第29話 試作第1号
この世界に、概念があるかどうかその名称なのかどうかはわからないが、いわゆる『ブイヨン』は存在する。
要は動物由来の骨、魚の骨や野菜などを煮込んで取ったスープのことだ。動物由来の――と表現したのには訳があって、この世界は俺たちがよく知る動物のほかに、モンスターと言われる奴らもいるから。
地方によっては、そういう奴らからも煮込みに使う具材として重宝しているところもあるし、それしかないからという理由で使われている。
因みにコンソメはブイヨンに肉類や野菜類を加えて、味を調えたものなのだけど、まぁブイヨンは『出汁』でコンソメは『完成品』と俺は覚えている。
今回俺が使うのは、ニワトとウコッケという二種類のトリ系生き物の骨。実物を見たことがないから何とも言えないけど、割と安価で手に入るものなので、飼育しているか、もしくは野生で大量繁殖しているのだろう。
――その辺はあまり考えないようにしてるけど、今後の事を考えると、入手先としてどのようにしているのかは見ておかなきゃならないだろうなぁ……。
考えてても仕方がないので、まずは作ってみることにする。
ラウルさんに話をしたら、近くの金物屋――こちらでは鍛冶屋と呼ばれているらしいが――を紹介してもらえたので、俺が使う鍋類とフライパン、金属製の笊と、笊を作るついでに湯切りも作ってもらう。
当初は笊でやっていこうと思ったのだが、少量ならそれでもいいかもしれないが、大量にしかもいっぺんにとなると時間も手間もかかる事を考慮して、今のうちに作ってしまおうと注文しておいた。
店の改装とともに、その辺の設備はつけていってもらえている。水回りや排水がどうするのかと良く聞きに来られているが。
今回は鍛冶屋のおやじさんに頼んで作ってもらった深い鍋を使う。そう寸胴だ。
俺はてっきりそういうものがあると思っていたのだけど、あるにはあったが俺が思っているよりも短い丈しかなかったので、それ以上に長く作ってもらっている。これも特注品になるし、あまり需要はなさそうで、もしかしたら俺専用になるかもしれないけど、親父さんは楽しそうに作ってくれた。
その寸胴を二つ、魔石調理台の上に置き、一つはニワトの骨を、もう一つはウコッケの骨を入れ、水を加えていく。
その中に、市場で見かけた地球産では見たことのない長いネギのような野菜と、これも見たことのない大きさの生姜塊を入れる。
そして強火にかけて一気に沸騰させていく。
その間に、小さな鍋を用意して、この時のために商業ギルドにお願いして入手してもらっていた、小魚の干物を弱火で煮だしておく。残念ながら俺が思っているような昆布類は無いといわれた。後程その辺は開拓していくしかない。
寸胴の方はあくが出てくるので、丁寧に取っていくのだけど、これが結構大変で2種類同時作業だと少しばかり手が足りないので、シュウマイの方を手伝っていたマイヤとフユにも丁寧に教えて取ってもらう。
あくが出なくなってきたら、弱火に変え、水を少し足す。
そうして出来上がったスープが2種類、この日シュウマイ売りに出ていた人員以外を呼び、味を見てもらうことにした。
「これで終わりですか?」
「いや、それとこっちを合わせたのがスープだ」
「なるほど」
当初は小さな魚を干したものなど見たこともなかったメンバーは、使い道に興味を示してはいたが、ただ水に入れて煮だしただけという事で、その後急速に興味を失った。
だから今も二つを合わせるという事に懐疑的なのだ。
「まずは、この2種類だけを味見してみるか」
「はい」
人数分の椀を出してもらい、その一つ一つに先にニワトだけのものを注いでいく。
「ん?」
「これは……野菜がニワトの臭みをうまく消してますね」
「臭くなくて飲みやすいですね」
確かにしっかりとうまみは出ているし、あっさりしていて、飲みやすい。では次に――とみんなの椀にウコッケのスープを注いでいく。
「う~ん……」
「これは味が濃いですね……」
「ちょっと匂いが気になりますね」
出店に本日は行っていないナルミは獣人だからか、スープの匂いが気になるみたいだ。
俺も飲んでみるが、確かにうまみは強く出ているが、若干鼻に匂いが残る。
これが俺の店の売りにするというのならば、これはこれで悪くはない。
「では、こっちのスープを加えてまた味比べしてみようか」
「そうですね……」
魚の干物からとったスープをニワトだけの方に加え、飲んでみる。
「ん!?」
「味が変わった……?」
「おう!? まろやかな上に何だろう舌に残るそんな感じになりましたね!!」
飲んだみんながみんな驚く。
その様子を見ながら、俺も味見をする。
「なるほど……」
先ほどのニワトだけの物よりも深いうまみが感じられる。みんなが飲み干したのを確認して、容器と口を一度水で綺麗にしてもらい、最後にウコッケのスープに、さらに干物スープを加える。
「あれ!?」
「さっきのよりも深みは増した気がします」
「うぅ~ん……匂いが複雑になってしまってますねぇ……でも先ほど飲んだよりもこちらの方が飲みやすいです」
万人に受けるようなものなど生み出せるはずもないが、ウコッケのスープはクセが出てしまっているように感じる。それが要因で、鼻が敏感なナルミには感じてしまうんだろう。
そこで俺は2種類のスープをまずは半分ずつ加えたものを作り出して飲んでみる。
「悪くない……」
そこに魚の干物スープを注ぎ入れた。
――近いな……。
俺が記憶しているスープに近いものが出来上がった。
「どうしたんです?」
「あら? それは?」
フユとマイヤが俺の飲んでいるスープを見て、鼻をクンクンと鳴らす。
「あぁ、これは全部を足してみたものだよ」
「飲んでみていいですか?」
「おう、いいぞ」
飲んでいた椀をテーブルに置き、新しく椀に作って出そうとしたら、フユが俺の飲んでいたスープを手に持ち飲み始めた。
「あ……」
「おいしいです!!」
「どれどれ」
その一連の動作に驚いて居ると、ぷはっと声を上げるフユ。その声にみんなの興味が集まった。
「主、このスープおいしいですね」
「味が複雑ですけど、バランスが良いと思います!!」
「うん。これだとあまり匂いを気にしなくって飲めますね」
みんな俺の椀の物を回し飲みしている。その様子をポカンとしながら眺めていた。
「どうしました?」
「え? あ、いや……」
首を傾げ、不思議そうな顔をして俺の顔を覗き込むフユ。
――え? 俺が気にしすぎなのか?
俺的には、自分が口にしたものをほかの人が嫌がると思って。違う容器に入れたものを用意するつもりだったが、みんな気にした様子がない。
「えっと……。みんなコレが旨いと思ったか?」
「「「「はい!!」」」」
問いかけに大きな声で返事が返る。
「なら、もう少し配合を試してみようか……」
今度は配合で出る変化をみんなで試していく。その試行錯誤が、屋台組が店に帰ってきてもなお続いた。
もちろん帰ってきた三兄弟と、警護役の二人にも、できたスープは試してもらったうえで、意見を聞きながら試した。
そうして、今の段階で満足できるものが完成する。
「これを使うのですか?」
「ん?」
試作後、後片付けをしていたリークが俺のもとへとやってきて、スープを見ていた俺に話しかけてきた。
「いや。これだけじゃないぞ?」
「え?」
先ほどまで使っていた鍋ではなく、今度は小さな椀を出す。
「これは?」
「まぁできてからのお楽しみだな」
そういうと、俺は作っておいた麺をゆでるためにお湯の中へと投入する。もちろんラウルさんたちが作った特製の麺だけを茹でる場で。
麺のゆであがり前に、少しだけ木製のボールを温める。その中へ小さな椀の中の物を少しだけ入れて置き、その中へ試作していたスープを注ぐ。
良く混ぜてから、茹で上がった麺をしっかりと湯切りして、その中へと投入し、ほぐすように混ぜながら整える。
その上に、自家製の焼き豚となるとを乗せて完成。
こうしてこの世界にラーメンの試作第1号が出来上がったのだった。
お読みいただいた皆様に感謝を!!
ようやく、タイトルらしい話になってきましたねw
次回
第30話 接客訓練
お楽しみに!!




