第27話 麺
もう一度明言しておくが、俺が作りたいのは『ラーメン』である。
しかももちろん前世で経営していた時のような、ラーメンの町と呼ばれる場所で出していた、その地方独自の物だ。
このところ、麺についてはずっと考えていた。
俺が亡くなる寸前まで運営していた店で使用していた麵は、製麺会社で機械を用いて作られた麺であり、『手打ち』と銘打っているお店でも、最終工程に至る前には機械を挟んでいるところが多い。
つまり、このフクキタリという世界で、同じようなものを作ることは不可能に近い。均一で同じような麵の幅にするという事も機械化があってこそできるというもので、そもそも同じ材料を使うわけじゃないから、『似たようなもの』は作れても、まったく同じものは作れない。
それをイチから自分の手だけで作っていくとなると、できない可能性もある。
ただ、もう自分のお店を持つことになった以上、後戻りはできない。
さて、ここでラーメンに使用する麺の作り方に関して説明しておこう。
麺を作るためには小麦粉(薄力粉・強力粉)、塩、そしてかん水が必要となるのだが、強力粉と薄力粉のブレンド比率により、その持ち味が変わる。
ブレンドした小麦粉に、塩、かん水を少しずつ加えていき、混ぜ合わせる事を『水回し』と呼んだりもするが、これをおろそかにするとだまになってしまうなど、なかなか難しく経験が必要な作業だ。
この辺りは機械化などがされていたので、機械によって満遍なく混ぜ合わせるという工程は人の手を借りずにできるようになり、この後の『寝かせる』という工程までの人出が少なくて済むようになった。
次に、寝かせた小麦粉をまな板などの上で伸ばす作業だが、まずは強力粉をまな板などの上に振り、そのうえで麺棒等を使用して良く伸ばす。この時に均一になるように伸ばせるかも経験が必要となる。
しっかりと伸ばすことができたら、今度は切るわけだが、伸ばした生地にしっかりと打ち粉を振り、生地を重ね合わせて切る。この時、なるべく同じ太さになるように切るのも熟練の腕が必要になる。
麺の太さ的には、細麺なら約1.5ミリほど、太麺だと2.5ミリほどにカットする。このままで出すのがストレート麺で、この時に手で揉んでおくと縮れ麺となる。
こうして切った麺を、一玉=約120~150グラムにして、小分けしておく。
これがおおよその麺を作る工程になるのだけど、俺が作りたいのは元地元の麺だ。
俺の地元だった町では、ラーメン店が多くあったことから、協会として『ラーメン会』というものがあった。そこに加盟しているお店は『キタカタラーメン』の基準の通りの麺を出すことで、キタカタラーメンとして出すことができたので、俺もその基準に合わせて作りたい。
キタカタラーメンの麺は多加水麺で、先ほど説明した小麦粉とかん水等の組み合わせて練りこむ際の、水の比率が少し高い麺を使用している。
これによって、麺の中の水分が独特のもちもちろした歯触りとなり、のど越しが少しつるっとした麺になるのだが、この見極めが難しい。さらにこの麵を熟成させることで、うまみを閉じ込める。
と、まぁここまでは俺も店を出す前に教えてもらったり、勉強したことの受け売りなのだが、問題は今の俺にそれが再現できるのかという事。
因みにだが、ラーメンと俺たちが読んでいるものの起源は日本ではないという事は知っている人も多いと思うが、このラーメンというものは発祥の国には存在しない。
もともとラーメンとは『拉麺』と書き、この『拉』とは伸ばしたりする工程を指している。つまり拉麺とは『麺を伸ばしたりする工程』の事なのだ。
なので、発祥の国で見かけるものはその具材などの名前がついている○○麺などと呼ばれている。
♢♢♢♢♢
皆が寝静まった夜に、1人厨房にて小麦粉を用意し、静かに麺を打つ準備をする。
まずは今準備できる小麦粉がどっちなのかを検証するところから始める。
この世界には小麦粉が主食の物が多いので、手に入れるのはさほど手間はかからないが、どの地方ででも、採れたものも多くは『○○産小麦粉』としか詳細を知らないで販売されている。
もしかしたら、小麦の種類すら違うものが、同じ小麦粉として販売されているかもしれない。
そういうことで、俺は市場で小麦粉を売っている店を回り、そこで売っているものを同量購入してきた。
その中からいろいろと試してみようと思っている。
「やっとこれを使う時が来たな……」
とある液体を見ながら、俺は独り言ちる。
この時のために用意していたもの、それは『かん水』だ。
かん水は前世だと割と手軽に手に入れることができる。代用として重曹を使うのが手早い入手法と言えるが、この世界には重層すらあるか怪しい。
そのために俺は自作で用意した。いや重曹を用意したのではなく、このかん水を用意したのだ。
生前に住んでいた町の老舗と名高い店では昔ながらに手打ち麺を売っているお店があり、その伝手を使ってどのようにして作っているのか聞いたことがある。
かん水は本来、『木』や『草』を燃やした灰を、水に溶かして灰が沈んだ上澄みを使っていた。これは今でも日本各地で今もそれを使った麺が作られ、食べることができる。
――ラウルさんたちに木材を燃やして灰をくれって頼んだ時は、怪しいことをするんじゃないかと思われてたからなぁ……。
この世界、木を薪代わりにするという所も少なくはないが、ある程度魔石なるものが普及しているので、なかなか木灰を集めるのは難しい。
今はちょうど店の改修工事をしてもらっているところなので、木材は多く手元にあるのだ。
「さて、どうなる事やら……まずは試作するのみだ」
そうしてまずは一軒目の小麦粉を取り出して、木製のボールに入れ、水を加えながら捏ねていく。
買ってきた数軒分の小麦粉を煉り終わって、その手ごたえを見てみたのだが、やはり薄力粉と強力粉との選別はされていないようだ。買ってきた小麦粉をそれぞれボールに入れ煉り込んで様子を見た感じでは、小麦の種類すらもわからないまま製粉して売られているのかもしれない。
いや、もしかしたらこの世界にはそこまでの知識が無いのかもしれないと考えつつ、今度はいろいろな粉をブレンドしていくことを始める。
「あ、テッタさん、まだ作業をしていらしたのですか?」
「ん?」
声をかけられた方へと顔を向けると、そこに薄手の寝巻代わりに着ているワンピース姿のフユが立っていた。
「フユか……どうした?」
「あ、いえ、のどが渇いたのでお水を飲みに来たのですが……」
「あぁ……。寒くなってきたから乾燥してるのかもな」
「……それで、何をなさっているのです?」
「コレか?」
フユにこれから作ろうとしているものと、この店で売ろうと考えているものを説明する。
「それが、これができるかによって決まる……という事なんですね?」
「まぁそういうことになるな。できなくても別なものが作れるには作れるのだが」
「では!!」
袖をまくり、ぐっと胸の前で手を握り締めたフユが俺の方へと近づいてきた。
「どうした?」
「お手伝いします!!」
「え? いや、夜遅いから、寝ていいんだぞ?」
「ダメです!! 知らなかったというのならいざ知らず、こうしてテッタさんが起きていらっしゃるのを知ってしまいました。ならお手伝いしない方がおかしいでしょう?」
「おかしいのか?」
フユの言っていることがいまいちピンとこない。
「お忘れですか? 私はテッタさんの契約奴隷なのですよ?」
「あぁいや……。気にしないでいいんだけどなぁ……」
「だ・め・です!!」
圧に押されるように、俺はその後フユとともに、いろいろな配合を試していく。
そうして朝日が昇り、もうすぐ朝食の用意をするために、家人が降りてくる時間に差し掛かるころ、一つの結果が生まれた。
「うん。これなら……いけそうだな」
「そうですか!! 良かったです!!」
「じゃぁこれを切ってみるか」
「はい!!」
こうして、俺は出来上がった生地を伸ばし、重ね合わせて、キタカタ規格に合わせて麺の幅を調整しながら切っていく。
切った隣でフユが手で麺をもみ込んで、適当な量の一玉に整える。
「あれ? 主、起きてたのですか?」
「師匠!! 何してるんすか!? 言ってくださいよ!! 俺たちも手伝ったのに!!」
続々と起きた家人たちが降りてきて、俺とフユが厨房にいたことに驚きの声を上げる。
「まぁまぁ……。ちょっと今日の朝はこれを試してくれないか?」
こうして、フクキタリで試作麺第1号が出来上がったのだった。
お読みいただいた皆様に感謝を!!
※喜多方の『拉麺会 喜多方ラーメン』規格だと麺の太さは1,7mm程度から、2,0mmほどの幅が主流なので、その幅に合わせているという事ですね。
やっと麺がぁぁぁぁぁぁ!!
まだ試作ですけどね……。
次回
第28話 ハシ
お楽しみに!!




