第3話 町へ
揺れ動く2本の尻尾を見つつ、前の二人が話しながら歩いていく後ろを黙って歩く。
何気なく見た空には太陽と思われる恒星が一つらんらんと照らしつけているし、その影はまだ自分の進む前に少しだけ影を作っていた。
真上付近にあるというのに、身体的に感じる暑さはそれほどでもないなと思いつつ、進みゆく先を見ると青々と葉が茂る木々が多く静かに揺れている。
最初に感じたむぁっとするような暑さは、少しばかり吹いてきた風によって幾分和らいでいるらしい。
『ねぇお腹すいたよぉ~』
『もう? 朝あんなに食べてきたじゃない?』
『そんなこと言わないでよ!! ね? お昼にしようよ!!』
『しょうがないわねぇ……』
何かを話している二人。それを聞いていたら猫耳さんが俺の方へと顔を向け、スッと少しばかり小高くなっている丘の方を指さす。
「え? なに? 何かあるの?」
指さされた方へ視線を向けてから、猫耳さんの方へと視線を送ると、そのまま何かを口に運んでいくようなしぐさをした。
「あ、メシ? そっかメシか……」
そういえばと考え始めると途端に腹からぐぅ~っと大きな音が鳴った。
ピクリと耳が揺れる2人。
『ぐぅ~だって。やっぱりお昼にしようよ』
『クスッ。そうね。そうしましょうか』
くすくすと俺の方を見ながら笑う2人に、俺もぐっと親指を立てて答えた。するとさらにくすくすと笑われる。
――なんとなくだが解せぬ!! しかし腹が減ったのは間違いないしな。
そのまま二人の後を、あれこれ考えながら歩いていく。木々が生い茂る場所を回り込むようにして歩いていくと、少しばかり上り坂のようになっていて、最近運動といえば厨房内を歩き回っていたくらいしかしていないことに気が付くが、体にはそんなに疲れを感じない。
――なるほど、これが女神さまの言っていた『作った肉体』ってやつか。ありがたい限りだ。
これからの生活や、先ほどのイノシシ野郎のような奴がいる世界で、前のような体しかなかったら、俺はすぐにでも体を壊してしまっていただろうと思うと、本当にありがたかった。
『うん。この辺なら周囲が見えるしいいよね?』
『そうね。なら早速準備しちゃいましょうか』
小高い場所の上部で、少しばかり岩場になっているところへと背をするようにして荷物を置く。
犬耳っ娘(子、かも)がその岩の上にひょいっと駆け上りあたりを見渡している中で、猫耳さんは背負っていた荷物の中から、小さな鍋のようなものと、先ほどのイノシシ肉を取り出した。
荷物の入っている袋の中をガサゴソと手を回し、何かの草を取り出すと、その鍋の中へと放り入れ、その上から水をどぼどぼとがける。
近くにあった大きめの意思を並べ少しばかりの高さを出すと、その上へと鍋を置いた。その下へいつの間にかそばに来ていた犬耳っ子が巻き代わりの枯れ枝を投げ入れて少しばかり下がる。同時に猫耳さんも下がった。
『ハルお願い』
『うん!! 行くよ!! ファイア!!』
ぶつぶつと何かを唱えていたと思うと、手のひらから勢いよく炎が上がり、枯れ枝へと火がついていく。
「おお!! すげぇ!!」
『え?』
大きな声を出すおれに驚く犬耳っこ。
「あ、悪い邪魔しちゃったか?」
『ううん大丈夫だよぉ。あとはナツよろしくね』
俺の顔を見ていたから、すまんと手を合わせると、なんとなく伝わったようで、にこりと微笑み猫耳さんへ一声かけてすぐ岩場の上へと昇って行った。
『はいはい。さてっとさっきのお肉を出してっと……』
少しずつ気泡が出始めた鍋の中へと肉を放り込もうとする猫耳っこ。
「え? ちょ、ちょっと!!」
『な、なに? どうしたの?』
放り込もうとした手を思わずつかんでしまう。
先ほどの肉の中から取り出したのは、たぶん一番最初に見せてもらった部分なんだろう。ぎゅっと肉質が詰まっていてしっかりと硬さがある赤身肉といったところ。
それをそのまま放り込もうとするのを俺が止めてしまった。
『何?』
「あ、それ? そのまま放り込むのか?」
身振りで伝える。
『そうよ? このお肉は固いけど、煮込むと少しだけ柔らかくなるから』
身振りで俺に伝えてくれるが、葉をかちんかちんと打ち鳴らすのが少しかわいいと思ってしまう。
「ちょっと貸してくれ、それと何か叩くものないか?」
『え? えっと……これでいいかしら?』
きれいな布に包んだそこらへんに転がっていた石を、俺に『はい』っと渡してくる。
「ま、まぁいいか。これでも少しはましになるだろうからな……」
そういうと、俺はその赤い塊に向けてその石を強く叩きつけた。
『ちょ、ちょっと!! 何してるのよ!!』
「良いからすこい……待っててくれ」
猫耳さんの止める手を振り払い、何度か石を打ち付ける。何度目かの後、肉を触り感触を確かめた。
「ヨシ!! こんなものだろう。すまん何か切るものあるか?」
手振りでまた伝えると、袋の中から小さなナイフを差し出してくれた。
「お!! ありがとうな!!」
『あ、あり、ありがとう?』
「ん? あ、そうか……ん~、これで分かるか?」
手を合わせるとこくりと頷いてくれた。
それを見て俺も頷き返し、先ほどの肉を石を包んでいた布の上に置き、ナイフを入れる。
「うん!! 柔らかくなってるな!! このまま切った肉を入れてくれ」
『う、うん』
俺が切った肉を鍋に入れていく。少し煮立ったところで火を少しだけ落とし、上澄みにたまったアクをさっきのナイフで取り除く。それを見ていた猫耳さんが静かに俺にスプーンを渡してくれた。
「お? スプーンはさすがにあるのか。ありがとう」
『あ、あり……ええ。どういたしまして』
手を合わすと猫耳さんもにこりと微笑んでくれた。
しばらくアクと格闘し、出てくることが無くなったところで味をみる。
――ん? 生臭さが少ないな。そうか最初に入れた草か!! ハーブみたいなものかな? しかし味が……。
『なに? 味がしない? そりゃそうでしょ塩も何も入れてないんだから』
手振りで伝えると、はぁっと息をついた猫耳さんがまたガサゴソとし始めて、中から縛られている袋を取り出して、袋を開け、中から一つまみ白い粉を取り出して鍋の中へ入れた。
「お? それって?」
『なに? これ見たことないのかしら?』
そのまま俺に不思議そうな顔をしたまま差し出してきたので、小指に少しだけつけて口に含む。
「お? 塩か!? しかしこの塩……少し雑味があるなぁ……」
思い描いている塩の味と違い、少し戸惑う。
『貴重なものなのよ。あんまり舐めないでね?』
「あ、すまない」
その塩を入れた鍋をかき混ぜて、味を調える。
――うぅ~ん。塩味のハーブが匂うだけのお湯だなこれ。
なんとなく納得がいかないけど、今はこれしか手元にないので、仕方がないとあきらめる。
『できたかなぁ? お腹減ったよぉ~』
『ハル。うんできたと思うけど……』
『どうしたの?』
『お肉叩いてた』
『誰が?』
『この人が……』
二人で何か話していたと思うと、俺にジトっとした視線を向けてきた。
「え? 俺何かしちゃったかな?」
視線にあたふたするおれを見てため息をつく猫耳さん。
『とりあえず食べましょうか』
『うん!!』
『それじゃ……はいハル』
『ありがとぅ!!』
『テッタ様……どうぞ』
2つのお椀よりも少し大きめの入れ物に中身を分け、俺にその一つを手渡してくれる。
――名前を呼ばれていると思うから、きっと俺の分だと思うけど大丈夫だよな? あとで殴られたりしないよな?
恐る恐るその椀を受け取ると、猫耳さんはその鍋に残っているものを食べるようだ。2人で何か話した後に勢いよく食べ始めた。
それを見て俺も食べ始める。
『え!?』
『なに……このお肉!?』
『『やわらかーい』
「ん? まぁこのくらいの柔らかさならまぁまぁかな? もうちょっと繊維を切ったりしないとなぁ」
ひとりごとを言いながらももぐもぐとお肉を食べる。
その横でがつがつと勢いよく食べ進める2人がいた。
俺よりも早く食べ終わったらしい2人は、大きな目をさらに大きくして俺の方を見ていた。
「ごちそうさまでした」
手を合わせて頭を少し下げる俺。そんな俺を見ながら二人は頷きあった。
『このまま町に帰りましょう』
『帰ろう!! そしてこのお肉で何か作ってもらおうよ!!』
『そうね。でも……この人って何者なのかしら……』
『どうでもいいよぉ。おいしいもの作ってくれるなら』
後片付けをしながら何かを話す二人。俺はそれを何も言わずに見ているしかできない。
一通り片付けが終わり、猫耳さんが荷物を背負うと、俺の方を向いた。そしてまた少しだけしゃがむと、小枝を一つ掴み、地面へ何かを描いていく。
「ん? なんだ? 家? 壁? あ!! 町かな? これから行くのかな? オッケー。ついていきますよ」
身振り手振りで二人に伝えると、2人ともにこりと微笑んだ。そして立ち上がって指を指し、ゆっくりと歩き出した。
――町か? 村かもしれないけど、良かった何とか助かりそうだな。
そうして、未だ少しばかり太陽は高いままではあるが、俺たちはゆっくりと歩き始めた。
今度も俺は揺れる2本の尻尾を見ながら。
お読みいただいた皆様に感謝を!!
ちょっと料理ができますよぉ~アピールを無自覚でするテッタ。
尻尾を見ながら町なのか村なのか歩き出しました。
こ、こんな冒頭でいかがでしょうか!?
次回
第4話 テンプレにならないテンプレ
お楽しみに!!




