第23話 いいのか?
「何を驚く?」
「それはだって……」
「もちろんしっかりと毎月支払いはしてもらうことが前提だ。当初はなかなか売り上げが上がらないだろうから、その点は私が補填しておく。売り上げが上がったら毎月でいいから返済に充ててくれればいい」
「……なぜそこまで?」
最近知り合いになったばかりのお貴族様であり、俺との接点はあの庭での食事会くらいしかない。だからこそわからなかった。
「テッタさん、これはね、私の勘だよ」
「勘ですか……」
「テッタさんには、何か特別なものがあるというね?」
「…………」
俺を見ながらにこりと微笑むその顔は、表情こそ笑っているものの、目は鋭く揺らぎが見えなかった。
「どうだ? ザイツ」
「ノイアー様がそこまでしますか……」
「ん? 意外か?」
笑顔を向けられるザイツさん。しかしこくりと一つ頷いた。
「いえ、そういうお方でしたね。しかし最後はテッタさんの判断次第ですね」
「まぁ、そうなるな。どうかな? テッタさん」
思惑はきっとあると思う。でもここまで俺を『使える』とこの町の上位的な存在の二人が判断してくれている。
――どうする? ここは俺の岐路になる……。
このまま冬季を迎えて何も収入源がないまま、無駄に時間を過ごしていくか、それともこの話に乗って店舗を持ち、先に少しでも進んでいくか。
――やるしかない!! いや、やってやる!!
『頑張ってくださいねぇ。応援してますよ!!』
いつもの声が脳内に響く。
「……微力ではありますが、自分の力をふるわせていただきたいと思います」
「「おぉ!!」」
「どうかよろしくお願いします」
俺が頭を下げると、ノイアーさんが右手を差し出してくる。頭を上げ俺はその手を握り締めた。
♢♢♢♢♢
それから動き出すのは思ったよりも早かった。
まずはお店を売りたいといっている老夫婦へザイツさんと挨拶に赴き、自分がシュウマイの店を出している店主だと話すと、老夫婦は「良い人に巡り合った」と喜んでくれた。
なんでも俺の作り出した後のウインナーもシュウマイも食べたことがあり、すぐに改良版を出したという事を聞いて、真摯に料理をする人なのだと感心してくれていたらしい。
そういういきさつもあり、お店の売却金額は老後に移住するための資金程度でいいと申し出てくれたけど、ザイツさんとノイアーさんが仲介として入ってくれて、申し出よりも気持ちだけ上乗せした金額で俺に売却してくれることに決まった。
店舗は住居も兼ねていたので、2階建てだから、そこに俺の住居を移すことになり、今までお世話になった宿屋のおかみさんと、腰を悪くしていた旦那さんに感謝を述べ、出ていく日まで厨房を手伝う。
同時に購入を決めた店舗を見て回る。
店舗は食堂を営んでいただけあり、道具や食器などが多く残っている。
転居にあたって、老夫婦がそのまま残していってくれたおかげですぐにでも営業はできるが、まずはそのお店で、今までと同じものができるかどうかを試す必要がある。
それは、屋台とお店では出せる火力が違うという事もある。今までは蒸しあがっていた時間では、もしかしたら蒸しすぎるという事もあるし、水が合わないこともある。
一つ一つを確認する作業は1日や2日では終わらないので、その間は三兄弟に屋台を出してもらうことにして、その間に俺は試作を続け、自分なりに満足がいくものができたと判断できるまで繰り返す。
ただそれだけでは問題も新たに出てくる。このお店の店員さんをどうするか……。このまま三兄弟を雇う形でいいのかと迷う。
その点も含め再度ザイツさんに相談することにした。
「店員ですか?」
「はいそうなんですよ」
「なるほど……。今までの彼らはどうなさるのです?」
「リーク達ですか? 彼らは未来がある。その未来をつぶすようなことはしたくないんですよね。このままだとずっと俺のもとで料理人になるってことしか考えなくなっちゃうと思うんで」
「……もう手遅れでは?」
ため息交じりにザイツさんがそうつぶやく。確かにリークとルークは俺を師匠などと呼び慕ってくれているけど、未だ15歳にも満たない。自分が本当にやりたいことをやってほしいと思ってしまうのは、もともとがオッサンだからなのかもしれないが。
「では、どのような店員さんが必要なのです?」
「そうですね。まずは厨房を回せる人が必要ですね。それからホールと会計ですかね」
「それだけですか?」
「それだけじゃないですか?」
頭を左右に振るザイツさん。
「甘いですよテッタさん。その他にも警備する人は必要です。それと店員さんを監視する人も必要ですね」
警備する人は屋台を運営していたからなんとなくわかるが、監視する人とはなんぞや? そんな俺の考えが出てしまっていたのか、ザイツさんが苦笑いする。
「一番考えられるのは、お店のお金をもって逃げる人ですね。他にもお店のレシピをもって逃げちゃう人、それからこれはあまりありませんけど、お店を乗っ取ろうと考える人なんていますからね」
「え?」
「……まぁ、テッタさんがどのような過去があるかわかりませんが、この世界ではその辺はしっかりと考えた方が後々のためですよ」
「……なるほど」
言及してはいないけど、ザイツさんも何か勘づいているのかもしれない。
「確かにその辺は考えてませんでしたね」
「そういう観点から考えますと、警備に関しましては今まで通り冒険者ギルドに依頼を出すという手もありますし、ほかにはそうですね……やはり奴隷ですかね」
「奴隷かぁ……」
「テッタさんがあまり好んでいないことは承知してますけど、秘密保持の観点からも契約で縛られる奴隷というのは安全性を考えれば有リなんですよ」
「うぅ~ん……」
前世からの記憶が、そのあたりの事に抵抗を見せてしまう。
「その辺はよく考えていた方がいいでしょう。さて、では店員の候補などご紹介できる方をこちらで探しておきますね。それと」
「何ですか?」
「あの子たちについて、しっかりと話し合ってくださいね?」
「そうですね。そうします」
今後に関して、確かにこのままというわけにはいかないので、三兄弟と孤児院の子について、しっかりとシスターとも話をしなければならないなと考えつつ、俺は商業ギルドを後にした。
その日の営業終わり――。
「お邪魔しますね」
「あらテッタさんお疲れ様です」
三兄弟とお手伝いに来てくれている子供と一緒に、孤児院へと顔を出す。
最近になってようやく『様』から『さん』に呼び名が変わったシスターのアキさんが、いつもの様に子供たちに囲まれながら俺を出迎えてくれる。
「厨房に参りますか?」
「あ、いえ。今日はアキさんにご相談がありまして」
「私に?」
「はい」
明日のための仕込みは三兄弟と子供たちに任せた。
「お話とは何でしょうか?」
「あの子たちの事です」
アキさんと二人、孤児院の小さな執務室で二人向き合いながら話を始める。
「あの子たち? 何かしてしまいましたか?」
「いえ、あの子たちから話を聞いているかもしれないですけど、実はお店を持つことになりまして」
「えぇ。そのことは聞いてます。おめでとうございます」
「あ、ありがとうございます」
頭を下げてお祝いしてくれるアキさん。
「そ、それで今後なのですが、リーク達兄弟をこのまま俺のもとで手伝ってもらうことをご相談に来ました」
「え? あの……あの子たちはもうテッタさんの所で働いていると思ってますけど?」
「は?」
不思議そうな表情で俺を見るアキさん。
「あの子たちに関しては、テッタさんのような料理人になる!! と楽しそうに話してますよ?」
「え? いやでも、未だ15にもなってない子供が……」
「うぅ~ん。テッタさんがどのようにお考えか承知しておりませんが、この世界では10歳をこえた子供が働き出すなんて当たり前の事なのです。そして若いころから大人に弟子入りするなどして手に職をつけ、自分の生活基盤を作っていく。それは普通の事ですよ?」
「そ、そうなんですか……」
俺を見ながら微笑むアキさん。
「なるほど。テッタさんはお優しいですね」
「え?」
「あの子たちの事をお考えなのですよね?」
「えぇまぁ。この先、自分に合った仕事などして欲しいじゃないですか」
「ふふふ」
優しく微笑むアキさん。
「なら、あの子たちに直接聞いてみてくださいな」
「……そう、ですね。そうします」
「それであの子たちが、自分で決めたのでしたら――」
「えぇ。もちろん俺が責任をもって育成しますよ」
「テッタさんなら良いお師匠様になられるでしょうね」
「どうですかね。俺は割と適当に生きてますから……」
話をした後に、俺は三兄弟のもとへと赴き、一人一人としっかりと向き合う。
「え? もちろん師匠についていきますよ!!」
「俺たちもういらないの?」
「テッタさんと一緒がいい!!」
真剣に俺に向き合い、自分の意見を話してくれた。
「そうか。でももうお手伝いじゃなくなるぞ? 厳しくするけどいいのか?」
「もちろんですよ!!」
「「はい!!」」
気合を入れる三人。
――なら俺にできることは……。この子たちをしっかり一人前にしてやることだな。
こうして俺の店に、3人の従業員を迎えることが決定した。
お読みいただいた皆様に感謝を!!
最初の従業員確保!!
次回
第24話 買っちゃった
お楽しみに!!




