第22話 資金がないんですよ
この世界は地球と同じで12ヶ月で1年である。違いがあるとすればひと月が30日と一定で、閏年なるものは存在しない。
ちゃんと春夏秋冬はあるのだけど、地球の日本とは違い、少しばかり地軸の傾きが関係しているのか、俺が暮らしているクラーメン領は夏でも結構寒い。というかこのアイーヅ国は東西南北に広いので、各地で環境が変化する。
ノイアーさんの館を訪れてからすでに2か月が過ぎ、俺がこの世界へとやってきてか4か月ほどが経過していた。
俺がこの世界へと置き去りにされたころは、むあぁっとする暑さを肌に感じていたのに、朝晩が寒くて手がかじかんで動かないという事も増えてきた。
そんな中でも子供というのは元気なもので、孤児院から手伝いとし屋台の営業をするときは欠かさず来てくれている子たちは、寒さや水の冷たさにも負けずしっかりという事を聞いて働いてくれているし、三兄弟もまた同じようにすでに『流れ』を覚えてしまっていて、ルークやリークに関しては俺が声をかけないでいてもしっかりと調理ができるようになっている。
リザに関しては声をかけることがなかなかできず、温かい目で見守られていたころの様子はほとんどなく、今では立派な売り子さんとして活躍している。
ザイツさんやラウルさんといった顔なじみも毎日のように通ってくれているし、冒険者の皆も変わらずごひいきにしてくれている。
イートインスペースを確保することができたからか、今では屋台の隣で食べていく人も増え、『セルフサービス』という言葉も流行り出した。
この言葉はもともとはもちろん存在しない。少し忙しい時に俺がふとお客さんに対して「あ、すみません!! 自分で席を片付けて開けてもらえますか?」と言ってしまったことに端を発する。
それまでは食べた後は店の人が片付けるという事が普通だったものを、自分たちの食べたものは自分たちが片付けるというルールを決めて、お客さんにしてもらっている。
これは、俺たちの手間を減らすという事も考えてのルールだ。
導入した当初は『自分たちがなぜ?』とか、『金を払っているから』とか言って、片付けない人たちもいたけど、常連になりつつあった人たちが自ら片づけを率先してやるようになり、それを見てほかの人たちも黙ってそれに倣うようになった。
そうなると、できることが増えてくるので、今までできずにいた、スープを出すという事を始めたのだが、同時に『あんかけ』も開始した。
まだ暑い日などは、熱いスープを頼むという人はちらほらと数えるくらいしかいなかったものの、霜が降り、手足が寒さを感じるようになってくると、体は温かさを求めるもので、朝も夕方も温かいものと一緒に買ってくれる客も多くなってきた。
そうなってくると、外で食べてもらっているのも少しだけ気の毒というか、気を遣うようになる。
「兄ちゃん」
「ん?」
蒸気を見ながら考え事をしていると、隣のテーブルから声をかけられた。
「いつまでここで屋台出してるんだ?」
「今それを考えてたんだよ」
「この辺は雪も降るし、結構積もるからな。こうして店を出していられるのも、あと少しってところだろうな」
「そうなのか……」
そういわれると、元故郷のキタカタを思い出してしまう。俺が死んでしまう前は雪の量も減ってきてはいたけど、子供のころは身長が隠れてしまうほど雪は降っていた。
――さて、どうしたもんかな……。
今泊っている宿屋のおかみさんとも仲良くさせていただいてるし、厨房も創作の度に使わせてもらってるから居心地がいいんだけど、冬の間は収入がなくなってしまうという事になる。
厳密にはウインナーの収入と、蒸篭の収入があるにはあるけど、それも日常の生活ができるほどあるわけじゃない。
冬場にどうやって稼ごうかと考えをめぐらす日々が続いた。
♢♢♢♢♢
「ちょっと相談があってまいりました」
「え?」
とある日の屋台営業中、屋台の裏で仕込みをしていると、商業ギルドのマスターであるザイツさんがすぐ後ろに立っていた。
「おわぁ!!」
「驚かせるつもりはないのですがね……」
この世界のこういう人たちはこれがデフォなのだろうか。足音もさせずに近づいてくる人が一定数居る
「びっくりした……相談ですか?」
「はい」
作業を中断して、手を拭いているとその後の事をリークが引き継いでくれるというので、ザイツさんと少し離れたところに移動する。
「テッタさん、将来的にお店をと仰っておりましたよね?」
「そうですね」
「では、お店を持ってみませんか?」
「え?」
話の内容はここでは話せないという事で、三兄弟に断りを入れ、そのままザイツさんと商業ギルドへと向かう。
ザイツさんの執務室へとはいり、ふかぁっとするソファーに対面になるように腰を下ろした。
「先ほどの件ですが」
「お店をって話ですよね?」
「はい。実はですね、テッタさんの屋台が冬期間は無くなるんじゃないか、もう雪が解けるまで食べれないんじゃないかという問い合わせが、町の方々から結構な量が寄せられてまして」
「そうなんですか!?」
町の人たちからそんな声が出ているなんて驚いた。
「今ではこの町の名物の一つといっても過言じゃないシュウマイですからね。なくなることを心配する方々は多くいらっしゃいますよ」
「ありがたいことですね」
「それだけテッタさんたちがこの町の一部になっているという証でもありますよ。で、です」
「はい」
「以前ですが、私の方から紹介できる店舗があるといったのを覚えていらっしゃいますか?」
「あぁ、確か老夫婦の?」
「そうです」
屋台を始める前にそんな話をしていたようなことを思い出す。
「その老夫婦なのですが、旦那様が最近腰を悪くしてもう働けなくなったという事で、売りに出されたんですよ。希望としてはそのまま飲食業をしてくれる方にお譲りしたいという事で、どなたか探していたんですが……」
「それで俺に?」
「いかがでしょうか?」
「ん~……」
これから先の事を考えると、店舗を持つというのはもちろん叶えたい事ではあるが、現状の売り上げを考えると、その店舗を買って初期投資するだけの資金は手元にはない。
コンコンコン
「どうぞ」
俺が考え事をしていると、部屋のドアがノックされる。ザイツさんの返事の後に顔を出したのは、顔なじみの受付嬢さんで、俺たちに一礼した後に部屋の中へと入ってくる。
「ご領主さんがお見えになられてますが……」
「ん? 今日は面会の予定は入ってなかったはずだが?」
「それが……」
受付嬢さんが口ごもると、その後ろに人影が見えた。
「すまん。急に来てしまったな」
「これはこれはノイアー様」
部屋の外に見えた人影に、ザイツさんが立ち上がり、俺も慌てて立ち上がった。
「入っても良いかね?」
「も、もちろんですとも、よろしいですかテッタさん」
「俺もかまいませんよ」
にこりと微笑んでノイアーさんが入ってきた後にオリバーさんも入ってきた。そうしてザイツさんが俺の横へと移動して、ノイアーさんが対面になるように移動してソファーに腰を下ろす。
「すまんね」
「いえ。本日はどのようなご用事で?」
「テッタさんが商業ギルドに向かったと連絡があったものでね」
「え? 俺?」
自分の名前が出るとは思ってなかったので、変な声が出てしまう。それを聞いたノイアーさんもオリバーさんもクスリと笑った。
「ちょうどいいと思ったのだよ。ザイツにもテッタさんにも話があってね」
「何でしょうか?」
ノイアーさんから話があるという事は、割と大事なことのような気がする。
「テッタさん、この町にお店を出さないかい?」
「へ?」
まさかの申し出だった。
「あ、その、今、ザイツさんにもその話をされてまして……」
「そうだと思ったよ。あのお店が売りに出されたって話を聞いていたからね。それにもうすぐ冬になる。そうなると屋台で商売をするってことが厳しくなるだろ?」
「はい」
「そうなると、うちの町の名物が一つ無くなるって事だ。それにテッタさんの店がどうにかならないかと住民が言っているのも知っているしね」
ザイツさんもうなずいて話を聞いている。
「しかしですね、俺にはそんな資金がないんですよ」
「その点だが……ザイツ、私がテッタさんの保証人になるっていうのはどうだ?」
「え!?」
「は?」
『確認しているだけ』のような表情をして、ノイアーさんがそんなことを言い出したのだから、俺もザイツさんも驚いた。
お読みいただいた皆様に感謝を!!
冬季になると屋台では……。
次回
第23話 いいのか?
お楽しみに!!




