第28話 ハシ
「今までにない食感ですね」
「もっちもち!!」
「ちゅるちゅる」
各々が味見をしてみた感想を述べながらきゃっきゃしている。
作ってみた試作麺1号だが、試しという事で、簡単なスープで味見をしてもらっているわけだが、もともと『あんかけ』用に作ろうとしていたスープの材料だけで作っているので、かなりあっさり目なスープになっている。
どちらかというとラーメンというよりもフォーに近い感じがするからか、みんなが喜んでいる感情を間近にしている俺はというと、少しだけみんなとは違う感想を持っていた。
――これはこれで旨いんだが……。
みんなの反応が悪くないのは見ていれば分かる。しかし何というか、俺にはこれをラーメンとしてお客さんの前に出す気には到底なれない。
深めのボールに残ったものを見つめながら、ぼんやりと考えていると、ナルミとミラが俺の手元をじっと見ていることに気が付いた。
「ん? どうした?」
「あ……えっと……」
「テッタさんの持っているものは何ですか?」
「あぁ、これか?」
右手に持っているものを2人に見えるように前にかざす。
「不思議な感じがするものですね」
「これでどうやって食べてるんです?」
マイヤとリザも気になっていたのか、ナルミとミラの横へと並んで、俺の手元を見つめている。
「これはな、こうして……上の一本を動かして挟んで使うんだ」
「なるほど」
みんなが今持って麺を食べているのは木製のフォークだ。刺すようにして麺を口元に運んだり、巻いて食べたりしているのがほとんど。
いつもは俺もこの世界に倣って、ナイフやフォークを使って食事をしているが、こういう麺類を食べるのであれば、自分が慣れているもので食べたいなと思い、密かにラウルさんに廃材を使って作成を頼んでいた。
「それは私にも使えるでしょうか?」
「使えると思うぞ? 最初は苦労するとは思うけど」
フユも俺の横で使い方を見て聞いてくる。
「やってみるか?」
みんなに聞いてみるとこくこくと頷くので、俺用に作ってもらっておいたものをみんなの前においていく。
「む、難しいですね……」
「つかめなぁ~い!!」
「ちょっと……イラっとします」
初めて使うものなので、みんな苦闘しているのを苦笑いしつつ、1人1人に持ち方使い方をレクチャーしていく。
「あ!! できたぁ!!」
「俺もできた!!」
「なるほど、こういうものもあるのですね」
三兄弟がいち早く麺をつかめるようになり、ほかのメンバーも苦労はしているがだんだんとつかめるようになっていく。
「テッタさん、これは名前があるのでしょうか?」
「ん? あぁ、これはな、『箸』という俺が住んでいた場所では、ごく一般的に使われていた道具だ」
「ハシですか……」
「ん~……ちょっと語尾が違うなぁ。箸だ」
「はしですか?」
フユが箸を発音しようとすると、どうしても語尾が上がってしまい、俺が聞くと違うものに聞こえてしまう。
皆もフユと同様に発音を真似しているので、厨房の中は『箸』と『ハシ』の合唱のような状態になっていた。
「まぁ、慣れないなら無理に使うことはないぞ? フォークも用意してるわけだし」
「いえ。テッタさんの故郷の道具ですし、このお店で働く以上は、お客様に見本を見せる場面もあるでしょうから、お店に携わる私たちもしっかりと使えるように精進します」
胸の前で両手を握り、「ふんすっ!!」と気合の入ったポーズを見せるフユ。みんなもこくこくと頷いているので、箸を使うという事は俺の店では確定事項になったようだ。
――ん~……。初心者用の箸も用意しておいた方がいいかな?
みんなが手にもって今も麺を掬うことに挑戦している様子を見ながら、ラウルさんにあとで相談してみようと思った。
♢♢♢♢♢
毎日が同じ様に流れていくわけじゃない。
俺が気が付かないだけでも、一日過ぎるごとに店は俺が思っているお店の形になっていく。
今日も厨房の近くに個人で食べられるようにカウンター席を作ってもらっているし、昨日から努力していた麺を打つ場所を確保するために、厨房の隣に新たなスペースを作ってもらい、直接は見せることはないまでも、麺を打っているところをお客さんに見せもらうための場所も確保する。
その時に、広い台を用意してもらい、お客様側に隠して『コの字』型の部分を作ってもらう。
昨日から夜通しでフユと二人麺打ちをしている時に感じていたのだけど、人の力で捏ねる、まとめる、という作業をすると、かなり疲労するという事が体感で分かった。
この世界仕様になっている俺の体ではあるが、前世のスペックと変わりはないはずなので、初めてやった作業という事も加味しても、相当疲労感を感じた。
なので、前世のテレビで見たことがあるスタイルを真似てみようと思い、ラウルさんに言って加工をしてもらっている。
使ってみないとわからないという事で、今日はそれを使って麺打ちをまたするつもりでいるし、もしかしたらその打ち方に合わせた小麦粉の配合を考え直さないといけない。
いろいろとやることはあるけど、俺が次にやることはもう決めている。
「さてと……」
「テッタさんどちらへ?」
「マイヤか。少し市場へ行ってくる」
「でしたら今日もお供しましょう」
「わ、私も行きます!!」
マイヤが俺について来ようと声を上げると、びしっと効果音が聞こえるかのような勢いで手を上げたフユが俺たちについてくると宣言する。
ほかのメンバーはそれぞれが俺の指示により、それぞれに仕事をしてくれるので、本当に助かる。
今日も三兄弟は屋台でシュウマイを売りに行くので、手の空いたものは店の中の改装を手伝ってもらうことにして、行動を開始した。
「今日は何を?」
「う~ん……。今日はトリが欲しいんだよ」
「トリですか?」
「うん。あるかな?」
「あるでしょうが、主が言う『トリ』が私たちの思うトリではないかもしれないので何とも……」
「だよねぇ。まずは行ってみようか」
二人を連れて市場の中へと入り、肉屋を目指して歩く。
「お? 今日も来たのかい?」
「はい。お世話になってます」
たどり着いたお店は、俺があの焼き豚の肉を買ったお店。最近は良く来ているので顔も覚えられているし、時折お店のメンバーも買いに来ているので店のメンバーも顔見知りになっている。
「それで今日もあれかい?」
「いや、今日はですねトリを探してまして」
「とり? とりってのは羽があって飛ぶやつ……でいいんだよな?」
「どうして疑問形なんですか」
接客してくれる店主が俺に聞いてくるので、おかしくて笑ってしまう。
「いやだって、兄ちゃんが言うトリっていうのが、トリかはわからねぇからなぁ」
「あ、うちの店の人たちと同じこと言いますね?」
「だろ?」
店主が俺の後ろにいた二人を見ながらにやりと笑う。
「まぁ、よく見てってくれ。気になるものがあったら声をかけてくれよ」
「はい」
ひらひらと手を振り、店主が奥に入っていく。
――さて、探してみるかな……。
後ろに二人を引き連れて、店に置いてあるものを見て回る。
【ニワト 卵が先かと論争になるほどメジャーなトリ。 お肉もおいしいですよ!!】
【ウコッケ ニワトが進化したトリ。ニワトよりも運動が好きでアスリート。お肉はちょっと筋肉質】
【コカトリス 毒を持っているトリ。毒袋を取り除けば食べられる。女神お勧めのお肉!!】
目の前に現れる文章を確認しつつ、どれがいいかと考えをめぐらす。特に気になるのはコカトリス。パリピ様がお勧めしてくれる肉なんだけど、俺が欲しいのは残念ながら肉じゃない。いや後々使うかもしれないけど、欲しいのは別にある。
「すみませーん!!」
「はいよ!! 決まったかい?」
「ちょっとご相談なんですけど――できますか?」
俺が店主に直接聞くと、またまた不思議そうな顔をされる
「そりゃぁ、それでいいなら持って行ってもらって構わないが」
「いえ、今後も仕入れることを考えてまして、しっかりと材料として取引をしたいんですよ」
「ん~……。今までそんなもんを欲しがる奴なんてあんまりいねぇから、そのまま廃棄するとかしてたもんだぞ? それを買うってか?」
「そうですね」
俺が言ったモノを信じられないという顔をする店主。
「わかったよ。兄ちゃんなら、また新しいもん作ってくれそうだからな。格安で卸してやるよ」
「ありがとうございます!! でも金額はしっかり出してくださいね」
「仕方ねえなぁ……」
一度奥に引っ込んで、頼んだものの計算をしっかりと出してもらい、両者が納得したうえで交渉は完了した。
「主」
「ん?」
「これをどうするんですか?」
「これでスープを取るんだよ」
「?」
多くを持ってもらっているマイヤが不思議そうに聞いてくる。
「まぁ、やってみて……かな?」
物は試し。結局俺が買ったのはトリガラと言われるものだ。
これで次は、ラーメンのスープを取ることに着手するのである。
お読みいただいた皆様に感謝を!!
次は熱いスープをとる!!
次回
第29話 試作第1号
お楽しみに!!




