第30話 接客訓練
登場人物
〇主人公
カイ・テッタ=甲斐哲太 (かいてった)
三大ラーメンの一つである地域で、ラーメン屋を営んでいた33歳独身。地元高校を卒業後すぐに地元のラーメン屋に修行に入り、30歳になったときに独立し自分の店を持つ。
町の協会での会合からの帰りに、暗い路地裏で悲鳴を聞き駆け付けたが、そこで凶刃に倒れる。
〇パリピュア
異世界フクキタリの女神
ちょっとドジっ子な女神様。
地球で無駄死にしてしまった(笑)テッタの事を気にかけてくれている。テッタが自分の世界で何とか生活できるように、スキルを与えたまではよかったが、ほとんど内容を伝えずに下界に下ろしてしまうというドジをする。
いつも見守ってくれているのか、時折声が哲太に届いている……気がしている。
〇リーク
三兄弟の長子
普通の人族
13歳
孤児院で保護されていたが、最近町にやってきたばかりでまだ慣れておらず、兄弟だけで生きようともがいていた。まじめで勉強熱心な一面がある。
とあることでテッタと出会い、それが縁でテッタとともに行動するようになる。
〇ルーク
三兄弟の次子
普通の人族
12歳
兄リークとともに兄弟で生きようともがいている。兄を助けようと一生懸命。お調子者の気があるが優しい。
〇リザ
三兄弟の長女(三子)
普通の人族
10歳
兄2人とともに行動を共にする。当初は人見知りだったが、徐々に町にも人にも慣れてきて、テッタや兄たちと一緒に行動するようになる。
〇フユ
元どこかの国の王女様
普通の人族
国が滅んだことでいろいろさまよっていた苦労人。
現在は契約奴隷としてテッタと契約し、テッタの店で働くイチ従業員。
謎が多い人物でもなる。
〇ザイツ
普通の人族
ツバサの町の商業ギルドマスター。
少し恰幅のいいおじさん。
口調が優しくて穏やかな人柄だが、商売のことに関しては情熱を燃やしている。
「すまん、みんな集まってくれ」
それぞれが作業の手を止め、俺の呼びかけに応じて、食堂の方へと集まる。そうしてみんなの前で話を切り出した。
「今日出来上がったものは、この店の根幹にかかわる部分だ。それをみんなも理解してほしい。もしこれがほかの店に漏れたりしたら、このお店の存続にもかかわる。みんなと契約するときに、秘密保持の件も盛り込んでいたのは、こういう事なんだ」
いつもに増して真面目な顔をする俺に、みんなの表情も引き締まるのを感じた。
そうして俺は皆の前に先ほどまで作っていたものを入れた木製のボールにを出した。
「これは?」
「この店で出すもので、ラーメンという」
「らーめん……」
「正式にはちゃんとした名前を付けるが、今はこういうものだと思ってくれたらいい。とりあえず、みんな食べてみてくれ」
顔を見合わせたみんなが、それぞれ箸やフォークをもってきて、麺を掬って食べる。
「こ、これは!?」
「うまぁ!!」
「え? これってさっきのスープとまた違う!?」
「おいしぃですぅ!!」
口でもぐもぐしながら、みんなが驚きの声を上げる。
――ようやくここまで来たか……。もうすぐ本格的な冬になる。その前に温かい食べ物を作っておきたかったんだよな。
もう何時雪が降ってきてもおかしくないほどに、夜間は冷えてきているし、遠くに見える山々の頂上にはうっすらと白いものが見えていた。
「けど……先ほど飲んでいたものとは違いますよね?」
「そうだな」
フユがスープを飲みながら質問の声を上げる。
「これは、先ほどまで作っていたスープに、『かえし』というラーメンの味を決めるものが入っている」
「かえしですか……」
「そうだ。みんな何かわかるか?」
一斉に考え込む中、ただ一人だけぼそりと声を発した。
「先ほどよりも塩気がありますね……。でもしょっぱいだけじゃない……」
「お? ほぼ当たりだぞ?」
「え!?」
声を上げていたのはミラ。
「これは、塩ラーメンだ」
「塩らーめん……」
「まぁ、塩は高いからどうしようか迷っていたんだけど、でも俺が作るんだからやっぱり故郷の味に近いものを作りたい。で、今の状況でできるとしたら塩が一番しっくりくると思ってな。ただ、塩そのものじゃないぞ?」
にこりと微笑みながら、みんなに宣言する。
「悪いが、それ以上は今は教えることができないな」
「そう……ですよね」
今の状況では、みんなには教えることができない。何しろここにいる人たちは、いつ俺のもとを去って行ってもおかしくはない人たちばかりだからだ。
リーク達三兄弟はどうするのかわからないが、マイヤたちはもともと借金代わりに奴隷になった人たちなので、借金が返し終われば自由の身になる。
フユに関しては――なぜ俺のところに来たのかよくわかってないから、あまり深い所までは話ができない。
そうなると、今現状では、俺以外にコレを作れるという状況が生まれてしまうのは、よろしくはないという事。
「まぁ、その話は横において……。どうだろう? これは売れると思うか?」
真剣な表情でみんなを見る。
「……売れると思います」
「うん!! これは食べたくなるよ!!」
「今までにないものですし、もうすぐこの辺は寒くなりますから、温かい食べ物は凄く人気が出ると思います」
マイヤも、ミラも、そしてフユも、みんなが頷いてくれる。
「よし!! なら、明日からはさらに仕込みの仕方を考えていこう。そしてそろそろ……。ナルミ、フユ」
「「はい」」
「君たちには、接客を覚えてもらいたい」
「接客……ですか?」
「うん。明日から、この店を開店営業するために、本格的に準備期間に入ることにする。つまりは、営業している日と同じようにできるかを試していく」
二人はこくりと頷く。
「リーク」
「はい!!」
「悪いが明日、教会へ行って屋台を引き継ぐ予定の子を連れてきてくれ。そしてシュウマイ作りと売り方などをルークとリザでしっかり教えてくれ」
「わかりました!!」
「「はい!!」」
びしっと手を上げて答えるリーク。それに頷き、ルークとリザへ視線を向ける。二人も返事をしてやる気を見せる。
「明日は屋台も休みにするから、警備役で入る人員が余る。そこで、その二人には店員役をしてもらいたい」
「なるほど……」
マイヤが何をしようとしているのか理解したようで、ほかのメンバーに視線を向ける。他のメンバーもこくりと頷き返事を返した。
「明日は、ラーメンを作り出すわけじゃないが、営業日と同じように容器に水を入れたものを用意して、お客さんの所に運んでもらったり、注文を聞いたり、会計をしてもらう予定だ」
「確かに接客というものをしたことがないので、勉強になりますね」
「私も、冒険者しかしてないから、その……お客としてお店を利用することはあっても、店員さん側にはなったことがないので、初めてです……」
フユもナルミも顔を見合わせながら、頑張ろうと胸の前でこぶしを作る。
「それだけだと、少し弱いから、ちょっとマクガ―さんにお願いしてくるよ」
「何をですか?」
アノンが首をかしげる。
「え? そりゃぁ、いい子ちゃんばかりの客ばかりじゃないだろう?」
「あぁ、なるほど……」
店で騒ぐ客もいれば、店員が女性だけだという事で、ちょっかいをかけてくる人もいる。そういう客に対応するのも慣れてもらわないといけないので、まずは体験してもらう。
「それから、この店の警備に関しても、その辺の人で対応の仕方を考えてもらうようにするから、5人で今のうちに対応の仕方とかを話し合ってみてくれ」
「わかりました」
それぞれがこくりと頷き、マイヤがみんなに相談をし始める。
「では、本日は解散!! 明日から宜しく」
そうして、後片付けの後に、俺は冒険者ギルドへと向かって歩き出した。
俺が冒険者ギルドで話し合いをして帰宅した時には、まだ明かりが食堂にと持っていて、マイヤたちが話し合いをしていたし、食堂では三兄弟が次の日に使う分のシュウマイの皮を製作していた。
俺もそんな皆に負けじと、1人かえし造りを始める。この日、皆が寝たのはかなり夜も深くなっての事だった。
♢♢♢♢♢
「てめぇ表出ろ!!」
「喧嘩なら買ってやるよ!!」
「はいはぁ~い!! ケンカはやめてくださいねぇ~」
店の中に怒号とそれをたしなめる店員の声が響く。
次の日から本格的な店員教育が始まった。
冒険者たちに客としてお店に来てくれる人達を演じてもらっているわけだが、やはり冒険者という生業のものたちは血の気が多いというか、喧嘩早いものたちが多く、演じているのか本気なのかよくわからない者たちも出てくる。
それをいなしたり、なだめたり、時には力ずくで店の外にたたき出しもしながら、ナルミとフユの店員教育は進んでいく。
意外と言っていいのか、フユもナルミの接客に関してはできていると思う。注文も今のところメニューが多くあるわけじゃないし、運んでいくといってもそれほど量を持っていくわけじゃないので、問題はやはり客とのトラブルの方が多くなるかもしれない。
孤児院からの子供たちも、三兄弟がそれぞれに兄貴分として、先輩としてしっかりと面倒を見ているので、今のところ順調にシュウマイ作りは進んでいるが、俺が心配しているのは蒸す係をする子の事。
慣れないとシュウマイがしっかりと熱を通さないし、急いでしまうと蒸気でやけどする恐れもある。そのあたりをしっかりとたたきこんでいくのだが、孤児院で屋台を任せてもいいと判断されただけあり、物覚えが速くていう事もよく聞いてくれるので教え甲斐がある。
「だかぁらぁ、もうやめろって言ってんだろが!!」
「な、ナルミさん!! 言葉!! ことば!!」
黒い半袖ワンピースに白いエプロンをして、頭に三角巾をした二人が、喧嘩をしているお客を必死に止めようとしていた。
――ナルミってキレると怖いんだな……。
二人が着ているのは、貴族の屋敷などでメイドさんが着ているものとデザイン違い。仕立て屋さんで探していたらオリバーさんに会い、それならと勧められたものだ。本格的に店が稼働したら、この店オリジナルの物を作る予定なので、それまでの繋ぎに着てもらっている。
ちょっとかわいい衣装を着ている女の子が、筋肉もりもりの男に向かい、無い袖をまくる仕草をしてすごむ姿に、かなりギャップを感じてしまう。
店内を見つめながら、厨房で器に水を入れながら、本格的に動き出そうとしているのを感じて、期待感なのか楽しさがこみあげてきていた。
お読みいただいた皆様に感謝を!!
もうすぐ……。
次回
第31話 あ!! 店名!!
お楽しみに!!




