第24話 買っちゃった
孤児院での話はなおも続く。
三人に確認したのち、再びアキさんのもとを訪れた。
「三人を従業員として雇うというお話は分かりました」
「はい。それでですね、お店の方に三人を住まわせたいと思ってまして。今までのように孤児院に戻ってくるとなると、二度手間になってしまいますので」
「と、いう事は……もう屋台は出さないようになるんでしょうか?」
「それも考えていたんですけど……。今まで通りに冬季以外は中央広場で屋台をしたいなと思っていて、その売り子さんを孤児院の子に頼めないですかね? もちろん、作り手だけは三兄弟のうちの一人を毎日つけるようにしますし、警備も雇いますので」
「こちらとしては大変ありがたいのですけど……よろしいのでしょうか?」
「もちろん。子供たちの自立心も養われるでしょうし、何より孤児院にもお金を回せるでしょうからね、あ!! それと、今まで通りに畑で採れた野菜も購入させていただきますね」
「……テッタさんに女神さまのご加護がございますように……」
『もうあるから心配しないでぇ~』
アキさんの祈りに反応したのか、俺の脳内に鈴の音のような声が届く。とりあえず、今はアキさんとの話に集中しよう。
その後になされたアキさんとの話は、結構な時間を使うものとなった。
♢♢♢♢♢
――そうなると、次は警備員という事になるのかな?
今までは屋台だけだったので、営業日に冒険者に依頼を出すという事で賄えていたが、冬を越せれば2か所での営業となる。そうなると各所に警備員は配置しないといけないだろう。特に子供たちだけでの営業となると、きっと悪さをする輩が近づいてくるのは目に見えている。
その辺を相談しに冒険者ギルドへと顔を出すと、ちょうどギルマスはお客様がいらっしゃっているという事で、少しの間食堂で待つことにした。
食堂のキッチンに顔を出し、なじみの調理師の方に挨拶をしていると、ナツとハルが依頼を終えて戻ってきたようで、三人で近況などを報告する。
俺がいることが分かると、だんだんと人が集まってきて、警備の依頼を出していた顔見知りから話題を振られた。そこで今日はその相談をするために来たんだと話すと、「俺がやる!!」「私がやる!!」という声が出て、すごくうれしくなる。
なんでも食事付きの警護依頼で、あまり動くこともない仕事だという事で、冒険者の間では人気らしい。
「なんだ盛り上がってるな」
二階へとつながる階段を下りながら、ギルマスが降りてきて、俺の姿を見つけると声をかけてきた。
「あ、マクガ―さん。ちょっと相談がありまして」
「ん? あぁ、もしかして警備の依頼の事か?」
「そうです。良くわかりましたね」
「ちょうど今、コイツとそんな話をしていたんでな」
親指で後ろを指すと、マクガ―さんの後ろから一人の男性が姿を現した。
「えっと……」
「以前ですが、少しばかりお話をさせていただきましたサガと申します」
「あぁ、確か……」
言っていいのかわからないので一応マクガ―さんの顔を見て確認する。
「ん? もう知り合いになってるのか?」
「いえいえ。町の中で一度お会いしただけですよ」
「そうですね」
フユと名乗る女の子と一緒に買い物をしている時に、男性に会ったことがあるだけで、それ以降は全く話したこともない。
「まさかサガお前……」
「何でしょうかね?」
「それを見越して今日来たのか?」
「あははは。疑いすぎですよ? 偶然ですよ偶然」
「はぁ~……」
大きなため息をつくマクガ―さん。
「サガ、上に戻るぞ」
「良いのでしょうか?」
「そのために来たんだろ?」
「違いますよ?」
俺の方を向いて、顎をくいっと会談の方へ向けるマクガ―さん。俺にもついてこいと言っているようだ。周囲の人に断りを入れて2人の後を追う。
二階の執務室に入り、ドアを閉めると、マクガ―さんとサガさんが並んで座っており、俺はその正面に座るように促された。
「さてテッタ。知っているかもしれないが、コイツは奴隷商を営んでいるサガだ」
「改めましてサガと申します」
「はぁ」
なぜ俺が連れてこられたのかわからないので、あいまいな返事だけ返す。
「今日はちょうど、冒険者ギルドに奴隷の受け渡しで来てたんだ」
「ん? 奴隷の受け渡し?」
「あぁ、奴隷にも種類があるのは知ってるか?」
「えぇ、少し話を聞いたことがありますから」
「うむ。先日、とある冒険者パーティが大けがをしてしまってな。けがを治すのにいろいろなポーションを使ったんだ」
俺が飲んだことがあるあのパーションを思い出して、口の中が渋くなる。
「あははは。お前も経験してるからな。それで、その中に高額なものが含まれていて、返済できないという事で借金奴隷になることが決まり、こうしてサガがそのメンバーを引き取りに来たというわけだ」
「なるほど……」
冒険者にはケガが付き物とは聞いていたけど、高ランクになればなるほど、危険度が上がるからケガする確率も上がる。
「でだ。テッタに相談なんだがな」
「何ですか?」
「そいつらを買ってやってくれないか?」
「は?」
「お前の店はこれから警備員を雇わなきゃならないだろ? そこで今回のパーティのやつらだ。気のいい奴らでな。人を裏切るようなことはしねぇ。今回もパーティの中の1人のケガだったんだが、全員で借金を背負うと決めたような、義理堅いやつらなんだ」
「…………」
ずっと俺の事を見ているサガさんの表情が気になってしまう。
「借金奴隷だから、借金を返せば解放されるんですよね?」
「そうだ」
「いくらなんですか?」
「これだけだ」
三本指を立てるマクガ―さん。
「30万リピですか……」
「いや、青金貨3枚だ」
「え!? 300万!?」
「ハイポーションが混ざってたからなぁ。これは仕方ないんだ」
それにしたっていきなり300万リピの借金を背負うと考えると、ちょっと気の毒に思ってしまう。
「えっと、俺ってそんなにお金ないんですけど……」
「ん? テッタはそれ以上稼いでるだろ?」
にやりと笑うマクガ―さん。
――そういえば、ウインナーの売り上げの事はマクガ―さんも知ってるのだから、ある程度俺の貯蓄額は知ってるのかもしれない。
「あいつらはこの辺じゃ有望株でな。下手に買われちまうより、テッタに買われた方があきらめもつくってもんだろ」
「いやいやいや。そんなわけないでしょ!!」
「この町で今、一番勢いのあるやつがテッタだろ? 屋台初めて数か月後には店持ちだぞ? さらにお前、ご領主様にも顔を覚えられてるみてぇじゃねぇか。ん?」
「どこでそんな話を……うん、まぁ警備員さんは欲しいと思ってたんですけど、仮に、仮にですよ? その人たちが良いというのなら、俺が購入してもいいですけど……」
マクガ―さんとサガさんが顔を見合わせる。
「決まりだな」
「決まりですね」
頷いた2人が早速という事で、サガさんの営む奴隷商へと赴くことになった。
奴隷商の中へ通され、面会室と呼ばれる奴隷と対面できる場所で一人ソファーに座り待っていると、ドアを数回ノックした後に、見覚えのある人が入ってきた。
「あれ?」
「お久しぶりです。あの、お茶になります。もうしばらくお待ちください」
俺の前にお茶を出してくれた人物。市場で一緒に買い物をした女の子で、フユという名の女の子だった。
そのまま俺が座るソファーの真向かいに立って俯いている。
――気まずっ!!
会話もなく立っているフユに、あれ以降会っていないという事もあり、気まずい雰囲気が部屋の中に充満する。
その思い空気を破ってくれたのが、サガさんとマクガ―さんで、数分後に入ってくるとその後ろに5人の人たちを連れてきた。
「この5人がパーティで、マイアが剣士、アンドレが重戦士、ナルミがシーフ兼アーチャー、ミラが魔術師、アノンが回復術士だ」
「は、初めまして。ですよね?」
何人かは俺の問いに頷くけど、何人かは頭を振った。
「えっと、話をしてもいいですかね? 会話したいんですけど」
「良いですよ」
サガさんに尋ね、許可が出たことで、ようやく5人と話をすることができた。
できれば5人一緒に買ってほしいこと、基本的には仕事はしっかりとこなすこと、俺もそうだし従業員にも決して危害を加えない事、秘密保持も別途契約してもかまわない事を確認して、彼らに身心的な危険があると判断した相手には反撃をしてもいいが、決して殺害などはしない事などを含め、いろいろと話し合った結果、俺は5人と契約することになった。
できる限りの保証はしながら、5人がしっかりと借金を返していけるように、俺も頑張って稼いでいくしかない。
そんなことを考えていると、部屋から6人が準備するために出ていった。しばらくして戻ってきたのはやはり6人で――。
「ん?」
「どうなされましたかな?」
「あの……」
契約金額をサガさんに払い、渡された契約書には先ほどの5人のほかに、もう一人の名前も入っていた。
「なぜフユさんのお名前が?」
「え? 一緒に契約したからですよ? ここにしっかりと金額も書いてありますよね?」
「いやいやいや!! 5人って話じゃなかったんですか?」
慌ててサガさんとマクガ―さんへ訴える。
「え? 私は5人だけとは言っておりませんよ?」
にこりと微笑むサガさんと、はぁっ~と大きくため息をつくマクガ―さん。
――え? なに? 俺って知らずにフユさんも買っちゃったの!?
サガさんの静かな微笑みに戦慄を覚えるのだった。
お読みいただいた皆様に感謝を!!
知らぬ間に人が増えている恐怖……。
次回
第25話 まずは改装だ!!
お楽しみに!!




