第26話 うずまき
とんとんとん
かーんかーん
ラウルさんの所へお店の改装の相談に行ってから1週間。
お店の改装が続く中、お店を開店することはなかなかできないので、いつもの様に屋台出すことにして、三兄弟とミラ、アノンを中央広場へと送り出した。
その間にできることとして、買出しだ。せっかく新しいお店を出すのだから、今までと同じものしか売らないんじゃつまらない。と思ってしまうのは俺だけなのだろうか?
しかし、やっぱりお披露目を兼ねて出したいなという思いが強く、俺は市場へと向かうことにした。ついてきたのがご英訳のマイヤと、荷物を持ってくれるというフユの2人。
2人は1日しか会ったことがないとは言っていたから、上手く暮らしていけるかなと心配はしていたのだけど、冬の方が年下という事でかわいがってもらっているようだ。
2人を連れて市場へと歩いていく途中も、ちらちらと俺たちの方へと視線を向けてくる奴らはおおい。マイヤたちのパーティはこの町でも人気が高く、町の人たちとも気さくに話をしていたので、慕っている人が割といるのだ。
そんな人が手に『奴隷紋』をつけて――契約内容によって、右手甲か左手甲、または肩などで分かるようになっている――いるのだから、わかる人にはわかってしまうわけだが、どうもそれらの視線が同情というような視線のほかにも鋭い視線が含まれているような気がする。
「主」
「ん?」
「気を付けてください。ちょっと嫌な視線があります」
「あ、やっぱりそうなんだ」
マイヤたちは契約してから俺の事を『主』と呼ぶようになったのだけど、俺は名前を呼んでほしいとお願いしたのだが、マイヤたちは譲らなかったので、結局主呼びを認めることにした。
俺の方へとスッと体を寄せるマイヤ。同時にフユも俺に体を寄せてくる。マイヤは俺よりも少し身長があるので、俺の体がすっぽりと隠れてしまうのだけど、フユは俺よりも小さく、そしてなんというか……柔らかいのだ。何がとは言わないが、とにかく柔らかいのだ!!
あまりくっつかないでいいといっているのだけど、護衛ですとか言い訳をつけて俺とくっついてくる。そうなるとやはり』町の人の視線が刺さる。特に男性陣の視線が刺さって痛いのだ。
「よう兄ちゃん。今日も両手に花だなぁ」
「あはははは」
常連になりつつある肉屋さんの前で、店主にニヤにやされながら、世間話をする。
「ん? この肉は?」
「コイツかい? こいつはオーク肉だな」
「オークって……豚かぁ?」
俺の中でオークとは、前世時代に店に来ていた客たちの話を聞いたくらいの知識しかないので、少しばかり躊躇する。何しろオークって2足歩行する奴というイメージがあるから、こういう場所に食材として売られていることにまだ慣れない。
「主」
「なに?」
「もしかしてオークとピッグマンとを誤解してませんか?」
「え?」
冒険者をしていたマイヤによると、オークとはあのイノシシ野郎と豚が野生の中で交配して生まれたもので、家畜として飼育されているものらしい。俺が言う二足歩行する豚さんたちは、ピッグマンというちゃんとした種族であり、獣人族に属しているらしい。
「なるほど」
「主は知らないことが多いような気がする」
「まぁそうだね。俺は田舎者だから、おしえてくれるのは助かるよ。今後もよろしくね」
「えぇまぁ」
マイヤがこくりと頷いてくれる。
俺はそのオーク肉をいろいろな部分を買うことにした。これを見た瞬間にあるものを思い出したからだ。
今後は、小麦粉も大量に必要になるので、小麦粉を売っているお店に行き、そこで定期的に大量の小麦粉の購入を相談する。
市場で出回る分だけでどうにかなりそうではあるけど、万が一のことを考えて2店舗から仕入れることに決め、同じくらいの値段で購入することができた。
しかし、俺はさらに商業ギルドへも足を運ぶ、不作の年が出るかもしれないので、その時の対処もしてもらえるか相談するためだ。それはザイツさんを含め、取り決めがあるというので、その辺はお任せした。
♢♢♢♢♢
早速、買ってきたものを試してみようと思い、その足で厨房へと入る。マイヤとフユもそのまま俺についてくるので、2人にもその様子を見てもらうが、もうひとり、シュウマイを作っていたリークも交えて、作っていく。
シュウマイに関してはルークとリザ、そしてナルミが作るようになったので、割と人手が使えるようになった。
「師匠、何を作るんですか?」
「新メニューの一つというか、そのメニューに乗せる具材だな」
「具材ですか」
「コレ単体でも旨いと思うぞ」
真剣なまなざしで肉を見るリーク。
このお店にいるものに関しては、秘密保持の契約をしているので、外部に漏れることはない。だから安心して調理にかかる。
まずは買ってきた肉をそのまま布で水分など余計なものを拭いて少し放置し、室温に慣れさせる。今は少し寒い時期なので、その辺は経験と勘でどのくらい放置するか検証していく。
鍋に水を張り、そのまま沸かしていく。沸騰したらそこへ放置しておいた肉を入れ、上下を入れ替えながら漫勉に熱を入れていく。30分ほど同じように繰り返し、火を落としてそのまま鍋に蓋をして1時間ほど放置する。
時間がたったら、市場で用意してきたハーブなどを調合して、肉になじませていく。コショウが見つけられなかったので、この世界の山椒で代用する。
肉にしっかりとなじませたら、フライパンにごま油を引いて、肉を焼いていく。全体に焼き色が付いたら、蓋をして弱火にし、じっくりと熱を通すようにする。
途中しっかりと中の様子を串などで確認し、こんがりと焼きあがったら、フライパンから降ろして粗熱を獲る。
そうして切り分けたら、簡易版『焼き豚』の完成。
早速、店の中にいる人たちを読んで、試食をすることに。
「ん!! やわらかぁ!!」
「しっとりと熱が入ってるけど、中心まで熱がしっかり入っていて旨いですぅ!!」
「このコリっとする舌触りが良いな。何枚でも食えそうだ」
皆がそれぞれに歓喜の声を上げている中、俺は一切れ食べて腕を組んで考える。
「どうしたんです?」
そんな俺の事を見てフユが声をかけてきた。
「ん? あ、いや、やっぱりこれは『焼き豚』に過ぎないなと思ってな」
「? それじゃダメなのですか?」
「ダメじゃない。今できる限りではこれが精いっぱいなんだが、俺が求めてるのはこれじゃないんだ」
「え!? これでも美味しいですよ?」
フユにはおいしいと感じたようだけど、これはあくまで俺の中では『焼き豚』である。
「フユさん」
「はい?」
リークがフユに声をかける。
「師匠はこれが試作だといってましたから、これからもっとおいしくなっていくと思いますよ」
「え? これ以上にですか?」
「もちろん!! 料理に終わりはないですからね!! ね? 師匠!!」
俺の方へ会話を投げてくるリーク。
「そうだな。料理に終わりはない。追い求めている限り、修練は続くさ」
「ね?」
にこりとフユに笑いかけるリーク。そして俺の方を見て少しだけホホを赤くするフユ。
「まぁ、これはこれで出せないことはないが、とりあえず別なものを作ってみるか」
「今度は何です?」
リークがまた俺の方へと寄ってくる。
厨房で俺が用意していたのは、魚が数匹と、食紅用の花。
「まぁ見てろ」
「はい!!」
まずは魚屋の主人に聞いて買ってきた白身の魚を三枚におろす。そして叩いていくわけだが、ここでマイヤたちの手を借りてできる限り細かく叩いていく。
2つすり鉢を用意して、一つはそのまま先ほどの叩いた魚肉を入れ、さらに擦っていく。もう一つには食紅用の花をつぶした液体を入れ、魚肉を入れて擦っていく。
「あ、色が変わってきましたね」
「そうだな」
すり鉢の中を見ていたフユが不思議そうに見ている。
「これをだな――」
ラウルさんに頼んで作ってもらっていた、巻物をするための道具『巻きす』を出して、その上にすりおろしただけの身を乗せ、その上に色のついた身を乗せてくるくると巻いていく。
それを、シュウマイを蒸すために用意しておいた蒸篭の中へと入れ、しばらく時間を待つ。
時間がたって蒸篭から出した『巻きす』を開くと、湯気を上げた白い物体が出てくる。
「えっとこれは?」
「うん。まずは切ってみようか」
包丁代わりにナイフを使い、それをスッと均一の厚さにカットしてみる。
「お? 思ったよりもうまくできたな」
切った断面を見て少し笑顔がこぼれた。
「うわぁ!! 何これ!!」
「中にぐるぐると模様がありますね」
「形が不思議ぃ~」
そして食べてみることにすると、またみんなが歓声を上げた。
「こ、これは師匠なんですか!!」
「そうだな。まだ完成品とは言えないが、これを『なると』と呼ぶことにしよう」
「なると!!」
この日、初めてこの世界に『かまぼこ』の製法がもたらされた。
――よし!! あとはあれができるかどうかだ。
この店が成功するかしないかは次に作るものにかかっているといっても過言ではない。それができなければ、店で出すなんて夢のまた夢。
小麦粉の袋の前で、俺は静かにやる気を見せていた。
お読みいただいた皆様に感謝を!!
具材先行で試作三昧
次回
第27話 麺
お楽しみに!!




