハシだったか? 難しいな」
「ハシではなく箸です」
「何が違うのだ?」
「大違いですよ」
初めて箸を使うラウルさんたちが、困惑している顔を見せるが、意味の知っているナルミが笑う。そのナルミを見てテーブルの4人は何が何だかわからない顔をしている。
「と、とにかく食うぞ!!」
「へい!!」
そうしてようやくラーメンを食べ始めた4人。
実はこの世界では、啜る文化というものがないらしく、俺がラーメンの試食の度に麺をすするのを見て、当初は凄く変な顔をされた。
しかし、啜るときの利点などを教えると、次第にみんな真似をするようになり、今ではみんながズルズルと音を立ててラーメンを食べている。
「ほう……。これはなかなかうまいな……」
「この上に乗ってる白いのがシャキシャキですね!!」
「肉が香ばしくて、肉汁も出るしうまいぞ!!」
「スープが透明なのにしっかりと味がある……」
それぞれがそれぞれのラーメンを食べて感想を漏らす。そうして数分足らずですべてを食べ終わった。
食べ終わった後の満足した顔を見て、俺もようやく安心した。
「うまかった……」
「ありがとうございます」
「なるほどな。コレがこの店の商品ってわけだな」
「はい。ラーメンといいます」
「そうか」
そういうと、ラウルさんが一人で外へと出ていき、数分後に戻ってきた。
「テッタ、ちょっと外にこい」
「はい?」
「いいからこい」
「え、えぇ」
ラウルさんに連れられて外へと出ていく。
「見ろ」
ラウルさんが指を指す方を何も言わずに見ると、そこにた大きな看板があった。
「看板……ですか」
「あぁ。今までは店の名前もわからなかったからな。そんであのラーメンだろ? ちょっと手を加えておいた」
「ありがとうございます!!」
九十度に体を曲げ、誠心誠意の礼を取った。
「良いってことよ!! また、食いに来るからな!!」
「はい!! お待ちしてます!!」
俺の店に、『ラーメン屋 北の方』という、大きな看板が掲げられた。
お読みいただいた皆様に感謝を!!
店の顔である看板。ようやくつきましたね。
さて、そろそろ第1章ラストスパート!!
※1
てぼとは、湯切りに使う金属製のざるの事。
てぼと呼ばずに『湯切り』『ざる』などと呼んでいる場合もある。
次回
第33話 ラーメン店『北の方』
お楽しみに!!




